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01/05/2009

【演劇】2008年度演劇ベストテン

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2008年度演劇ベストテン

1.りゅーとぴあ 能楽堂シェイクスピアシリーズ『冬物語』
2.ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団『パレルモ、パレルモ』
3.子供のためのシェイクスピアカンパニー『シンベリン』
4.新国立劇場制作『焼肉ドラゴン』
5.岡崎藝術座『リズム三兄妹』
6.劇団桟敷童子『黄金の猿』
7.THE ガジラ『新・雨月物語』
8.東京ノーヴィレパートリーシアター『曽根崎心中』
9.MODE『心中天網島』
10.青年団『冒険王』


2008年に見た演劇は延べ85本、複数回鑑賞を除いたタイトル数は78本になる。2007年よりも延べ16本の増加だ。しかし「見るべき部分はあるが傑作と言うほどではない」作品が大部分で、平均点のようなものを出したら、2007年よりもかなり落ちる。これは自分の作品選択が悪かったせいだろうか。

その中で文句なしのトップはりゅーとぴあの『冬物語』。これは本年度のベストどころか、これまでに見た全ての演劇の中でもトップクラスに位置する作品だった。原作のトンデモなラストが、ここまで荘厳な感動を呼ぶことになるとは夢にも思わなかった。原作の最も良い部分を抽出し、不要な部分は切り捨て、幾つかのシーンや台詞を新たに付け加えた脚色は完璧そのもの。オープニングとラストの円環構造や、原作では省略されている再会シーンをきちんと描いたこと(台詞無しで音楽だけの演出が絶妙)、最後の復活劇をヘタな理屈をつけずに「奇跡」として描いた点など、絶賛を始めたら切りがない。この上演台本は、シェイクスピアの原作よりも優れていると言っていいだろう。一部キャストに疑問が残るが、さしたる傷ではない。それを見ることで魂も安らかに眠りにつくことが出来るであろう「死ぬ前に見たい映画」が何本かあるが、このりゅーとぴあの『冬物語』は、自分が初めて出会った「死ぬ前に見たい演劇」だ。

続いてピナ・バウシュ。2006年の『カフェ・ミュラー』『春の祭典』は、ストレートプレイとダンスを同じ土俵で比べるのは無理だと判断して別扱いにしたが、本作は格段に演劇的要素が強く「ダンスパートが多いストレートプレイ」といった趣なので、同列に扱うことにした。悲劇的色彩の強い『カフェ・ミュラー』『春の祭典』も良かったが、こちらは思いもかけぬコメディタッチ。これが実に楽しくイマジネイティヴで、ピナ・バウシュというアーテイストには、こんな側面もあったのかと新鮮な感動を覚えた。ダンスシーンの素晴らしさは言うまでもない。同時公演の『フル・ムーン』を見逃したのが悔やまれる。値段の高さがネックになるが、今後は何としてでも全ての来日公演を見ることにしよう。

子供のためのシェイクスピアカンパニーによる『シンベリン』は、桜美林大学で1回(初日)、あうるすぽっとで2回、さらにキラリふじみで1回(大楽日)と、計4回の観賞。戯曲の魅力を十全に表現した楽しい舞台で、りゅーとぴあの『冬物語』とは対極にある作風ながら、どちらもそれぞれに素晴らしい。やはり2008年は、自分にとって「シェイクスピア ロマンス劇の面白さを発見した年」ということで決まりのようだ。

『焼肉ドラゴン』は極めてベタな作風で、良くも悪くも新劇的な「お芝居」そのもの。しかしどんな古い手法であれ、それを磨き上げ突き詰めていけば人の心を動かせるのだと証明したような作品。カーテンコールで、新国立劇場があれほど暖かい拍手で満たされたことは記憶にない。ぜひとも再演して欲しい作品だ。

意外な拾い物の筆頭が、岡崎藝術座の『リズム三兄弟』。この作品の何が良いのだと問われても返答に窮するのだが、小劇場ならではの奇想天外な面白さが満載で、一から十まで全てが楽しい。イマジネイティヴで、大いに笑え、身体表現の面白さが味わえる点では、ピナ・バウシュの『パレルモ、パレルモ』と強い類似性がある。この1作で、岡崎藝術座は毎回欠かさず見る劇団にランクイン。今年は劇団としてよりも、主催の神里雄大が演出家として参加する公演が多いようだが、そちらも必見だ。

新作公演としては『軍鶏307』以来1年半ぶりとなる、劇団桟敷童子の『黄金の猿』。複数のエピソードが絡み合う構成にはいささか散漫な部分もあり、特にバタバタしたラストは広げまくった大風呂敷を無理矢理畳んで、その隙間から大事な物がボロボロこぼれ落ちてしまった感がある。完成度という点では、あまり誉められたものではない。しかし各エピソードの面白さは格別で、桟敷童子作品としては、これまでで最も派手で娯楽性が強い。そのような娯楽性を、旧来からの「虐げられた者たちが必死で生き抜こうとする物語」と融合しようと悪戦苦闘している作品と見ていいだろう。それが必ずしもうまく行っていないことは事実だが、方向性自体は間違っていないし、桟敷童子の転換点として重要な意味を持つ作品だと思う。その前向きな試行錯誤と細部の面白さを肯定的に評価したい。ただしこの方向に進むなら、前から気になっていた殺陣の貧弱さは、絶対に克服すべき課題だ。

THE ガジラの『新・雨月物語』は、客観的に見れば特別優れた芝居とは言えない気もするが、この手の文学的な怪異譚、しかも能の様式を使ったものが、個人的なツボなので、たいへん面白く見ることが出来た。ただしTHE ガジラの作風は、やはり世田谷パブリックシアターには似合わない。もう少し小ぶりのシアタートラムや吉祥寺シアターでやれば、さらに濃密な空間が出現していたはずなので、その点が残念だ。

東京ノーヴィレパートリーシアターの『曽根崎心中』は、この劇団としては『ワーニャ伯父さん』の次に良い。特に、愛する人と一緒に心中できることを無邪気に喜び、まるでディズニーランドに行くかのような雰囲気で心中の地に赴くはつの姿は、とても印象的。『ワーニャ伯父さん』のソーニャ役同様、三浦尚子の演技は秀逸そのもので、300年以上前の古典に見事な現代性を与えている。東京ノーヴィレパートリーシアターでは、他に『どん底』も優れた作品だった。ただしその3作品を除くと、後はいろいろと不満が残る。

MODEの『心中天網島』は、予想を超える出来の良さに感心した。山田美佳が久々に本領を発揮。演劇的な面白さでは、間違いなくTNRTの『曾根崎心中』よりも上だ。しかし登場人物に対する感情移入とドラマ的な感動で『曾根崎心中』に一歩譲るのは、様式重視の演出上、やむを得ないところか。

『冒険王』は、いかにも青年団らしいというか平田オリザらしい佳作。あのようなダルな空気感を退屈せずに見せられるというのは、何気に高度な技だろう。その空気感を自然な演技で表現できる役者たちも立派。


この他に、再演ものでITOプロジェクトの『平太郎化物日記』(静岡芸術劇場での上演)、桟敷童子の『泥花』、東京ノーヴィレパートリーシアターの『ワーニャ伯父さん』も極めて優れた芝居であり、選考対象にすれば3本ともベストテンに入ってくることは間違いないが、演出や演技は前に見た時とそれほど変わっていないので選外とした。
中でもITOプロジェクトの『平太郎化物日記』は、やはり奇跡のような作品であることを再確認。わざわざ静岡まで見に行った甲斐があった。もう一度東京でやってくれたら、周りの人間に大推薦し、極力全公演見に行こうと思っている。


ここで名前の挙がらなかった作品では、三条会の『メディア モノガタリ』、劇団東京乾電池の『受付』、二兎社の『歌わせたい男たち』、文学座の『ダウト』、イキウメの『表と裏と、その向こう』、世田谷パブリックシアターのリーディング公演『棒になった男』、こまつ座の『闇に咲く花』などが印象に残っている。二兎社の『歌わせたい男たち』は出来の良さから言えば当然ベストテン入りなのだが、たまたま心身共に調子の悪い日に見て芝居に集中できなかったため、中途半端なところに入れるよりはと落とすことにした。
東京乾電池は、月末劇場をしばしば見に行くため延べ9回も見ているが、「これこそは」という決定打に欠けた感がある。その中では、別役実の戯曲の面白さと柄本明の場外からの笑いが思わぬスリルを生んだ(詳細は作品レビューをどうぞ)『受付』が最も印象的。『愛とその他』は、役者がもっと自由に動き出せばさらに面白くなった作品だと思うが、そこへたどり着くまでに終わってしまった。他の加藤一浩作品と比べても、もっと良くなる可能性を秘めた戯曲だと思うので残念だ。
また『ドキュメント』という作品で、ダンスカンパニーの「Co.山田うん」を初めて見たが、これが非常に面白かった。純然たるダンス公演とストレートプレイを同列に並べるのは無理ということで選外にしたが、今後出来るだけ見ていきたいカンパニーだ。

なお『キル』『THE DIVER』の2作品で野田秀樹の芝居を見たが、やはりこの人とは相性が悪いことを再確認した。一言で言えば「このテーマを描くのに、なぜこの設定、このストーリー、この演出が必要なのか」という点がさっぱりわからないのだ。たとえば『キル』であれば、素直に「蒼き狼」をやればいいだけではないのか。良い部分は全て「蒼き狼」の物語内に含まれているのに、コムデ・ギャルソンとコムサ・デ・モードの対立(あれはどう見てもそうだろう)などという、今となってはまったくどうでもいい80年代カルチャーの亡霊をなぜ持ち出してくる必要があるのだろう(これは再演だが、94年の初演時点ですでにネタとして古い)。『THE DIVER』も似たようなもので、この人は、あるテーマをいじくり回し、デコラティヴな芝居に作り込まないと気が済まないようだ。表現すべき対象が、過剰な表現手段の中に埋もれてしまっている。今後は、よほど興味を惹かれる内容でない限り、野田秀樹の芝居は見る必要がないようだ。


それにしても年間85本は見過ぎである。芝居が唯一最大の趣味ならともかく、映画を133本見て、なおかつ芝居を85本見るのは、社会人として明らかに問題だ。
と言うわけで、今年は芝居の観賞本数を60本程度に減らすことを目標とする。年間で25本、約3割の減少だが、それでも年間60本ということはちょうど月に5本、週に1本以上の計算だ。普通の人が聞いたら「それで減らしたつもりなのか」と目を丸くするだろうな、やっぱり。


(2009年1月)

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