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03/10/2008

【演劇】THE ガジラ『新・雨月物語』2008.1.26&2.3

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THE ガジラ『新・雨月物語』
2008年1月26日(土) 14:00〜 世田谷パブリックシアター
2008年2月3日(日) 14:00〜 世田谷パブリックシアター


途中まで書いて中断していたら、いつの間にか1か月以上たってしまった。最近、時間が矢のように早く過ぎていく。ごく簡単に書き上げてしまおう。


鐘下辰男が上田秋成の『雨月物語』を基に作り上げた作品。1999年に新国立劇場で上演された作品(演出は鵜山仁)の再演だが、今回はTHE ガジラ名義で、演出も鐘下が手がけている。ほとんど新作と言って良いほど内容も演出も変わっているそうだ。
上田秋成の原作は読んでいないので、個人的には、『雨月物語』と言うと溝口健二監督の映画版になる。そちらとの比較で言うと、同じモチーフはあちこちに見られるものの、具体的なストーリーも設定もだいぶ違う。あくまでも『雨月物語』をベースにした鐘下辰男のオリジナル作品とみなしていいだろう。

一番興味深いのは、全編に能の様式が用いられていること。まるで言動一致スタイルで演じられたク・ナウカのようだ。その手の作品は大好きなので、僕は大いに楽しめたが、スローテンポなシーンが多いので、退屈する人もかなりいたのではなかろうか。

すでに述べたように『雨月物語』をベースにしているが、どこからが幻想で、どこからが現実なのか、どこからがこちら側の世界で、どこからがあちら側の世界なのかわからない、複雑な多重構造は、この芝居の最大のオリジナリティだろう。とりわけ後半は、ようやく現実に戻ってきたと思ったら、またそれが幻想で…の繰り返し。ラストも、源十郎(山本亨)が足を引きずりながら舞台の袖に消えていって、そのまま終わり。カーテンコールすら無いため、見る者の心は闇の世界に囚われたままのようになってしまう。

いかにもTHE ガジラの作品らしく、好き嫌いが激しく分かれそうだが、この手の怪奇譚も、能の様式を用いたスタイルも大好きなので、個人的には非常に気に入った。

ただし幾つか問題点もある。最大の問題は、事前の予想通り、これは世田谷パブリックシアターでやるべき芝居ではなかったということ。あの広い空間が、案の定スカスカになっている。スズナリとは言わぬまでも、せめてシアタートラムでやっていたら、さらに濃密な異空間が出現していただろうに。
そんな舞台の広さに加え、ほとんどセットがなく、後ろには音を吸収する暗幕が一面に張られているため、役者が後ろを向いて話すと台詞がほとんど聞こえないことがしばしばあった。役者が一番奥に行ってしまうと、正面を向いて話していても聞こえにくい。これは演出上のミスだろう。台詞がきちんと客席に届くような空間設計をして欲しかった。

セットは極めてシンプルで、様々な用途に用いられる穴と、途中で出てくる四本の柱以外、素舞台に等しい。これも能のスタイルに準じたものだろう。1回目は中央ブロックのほぼど真ん中、2回目は下手ブロックで見たのだが、意外にも下手ブロックで見た方が、舞台が立体的に見えて面白かった。そう言えば僕は能を見るときも中正面派だからな…って、それは料金が一番安いからだけど。

最初に見たときももちろん面白かったのだが、2回見ると、多層構造になった物語があちこちでつながっているのが見えてきて、さらに面白い。と言うよりも、この作品の構造を1回見ただけできちんと理解するのは、まず不可能だろう。多分何度見ても、いろいろなところで新しい発見がある芝居だと思う。ちなみに冒頭のシーンが本編の数十年後であることは、2回目で理解できた。


役者では、毎度毎度同じことばかり書いていて恐縮だが、やはり石村みかが素晴らしい。後半はほとんど出番がないのが残念だが、前半の彼女は、他の誰よりも強い存在感を放っていた。侍姿が意外なほど似合っているのにも驚かされたが、前半のラストで見せる、天を仰ぐような表情は絶品そのもの。『城』『遙〈ニライ〉』以来、久々に彼女のスケールの大きな演技を見ることが出来た、幸福な瞬間だった。

他に印象に残ったのは、脇役ながら、実に美しい声で耳を楽しませてくれた森山栄治。初めて知った役者だが、要チェックだ。

主役である山本亨と北村有起哉の兄弟はまずまず。月影瞳は、永井愛の『やわらかい服を着て』にも出ていたようだが、ほとんど記憶にない。今回もクライマックスでそれなりの芝居を見せてくれるが、全体的にインパクト不足の感は否めない。宝塚出身のわりには、今ひとつ華に欠けるのが残念だ。

そして石村みかと並んで、この作品で楽しみにしていたのが若松武史だが、こちらも今ひとつ。彼ならではの爬虫類的な不気味さは出ていたが、この手の様式的な演技では、彼の自由奔放な魅力が十分に引き出せないようだ。遊園地再生事業団の芝居の方が、作品的には落ちるものの、若松の魅力を堪能できるという意味では上だった。

役者の演技で何かを表現すると言うよりは、演出の様式や物語の構造で魅了する、映画で言えばタルコフスキーやアンゲロプロスのような作品だが、役者たちにもっと自由度の高い演技をさせたら、また別な魅力が出たようにも思う。


そんなわけで不満は幾つもあるのだが、個人的な好みには非常に合った作品だった。他人にはあまり勧めないが、自分では何度でも見たい芝居といったところか。シアタートラムや吉祥寺シアターなど、もう少し小さな劇場で再演して欲しいものだ。


(2008年3月)

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