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06/13/2009

【ダンス】スティーヴ・パクストン+リサ・ネルソン『Night Stand』2009.5.17

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スティーヴ・パクストン+リサ・ネルソン『Night Stand』
2009年5月17日(日) 18:00~ スパイラルホール


スティーヴ・パクストン…全然まったく知らない人だったのだが、とある場所で〈これは「行っておくべき」公演です。行っておくと、一生自慢でき、イバれますよ〉と薦められたので、素直に見に行くことにした。で、見に行ったはいいが、一体誰にイバって良いのやら見当もつかない。仕方ないので、とりあえずブログなどに書いてみる。イバられてくれる人がいたら、手を挙げてください。

僕は、それほど多くのダンス公演を見ているわけではないし、ダンスに関する知識も少ない。したがってスティーヴ・パクストンという人が歴史的にどういう意味を持つ人物なのかよく知らない。調べると「コンタクト・インプロヴィゼーションの創始者」なとど書かれているが、何のことやらよくわからない。今さら付け焼き刃で知ったかぶりの知識を書き連ねるのもみっともないだけなので、あえて素人の視点から書いてみることにする。


場所はスパイラルホール。別に気合いを入れていたわけでもないのに、だいぶ前に到着してしまい、会場入り口で整理券があるのか無いのか確認をしたら、まさに配布が始まるところ。おかげで整理券1番を手に入れてしまった。開場は演出の都合上、開演の5分ほど前。椅子席最前列真ん中のベストポジションをキープする。

会場に入ると、ほぼ何もない空間に2つの黒い板と、それを支える手が見える。なるほど、すでにアーティストは舞台上にいるので、あまり早い時間に客を入れられなかったわけだ。

内容だが、普通のいわゆる「ダンス」とは少々かけ離れており、ある種の前衛的な演劇を思わせるもの。ヴィデオでしか見たことがないが、太田省吾演出の舞台などに近い感じだ。まあそれは言っていることが逆で、太田省吾がパクストンの手法を取り入れたのかもしれないが、その辺りの歴史的経緯についてはよく知らない。

音楽は、明確なリズムが感じられない現代音楽。一種のアンビエントミュージックのように聞こえる。スティーヴ・パクストンとリサ・ネルソンの動きも、それに合ったゆったりとしたもので、能楽の動きを彷彿とさせる。ダンスと言うよりは、パントマイムのようなパフォーマンスに近い感じ。

そんな具合で、何かが起きるようで何も起きない、何も起きていないようで何かが起きているような微妙な動きが延々と続く。躍動感も無ければ、目の醒めるような動きも無い。案の定、客席には船を漕ぐ人の姿がチラホラと見られた。

正直、僕も「これは失敗したかな~」と思ったのだが、ずっと見ていく内にだんだん興味を覚えてきた。これは要するに「音楽(リズム)の無いところでダンスをするとはどういうことなのか」を追究したパフォーマンスではないかと気づいたからだ。「ダンスにおいて、バックの音楽(リズム)は必要なものなのか? それが無ければダンスは成立しえないのか?」そんな問いに対する一つの回答として見ていくと、この普通の意味でダンスらしくないダンスが、いろいろな意味で刺激的に見えてきた。最初に述べたように歴史的なことはあえて調べていないので当て推量のようなものだが、要するにこの人は、それまでの映画文法を打ち破った即興的な演出や編集によって、映画の新しい可能性を模索した、ゴダールみたいなポジションに位置する人なのではなかろうか。ダンスに詳しい人からは「何たる奇抜な感想!」と言われるかもしれないが、少なくとも自分にはそのように感じられたし、そのような観点から見ていくと、なかなか楽しめたのも事実である。ただ、本当にそちら方面を追究しているのなら、「バックの音楽は一切無しで、ダンスの中から音楽が聞こえてくる」境地を見てみたかったが、そこまでは望めなかった。

後半は、前半に比べると物語的な要素が若干見られるようになってくる。もちろん何らかのストーリーやメッセージを伝えることを目的にしていたとは思えず、アドリブ重視のジャズミュージシャンが、一応のテーマとしてスタンダードナンバーを利用するのと似たようなものだろう。それでも、ティッシュペーパーなどの小道具を使った動きはなかなかユーモラスで、客席からも笑いが漏れていた。バケツに灯りが点って終わるラストも、気取りのないユーモアが感じられて好印象。


上演時間は1時間弱。それで5000円のチケット代は少々高い気もするが、コストパフォーマンスの悪さはダンス公演の常なので仕方あるまい。こうしてみると、大勢の出演者と巨大なセットを駆使して3時間近く上演されるピナ・バウシュの舞台が13000円というのは、意外と適正な値段のようだ。

今回の公演が、そこまで「行っておくべき公演」なのかどうかはよくわからないが、なかなか興味深いものであったことは確かで、それなりの刺激も受けたので、十分に満足している。「行っておくべき公演」かどうかはともかく、「行って良かった公演」であることは確かだ。そんなわけで一生自慢し、イバりたいので、その価値が分かる方、いらっしゃいましたら手を挙げてください。


ところで公演の内容そのものとは無関係に気になったことが一つある。この公演に限らずコンテンポラリーダンスの常なのだが、客席に関係者が多すぎ。出演者の知り合いならまだしも、観客同士が全員お友達なのか?と疑いたくなるほど一つの閉鎖的なコミュニティを形成している。小劇場の芝居にもそういう部分はあるが、それは観客が出演者やスタッフと知り合いということで、この規模の公演で、観客同士がお友達だらけで社交場のようになっている例は見たことがない。別に観客同士がお友達であることにケチをつける理由はないが、それは結局のところ「ダンスを見る観客が極めて限定されている」≒「ダンスというものが、限られた観客だけを対象とした閉じられた表現になっている」ことを示しているように思えてならない。もちろん全ての芸術表現が数十万単位の観客を対象にすべきだとは思わないが、ここまで閉鎖的なコミュニティの中で一つの表現が消化されている光景を目の当たりにすると、いささか薄ら寒い気分になってくる。

次のダンス公演は6月21日、新国立劇場のNoism。そこでも似たような光景を目にすることになるのだろうか。


(2009年6月)

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