【ライヴ】Ritomo/伊吹留香 2009.5.16
Ritomo/伊吹留香 ライヴ
2009年5月16日(土) 晴れたら空に豆まいて
伊吹留香のライヴのため、また代官山の「晴れたら空に豆まいて」へ。彼女の出番は20時30分頃と聞いていたのだが、その前の用事が両国で17時に終了し、適当な時間つぶしが無かったので、軽く食事をした後、18時30分過ぎに会場に入る。最初のアーティストが終わった頃かと思いきや、まだ一人も出ておらず、結局4時間かけて5アーティストを全部見ることになった。
ライヴのタイトルは「鳴り響く皐月」。出演者は順番に、福田真ノ介/アスル/麻子/伊吹留香/Ritomo。最初の3アーティストはどれもまずまず良かったが、特筆するほど強い印象は受けなかったので省略。伊吹留香とRitomoについてだけ書く。
全体に進行が押したのか、伊吹留香の登場は結局21時頃。バックを務めるのは梶原健生(g)、出井孝幸(b)、清川渉(ds)、要するにRitomのメンバーである。梶原は以前も伊吹のバックを務めていたので、その関係だろう。
演奏曲目は以下の通り。
1.胼胝
2.dying message
3.音信
4.ミントドロップ
5.晩冬
6.ヒートアイランド
7.リバーシブル
バンドのサウンドは、これまでに無い独特なもの。「グルーヴ感のあるアコースティックサウンド」を追究していた最近とはまるで違うし、室田憲一などがいた頃のグランジ~オルタナ系とも違う。ギターは前半はアコースティックだったが弾き方はかなりエレキ的だったし、後半はそれをエレキギターに持ち替え、グルーヴ感溢れるエレクトリックサウンドを展開していく。ただし以前のように轟音で空間を埋め尽くす感じではなく、隙間を活かした適度に風通しの良いサウンドだ。
一番驚いたのは、伊吹留香のヴォーカルが、そのエレクトリックサウンドに拮抗して「歌」をしっかり聞かせられるようになっていたこと。数年前までの彼女は、エレクトリックの轟音の中に歌声が埋もれてしまい、「やりたいこと」と「やれること」が一致しないままステージでもがき苦しんでいた。その苦しみが醸し出すリアリティが一つの魅力になっていたのも事実だが、「強力無比なサウンドと非力なヴォーカル」という音楽的構図がいつまでたっても変わらないのは、伝えるべき「歌」を持っているはずのアーティストとして決して誉められるものではなかった。
その後、アコースティックサウンドの中でロック的なフィーリングを出す方向を追究していたのだが、このRitomのメンバーを配したエレクトリックバンドでは、歌が楽器に埋もれることなく、言葉が一つ一つきちんと伝わってくる。PAやハコなど音響的な要素もあるかもしれないが、彼女の歌唱能力がアップしていることは間違いない。
曲では、以前はそれほど良いと思わなかった「晩冬」が、回を重ねるごとに心に染みるものになってきた。だが最高傑作は文句なしに「ヒートアイランド」だ。初めて弾き語りのデモCDで聞いた瞬間から名曲だと思ったが、ライヴを重ねるごとに楽曲としての完成度を高めていき、この日の演奏はほぼ完成型と言える見事なものとなっていた。この曲がきちんとレコーディングされてCD化される日が待ち遠しい。
ともあれ、伊吹留香のヴォーカリストとしての著しい成長が、この日の最大の収穫だ。個人的には、かつての骨太なグランジ~オルタナ系サウンドが大好物なので、その路線から少し離れたことに若干の寂しさは感じる。だがこのRitomoのメンバーによるバンドは、以前のバンド以上に、彼女の新たな魅力を引き出し、その才能を大きく開花させる可能性を秘めている。できればこのまましばらくコラボレーションを続けて欲しいものだ。
トリは、そのRitomo。先ほど伊吹留香のバックを務めていた3人に、ヴォイスや電子音担当の多賀太郎が加わった編成。事前にMy Spaceで音を聞いたところ、トランス感のあるテクノロックで、ちょっとアンダーワールドに似た感じだった。それがなかなか心地良いサウンドだったので、ライヴにも期待していたのだが、この日の演奏はネットで聞ける音源とはかなり違っていた。それを遙かに超えていたのだ。
彼らの音楽性を一言で表現するなら「グルーヴ感のあるピンク・フロイド」。それに尽きる。
ヴォイスが効果音的に使われるものの、いわゆる歌はなく、基本的にインストゥルメンタルのみ。「踊れるプログレ」ということで、おおまかに言えばROVOと同じ系列に属するが、実際の感触はROVOとはだいぶ違う。ROVOの方がよりダンスフロア向けであり、躍動感と即興性を重視しているのに対し、Ritomoはもっと観賞向きで、いわゆる音響派寄り。躍動感のある曲でも、どこか「静」の美学を感じさせてくれる。ROVOがイエスやキング・クリムゾンだとしたら、Ritomoはあくまでもピンク・フロイドだ。ただし本家にはない強力なグルーヴを備えている。
ロックを聞き始めたばかりの頃フロイドやクリムゾンといったプログレに心酔し、最近はジャンルの如何に関わらず、音楽が持つグルーヴに大きな価値を見いだしている自分が、その両方の要素を兼ね備えたバンドに魅了されないはずはない。これまでにも伊吹留香の対バンで幾つかの優れたアーティストを発見してきたが、このRitomoというバンドは、その中でもダントツだ。
と言うわけで、Ritomoは今後機会を見つけてライヴに通うバンドに認定された。このような音楽性を続ける限り、今の日本ではメジャーになれるはずもない。どこまでバンドが存続するかわからないが、活動している間はささやかながら応援することにしよう。さしあたり次は6月7日、横浜で梅津和時 KIKI BANDの前座として出演するそうなので、それを見に行くつもりだ。
最後に書き落としたことを幾つか。
・晴れ豆のドリンクは、ライヴハウスにしては非常に美味しい。ちゃんとアルコールの味がする。まだ食べた事はないが、多分食べ物も美味しいことだろう。
・この晴れ豆というライヴハウスは、アコースティック専門のハコだと思っていたのだが、今日のRitomoと伊吹留香は思いきりエレクトリック。最近は傾向が変わったのか? それともアコースティック専門というのは、こちらの勝手な思い込み?
・客席に、伊吹留香を見に来た三上ちさこの姿発見。小さな娘さんも一緒。娘、可愛い…
(2009年6月)
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