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11/11/2007

【映画】東京国際映画祭で見た4本 短評

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今年の東京国際映画祭は、最初の土日に4本だけ見た。パソコンのハードディスクが壊れるなどのトラブルもあり、ずいぶん時間が経ってしまったが、ごく簡単な評だけ書き留めておく。


『実録・連合赤軍 浅間山荘への道程』
10月20日(土) 10:50〜 TOHOシネマズ六本木5番スクリーン

非常に大きな期待を抱いていた作品で、これを見たいが故に去年パスした東京国際映画祭に赴くことにしたのだが、結果的には期待し過ぎだった。

上演時間3時間10分。若松孝二渾身の力作であることは間違いない。ただ「実録」と銘打つだけあって、ドキュメンタリー的な作風に徹しているため、登場人物の内面に深く食らい込んでいかない点がもどかしい。特に作品の核となる一連のリンチ殺人など「そこで何が起きたか」は何冊も出ているルポルタージュを読めばわかるし、映画なら『光の雨』ですでに描かれた出来事だ。僕がこの映画に期待したものは、「そこで何が起きたか」ではなく、「何故そんなことが起きたのか」を、もっとリアルに理解できる描写だった。しかしこれでは心理描写において、『光の雨』よりも後退してしまっている。
もちろんそんなものを期待するのは、こちらの勝手に過ぎない。だがリンチ殺人を描いた唯一の先行作品として『光の雨』が存在する以上、誰もがそれを超えるものを期待するだろうし、製作者側も口ではどう言おうが視野に入っていないはずはない。それに対する答がこれというのは、いささか期待はずれだ。

ただし扱っている内容は同じでも、演出や演技のスタイルは『光の雨』と似ても似つかないもので、直接的に比較するのはあまり賢明な態度とは言えない。もちろんこの作品にしかない魅力もたくさんある。その最たるものは、あさま山荘での銃撃戦をしっかりと描いた点だ。資金の関係もあってか、警察側を一切描かないという大胆な手法だが、これが追い詰められた兵士たちの心情とうまくマッチして、予想以上の効果を上げている。ただ、全体の流れで見ていくと、あさま山荘での銃撃戦は、もはやただのエピローグに過ぎず、その前段階のリンチ殺人で、革命の理想はただの悪夢に変わっていたのだと言うことがよくわかる。それを思えば、銃撃戦を「すでにわかりきったこと」とばかりに切り捨てた『光の雨』の作劇術も、十分に納得いくものだ。

また、この作品の評価が低くなったのは、TOHOシネマズ六本木の大きなスクリーンでの上映で、座席がかなり前の方だったせいもある。製作費の関係か、または当時の記録フィルムとの整合性を重視してか、この映画は16mmまたはヴィデオ撮影によるらしい荒い映像で作られている。しかもカラーとモノクロの中間のような、非常に地味な色調。まさにあの時代のドキュメンタリーという感じだ。しかしこれを大スクリーンで見ると、ただ荒く汚いだけに映ってしまう。当時の記録フィルムが大写しになると、一体何が映っているのか、よくわからないことさえあった。映画のスクリーンは基本的には大きい方が良いが、やはりその作品にマッチした適切な大きさというものがあり、この映画とあのスクリーンは明らかなミスマッチだった。本公開はテアトル新宿がメイン舘だが、確かにあのくらいのスクリーンで見た方が良いだろう。

いろいろ不満を述べたが、それは過大な期待の裏返しであり、実際には評価すべき点も多い。来年春の公開時に、もう一度テアトル新宿で見直した上で、もう少しニュートラルな立場から評価し直そうと思っている。


『カリフォルニア・ドリーミン(endless)』
10月21日(日) 11:30〜 TOHOシネマズ六本木5番スクリーン

ルーマニア映画。カンヌ映画祭で「ある視点」部門の作品賞を獲ったということで見ることにした。監督はクリスティアン・ネメスクという人で、これがデビュー作だが、本作の編集作業中に交通事故で世を去った。タイトルに付いている(endless)は、そのような事情から来る「未完成」の意味だそうだ。

時はコソボ紛争の最中。ルーマニアの田舎町を支配する駅長と、そこで足止めを食らったNATO軍の物語。エピソードごとに見ると非常に面白いところもあるのだが、編集途中のためか、または脚本本来の弱さによるものか、2時間35分の長尺はかなりだれる。それでいて最初の方は展開がわかりにくい部分もある。まさに未完成品だ。
最大の問題は、シネスコの大画面でありながら全編が手持ち撮影という点。これをまたもや5番スクリーンの大画面で見せられたのだからたまらない。途中で何列か後ろの空いている席に移動して助かったが、本来の席で見ていたら、途中でギヴアップして退出したことだろう。これについては終映後「辛かった」という声があちこちから聞こえてきた。それなりの演出意図があるにせよ、もう少し見る側の立場を考えてもらえないものだろうか。

期待した作品だが、見なくても損はなかった。


『真木栗ノ穴』
10月21日(日) 15:20〜 TOHOシネマズ六本木5番スクリーン

『カリフォルニア・ドリーミン』と『ハーフェズ』の間にうまくはまったので、時間つぶしのために見た作品だが、意外にもこれが4本の中で一番面白かった。内容は、さながら「現代版 雨月物語」といった趣の洗練されたホラー…と言うよりは「怪談」。あの鎌倉にある洞穴を抜けると、生の世界と死の世界、あるいは時代までもが変化するあたり、『ツィゴイネルワイゼン』の遺伝子を色濃く引き継いでいる。監督は『狼少女』の深川栄洋。変わったタイトルだが、「真木栗」というのは主人公の作家の名前。つまり『マルコヴッィチの穴』と似たようなものだ。

主役は真木栗を演じる西島秀俊だが、目を惹きつけられたのは粟田麗だ。『東京兄妹』での印象が強いせいか、僕の中では「非常に地味で、どこにでもいそうな、女優らしくない女優」として位置づけられていた人だが、本作では美しくミステリアスなヒロイン役を見事にこなしている。今までの粟田麗像を打ち砕く艶めかしい魅力。現時点では映画における彼女の代表作になるのではなかろうか。ばっちりメイクを決めて舞台挨拶に現れた本人も、これまでのイメージがガラガラと音を立てて崩れるほど、美しく華やかな女優らしさに溢れていた。

脚本も演出も撮影も極めて端正。ロマンスや笑いの要素もあり、レトロな薫り漂う現代の怪談として秀逸な出来。お勧めの一作だ。正式公開は来年の春。

http://www.makiguri.com/cast.html


『ハーフェズ ペルシャの詩』
10月21日(日) 18:50〜 TOHOシネマズ六本木6番スクリーン

『ダンス・オブ・ダスト』や『少年と砂漠のカフェ』などで知られるイランの鬼才アボルファズル・ジャリリが、麻生久美子を出演者に招いて作り上げた作品。

怪作。ジャリリ作品のストーリーが難解なのは毎度のことで驚くには当たらないが、この作品の場合、なまじ部分的にわかりやすいストーリーがあるため、わからない部分がよけい何が何だかわからなくなっている。特にラストは、何がどうしてどうなったのやら… ストーリーを追いかければ何が何だかわからくなり、詩的イメージに満ちた映像詩と言って片付けるには妙に笑えるストーリーがありすぎる。これまでのジャリリ作品で、こんなどっちつかずな作風は無かったように思う。これは素直に失敗作と考えていいのではなかろうか。

麻生久美子は何とイラン人の役(正確にはイランとチベットかどこかの混血という設定)。ペルシャ語の台詞までこなしてがんばっているし、とても美しく撮られている。しかし、あの色の白さや東洋的な線の細さは、とてもイラン人には見えない。そんなことはジャリリも最初からわかっていたことだろうし、周りから浮き上がった特別な空気感が欲しくて彼女を起用したのだろう。それはそれで悪いとは思わないが、あの役をイランの女優が演じていたとしても、それはそれで問題なかったように思える。


毎度のことだが、この映画祭の運営手順の悪さには溜息が出る。何しろ案内ブースで「明日以降のチケットはどこで売っていますか?」と尋ねても、その答えを知る人が1人しかおらず、その人でさえマニュアルを引っ張り出しながら危なっかしい返答をしているのだ。あれだったら僕が自分でマニュアルを読んだ方が早い。東京国際映画祭も今年で20回目になるが、運営のダメさ加減だけはまったく進歩がないというか、昔よりさらに酷くなっているようだ。これでは行く気も失せるよな。


(2007年11月)

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