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02/16/2009

【映画】2008年度日本映画ベストテン

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2008年度日本映画ベストテン

1.ブタがいた教室
2.接吻
3.相棒
4.歩いても 歩いても
5.大丈夫であるように-Cocco 終わらない旅-
6.真木栗ノ穴
7.転々
8.母べえ
9.おくりびと
10.トウキョウソナタ
次点 ガチ★ボーイ


★監督賞
 万田邦敏(『接吻』)
 前田哲(『ブタがいた教室』)

★脚本賞
 是枝裕和(『歩いても 歩いても』)

★主演男優賞
 妻夫木聡(『ブタがいた教室』)

★主演女優賞
 小池栄子(『接吻』)

★助演男優賞
 山崎努(『おくりびと』)

★助演女優賞
 粟田麗(『真木栗ノ穴』)

★演技アンサンブル賞
 『ブタがいた教室』の6年2組の子どもたち


2008年の映画鑑賞本数は延べ133本、本年度内の複数回鑑賞を除いたタイトル数は111本。そのうち外国映画は82本/67タイトル。日本映画は51本/45タイトル。日本映画の観賞数が、これだけ比率的に多かった年は初めてかもしれない。しかし内容的に言うと2008年はクオリティ面で洋画の圧勝。日本映画も充実していたが、洋画の充実度はそれを遙かに上回っていたと言うことだ。
主な見逃し作品は『靖国』『百万円と苦虫女』『容疑者Xの献身』『青い鳥』『落語娘』『櫻の園』『人のセックスを笑うな』など。


1位はずっと『接吻』で不動のはずだったが、年が明けてから『ブタがいた教室』を見直したことで(3回目)逆転してしまった。この作品は、1回目よりも2回目、2回目よりも3回目と、どんどん感動が深くなる。見れば見るほど、この作品が持つテーマに共感し、子供たちが直面する問題を我が事として一緒に考えられるようになっていくからだ。それは芸術鑑賞の枠を超えた、生と死に関する一つの深い体験だと言っても過言ではない。映画的な魅力で言えば『接吻』に軍配が上がるが、「人生」は「映画」よりも大きかったということだ。
実話を元にしたドラマだが、内容的に言っても撮影手法から言っても、かなりドキュメンタリーに近い作品だ。正解の無い問題に真正面から向き合い、自分自身の言葉で生と死について考えていく子供たちの姿は、見る者の心をストレートに揺さぶる力を持っている。凡庸な監督が撮れば限りなく説教臭くなったであろう題材を扱いながら、決して作者側から意見の押しつけをせず、正確な問題提起に徹したことによって、深い生と死の様相を映画の中に焼き付けることに成功している。この成果は日本映画史の中でも類を見ないものであり、もっともっと高く評価されてしかるべきだと思う。

映画的な純度で言えば、万田邦敏監督の『接吻』に及ぶ作品はない。その直前に、万田監督の2002年作品である『UNloved』も見て、こちらも非常に面白かった(初見だが6年前の旧作なので選考対象からは除外)。と言うより、そちらを直前に見ていたおかげで、この作品の世界観がすんなりと理解できた面もある。「これぞ映画そのもの」と言いたくなる幾つもの描写。狂気と表裏一体の純愛(または純愛と表裏一体の狂気)を肯定も否定もせず、人間の業としてあるがままに描く視点。何かが取り憑いたかのような小池栄子の演技。全てが傑出している。一部映画ファンの間では話題になったものの、それほど大きな話題になったとは言い難い本作。こちらももっと高い評価を受けてしかるべきだ。

『接吻』『ブタがいた教室』の2本は、文句なしに2008年の日本映画が誇る2大傑作だ。いや、どちらも00年代屈指の日本映画と言って間違いないだろう。しかし各種ベストテンを見ていると、『接吻』がそれほど上位にランクされず、『ブタがいた教室』に至っては10位内に入っていないことに目を疑う。選者たちは、この2本をちゃんと見た上でベストテンを選んでいるのだろうか?


そんなわけで上位2本はダントツ。以下はそれらに比べれば必ず水をあけられるが、一見の価値がある秀作がズラリと並んでいる。

『相棒』は、映画としての出来、とりわけ脚本の出来に関して言えば、とても3位に来るような作品ではないのだが、それでも人気テレビドラマの映画化のふりをして、鋭い社会的メッセージを剛速球でぶち込んできた、あの姿勢は強力に支持したい。まさに「羊の皮をかぶった狼」大賞だ。

是枝裕和作品をあえて2本並べてみた。奇跡と偶然によって、おそらく作者の意図をも超える名作となった『誰も知らない』を別とすれば、『歩いても 歩いても』は、是枝裕和の一つの到達点と言っていいだろう。台詞の自然さや辛辣さは特筆ものだし、役者も皆肩の力が抜けた素晴らしい演技を見せてくれる。しかし、この手のホームドラマは日本映画の歴史上数限りなくあるわけで、その中で、この作品が傑出しているかと言えば疑問がある。ホームドラマの枠を踏み越えて人間存在のより根源的な部分まで切り込もうとはせず、その手前で踏みとどまって、こじんまりとまとまってしまう癖がまだ抜けきっていない。この殻を破ることが出来れば、文句なしに巨匠と呼べるのだが…と、どの是枝作品を見ても感じる不満がまたもや頭をもたげてしまうのも否定できない事実だ。

『大丈夫であるように-Cocco 終わらない旅-』はCoccoの姿を追ったドキュメンタリー。映画の手法として格別優れたところがあるわけではないのだが、巨大な謎と魅力に満ちたCoccoというキャラクターを通じて描き出される、現代日本の社会問題や寂寥とした心象風景が、強い感動を与えてくれる。自らの主張や批評性をあまり前面に押し出さない、是枝監督の控えめな演出(それが時には食い足りなさに通じる)が、ここでは非常に良い方向に働いている。

『真木栗ノ穴』は、07年の東京国際映画祭で見た作品だが、本公開で1年ぶりに見直して、あらためて感心した。これぞ「現代版 雨月物語」であり、『ツィゴイネル・ワイゼン』の嫡子。ユーモアとエロスとノスタルジーが入り交じった作風も、何気なく細部に埋め込まれた様々な謎も、全てが個人的ツボにはまる。深川栄洋監督は、間違いなく若手監督の有望株。いつかこの路線をさらに極めた作品を作ってくれることを期待したい。

『転々』は07年の作品だが、見たのは08年なので、選考対象に入れた。これがまた思いきり個人的ツボにはまった作品。ユル~い作りなのだが、そのユルさがたまらなく気持ちいい。自分にとっては、これこそ正真正銘の「癒し系映画」。年に1度は見直して安らかな気持ちになりたいものだ。三浦友和、オダギリジョーの肩の力を抜いたゆるい演技もいいが、吉高由里子の素っ頓狂な怪演に喝采。彼女は『蛇にピアス』という主演作もあったが、こちらの方が遙かに魅力的だ。

『母べえ』は『相棒』と並ぶ「まさか、こんな映画だったとは」のビックリ大賞。いかにも山田洋次らしいホームドラマだと思わせておいて、それまで積み上げてきたものを最後で一挙に引っ繰り返してしまう、あの衝撃! そうまでして山田洋次と吉永小百合が訴えたかったテーマとは何だったのか? それは本編を見てもらう以外にない。「山田洋次が描く母ものじゃ、どんな作品か見なくても想像がつくよ」などと思わずに、いや、むしろそう思っている人にこそ見てもらい、あの衝撃のラストを味わって欲しい傑作。

他のベストテンは大体『おくりびと』が1位になっているようだ。確かに秀れた作品であることは疑いない。しかし万人受けする感動作として仕上がった分、「いい話」としてこじんまりまとまってしまった感は否めない。それでも『ブタがいた教室』さえなければ、もっと高く評価したと思うのだが、子ども映画のような顔をして、生と死の問題をこれ以上ないほど真剣に追究した『ブタ~』を見てしまうと、やはり『おくりびと』は甘口と言わざるをえない。と言うわけで、このあたりにランクイン。

10位は黒沢清の『トウキョウソナタ』。黒沢清としては異色のホームドラマだが、どこか現実離れしたストーリー展開と言い、登場人物を突き放したような相変わらずの演出と言い、紛れもない黒沢印の作品となっている。
中年サラリーマンのリストラを主な題材にしているが、ちょうどこの映画が公開された頃から、世界経済は恐慌状態に突入。基本的にはホームドラマであるはずのこの作品が、『回路』『叫』などの幽霊ものよりも遙かに現実的なホラーになってしまったのは、皮肉というか何と言うか…

『ガチ★ボーイ』はとりあえず次点になってしまったが、忘れるには惜しい青春映画の傑作。1日しか記憶が持たない病気という題材は、もうそろそろやめにして欲しい感じもするが、その病気がいかに辛いものであるかを最も説得力を持って描いていたのは、この作品だ。あのバス内の告白と、それに続く一連のシーンは涙無しでは見られない。

他に印象に残った作品は、根本的な部分で幾つか疑問があるものの、細部に関しては魅力的な『ぐるりのこと。』。芸術家という人種の狂気をユーモラスかつ残酷に描き、北野映画としては久しぶりに復調が見られた『アキレスと亀』。『運命じゃない人』と比べればだいぶ落ちるが、やはりそれなりに面白い『アタースクール』。押井守の世界が全開の『スカイクロラ』。娯楽映画として純粋に面白い『ハッピーフライト』。大林宣彦が、『転校生 さよならあなた』に続いて死をテーマにし、しかも異常なほど実験的な作風で作り上げた『その日の前に』。最初の2時間は文句なしに力作として評価できる『闇の子供たち』などが上げられる。
『闇の子供たち』は、途中までは文句なしにベストテン入りの作品だったのだが、ラスト15分で「何故そうなる?」と言いたい展開になって唖然。「これは原作ではもっと詳しく描かれているのだろうか」と思い、原作の終盤をチラリと立ち読みしたら、唖然とした部分はすべて映画のオリジナルだと知って二度唖然。一体どのような経緯で、あのような改悪が行われたのだろう? そこに至るまでが傑作だっただけに、疑問というか残念というか…

なお、劇団新感線の舞台を十数台のカメラで捉え、単なる舞台中継を超えた映画作品に仕上げたゲキ×シネシリーズを、今年4作品見た(ちなみに新感線の舞台はまだ1回も見たことがない)。悪のりが過ぎる『メタルマクベス』は最低だったが、それ以外の3本『髑髏城の七人~アカドクロ~』『髑髏城の七人~アオドクロ~』『朧の森に住む鬼』は大いに楽しめた。もし選考対象に入れるとすれば、『髑髏城の七人~アカドクロ~』と『朧の森に住む鬼』の2本は確実にベストテン入りするのだが、豊作で落としたくない作品が落ちている状態なので、これらの作品は、旧作ということもあり、全て選考対象外とした。


次に個人賞。

監督賞は、まったく違った手法によって、まったく違うタイプの傑作を作り上げた万田邦敏と前田哲の二人に。万田邦敏は、その純映画的な表現能力において。前田哲は、子どもたちに演技をさせるのではなく、生と死、そして人間の責任というものについて考える場を与え、心の底からの言葉を引き出し、その様子をフィルムに収めた手腕において。

脚本賞は、台詞の自然さを高く評価して是枝裕和に。『接吻』は脚本には若干の不満があり、『ブタがいた教室』はクライマックスとなるディベートシーンに台詞が書かれておらず、子どもたち自らの言葉をリアルに捉えたものなので、純粋に脚本としては一歩譲らざるをえない。

主演男優賞は『ブタがいた教室』の妻夫木聡。この映画の彼は、見事なまでに何もしていない。ただしそれは、この映画においては何も余計なことをしないのが最上の演技だからだ。他の役者なら、もっと演技らしい演技をしようとするだろう。しかしそれでは、この映画は台無しになってしまう。妻夫木は、あえて演技らしい演技をしないことで最上の演技をしたのだ。その自制心を讃えて主演男優賞。次点は、『歩いても 歩いても』でキワモノ以外の演技も上手いことを示した(笑)阿部寛。

主演女優賞は『接吻』の小池栄子。これは問答無用。映画史に残る名演。次点は、『母べえ』の吉永小百合。

助演賞は男女ともに激戦区だ。助演男優賞は、『接吻』の豊川悦司、『相棒』の西田敏行、『アフタースクール』の堺雅人、『歩いても 歩いても』の原田芳雄、『おくりびと』『イキガミ』に加え『カンフーパンダ』の吹き替えで、英語版のダスティン・ホフマンよりも素晴らしい声の演技を聞かせてくれた笹野高史など錚々たるメンバーが並んでいる。ここは本当に誰でも良いくらいだが、ユーモアと厳しさと優しさが入り交じった多面的なキャラクターを好演した『おくりびと』の山崎努に。

助演女優賞はさらに激戦。『転々』の吉高由里子、『アフタースクール』『20世紀少年 第一章』の常盤貴子、『歩いても 歩いても』の樹木希林、『おくりびと』の広末涼子、『トウキョウソナタ』『転々』の小泉今日子、『ハッピーフライト』の寺島しのぶ、『ブタがいた教室』『アフタースクール』の田畑智子などなど。とりわけ『歩いても 歩いても』の樹木希林と『おくりびと』の広末涼子は捨てがたいものがあったが、これまでの地味なイメージを打ち破って、ヒロイン役を堂々とこなした『真木栗ノ穴』の粟田麗に。実はこれ、舞台『焼肉ドラゴン』での好演に対する評価も含まれてはいるのだが。

最後の特設部門、演技アンサンブル賞に関しては説明の必要は無いだろう。少しでも説明が欲しいと思った人は、とにかく『ブタがいた教室』を見るべし。


(2009年2月)

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