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05/06/2008

【映画】『相棒』は2008年の日本を撃つ!

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『相棒』のテレビ版は、夕食時に放送していると、たまに見ることがある。きちんと最初から最後まで見たことはほとんど無いのだが、部分的に見ても、非常に出来が良く面白い番組であることがよくわかった。
だからこの劇場版には元々期待していたし、ひょっとすると『踊る大捜査線』なみの大ヒットになるのではないかと予想していた。テレビ版を見ていない人間が「また人気ドラマのテレビ化か」と冷たい目で見ているのも気にならなかった。むしろそんな連中が、この映画を見て唖然とする光景を楽しみにしていたほどだ。そんなわけで5月1日の初日、レイトショーで早速見てきた。


結果的に言えば、唖然としたのは僕の方だった。


何に唖然としたかを語る前に、この作品の致命的な欠点について触れておこう。
それはこの作品が本格ミステリーの構造を借用していながら、ミステリーとしての展開に無理があり過ぎることだ。犯人は何故チェスの手を使った劇場型犯罪を狙ったのか? 右京があの複雑な仕掛けを見抜いてくれなかったら、一体どうするつもりだったのか? その後のマラソン大会を舞台とした数々の仕掛けにもどれほどの意味があったのか? 犯人の真の目的を考えれば、何故そんな面倒なことをする必要があるのか?と突っ込みたくなる事だらけだ。その他ネタバレになるので書けないが、あらゆる設定に無理がある。それでいてストーリーは本格ミステリーのスタイルを踏襲しているのだから始末が悪い。「何故犯人は、そのような行動を取ったのか」という論理的な謎解きを期待したら、とんでもない失望を味わうことになるだろう。その見地からすれば、駄作と呼んでも差し支えない出来だ。


ところが、この作品は「そんな設定の不備など些細な問題」とでも言わんばかりの勢いで、驚くほど真摯な社会的メッセージを投げかけてくる。『相棒』という枠を利用して、これだけ鋭いテーマを打ちだしてきた志の高さに唖然とさせられたのだ。
ここに至って、実は僕自身が「しょせん人気テレビドラマの劇場版だから、かなり出来の良い娯楽映画以上のものにはならないだろう」と高をくくっていたことに気づかされる。この映画の製作者たちは、そんな観客の思いを見透かすかのように、誰も予想しない方向で、この映画を近年希に見る傑作に仕上げてしまったのだ。

この作品で描かれる社会的メッセージとは一体何なのか? それは核心に触れるネタバレなので、書くことが出来ない。ぜひ予備知識無しで画面に向き合って欲しい。この作品を「人気テレビドラマの映画化」程度に思っている人であればあるほど、「まさか、こんな作品だったとは…」と衝撃を受けることだろう。そこで突きつけられるのは「我々日本人全て、その無責任な姿勢こそが真犯人なのだ」と言う叫びであり、しかもそれが理屈ではなく情念に溢れたドラマとして昇華されている事に圧倒される。


実は見始めてしばらくは、別の意味で唖然としていた。それは極端に色みを抑えた画調に対してだ。最近の作品で言うと、若松孝二の『実録・連合赤軍』によく似た、ほとんどモノクロに近いような画調。寒色系でまとめたと言えば聞こえはいいが、その無愛想さは相当なもので、テレビ朝日が社運を賭けて宣伝し、大ヒットを期待している作品とは到底思えぬほどの暴挙。すでに述べたように、この作品のヒットポテンシャルは『踊る大捜査線』に匹敵するものだと見ていたが、始まって15分ほどで、その可能性は無いと悟った。ここまで観客の思い入れを拒否する冷たい画調を持った作品が、国民的なヒット作になる事などありえないと思ったからだ。そしてこの極端な画調に対する不満は、中盤以降もずっと続いた。
しかし本作のクライマックス、ある二人の人物が対峙するシーンまで来た時、「この映画は、確かにこの画調でなくてはならなかったのだ」ということが嫌と言うほど理解できた。暴挙とすら思えた画調は、監督 和泉聖治の作家精神が生み出した必然だったのだ。こちらの安直な予想を次々と裏切り、映画をさらなる高みに引き上げていく姿勢に、ただただ頭を垂れる他なかった。
その後、テレビで流されているCMを見ると、もっと普通の画調に修正されている(と言うか、こちらが本来の画調だろう)。テレビ朝日としては、間違いなくそのような一般受けする画調を望んでいたはずだ。そのプレッシャーに抗して、作品としてのポリシーを貫いた和泉聖治を初めとするスタッフに称賛を贈りたい。
そう言えば、この作品のタイトルも、ポスターなどでは『相棒−劇場版− 絶体絶命! 42.195km 東京ビッグシティマラソン』と、2時間ドラマを思わせる長くて扇情的なものになっているが、映画本編にはただ一言『相棒』としか出てこない。この辺りにも、「マーケティングの要望は極力聞き入れるが、作品として絶対に譲れない点だけは死守する」という気骨が感じられる。

この作品の立ち位置は、70年代から80年代にかけて作られた、作家性の高いロマンポルノやピンク映画に非常によく似ていると思う。それらのジャンル映画は、一定の時間だけセックスシーンが入っていれば、後は監督や脚本家の自由がかなり利くため、若い映画作家たちが、エロ映画の枠を超えた意欲的な作品をしばしば生み出してきた。当時の観客からは「エロ映画なのに、小難しいばかりでちっともエロくない」と不評を買った作品も少なからずあったことだろう。しかしその内の幾つかは、普遍的なテーマと斬新な表現スタイルを持った傑作として、今でも価値を失っていない。
それと同じように、今回 監督の和泉聖治や脚本の戸田山雅司がやったことは、『相棒』という枠を利用して、思いも掛けない社会派人間ドラマを作り上げてしまうことだった。テレビ版も元々そういう要素は強かったようだが、それでもここまで重く鋭い作品は無かったのではないか。彼らは、テレビの『相棒』ファンに対するサーヴィスは一通りこなしつつ、それを踏み台として、『相棒』の枠を超えた映画を作り上げてしまったのだ。

考えてみると和泉聖治自身ピンク映画の出身であり、1970年代はずっとそちら方面の映画だけを撮ってきた人だ。あいにく彼のピンク映画時代の作品は一本も見たことがないが、ジャンルを生かしつつ、そこに作家としてのメッセージを盛り込むしたたかさは以前から身につけていたのだろう。
そのようなピンク映画出身の映画作家として有名な人物に若松孝二がいる。だが彼の作家的集大成として作られ、現在も公開中の『実録・連合赤軍』は、ルポルタージュを読めば分かることをダラダラと映像で再現しているだけで、映画としてはあまり感心できるものではなかった。一方の和泉聖治は、一見『実録・連合赤軍』とは対極にありそうな娯楽作品で、現代日本の病巣を鋭く描くことに成功した。やはりある種の作家は、何らかの枷や枠組みがある方が、その特質を生かせるものなのだろうか。そういった点も非常に興味深かった。
ともあれ、2008年の日本に鋭い刃を突き立てているのは、見るからに社会的メッセージに満ちた問題作『実録・連合赤軍』ではなく、「人気テレビドラマの映画化」として桁違いのヒットが予想される『相棒』の方なのだ。この勝負は、和泉聖治の圧勝と言っていいだろう。いや、別に誰も勝負などしてはいないと思うが。


しかし、この作品の重く鋭いメッセージは、普段は映画などあまり見ない、テレビ版のファンにも伝わったのだろうか?

僕が見た5月1日、500席ほどのスクリーンに観客は200〜250人。レイトショーなので終映は23時半になる。連休の中日とは言え一応平日。翌日仕事の人も少なからずいただろう。この状況なら、どんな映画であれ、エンドクレジットが始まった途端バタバタと帰る人が続出するのが普通だ。僕は仕事帰りにレイトショーを見る事が多いが、クレジットを最後まで見ていると、灯りが付いたとき観客は僕一人という場合も珍しくない。
ところがこの映画、200人以上の観客がいながら、エンドクレジットで席を立ったのはたった1人しかいなかった。その1人の女性も、かなり急いでいた感じだったから、トイレを我慢していたか、電車の時間が迫っていたかの可能性が高い。23時半という時刻にもかかわらず、99%以上の人がじっと押し黙ったまま、最後の最後までスクリーンを凝視し続けたのだ。信じがたいことに、携帯をいじっている人さえ見かけなかった。

その光景を見たとき「伝わった」と思った。

しかも、他の人の文章を読むと、これと同じような現象が、まったく別の時間、別の劇場でも起きていたそうだ。

あらためて、この作品の製作者たちの戦略に拍手を送りたいと思った。


最後にもう一度断言する。

羊の皮をかぶった狼のような映画『相棒』は、2008年の日本映画を代表する一作だ。

純粋な作品としての出来について言えば、完璧にはほど遠い。

しかしこれは間違いなく「今、日本人が見るべき映画」なのだ。


(2008年5月)

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