【ライヴ】三上ちさこ 2009.9.27
三上ちさこ/school food punishment/否 ライヴ
2009年9月27日(日) 18:30〜 Blackhole
昼は下北沢で劇団東京乾電池の芝居を観劇。その芝居が予想よりも長かったため、急いで池袋に駆けつけたものの、入場は18時43分頃になってしまった。否は前に下北沢で見て気に入ったバンドだったので、ちゃんと頭から見たかったが、まあ仕方ない。聞き逃したのは多分2曲くらいだろう。頭から全部聞けたのは「クラゲアイス」から。やはり強力なグルーヴ感を持った演奏だが、ヴォーカルは「こんなに椎名林檎っぽい感じだっけ?」という思いも。途中入場なので一番後ろの方で見ざるをえなかったし、天井が低いハコなので音もあまり良くない。そんなこんなでちょっと消化不良。また別の機会に、ちゃんと見たいものだ。このバンド、その音楽性から言えばRitomoと競演しても良いと思うのだが。
次のバンドschool food punishmentを見に来た客が一番多いようだった。後で調べたら、アニメ『東のエデン』のテーマ曲なども歌っているバンドだった。なるほど人気があるのも当然だろう。ヴォーカルが女の子だったので、要するに今日は「女性ヴォーカルのロック競演」というコンセプトだったようだ。
このバンドだが、否や三上ちさこに比べると遙かにポップで軽いノリ。エレクトロニクスを多用して、ただのポップスに終わらない実験性も見られるが、否と三上ちさこに挟まれると、嫌でもリズムの軽さや歌詞のリアリティ不足が気になってしまう。むしろその軽さゆえに人気が出そうだし、今後さらに大化けする可能性も秘めている。ただ、あくまでも個人的に、ひれは今の自分が必要としている音楽ではない。
20時30分頃から三上ちさこ登場。メンバーはG.権田武/B.馬場龍太/Dr.室田憲一。ギターが藤井一彦でないことに不安を覚えるが、ちさこ自身はやけに明るい表情をしていて元気そうだ。
結論から言えば、これまでのちさこのソロライヴでも1〜2を争う充実した内容だった。その理由は、一にも二にもちさこ自身の絶好調ぶりにある。fra-foa時代まで含めても、彼女がこれほど安定したヴォーカルを聞かせてくれたのは初めてではなかろうか。後半は若干音程を外すところもあり、アンコールの「煌め逝くもの」は一部キーが完全に落ちていたが、大部分はのびのびとした声で真っ直ぐなヴォーカルを聞かせてくれた。その安定感とスケールの大きさは、以前には見られなかったものだ。かつての彼女は、あの細い体から尋常でないエネルギーを闇雲に発散していたが、今はそのエネルギーを制御し、歌声だけに集中させる術を身につけたようだ。その凄みたるや半端なものではない。fra-foaでデビューした頃の彼女が「風と炎」のヴォーカルだとすれば、今のちさこは「大地と水」のヴォーカルだ。かつてのヒリヒリするような鋭さは薄れたものの、それに代わる巨大なスケールと色彩感を獲得している。
そんな彼女の力がフルに発揮された白眉のナンバーは、文句なしに「孤高の空」だ。ソロになってからの曲では、元々「解放区」とトップを争うほど好きなナンバーだが、それにしても今日の「孤高の空」は凄かった。この1曲だけで、今日ここに来た甲斐があったと思った。地下のライヴハウスから遙かなる天へと突き抜けていく真っ直ぐで力強い歌声。後半の「広がる朝/どこまでもひとりぼっちな世界で/あなたがいたから/今日まで生きてこれた/あたな いるから」のくだりではエモーショナルなヴォーカルが炸裂。全身に鳥肌が立った。他の曲もそうだが、一つ一つの言葉に、以前にはない「重み」が感じられる。
最近レコーディング活動から離れ、新曲も作っていない彼女は、「進化」する代わりに「深化」の道を選んでいるかのようだ。過去の作品をどこまでも掘り下げ、余計なものを排し、真に歌われるべき歌をライヴの中で作り出していく。新しいアルバムを出して本格復帰して欲しいというのは、全てのちさこファンの望みだろうが、ここまでやられてしまうと、正直、新しいスタジオアルバムなんぞどうでも良いという気分にさえなってくる。
ただ一つ残念だったのは、バンドの演奏。かつてのような白熱したプレイは見られず、おとなしくバックに徹していた感じだ。伊吹留香バンド時代からお気に入りの室田憲一が、こんなにおとなしいドラムスを叩いているのは初めて見た。しかも明らかにリズムを間違えて、べースとずれが生じるところさえあった。一体どうしてしまったのだろう。新しいギターもは可もなく不可もなくという程度で、ここ数年間ちさこをサポートしてきた藤井一彦に比べれば、これといった個性も感じられないし、おとなしすぎてつまらない。やはり藤井の不在がバンドに与えた影響は大きいようだ。
しかしそんな問題を補って余りあるのが、すでに述べたとおり、ちさこのヴォーカルの絶好調ぶりだ。MCでは今後の予定など一切喋らなかったので、相変わらずレコーディング契約はなく、年に1〜2回ライヴをやる生活を続けていくのだろう。しかしこんなライヴを見せられた以上、これからも確実に彼女の活動を追いかけていこうと思わざるをえない。
このBlackhole、新しく出来たライヴハウスだが、あまり好きにはなれない。天井が低いため音は悪いし、ステージも見えにくい。それはよくある話なのでまだ仕方ないが、問題は出入り口がやたらに狭いこと。しかもその出入り口にバーカウンターがあって、終演後にドリンクを求める人が列を作り、帰ろうとする客はそれを縫うようにして帰るため、いつまでたっても前に進まない。そもそもここで地震や火事が起きたらどうなるのだろう。もしここしか非常口が無かったら、絶対大惨事になるぞ。今時、こんな作りでよく消防法をクリアしたものだ(実はクリアしてなかったりして)。良い点は、外に出ると飲み屋には事欠かないことくらい。こうしてみると、下北沢のMOSAiCは本当に良いハコだったなあ…
セットリスト
1.ファンダメンタル
2.edge of life
3.daisy-chainsaw
4.望
5.相対形
6.孤高の空
7.Hole
8.月と砂漠
アンコール
9.煌め逝くもの
(2009年9月)
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Comments
こんにちは。以前からぼのぼのさんの映画評を楽しく読ませていただいておりましたが最近はあまり更新がなく残念です。
お忙しいこととは思いますが去年のベストの記事など読めたらうれしいなぁと思います。では。。。
Posted by: 一読者 | 04/24/2010 13:01
コメントありがとうございます。
ふと気がつけば、もう半年以上も放置状態でしたね。せめて年間のベストテンくらい書かなくてはと思っていたのですが、ちょうど12月〜1月は仕事が非常に忙しくて、他にもいろいろと事情が重なり、そのままズルズルと… 最近はブログの存在を半ば忘れかけていました(笑)。
ただ、ここ数日また新たなきっかけがあり、そろそろ再始動しようかと思い始めたところです。今年のゴールデンウィークは大した予定もないので、幾つか記事を書く日を作りましょう。その際は、よろしくお願いいたします。
Posted by: ぼのぼの | 04/26/2010 12:26