« 【映画】東京国際映画祭で見た4本 短評 | Main | 【演劇】劇団東京乾電池『金色の魚春なのに子守歌』2007.11.27 »

11/14/2007

【ライヴ】伊吹留香/Gently Weep's 2007.11.11

646677522_226


伊吹留香/Gently Weep's ライヴ
2007年11月11日(日) 下北沢MOSAiC


伊吹留香、下北沢MOSAiCでのライヴ。彼女は10月20日に代官山、11月25日に高田馬場でアコースティックライヴを行った/行うが、本日は唯一のバンド編成だ。

この日のイヴェントタイトルは「MOSAiC presents 魂の叫び夜45」というもの。あまり明確なコンセプトがなさそうなブッキングに毎回「魂の叫び夜」というタイトルをつけているようだから、たいした意味はないだろう。全部で5アーティストが出演。ライヴの開演は18時半からだが、伊吹の出番は20時半からと聞いていたので、19時半過ぎにMOSAiCに入った。
2番目の出演者であるDELTA BUSHというバンドがやっている最中。3曲ほど聞いたが、音楽的にこれといった個性は感じられず、右の耳から左の耳へ抜けていった感じだ。次は斉藤洋という人のアコギ弾き語り。伸びやかな良い声をしているが、楽曲に魅力が感じられない。ギターのバッキングがもっと表情豊かだといいのだが、ほとんどはコードをかき鳴らしているだけなので少々退屈。

そんなわけで、この2組は見なくてもまったく問題なかった。


伊吹留香の開演前になると、それまでとは打って変わって場内に人が増える。これは伊吹目当ての客なのか、それともトリのGently Weep's目当てで、一つ前のアーティストから前の方を確保しようという魂胆なのか…とりあえず自分はかなり前の方のど真ん中、ほぼベストポジションをキープする。

セットチェンジ中に「境界線」と「死角」が流れていた。長年様々なライヴを見ているが、開演前にそのアーティストの曲が流れたのは初めてではなかろうか。この2曲とも大好きだが、逆に言えば開演前に音か流れてしまうだから、この日は演奏されないということだ。

予定より少し遅れて20時40分頃から伊吹留香のライヴが始まる。本日のバンドメンバーは杉山隆哉(g)/浜田如人(b)/菊嶋"KIKU"亮一(ds)の3人。ギター、ベースは昨年のライヴと同じだが、ドラムスだけ河鰭文成から菊嶋"KIKU"亮一に交替している。菊嶋は、先日の高田馬場のアコースティックライヴでパーカッションを叩いていた人だ。
今回演奏される曲はほとんどがデモCDに弾き語りで入っていた新曲で、バンド編成で演奏されるのは、この日が初めて。バンドの演奏によって、それらの曲がどのような変化を遂げるかが最大の注目点だ。

1曲目は「胼胝」。何度聞いてもジミヘンの「ワイルド・シング」を参考にしたと思える、イントロのリフが血を沸き立たせる。伊吹、本日はよく声が出ているようだ。歌メロにこれまでにないアレンジが施されていて、面白い効果を上げていた。
だがこの曲では、伊吹よりもベースの浜田如人に目と耳が釘付けになる。彼のベースは、この手のヘヴィーなナンバーに本当によく似合う。テクニック云々よりも、ブリブリした金属的で弾力のある音色が無条件に気持ちいいのだ。個人的に一番好きなタイプのベースサウンドだ。

この「胼胝」が唯一の定番ナンバーで、以後の5曲はすべて新曲となる。

2曲目の「脱獄囚」で、いきなり意外なものを目にすることになる。伊吹留香が踊っているのだ。もちろんリズムに合わせて体を動かす程度のことはよくあるが、あんな風に明らかにステップを踏んで踊る姿は初めて見た。一体どうしたんだ。何があったんだ。熱でも出したのか。
しかしこの曲では伊吹のヴォーカルが非常に不安定になる。前回のアコースティックライヴが驚くほど良かったことを思うと、ヴォーカリストとしての彼女には、やはりこのようなアップテンポのロックナンバーは合っていないということだろう。
ただしバンドの演奏は良い。この曲でも浜田のブリブリベースが縦横無尽に活躍している。それに対して今日は全般的に杉山のギターがあまり目立たなかった。PAの関係か、音量が少し小さかったのではなかろうか。菊嶋のドラミングは、グルーヴマスターの室田憲一や、ヘヴィーでドラマチックな曲の盛り上げがうまい河鰭の二人に比べると、目立った特徴がなく、非常に手堅い印象。実のところ、その地味さには物足りなさを覚えた。しかし全曲終わってみると、あの堅実なドラミングだからこそ、伊吹のヴォーカルがいつになく前面に出ていたのだということに気づかされる。たとえば室田のドラミングは、最初の一音が鳴った瞬間から聞く者の心を鷲づかみにする快感に満ちているが、あの強力極まりないサウンドに対抗するには、伊吹のヴォーカルは非力すぎて、歌が轟音の中に埋もれてしまう。彼女の声を生かすという見地からすれば、菊嶋の堅実なドラミングの方が確実に合っている。「サウンド」から「歌」への回帰をしている今の彼女には、これで正解なのだろう。

3曲目は一転して穏やかな「痣」。しかしこの曲は、何度聞いても新曲の中では魅力が薄い。前2曲の緊張感が、ここで少し途切れた感は否めなかった。ただし伊吹のヴォーカルは、ここで安定を取り戻す。やはり彼女の声質には、こういう穏やかな楽曲が合っているのだろう。

そして4曲目、ダントツの名曲「ヒートアイランド」が登場する。「死角」や「36.5℃」と並ぶ彼女の最高傑作が、初めてバンド編成で演奏されるのだ。ただしバンドの演奏は、どうすればこの曲の魅力を最大限に生かせるか、まだ皆で手探りしている状態で、それほど圧倒されるものではなかった。曲そのものは何度聞いても良い。この歌メロと歌詞は、弾き語りだろうが、完成型を模索中のバンドサウンドであろうが、変わることのない強靱さに溢れている。何よりも伊吹の今の声質によく合っていて、無理をしなくても歌が体から溢れだしてくる感じがする。あらゆる意味で、これこそが今の伊吹留香の歌なのだと思える出来だった。

5曲目の「老眼鏡」も快調。そして6曲目のラストナンバー「音信」は、デモCDや先日の高田馬場での演奏とは比較にならないほどいい。これってこんなに良い曲だっけ?と耳を疑ったほどだ。曲そのものは「ヒートアイランド」がダントツだとしても、ライヴナンバーして本日最高の出来だったのは、この曲だ。


総体的に言うと、以前から続く轟音ロックと、伊吹留香本来の声質にあったフォーク的なサウンドが混在し、その中で新しい音楽をつかみ取ろうと模索している過渡期的なライヴだった。焦点が定まっていない分、強烈なインパクトには欠けるが、その音楽的変遷を見続けてきた自分にとっては、様々な感慨を催させる面白いライヴだった。

前から書いていることだが、伊吹留香は、ヴォーカリストとしての非力さから、「表現したいこと」と「表現出来ること」の間に大きなギャップを抱えてきた。そのギャップの中でもがき苦しむ様が独特の生々しさを生みだしていたことも確かだが、それはあくまでも副産物に過ぎず、音楽的な感動とは別物である。彼女が紡ぎ出す詞の内容からすれば、そこにCoccoやfra-foaの系列に連なる轟音サウンドが付いてくるのは必然的なことだろう。僕自身その手の音楽が大好きなため、これまで応援してきたという経緯もある。しかし彼女の声質/声域が一つの限界となり、その手の音楽をライヴでやると、どうしても無理が出てしまう。
そして前回の高田馬場でのライヴを見て、あのようなアコースティックサウンドに彼女の声がとてもフィットすることに衝撃すら覚えた。それは彼女自身も同様だったようで、今の彼女は、サウンド的にも唱法的にも「表現したいこと」を「表現出来ること」に近づけ、その二つが重なり合う地点を探しているように見える。それがどのような結果を生み出すかはまだわからないが、ここ2回のライヴやデモCDを聞く限りでは、かなりの成果が期待できそうだ。やっている伊吹自身も楽しそうで、以前の彼女からは信じられないほどの生気が感じられるのが、端から見ていても嬉しい。来年から新作のレコーディングが始まるそうなので、ニューアルバムと、それを引っさげてのライヴを聞ける日が楽しみだ。

個人的な希望としては、前回のライヴ評で書いた「サウンド的にはアコースティックだが、音楽的にはロック」という方向性をもっと煮詰め、彼女が「表現したいこと」と「表現できること」の結節点を、出来る限り高いところで見つけだして欲しい。以前のような轟音サウンドでなくても、ロックならではのエッジを保つことは可能なはずだ。たとえばニルヴァーナの『MTV アンプラグド・イン・ニューヨーク』に溢れる切迫感と緊張感は、『ネヴァーマインド』や『イン・ユーテロ』に対して何ら引けを取るものではなく、他のどのアルバムにも増してカート・コバーンの真情が浮き彫りになっている。パティ・スミスも、空間を生かしたシンプルな音作りでありながら、鋼のように力強い歌を生み出している。
これまでの伊吹が足し算によって音楽を作ろうとしていたのに対し、今はちょうど引き算を覚えている最中だろう。指標となりうる音楽はたくさんあるし、彼女が新たに切り開くべき道も十分に残されている。これから伊吹留香がどんな道を歩んでいくのか、まだ当分は見守っていくつもりだ。


トリのGently Weep'sというバンドについては、リズムセクションが元ZIGGYのメンバーだということくらいしか知らない。そのZIGGYも、20年以上前から活動しているので、もちろん名前は知っているが、きちんと音を聞いたことがない。ヴォーカルとギターも一部では有名なようだが、かつての在籍バンド名を聞いてもわからない。伊吹留香のライヴが終わった時すでに21時10分。明日は月曜だし、見るか見ないか迷っていたのだが、伊吹のライヴが終わるや否や凄い人が押しかけてきて、動くに動けなくなった。チケットはほとんど売り切れと聞いていたが、大部分はこのバンド目当てだったのね。リズム隊が老舗の元ZIGGYで、バンド自体にそれほど人気があるなら、そんなに酷いものではなかろうと、素直にそのまま見ていくことにする。しかしセットチェンジに異様に時間がかかり、待つことおよそ30分。うんざりして、やはり帰りたくなったが、後から後から人が押し寄せてきて、帰るに帰れない。

ようやくメンバーがステージに立つと大歓声。客層は、元ZIGGYメンバー目当てのせいか、意外に年齢が高い。

始まったのは、グルーヴ感溢れるバッドボーイズロック。こういうの、結構好きだ。新しさは感じないが、ロックの原点とも言うべき楽しさに溢れている。2曲目では、案の定と言うべきかビートルズの「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」が飛び出す。歌(歌詞)を聞かないと、あの曲だと分からないほどワイルドなロックにアレンジされているが、これがなかなかかっこいい。残って正解だった。ただし後半のアップテンポナンバーでは、真ん中にいた客数人が大暴れで、ダイブも始まってしまう。他の客にとっては危険かつ不快なだけなので、こういうのは勘弁して欲しいんだがなあ… この時ばかりは前の方で見ていたのを後悔した。

楽曲的には、ビートルズ以外にも耳覚えのある歌があったので、2〜3曲は洋楽ロックのカヴァーだった模様。「そんなにやれる曲が無い」とも言っていたので、まだ出来たばかりのバンドなのだろう。HPが見あたらないため、どういう経緯で出来たバンドで、どのような活動を行っているのか今ひとつわからないが、MCで「暇つぶし」と言っていたくらいだから、パーマネントなバンドと言うより、お遊び的なユニットのようでもある。オリジナル(?)では、アンコールで再度演奏した「Everywhere」という曲が印象的な歌メロを持っていて良かった。

演奏に関しては、ドラムスの大山正篤に目が釘付けだった。その軽薄な(笑)ヴィジュアルからは想像もつかない、豪快かつグルーヴィーなドラミング。テクニックやパワーもさることながら、明らかに視覚的効果まで計算に入れた叩き方に、他を圧倒する華がある。伊達に20年以上もこの世界で生き残っているわけではないことを思い知らせてくれた。

最近、伊吹留香や三上ちさこ目当てで、この下北沢MOSAiCに来る機会が多い。その対バンで、世間的にはまったく無名のミュージシャンを見る機会も増えたが、演奏技術が達者なのにはいつも感心させられる。リズムが狂っていたり、バンドのアンサンブルがずれていたり、ヴォーカルの声が出ていなかったりという場面に出くわすことは、ほとんど無い。おそらく、これまでにMOSAiCで見た最もヘタなミュージシャンは、他ならぬ伊吹留香だろう(笑)。80年代には、もっとヘタクソな連中をよく見かけたものだが、ミュージシャンの技量が全般に底上げされているようだ。伊吹留香/The Waits/三上ちさこと、この小屋で3回演奏を見ている室田憲一など、もっとメジャーなシーンで活躍しているドラマーとも余裕で張り合える、最強のドラマーだ。
しかし大山正篤の演奏を見ていると、MOSAiC程度の小屋を中心に活躍しているミュージシャンと、メジャーなシーンで活躍している(していた)ミュージシャンとの違いも見えてくる。テクニックにおいてはそれほど大きな差が無くても、やはりメジャーなミュージシャンには「華」もしくは「オーラ」のようなものが漂っているのだ。もちろんそれはニワトリが先か卵が先かの問題で、華があるからメジャーになれたのか、メジャーで活躍したから華を身にまとうことが出来たのかはわからない。おそらく後者の可能性が高いだろう。ともあれ、ああいうオーラの違いを見せられると、ロックのライヴというものは、演奏される音楽が全てではないことがよくわかる。ステージに立つミュージシャンのオーラを受け止め、それを観客の間でさらに増幅して場のエネルギー全体を高めていくことこそ、ライヴならではの醍醐味なのだ。自分の体験したライヴが後にCD化されたものを聞いても落胆する場合がほとんどなのは、そのような「気の交歓」をデジタルデータに記録することが難しいためだろう。


そんなわけで、いろいろと楽しめたし、いろいろなことも考えさせられた、良いライヴだった。


(2007年11月)

|

« 【映画】東京国際映画祭で見た4本 短評 | Main | 【演劇】劇団東京乾電池『金色の魚春なのに子守歌』2007.11.27 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/85126/17071681

Listed below are links to weblogs that reference 【ライヴ】伊吹留香/Gently Weep's 2007.11.11:

« 【映画】東京国際映画祭で見た4本 短評 | Main | 【演劇】劇団東京乾電池『金色の魚春なのに子守歌』2007.11.27 »