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08/11/2011

【映画】『ツリー・オブ・ライフ』ファースト インプレッション

Tree_of_life_teaser_2


8月12日からの一般公開に先駆けて、7月25日に、試写会で『ツリー・オブ・ライフ』を観賞した。「観賞日時を束縛される」「試写会会場の上映設備がひどい」といった理由で、普段は試写会などまったく見ないのだが、何しろ本作はテレンス・マリックの新作である。公開されたら週1ペースで繰り返し見直すことになるだろうが、ともかく一日でも早く見ておきたい。それほど自分にとってテレンス・マリックは特別な存在、映画作家の中ではもちろんのこと、文学・演劇・音楽・美術など、ありとあらゆる芸術分野の中でも、5本の指に入る大切な人物なのだ。神様に近い存在と言ってもいいだろう。

以下は、その第1回目の観賞直後にTwitterで書いたものをまとめ、加筆訂正したもの。本公開よりだいぶ前なので、具体的なネタバレはない。ほぼ印象論。


テレンス・マリックの新作『ツリー・オブ・ライフ』。最初の1時間だけなら、今年度のベストワンどころか映画史上のベストワンとすら言いたくなる、奇跡のような作品だった。『2001年宇宙の旅』と『ふたりのベロニカ』が合体融合した映像世界は、映画の究極の姿であり、映画の新たな扉を開くものだった。その1時間、通常のストーリーテリングから完全に逸脱した表現方法で物語が綴られてゆくのだが、映像と音楽、そしてほとんど詩と化したモノローグだけで、何が語られているのか十分に理解できてしまう。目眩を覚えるほどの魔術的な映画世界。「映画」と言うより「世界」に包み込まれる幸福と恍惚。テレンス・マリックだから作れた映画、テレンス・マリックにしか作れない映画⋯
では何故「最初の1時間だけなら」なのかと言えば、1時間を過ぎた辺りから、ストーリーらしいストーリーが顔を出してくるのだ。その後半ですら、他の映画はもちろん、過去のマリック作品と比べても、通常のストーリーテリングからは逸脱している。しかし最初の1時間が奇跡としか言いようのないものだったので、急に普通の映画になったような印象を受けてしまうのだ。最後まで見ても、その落差が解消されることはなかった。このチグハグさに一番近いものを探すなら、具体的な内容はまったく違うものの、『地獄の黙示録』を上げることができるだろう。誤解なきように言っておくが、後半は後半で十分に素晴らしいのである。やはり映像は圧倒的に美しく、語り口は詩的かつ前衛的。しかしあの前半に この後半が続く構成はどうなんだという疑問は感じざるをえない。
結局『ツリー・オブ・ライフ』は、最初の1時間で語るべきものを全て語ってしまったのではないか。それも「この映画が語るべきもの」ではない。「映画が語るべきもの」全てを語ってしまったのだ。

ちなみに試写会は明らかに大不評。エンドクレジットが出るや否や、どよめきと失笑でうるさいの何の。半分くらいの客がエンドクレジットの間にバタバタと帰って行った。もっとも最初に客の顔を見た時から、この結果は見えていた。どう見ても、この映画を「『シン・レッド・ライン』『ニュー・ワールド』のテレンス・マリックの新作」としてではなく、「ブラッド・ピットとショーン・ペンが出る、感動のファミリードラマ」として見に来ましたという人々ばかりだったからだ。そんな人々に、ここまで独創的な語り口を持った映画が受け入れられるはずはない。少なくとも表現方法の面では、万人にオススメできるような映画ではない。
ただ、この構成に対する自分の戸惑いも含め、マリックを知らないであろう観客の失笑とどよめきを見ていると、『2001年 宇宙の旅』が初めて公開されたときの反応は、まさにこういうものだったのではないかと想像できる。また 過去のマリック映画4作品と比べても、『ツリー・オブ・ライフ』の語り口は明らかに違っている。『シン・レッド・ライン』の次に『ニュー・ワールド』が来たときには、そのつながりが非常に分かりやすく、だからこそ『ニュー・ワールド』の評価が一段と高くなった面はある。しかしこの作品は、共通するテーマや表現方法を持ちながらも、別次元に位相がずれたような印象を受ける。ある意味、完全にマリックのやりたい放題。「これだけの予算とVFXと大スターを使って、ここまで前衛的な脳内トリップ作品を作っていいんだ」という驚き。その点も『2001年宇宙の旅』に通じるものがある。

また今回の大きな特徴は、明確にキリスト教がベースになっていることだ。メインテーマの一つは明らかに「神」であり、冒頭に提示されるヨブ記の一節をモチーフとして物語が進んでいく。その辺の基礎知識が多くの日本人に欠けていたことも、試写会での不評の大きな要因だろう。当然のことながら、単純に神の偉業を称えるような方向には進んでいかないが、キリスト教的世界観が前提として使われていることは確かであり、そういう部分はキェシロフスキの映画に通じるものを感じさせた。特に、ストーリーの重要な一部は、『デカローグ』第1話と強く共振する内容になっている。
マリックの映画は元々キューブリック作品と相通じるものがあり、今回は露骨なまでに『2001年宇宙の旅』に接近している。だがこの作品で それ以上に目立つのは、キェシロフスキ作品への接近だ。そもそもこの映画のメインストーリーだけを取り出せば、そのまま『デカローグ』の一挿話として通用しそうなものだ。だからこの映画を一番素直に楽しめるのは、実はキェシロフスキ映画のファンなのではないかという気もしている。
そして言うまでもないことだが、キューブリックとキェシロフスキの映画に通じる題材を、マリックならではの映画マジックでまとめ上げた作品を、私が嫌いなはずがないのである。確かにマリックの撮った5本の映画の中では最大の問題作と言えそうだが、またすぐに見直したいほどの謎と魅力に満ちている。

一度見ただけでは理解出来ない部分も多々あったし、いずれにせよ公開されたら何度でも見直すつもりなので、その違和感や疑問や謎については、8月12日以降じっくりと考えていくことにしよう。


(2011年8月)

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