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12/30/2007

【演劇】劇団東京乾電池『ジョンとジョー』2007.12.26

12getsumatsu1Emoto


劇団東京乾電池『ジョンとジョー』
2007年12月26日(水)20:00〜 新宿ゴールデン街劇場


またもや東京乾電池の月末劇場。ただでさえマイナーな演劇界。その中でもとりわけマイナーな企画について何度もレビューを書いているのは、前回も書いたとおり、そこで取り上げられる戯曲が興味深いものばかりだからだ。

今回は特にそうだ。何しろ作者はアゴタ・クリストフ。あの『悪童日記』三部作のアゴタ・クリストフである。てっきり短編小説の舞台化かと思いきや、彼女は小説だけでなく少なからぬ数の戯曲も書いていることがわかった。と言うより、『悪童日記』で小説家としてデビューする以前から戯曲を書いていたらしい。つまり彼女は元々小説家ではなく、劇作家だったのだ。『ジョンとジョー』も、『悪童日記』以前に書かれた戯曲の一つだ。

今月の芝居を見たかった理由は、もう一つある。これまで月末劇場に登場する役者はほとんど新人、せいぜい中堅クラスといったころだったが、今回は劇団の親分 柄本明が出るという情報を事前につかんでいたのだ。「情報をつかんでいたとは何を大袈裟な」と思うかもしれないが、何しろこの月末劇場、前からブツブツ文句を言っているとおり、出演者がチラシやHPでまったく公表されないのである。前に一度メールで問い合わせたら、軽く無視されたことさえある(笑)。そのため個人的なツテで情報を聞いたり、関係者のブログなどを見たりしないかぎり、誰が出演するのか事前にはわからない。もし何も知らずに見に来た人がいたら、柄本の出演にかなり驚いたのではなかろうか。
もっとも、そんな人が実際にいたかどうかは怪しい。月末劇場は、いつも内輪の客がほとんどを占めているからだ。この日はかつてないほどの超満員で、東京乾電池や、その周辺の役者の顔があちこちに見られた。親分があんな小さな劇場に出演することは珍しいので、みんなそれを聞きつけて忘年会がてら駆けつけたのだろう。

何にせよ「アゴタ・クリストフの戯曲」+「柄本明 主演」+「入場料2000円」+「定員50人にも満たない小劇場公演」と揃えば、かなり美味しい企画であることは間違いない。暮れで仕事も忙しかったが、何とか駆けつけて、見ることが出来た。


出演は、ジョンが西田清史、ジョーが柄本明。他にボーイ役で今年入ったばかりの新人 池口十兵衛が出るが、ほぼ二人芝居と言っていい内容だ。

明確なストーリーはあるが、それを書いたところで、この作品の奇妙な面白さは伝わるまい。
ジョンとジョーが、カフェで意味が有るのか無いのかわからぬ会話を続ける前半は、別役実の不条理劇を彷彿とさせる。変わった出来事が起きるわけではないのだが、二人の堂々巡りの会話が、どこか別役テイストなのだ。特にジョー自身も知らない男や、その奥さんに関する会話は、かなり不条理で笑える。
中盤、ある事件が起きて二人の状況が大きく変化していくのだが、その後の展開は、こちらの予想を斜め20度くらいの微妙な角度で裏切っていく。全体の構成は絵に描いたような起承転結になっているが、そのようなカッチリとした構成と不条理な内容のギャップが、実に奇妙な面白さを醸し出している。「転」と「結」の部分は、どこか落語を思わせるものがあり、全体的には「不条理落語」という勝手な造語で形容したくなる作品だ。
また『悪童日記』三部作を読んでいる人なら、このジョンとジョーという二人の男に、『悪童日記』の主人公である双子の面影を見いだすことだろう。とりわけラストは、あの三部作を読んでいない人には、単なる笑劇のオチに見えるかもしれないが、読んでいる者としては、三部作の衝撃のオチに一脈通じるイメージに慄然とさせられる。どうやらこの戯曲が『悪童日記』のプロトタイプの一つであることは間違いなさそうだ。


柄本明は、相変わらずマイペースなよれよれぶり。まともに台詞を言えていないところも多数あった。「このオヤジ、味はあるけど、やっぱりヘタだよな…」などと思っていると、所々でドキッとするような表現を見せるから、まったくもって油断ならない。特に凄かったは、後半のサンドイッチの食べ方だ。舞台の上で食事をする演技は非常に難しいもので、他の部分ではうまい役者でも、食事のシーンになると、自分が台詞を言う時に食べ物が口に入っていないようタイミングを計っている様子が見えてしまうケースが珍しくない。ところがこの時の柄本には、そんな計算がまるで見えなかった。「“むさぼり食う”とは、こういうなのことか」と言うような勢いで、ただ目の前のものをガツガツ食べることだけに集中し、ある種の狂気すら感じさせた。このシーンだけで「柄本明の演技を見る」という目的は達せられたようなものだ。

だがそれにもまして良かったのが、相手役の西田清史だ。柄本明の予測不能な演技を適切に受け止めた上で、何気に彼の方が芝居の流れを先導している。キャラクターから言えば、明らかにジョーの方が美味しい役であり、西田が柄本の引き立て役になってしまう危険性が高かったはずだが、決してそんなことにはなっていない。西田はこの春の『授業』Nヴーァジョン(ともさと衣/鈴木千秋 共演)で教授役をやっていたが、そちらは今ひとつの出来だった。その後に見た綾田俊樹のIヴーァジョンが素晴らしかったこともあり、よけい評価が低くなったのだが、今回はその汚名を返上して余りある出来。一挙に見直した。

ボーイ役の池口十兵衛は、大先輩に挟まれて、思いきり緊張しているのがありありとわかるのがご愛敬。これをきっかけに大きく飛躍してくれることを期待しよう。


多分21世紀に入ってからアゴタ・クリストフの作品は読んでいないのだが、あらためて『悪童日記』三部作を読み返したくなった。『ジョンとジョー』を含む戯曲集『怪物』は早川書房から出ているので、早川演劇文庫の一つとして再刊されることを期待しよう。


1月の月末劇場は、またもや竹内銃一郎の戯曲で『食卓丸秘法・溶ける魚』。2月は別役実の『受付』。3月は岸田國士の短編集。やはりこの企画、取り上げる戯曲がいちいち興味深い。何とかして全部見たいものだ。そう言えば来月見に行くと、2枚目の手ぬぐいをもらえるな。


(2007年12月)

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