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05/06/2008

【ライヴ】N.E.S./伊吹留香/高木フトシ/否/OVERTONE 701 2008.5.3

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N.E.S./伊吹留香/高木フトシ/否/OVERTONE 701
2008年5月3日(土) 18:30〜 下北沢MOSAiC


基本的には伊吹留香を見に行ったのだが、N.E.S.をはじめ、興味を惹かれる顔ぶれが揃った、お得なライヴ。少し風邪気味で辛かったが、18時30分から全アーティストを見ることにした。


18:30〜18:55
OVERTONE 701

一応オープニングアクトと書かれているが、演奏時間も30分近くあり、他のバンドと扱いは何も変わらない。以前 伊吹留香のサポートをしていた杉山隆哉(g)と河鰭文成(dr)が、石嶋香織(vo,g)という女性と共に作っているバンド。最近出来たのかと思いきや、結成は2006年の7月だから、もうそれなりに長く活動しているようだ。

音楽的には、強いて言うならプリファブ・スプラウトを思わせるネアアコ系ロック。ただ、それが狙いなのか、たまたまそうなっているのか、よく分からないのが痛いところだ。と言うのも、ネオアコ方面を狙っているにしては、リズムが重すぎる。ポップな路線を狙っているにしては、歌メロが弱すぎる。ロックらしいロックを狙っているにしては、全体の音がおとなしすぎる。25分間聞いていても、一体どういう方向を目指しているバンドなのか、よく分からなかったのだ。
ギターとドラムスの高い実力は、伊吹留香のライヴでよく分かっている。このライヴも、たとえばギターだけに耳を澄ませると、非常に良い。ドラムスに耳を澄ませても、やはり良い。ところが音楽全体を聞くと、何だか焦点がぼけているから始末が悪い。
やはり最大の問題は「歌」としての弱さだ。メロディーも歌詞もまるで印象に残らないし、ヴォーカルもこれといった個性は感じられない。まずは、もっと良い曲/良いメロディーを作ることが最優先課題だろう。

http://www.overtone701.com/


19:10〜19:40

事前にHPでサンプルを少し聞いていたものの、今回のアーティストで唯一まったく知らなかったのが、この「否」(いな)だった。そして今回最大の発見となったのも、この否だった。
その音楽は何とも形容しがたいユニークなものだ。ブラック・サバスやレッド・ツェッペリンなどの70年代ハードロックを思わせるヘヴィーなリズム隊。メロディーらしいメロディーはほとんど弾かず、ゴリゴリとハードなリフを奏でるギター。しかし女性ヴォーカルと、彼女の演奏するキーボードは、浮遊感や透明感に溢れたアンビエントなもの。その二つの要素がミスマッチという感じでなく、違和感なく結びついているのが実に不思議だ。ヴォーカルは、アップテンポの曲になると、声質や節回しが椎名林檎風になるのも面白い。
轟音と叙情性の同居する音楽性は、ある意味fra-foaに共通するものがあるが、ヴォーカルの雰囲気やメロディーはまったく違う。70年代のハードロックやプログレ、あるいはコクトー・ツインズやマイ・ブラッディ・バレンタインといった名前を連ねることも出来るが、それによって言い表せる否の音楽性はせいぜい70%程度。あとの30%は、何かに似ているようでいて何にも似ていない独自のもの。実にユニークで魅惑的な音楽だ。

伊吹留香のライヴを見るため、これまでMOSAiCに何度も足を運んできた。その対バンでいろいろなアーティストを見てきたし、teをはじめ、注目すべきアーティストを何組も発見した。しかしこの「否」は、その中でもずば抜けて魅力的だ。機会を見つけて、また必ず彼らのライヴを見に行くつもりだ。詳しいことは、またその時に書くことにしよう。今回のライヴは、否を発見しただけで入場料の元が取れた、いや、お釣りが返ってきたようなものだ。ここ数年間に聞いた中で、こんなに一発で魅了されてしまった日本人アーティストは、他にいない。

下に紹介するmyspaceで何曲も視聴することが出来るが、ライヴではこの何倍もの迫力があることを言い添えておく。

http://www.web-ina.com/
http://www.myspace.com/ina0408


19:53〜20:43
高木フトシ

前回Gently Weep'sというバンド(ユニット)でヴォーカルを務めていた高木フトシ。元Hate Honeyだそうだが、あいにくHate Honey自体をまったく知らないので、そう聞かされても反応のしようがない。しかしGently Weep'sの奏でるバッドボーイズロックはかなり良かったので、今回もああいうノリだろうと思って、それなりに楽しみにしていた。
その期待は裏切られた。今回は基本的に高木フトシの弾き語りだったのだ。弾き語りと言っても、しんみりしたものではなく、高木がエレアコをかき鳴らしながら、ちょっとハスキーな氷室京介(笑)風の声で歌い上げるもの。かなりロックな弾き語りだ。前回のライヴから、もっと脳天気なアーティストだと思っていたので、意外なほど内省的な歌詞や、音楽に向かう真摯な姿勢には驚かされた。
しかし個人的には少々退屈した。否のような優れたバンドを聞いた後では、コードをかき鳴らすばかりの弾き語りは、音楽として、どうにも単調に感じられたからだ。ヴォーカルは悪くないが、やはりバンド編成のロックの方が似合っている。彼の演奏時間が全アーティスト中 最長の50分間だったことには、正直言って納得がいかない。

http://akuh.seesaa.net/


20:55〜21:35
伊吹留香

ようやく伊吹留香登場。バンドメンバーは、山本哲雄(g)/菊嶋"KIKU"亮一(ds)/塩崎喬浩(b)。山本は、前に四谷天窓でアコースティックライヴをやったときにギターを弾いていた人で、今回もアコギオンリー。菊嶋"KIKU"亮一は、その四谷天窓と前回のMOSAiCからの続投。塩崎は初めて見る顔だ。OVERTONE 701の二人が引き続きこちらでもサポートするのかと思いきや、それは無かった。

セットリストは以下の通り。
1.Warm Up
2.脱獄囚
3.晩冬
4.ヒートアイランド
5.dying message
6.リバーシブル
7.音信
8.ミントドロップ

始まってすぐに感じたのは「伊吹の歌が、とてもうまくなっている」ということだ。さらに正確に言えば、自分の声をうまく使いこなす術をようやく身につけたということ。自分に無理のない声域で、無理のないメロディーを歌う。それでいて、伝えたいことは、きちんと伝わっている…良い意味で安定したヴォーカルだ。これまでに見たライヴの中で、今回が最も歌詞がきちんと聞き取れた。

これはもちろん彼女の歌だけでなく、バンドの功績も大きい。正直に言えば、一人一人の楽器プレイには、以前のバンドほど魅力を感じない。しかしそれらが一体となったサウンドは、これまでのどのバンドよりも、伊吹の歌声をうまく生かしている。
以前のバンドは、室田憲一や渡部大介がいた頃にせよ、河鰭文成や浜田如人がいた頃にせよ、実に素晴らしいロックサウンドを叩き出していた。伊吹のヴォーカルなど無くても、あのバンドの演奏を聞いているだけで至福の時を過ごせたし、伊吹の拙いヴォーカルは、むしろその足を引っ張るお荷物ですらあった。
今回のバンドは、そのようなロックとしてのダイナミズムは希薄だが、音数や音圧をあえて減らすことで、伊吹のヴォーカルが自由に動き回れる空間を作り出している。轟音の壁に貧弱な声量と声域で対抗していた頃とは、まったく別の方法論だ。
再三述べているように、70年代のハードロックや90年代のグランジ/オルタナのエッセンスを凝縮したような以前のバンドサウンドが、個人的には大好きなので、それが聞けなくなったのは寂しい。しかし伊吹留香という表現者の資質を考えたとき、この新たな方向性は大正解だ。
ボ・ディドリーは、かつてBO GUMBOSと共演したとき「あまりでかい音を出しちゃいかんよ。むしろ小さい音を出すんだ。小さい音を出せば、客は音を聞き取ろうと真剣に耳を傾けてくれる。それによって伝わるべきものが伝わるんだ」と言ったそうだ。伊吹は、その言葉が持つ意味を、何らかの形で会得したのだろう。

ただしこれはまだ「出発点の完成型」に過ぎない。

最初に言ったことと矛盾するようだが、今の彼女に一番必要なのは、ヴォーカルの表現力をもっと高めることだと思う。確かに、以前に比べるとだいぶ歌がうまくなった。しかしこの音楽スタイルでは、ヴォーカルの繊細な表現力が今まで以上に必要となる。轟音ロックをやっていた時は、それ以前の段階で、あの強力な楽器隊に埋もれないパワーと声量が求められていた。しかし今のようなスタイルでは、一つ一つの言葉、一つ一つの音に対する感情表現が、何よりも大切になってくる。ずっと続けているというフリースクールでの弾き語りは、そのための良いトレーニングにもなることだろう。ギター1本と歌声だけで、どこまで人を惹きつけ、どこまで自分の伝えたいことを伝えることが出来るか…その成果を、また次のライヴで見せて欲しい。
前にもチラリと書いたが、僕が今の伊吹留香に望んでいるのは、『ドリーム・オブ・ライフ』以降のパティ・スミスのような音楽だ。クリアな楽器のトーン。空間を生かしたシンプルな音作り。鋼のように強靱なリズム。シャウトせずとも静かな殺気を放つヴォーカル。もちろん音楽のスタイルをそのまま模倣しろということではなく、あのような「騒々しくはないのに鋭いエッジを持ったロック」の方法論を彼女なりに消化できれば、表現の幅がグンと広がるのではないかと思う。

特に印象に残った曲について書くと、やはり「ヒートアイランド」は文句なしに名曲。バンドとしては初演奏だった前回よりもさらに良くなっている。
それにも増して良かったのは「音信」。これは本当にライヴ映えする。バラード系ではダントツの名曲だ。
最後に演奏された唯一の旧曲「ミントドロップ」にも、「なるほど、こういうアレンジで来たか」と感心させられた。他の曲も、今のスタイルに合った新たなアレンジで聞いてみたい。

http://www.ibuki-ruka.com/index.html


21:50〜22:30
N.E.S.

元fra-foaのギタリスト高橋誠二が在籍するN.E.S.。2005年12月の「fra-foa presents 4×4」という企画ライヴで一度見たことがある。その時も凄いと思ったが、今回はさらにとんでもない事になっている。圧倒的な演奏力に裏打ちされた、唯一無二の強力なグルーヴ。ケチの付けようがない凄さは、ライヴを見てもらえば誰の目にも明らかなことなので、それについてくだくだ述べたところで仕方あるまい。

だが見ている内に、「自分は、何故これほど凄まじいバンドを真剣に追っかけようとしないのか?」という疑問が湧き起こってきた。その答えについて、少し書いてみよう。

簡単に言えば、N.E.S.の魅力は強力なグルーヴが生み出す圧倒的な快楽であり、それがあまりにも凄まじいが故に、他のものがほとんど消し飛んでしまっているのだ。消し飛んでしまったものの中でも、特に重要なのは「精神性」、あるいは「歌心」とでも言うべきものだ。
前回はそうでもなかったはずだか、今回は立ち位置の関係か、歌詞がほとんど聞き取れなかった。ところがこのバンド、歌詞が聞き取れなくても、それに対する不満がまったく感じられないのだ。メロディー楽器としての歌はあった方がベターだが、歌詞はどうでもいい。そこで歌われているのがラヴソングであろうが反戦歌であろうが、このグルーヴの前には付け足し以上の意味を持ちえない。歌詞という文学的な要素、その向こうにある精神性を必要しない音楽なのだ。
そういう点からすると、このバンドの音楽性は、ロックと言うよりも、ある種のトランスミュージックに近いものがあると思う。感情ではなく感覚の刺激を目的とした、極めて機能的なトランスミュージックだ。
だからアンコールのラストナンバーで、ギター/ヴォーカルの津田憲三がギターを置いてヴォーカルだけに専念すると、ギターの音が半分になった分、歌はよく聞こえるようになったが、音楽としてのテンションは明らかにそれまでよりも落ちた。もちろんその曲でさえ凡百のロックバンドには及びもつかないものだっだか、このバンドに必要なのは「歌」ではなく、2本のギター/ベースとドラムスが紡ぎ出すグルーヴなのだということを証明してもいた。

もちろ精神性が感じられないからダメだと言うことではない。「精神性が欠けている」のではなく、そもそも「精神性を必要としない」音楽なのだから、何ら文句を付ける筋合いはないだろう。もはや精神性など必要としないほど、このバンドのグルーヴはとてつもないところに到達しているのだ。音楽性はかなり違うが、日本のバンドで、ここまで圧倒的なグルーヴを持ったバンドはROVOくらいしか知らない。

しかし、そのような機能主義的な音楽を、今の自分が切実に求めているかと言うと、残念ながら首を縦に振ることは出来ない。やはりそれなりの思い入れを持って追っかけるのであれば、それこそ伊吹留香のように、機能的には未熟だが、精神性が強いものの方が優先されることになる。
N.E.S.のライヴをまた見たいとは思いつつ、2年半もの間見ずに過ごしてしまったのは、言葉として明確に整理されていなくても、そのようなことを自覚していたためだろうと思う。

とは言え、このバンドのグルーヴマシーンとしての機能がずば抜けて優れたものである事に変わりはない。あとは、それを観客がどれくらい必要とするかだけだ。
個人的趣味を別とすれば、このバンドはもっともっと人気が出なくてはおかしい。ともかく一度ライヴを体験することをお勧めする。熱狂的なファンになるか、その後何回も繰り返したみたくなるかは別として、少なくともその体験がとてつもないものになる事だけは保証しよう。

http://www5b.biglobe.ne.jp/~nes/


全部終わったときには22時30分。18時30分から、丸々4時間立ち通し。さすがに腰が痛くなった。

それにしても、これだけの顔ぶれが揃ったライヴが、ワンドリンクと合わせて2700円とは、素晴らしいコストパフォーマンスだ。前にも書いたが、最近のインディーズミュージシャンの質の高さ、特に演奏力の底上げぶりには目を見張るものがある。これは本当に音楽シーン全体の傾向なのだろうか。それともMOSAiCに登場するミュージシャンがとりわけ優れているのだろうか。


(2008年5月)

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