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03/31/2008

【ダンス】ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団『パレルモ、パレルモ』2008.3.21

Pina0800


ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団『パレルモ、パレルモ』
2008年3月21日(金) 19:00〜 テアトロ ジーリオ ショウワ


公演の前々日に風邪をひいてしまった。そして前日の夜、Co.山田うんの公演を見ている間は良かったのだが、家に戻って来る間に症状が悪化し、帰ってから熱を測ると38℃。すぐに寝たのだが、夜中には38.6℃を記録。朝には少し下がったが、それでも38℃。短い作品ならともかく、この『パレルモ、パレルモ』は休憩込みで3時間もの長丁場だ。一時は見に行くことを完全に諦めた。
ところが昼頃になったら、突然36℃台の平熱を回復。咳や喉の痛みは残っているし、頭痛も少し残っているが、寒気や悪寒は無くなった。医者に行って薬ももらった。何よりも熱が引いたのが決定的で、無理をおして見に行くことにした。

見に行けて本当に良かった。

この不自然な熱の下がり方に運命的なものを感じてしまうほど、この『パレルモ、パレルモ』と出会えたことは、僕にとって大きな喜びだった。


ピナ・バウシュの舞台を見るのは、一昨年の『カフェ・ミュラー』『春の祭典』に続いて2度目。前回も素晴らしいと思ったが、今回の感動はそれを上回っていたかもしれない。少なくとも「驚き」という点では、間違いなくこちらの方が上だ。
もっともその驚きは、先に『カフェ・ミュラー』『春の祭典』を見ていたが故だろう。「孤高」という言葉がふさわしい前2作に対し、こちらは何とも愉快で笑える作品になっていたからだ。ピナ・バウシュとは、こんな楽しい作品も作る人だったのか。

オーブニングは、噂どおり、積み上げられていた壁がいきなり崩れ落ちる衝撃的なもの。壁を構成するブロックは、軽いコンクリート製のように見えたが、それでもかなりの重量があり、崩れ落ちたときの衝撃は予想以上だった。
その後スタッフが崩れたブロックをきちんと並べて、何とか歩けるようにセットを整えていく。世界の崩壊をイメージさせるオープニング。地震か戦争後の廃墟のごときセット。しかしそこで次々と繰り広げられる数十に及ぶ寸劇は、驚くほどユーモアに満ちたものばかりだった。「寸劇」という言葉には、多くの場合喜劇的なニュアンスが含まれるが、この作品を構成しているのはまさに寸劇そのもの。だが悪い意味での軽薄さはなく、豊かなイマジネーションと芸術性に富んでいる。

最初の内は「これはまるで動くヒプノシスの画集だな」と思った。ヒプノシスとはイギリスのデザイングループで、ピンク・フロイドやレッド・ツェッペリンのアルバムジャケットでよく知られている。廃墟を舞台に展開される、いささかアヴァンギャルドな寸劇の数々は、フロイドやツェッペリンのアートワークに、そのまま使われても不思議がないようなものばかりだ。そもそも壁が崩れ落ちるオープニングからして、ピンク・フロイドの「ザ・ウォール・ツアー」を嫌でも想起させる。この作品の初演は1989年だから、ピナがピンク・フロイドのアートワークやザ・ウォール・ツアーから何らかのインスピレーションを得ていた可能性は十分にある。しかし寸劇が進むに従って、そのイマジネーションはどんどん巨大化し、ユーモアはさらに膨らみを増し、「動くヒプノシスの画集」という枠では語りきれないものになっていく。
それぞれの寸劇は、基本的には独立しているのだが、同じモチーフやテーマが別の寸劇で再び描かれたり、あるキャラクターが別の寸劇に出てきたり、第一部の寸劇の続編が第二部で描かれたりしている。同じモチーフやキャラクターが繰り返し登場し、少しずつ別の展開を見せることで、作品全体が、壁画に彩られたモニュメントのような立体性を持つことになる。

本作は『カフェ・ミュラー』『春の祭典』のような純然たるダンスではなく、台詞もあるし演劇的な要素が非常に大きい。しかし出演者の動きや感情表現は、リアリズム演劇のそれではなく、ダンス的な様式美に則ったもの。前作だけではピンと来なかった「タンツテアター」という言葉の意味が、この作品によってようやく実感できた。もちろんダンスらしいダンスも随所にあり、洗練されすぎることを拒否したような群舞は、『春の祭典』に通じる野性味と躍動感に溢れている。

面白いのは、台詞の6〜7割が日本語だったこと。時にはたどたどしい台詞回しもあったが、意味が理解できない部分はほぼ皆無。出演者が、わざわざあれだけの日本語を覚えたのには頭が下がる。しかし外国人がたどたどしい日本語を使う際の胡散臭さもそれなりにあって、その胡散臭さと芸術的な芳香のミスマッチが妙な味わいを醸し出していて癖になる。

出演者の中で最も印象的だったのは、名前がわからないのだが、第一部の終盤で、『地獄に堕ちた勇者ども』のヘルムート・バーガーのごとき女装を見せてくれた男性。あの独特のオーラには、つい目を惹きつけられてしまう。女性では、これまた名前がわからないのだが、『春の祭典』で生け贄に選ばれていた小柄な黒人の女性。大柄でがっしりとした白人女性が多いせいか、彼女の可憐な佇まいがよけい目立つことになる。


『カフェ・ミュラー』『春の祭典』が『ハムレット』や『リア王』だとしたら、この『パレルモ、パレルモ』はさながら『夏の夜の夢』か『十二夜』だ。悲劇と喜劇、これだけ極端に違う作風でありながら、同じ芸術家の作品として確かに相通じるものがある。ピナ・バウシュの豊饒な表現に心を奪われっぱなしの、至福の3時間だった。


残念なのは、今回続けて上演された新作『フルムーン』を見られなかったこと。チケット代の高さに二の足を踏んで『パレルモ、パレルモ』だけにしたのだが、やはり無理をしてでも見るべきだった。次の来日からは全プログラムを見るしかあるまい。


(2008年3月)

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