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05/15/2008

【演劇】世田谷パブリックシアター制作リーディング公演『星の王子さま』2008.5.10

世田谷パブリックシアター制作
日本語を読む〜リーディング形式による上演〜
『星の王子さま』
2008年5月10日 14:00〜 シアタートラム


今年に入ってから、まるで流行のように、あちこちでリーディング公演が行われている気がする。元々頻繁に開催されていて、最近自分が興味を持ったせいで目に付くようになったのか、それとも何らかの理由で今年は特に多く開催されているのか、よくわからない。しかしこの世田谷パブリックシアターのリーディング公演は初めての試みのはずだから、後者の可能性が高そうだ。

ちなみに僕が今年に入ってから見たリーディング公演は以下の2本。

TIFリージョナルシアターシリーズ
『静物たちの遊泳』
2月29日(金) 東京芸術劇場小ホール

国際ドラマリーディングフェスティバル
『リトル・ボーイ、ビッグ・タイフーン 少年口伝隊一九四五』
3月8日(土) 川崎市アートセンター

他に、リーディング/朗読劇と普通の演劇の中間にあたる不思議な劇が、詳しいレビューを書いた『犬婿入り』。reset-Nの『繭』も、かなりリーディングに近い内容だった。

そして今月は、この「日本語を読む」シリーズだ。とりあえずチケットを買ってあるのは2本。出来ればもう1〜2本見たいところだが、各作品とも2回ずつしか上演しないため、興味はあっても見られないものがあり、結局その2本だけで終わりそうだ。しかしこれだけ豪華な役者と演出家のコラボレーションがたった1500円(世田パブ会員価格)で見られるのは、なかなか美味しい話だ。また来年も第2弾を企画して欲しい。


前置きが長くなった。今回見たのはAプロの『星の王子さま』。と言ってもサン=テグジュペリの童話そのものではなく、それに対する一種の批評として寺山修司が書き上げた戯曲だ。演出は文学座の俳優 今井朋彦。出演は以下の通り。

オーマイパパほか ともさと衣
点子ほか     上田桃子
ウワバミほか   内田淳子
ヒツジほか    久世星佳
点灯夫の星ほか  千葉哲也

内容は、サン=テグジュペリの『星の王子さま』をベースに、童話の世界を残酷な現実によって解体していくようなもの。「これは、かつて『星の王子さま』を愛読した自分自身に対する復讐のようなものである」といった前口上もある。登場するキャラは、皆一般社会の規格からはみ出した人たちばかりで、いかにも寺山らしい。

戯曲として特に興味深いのは、童話世界の解体を超えて演劇という枠組みまで解体してしまう終盤だ。いきなり場内の蛍光灯が付き、非日常性を奪われた舞台上で、それまでの物語を芝居として相対化するやり取りが続く。そして最後には、回りのセットが全て片付けられ、点子役の女優一人だけがいつまでも空を見上げているというト書きで終わる。リーディングだし、元々セットらしいセットもないので、あくまでもト書きとして語られるだけだが、それが逆に想像力を刺激する。そのような形での劇の解体は今となってはデジャヴ感のある仕掛けなのだが、それをリーディング形式で演じることで「劇の解体という仕掛けを、さらに解体する」ひねった面白さが感じられた。
ただ、そこに登場する役者や場所の名前が元の戯曲のままである点には違和感を感じた。何故それを、今ここで演じている役者の名前、2008年の三軒茶屋シアタートラムに置き換えないのか? そんな形で元の戯曲を尊重しても意味がないと思うのだが。

全体的にはまずまず面白かったが、サン=テグジュペリの『星の王子さま』や当時の風俗と密接にからむ台詞で、すぐにピンと来ない部分があるのは やむをえないところか。これほど原作(?)とリンクしているのであれば、芝居を見る前に読み返してくるべきだった。


この作品を見た大きな理由は、ともさと衣と千葉哲也が出ていたからだ。役者は全員魅力的な声をしていたし、それぞれに表現力豊かだったが、問題を感じた部分もあった。一人ずつ述べていこう。

一番良かったのは内田淳子。声の表現力が抜群で、この人なら一人語りでも十分に人を惹きつけられるだろうと感心しながら見ていた。今回初めて見る人だと思ったが、出演作を調べてみたら、2004年にこまばアゴラで三浦基 演出の『じゃぐちをひねればみずをでる』という作品を見ていた。なるほどね。今後要チェックだ。

文学座の上田桃子も面白い。上手いのかどうなのかよくわからないのだが、声も容姿も演技も個性的で、とにかく面白い。内田淳子と二人芝居になるところがあるが、スタイルの違う二人の演技が、噛み合っていないようでいてしっかり噛み合っているところが興味深かった。

久世星佳は、多分最も出番が少ないのだが、幾つもの役を一人で演じ分けるシーンが中盤にあり、そこが大きな見せ場になっている。歌舞伎さながらに見得を切るような威勢のいい台詞も多いのに、直立したまま台本を持って話しているというギャップも面白かった。

ともさと衣は、スラリとした立ち姿が実に美しく、凛とした声もそれに負けないほど美しい。『野ゆき山ゆき海辺ゆき』の頃の鷲尾いさ子を思わせる魅力の持ち主だ。
ただ彼女の問題は、内面からにじみ出る知性やシャープさが、しばしば役柄の妨げになること。もちろんそのような個性が生かされる役もあるはずだが、どういうわけか僕が見た作品では、それが邪魔になる例が多い。今回も神経質さや緊張感が強く感じられる部分があり、もう少し肩の力を抜いて ふんわりとした柔らかさを身につけることが出来れば、一皮も二皮もむける人なのになあ…と思わずにはいられなかった。
先月見た『犬婿入り』の彼女が素晴らしかったのは、これまで見た中で最も硬さが無く、芝居を楽しんでいる雰囲気が感じられたからであることが、今回の公演を見てわかった。今回は今回で十分に好演なのだが、『犬婿入り』であれほどの魅力を見せてくれただけに、「その次」を期待してしまうのは仕方あるまい。もう1本、『棒になった男』も見に行くのだが、そちらではどんな演技を見せてくれることだろう。

そして一番の問題児が千葉哲也だ。
僕はこの人がかなり好きだ。強烈な表現力があるし、聞き惚れてしまうような声をしているし、何とも言えない男の色気がある。舞台に出てくるだけで人を惹きつける、いかにも役者らしい魅力を持った人だ。
しかし先月、新国立劇場で『焼肉ドラゴン』を見たとき、どうも彼の演技に違和感を覚えた。やがてその違和感の理由に気づいたのだが、今回のリーディング公演で、それが間違いでなかったことがわかった。
この人、相手役の台詞をほとんど聞いていないのだ。
いや、もちろん聞いてはいるのだろうが、それはあくまでも自分の台詞を言うきっかけとして聞いているだけで、相手役の感情表現を微細な部分まで受け止めた上で、自分の演技をしているようには見えない。相手役の演技がどうであれ、自分は自分の解釈に従った演技をする、という感じだ。その演技自体は単独で見れば非常に魅力的なため、一見すると とてもうまい役者に見える。また、THE ガジラのような芝居なら、そういう演技スタイルもあまり問題にならない。しかし『焼肉ドラゴン』のように、他の役者たちが、演技というよりも物語の世界を生きているような芝居では、その我が道を行くな演技が、周りと微妙な摩擦を起こすことになる。
その点に特に注目していたせいもあるだろうが、今回も同じような摩擦が感じられた。一人語りの時は何も問題ないのだが、誰かとの掛け合いになると、台詞の受け渡し部分で、妙にテンションが変わったり方向性が食い違ったりするのだ。
いろいろな意味で魅力的な役者だけに、簡単に切り捨てることは出来ないが、やはりこの人の演技には、ある程度の限界があることがわかってきた。


上演時間は約1時間。東京乾電池の月末劇場もそうだが、チケット代が1500〜2000円で、上演時間1時間というような気軽な作品が増えると、個人的にはたいへんありがたい。


(2008年5月)

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