【映画】2013年度外国映画ベストテン
1.マン・オブ・スティール
2.ライフ・オブ・パイ
3.きっと、うまくいく
4.嘆きのピエタ
5.アンナ・カレーニナ
6.華麗なるギャツビー
7.パシフィック・リム
8.ゼロ・グラビティ
9.世界にひとつのプレイブック
10.テッド
2013年は、デジタルテクノロジーが芸術の表現ツールとして見事に開花した年だった。それを最もよく表しているのが、『ライフ・オブ・パイ』『華麗なるギャツビー』『ゼロ・グラビティ』という3本の3D作品。この3作における3D映像は、単なる見世物ではなく映画表現として欠くべからざるものとなっている。3Dの効果は薄かったものの、『マン・オブ・スティール』『パシフィック・リム』、そして『テッド』もデジタルテクノロジーがあったからこそ成立した傑作。そして文芸作品の『アンナ・カレーニナ』も何気にテクノロジーの塊のような作品で、実際は3Dではないのに何故か脳内で3D映像に変換されているところが怖ろしい。
『マン・オブ・スティール』は、ザック・スナイダー監督が『ウォッチメン』『エンジェル・ウォーズ』に続いて送り出した大傑作。様々な矛盾に引き裂かれながらも、「自分は何者であるか」を自らの意志で選択し、それと引き替えに大きな十字架を背負う主人公。そして三者三様の生き様と死に様を見せることで主人公に影響を与える三人の男たち(実の父/育ての父/ゾッド将軍)。これは、人間が生きることの困難さ、人生の選択の重さを、神話的とすら言える語り口で描き出した作品だ。その本質を理解していない観客が多すぎる。
『ライフ・オブ・パイ』も、実にユニークな設定と語り口で生きることの意味を問いただした作品。最初はジュヴナイル的な冒険ものに思えた物語が、終盤に至って真実が明らかになった時の衝撃! 先述の通り3Dを最高の映画表現に昇華した意味でもエポックメイキングな作品。本作と『マン・オブ・スティール』が2013年のツートップであり、どちらが1位でも2位でもまったく問題無い。
『きっと、うまくいく』は、これまでに見たインド映画の最高傑作。馬鹿馬鹿しいほどにベタな作品だが、そのベタさが映画の原初的な魅力として結実している。笑って、笑って、笑って、泣かされる。まさに映画の原点。見た後幸せな気分になれる点では今年最高の映画。
キム・ギドク監督の『嘆きのピエタ』は、強引過ぎる設定が気になるところもあるが、生きることの辛さ・悲しさ・残酷さ描いた点では今年随一の映画。胸にナイフを突き刺されるようなラストは生涯忘れないだろう。
文芸映画と呼ばれる作品はどちらかと言えば苦手なのだが、そんな苦手意識を打ち破る見事な作品が2本あった。しかも2作品とも、デジタルテクノロジーを駆使することで、古典文学を最新の映画表現に昇華している点が面白い。
1本は『アンナ・カレーニナ』。名作『つぐない』のジョー・ライト監督だけに、文学作品を映画に変換するのはお手のもの。トルストイの原作は未読で、長大な作品だけに読めば映画版に物足りなさを感じるかもしれないが、この作品だけを単独で評価すれば、極めて見事な「映画」であることは間違いない。緻密な撮影・美術とジュード・ロウの助演が光る。
もう1本の文芸映画はフィッツジェラルドの小説を映画化した『華麗なるギャツビー』。何故こんな作品を3Dで?という疑問は、3Dでしか描けない映像表現の数々を見れば氷解する。そして原作を読んだ時にはピンと来なかった幾つかの要素、とりわけ原題であるGreat GatsbyのGreatというニュアンスが、この映画を見て初めて得心がいった。過剰すぎてウンザリすることが多いバズ・ラーマンの演出も、この作品では押すところと引くところをわきまえていて素晴らしい。
『パシフィック・リム』は、ハリウッド映画が初めて作ってくれた本格的怪獣映画。脚本に少し雑な部分があって、特に終盤の展開がやっつけ気味なのが残念だが、ロボットや怪獣の巨大さを描き出す映像は圧巻。特に香港での戦いには血湧き肉躍る。怪獣映画で育った世代には感涙ものの作品であり、監督のギレルモ・デル・トロには心から礼を言いたい。ぜひとも続編が見たいところだが、アメリカでも日本でもあまりヒットしなかったので、多分実現はしないだろう。残念。
『ゼロ・グラビティ』も3Dの新たな可能性を切り開く作品で、映像は文句無し。しかし映像がこれだけ革命的なのに、ストーリーの方は「危機また危機」の典型的娯楽アクションで、古色蒼然としたもの。そのギャップが気になり、世評ほどの評価は与えられない。この映像に見合う深い人間ドラマが描けていたら、今年の1~2を争う作品になっていただろうに。
『世界にひとつのプレイブック』は私の大好きなジェニファー・ローレンスの魅力が炸裂した作品。彼女は『ハンガー・ゲーム2』でも素晴らしい魅力を発揮していて、20代のハリウッド女優としては文句無しのトップだろう。ロバート・デ・ニーロの助演も光る。監督のデヴィッド・O・ラッセルは『スリー・キングス』以来の傑作を作ってくれた。
『テッド』は、不当なまでに貶められたSF大作『フラッシュ・ゴードン』に光を当ててくれた点に大感謝。あの映画が好きな人間にとっては、まさに夢のような作品だ。主人公とテッドの成長物語は、よく考えると健全なものなのに、それを毒気たっぷりのストーリーテリングで描くアイデアが面白い。
今年は本当に豊作の年で、何故この作品がベストテンから落ちるんだ!と言う作品が何本もある。リストを見直してみても、見たほとんどの作品が面白く、つまらなかった作品は5本あるかないかという状況だ。語り出せば切りが無いのだが、選外作品として5本だけ言及する。
最後までベストテンに入れるべきかどうすべきか悩んだのが『愛、アムール』。「二度と見たくない傑作」と言いながら、しっかり二度見ているし、作品の完成度からすれば当然のごとく10位以内に入るのだが、「好きかどうか」という思い入れの度合いでは分が悪い。やはりこれは「あまり思い出したくない傑作」であり、『きっと、うまくいく』や『テッド』のような幸福な嘘に満ちた作品と同列に並べるのはどうも相性が悪い。そんなわけでベストテンからは外したが、純粋にクオリティだけで言えば、本年度屈指の作品だ。
私にとっては神様のごとき映画作家テレンス・マリックの『トゥ・ザ・ワンダー』。前人未踏の域に歩を進めた映画表現は呆気にとられるほどだが、ここまで先鋭的になると正直ついていけない部分も多く、『シン・レッド・ライン』や『ニュー・ワールド』のように全面的に支持することは出来ない。だが映画話法の斬新さは群を抜いており、間違っても失敗作で片付けられる作品ではない。しかしここまで斬新過ぎる作品は、ベストワンにするか選外にするかのどちらかしかなく、今回は別枠扱いで選外とした。
今年は何気に優れたホラー映画が多かった。その中でも特に好きだったのは、リメイクされた『死霊のはらわた』と、ホラー映画の見事なパロディ『キャビン』の2本だ。サム・ライミのオリジナル『死霊のはらわた』は、スプラッターホラーの元祖であると同時に、「ホラーをネタとして笑いながら見る」という風潮を作り出した作品だ。そのオリジナルを、決して笑うことが出来ない剛速球のホラーとしてリメイクしたのが今回のフェデ・アルバレス監督作品。これが実に見事な出来映えで、歴史的な意義を無視すれば、素人臭いオリジナルよりも遥かに優れている。
それに対して、「ホラーネタとして笑いながら見る」風潮の極北を狙ったのが『キャビン』。ある程度ホラー映画を見ていれば興奮間違い無しの設定でマニア心をくすぐりまくり。この2本は、立ち位置こそ対極にあるが、どちらも現代のホラー映画の型を示した傑作と言っていいだろう。
毎年扱いに困るのは、年々増えているライヴ映画だ。映画館のスクリーンと音響でしか味わえない臨場感は、ある意味映画そのものとも言えるが、そのアーティストの音楽に対する好みや思い入れが評価を左右するのは否めず、普通の劇映画と同列に扱うのは難しい。今年頭を悩ませたのは『メタリカ スルー・ザ・ネヴァー』。IMAX 3Dというフォーマットをフル活用した大スペクタクルで、単なるライヴの記録映像とはまったく次元が違う。それでも本作をベストテンに上げたような作品と並べて評価するのは、どうも抵抗がある。そもそもメタリカの音楽に全く興味の無い人の目にはどう映るのか、よく分からない。とりあえず今年は選外としておく。しかしこれほどまでに映画館で映画を見る醍醐味を味わえる作品は少なく、出来ることなら毎年1回はIMAX 3Dで再上映して欲しいとすら思う。
大充実の1年だったが少し物足りないのは、『トゥ・ザ・ワンダー』を除けば、純然たるアートフィルムでこれと言った作品が無かったことだ。『嘆きのピエタ』は芸術作品ではあるが、物語も表現もどちらかと言えば通俗的だし、『愛、アムール』も映画表現自体は比較的オーソドックスだ。たとえば昨年公開されたタル・ベーラ監督『ニーチェの馬』や、来年公開が予定されているバフマン・ゴバディ監督『サイの季節』のような作品が今年公開されていれば、ベストワンになったことだろう。しっかりした内容を持ったエンタテインメントが10本の大部分を占めているのは華やかでいいが、いかにもなアートフィルムが何本か混じっていた方がヴァラエティに富んでいい。その点だけが残念だ。
2013年の観賞本数は述べ105本。年内に複数回見たものを除いたタイトル数では91本。その内外国映画は81本で、タイトル数で言うと71本。コンスタントに見てはいるが、2008年以降では一番少ない
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