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10/07/2007

【演劇】遊園地再生事業団『ニュータウン入口』2007.9.28

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遊園地再生事業団『ニュータウン入口』
2007年9月28日(金) 19:00〜 シアタートラム


遊園地再生事業団、初見。2005年の『トーキョー/不在/ハムレット』は、チケットは買ったのだが、事情があって見られなかった。宮沢章夫の作・演出作品は、昨年『現代能楽集III 鵺/NUE』を見ている。若松武史、田中夢、上村聡とキャストも3人重なっているが、あれは一応世田谷パブリックシアター制作なので、遊園地再生事業団としての正式公演は、これが初めてになる。


上演時間2時間20分、かなり退屈した。これが映画だったら、確実に途中退場していたところだ。事前の情報で難解な作品だとわかっていたので、ある程度の覚悟はしていたが、これは難解と言うよりも表現方法の失敗だと思う。

ソポクレスの『アンティゴネ』をベースにしながら、神戸連続児童殺傷事件と、それを引き起こしたニュータウンの日常風景、遺跡捏造事件、ユダヤ人のイスラエル入植やパレスチナ問題まで、様々なモチーフが盛りだくさん。そこで描かれるものは、非常におおまかに言えば「均質性」と「異物性」の問題だろう。『ニュータウン入口 または私はいかにして心配するのをやめニュータウンを愛し土地の購入をきめたか』という長い正式タイトルも、それを物語っている(もちろんキューブリック映画のパロディタイトルである)。
しかし、ニュータウンも、アンティゴネも、酒鬼薔薇も、パレスチナも、ただそこに無造作に提示されるだけで、モチーフ同士の有機的なつながりはほとんど見られない。全てが頭でっかちな情報の羅列に終始している。モチーフはあれどもテーマは無しといったところか。元々明確なストーリーや構築された思想を語るつもりなどなく、様々なイメージを、現代美術のような手法でコラージュ的に見せたかったのかもしれない。だが、作家の意図はどうであれ、そこに演劇としての愉楽を見いだすことは不可能だ。

昨年の2月に、世田谷パブリックシアター主催のレクチャーで、宮沢の講義を受けたことがある(ちなみに3回シリーズで、あとの2人は松本修と太田省吾だった)。その時の感想だが、この人は本当に目の付け所が面白く、話の初めの部分では強い刺激を受けるのだが、それが論理として発展していかず、後半になるに連れて腰砕けとなり、結論は何だかうやむやになってしまう…全ての話題において、その繰り返しだった。多数に及ぶ著書は読んでおらず、唯一読んだのは『チェーホフの戦争』だが、この本でも似たような印象を覚えた。目の付けどころや切り口は斬新なのに、それが目の覚めるような思索や結論へつながっていくことがない。
レクチャー/本/演劇と、3つの形で宮沢の表現に接した限りでは、この人、実は論理的な構築能力が、有るようでいて無い人なのではなかろうか。目の付けどころは極めて斬新かつ個性的なので、それが優れた表現に結実する場合もあるのだろうが、今回の公演に関しては、その悪い面だけが出てしまったように見える。『鵺/NUE』もさほど面白い芝居ではなかったが、それでもこれに比べれば、遙かに楽しむことが出来た。


つまらない点をくだくだ述べる気にもならないので、この芝居の駄目さ加減を象徴する点を一つだけ詳しく書こう。

この作品のセットは、メインステージの部分が升目状になっていて、土の升とコンクリートの升が交互に並んでいる。それぞれの升の間には細い通路が走っている。そして登場人物は、キャラクターによって、土の升しか踏めない者とコンクリートの升しか踏めない者がいる。ただしその間を通る通路は誰でも通れる…と、まるでゲームのような趣向が凝らされている。
おおむね、ニュータウンに同化した者はコンクリートの部分だけを踏み、同化しきれぬ者や異物たる者は土の部分だけを踏んでいるようだ。ステレオタイプではあるが、その演出意図はわからないでもない。
しかし、これが役者の肉体性を殺してしまっている。特に、若い役者たちが、微妙に足下を気にしている風が見える。それこそ無意識に近いものだと思うが、移動しながらの演技が、どこかしら窮屈なのだ。特に気になったのは、ハイヒールを履いた女性たちだ。通路の部分と土/コンクリートの升目には少し段差がある。ブーツやスニーカーの男性陣は、仮に足を踏み外しても大事には至るまいが、ハイヒールでうっかり足を踏み外したら、そのまま大コケして怪我をしても不思議はない程度の段差だ。そのため移動中は、男性以上に足下を警戒しながら慎重に足を運んでいる。もちろん足下を見ている役者は一人もいない。その分、記憶や感覚を駆使して足下に注意を払っている緊張感が肉体にまとわりつき、上半身は「役」になりきっているのに、下半身だけが「役者」のまま足下を警戒しているという、上半身と下半身が泣き別れの珍しい芝居を見せられることになる。そういう場面になると、役者の体の動きにばかり注意が向いてしまい、「あれ? 今 何を話していたんだっけ?」となることもしばしばだった。
アフタートークで分かったのだが、実は稽古中に宮沢章夫自身が、この段差に足をぶつけて、足の指を骨折する怪我を負ったそうだ。そんな光景を目の前で見せられたら、役者が無意識に足下を警戒をしてしまうのも当然だろう。そういう恐怖心を役者から取り除き、自由に体を動かせるよう指導することも演出家の仕事なのに、演出家自身が率先して怪我をしているのだから世話はない。まさに「策士策に溺れる」。頭でっかちな演出プランが役者の肉体性を殺し、演劇ならではの運動感覚を奪ってしまった悪しき例だ。


では、これがまったく箸にも棒にもかからない、金返せとしか言いようのない芝居だったかというと、実はそうでもない。一つだけ、圧倒的に素晴らしいものを見ることが出来たからだ。

若松武史である。

この作品に金を払う価値があるとすれば、一にも二にも若松武史、それしかない。

それは前作『鵺/NUE』も同様だった。今回よりマシとはいえ、内容的にさほど面白くはなかったのだが、黒ずくめの男を演じた若松武史の、異生物のごとき存在感は圧倒的だった。彼と上杉祥三の演技を見ているだけで、演劇ならではの楽しさに触れることが出来た。『鵺/NUE』を見た理由の一つは、昔から好きな中川安奈が出ていたからだが、今となっては「そう言えば出ていたな」くらいの印象しかなく、若松武史と上杉祥三の奇怪な存在感ばかりが強烈に記憶に焼きついている。

そして今回の出演者の中で最も足下を気にしていないのが、若松武史その人だった。ブーツなので、足を踏み外しても大丈夫なせいもあるだろう。だがそれ以前に、彼はほとんど足下を気にしている様子がなく、通路から半分足をはみ出すように歩くなど当たり前、土しか踏んではいけないキャラのはずなのに、コンクリートを踏んで移動している事さえあった。彼だけは、あくまでも自分の肉体重視。頭でっかちな演出プランなど二の次とばかりに自由に動いていたのだ。
上に書いたような、若い役者たちの腰が引けた演技も、実は単独で見たらそんなに気になるものではないのかもしれない。ところが若松が出てきて自由奔放な演技を披露してしまうと、それとの対比で、他の役者の演技が非常に窮屈でぎこちないものに見えてしまう。若松の肉体性が、宮沢の理念を完全に超越し、圧倒していた。それをもって「演劇に必要なのは、理念よりも肉体性」と普遍化してしまうのは単純すぎるが、少なくともこの作品においては、完膚無きまでに理念が肉体に敗北していた。


そしてこの日のアフタートークは、ゲスト(?)が若松武史。宮沢章夫が若松武史にインタビューする形式で、若松の謎に迫るという趣向だったが、これが最初から最後まで抱腹絶倒の面白さ。若松さん、あなた本当に自由人すぎます(笑)。宮沢も、そこで彼のアドリブの意味を聞かされて「ああ、あれはそういう事だったんですか」と苦笑しているのだから、世話はない。はっきり言って本編よりもアフタートークの方が遙かに面白かった。この30分のトークだけで入場料の元を取った感じ。そういう意味では、映画と違って途中退場しにくい状況だったことに感謝しなくてはなるまい。


そんなわけで、この『ニュータウン入口』は、僕が決定的に若松武史のファンになった芝居としてのみ、記憶されることになりそうだ。


ところでアフタートークで出た話だが、唐十郎は喧嘩の仲裁をする時、まずビール瓶で自分の額をかち割り、血をダラダラ流しながら「まあまあ」と割って入るそうだ。そりゃ、そんなものを見せられたら、誰だって毒気を抜かれて言うことを聞いてしまうだろう。だがそれが本当だとしたら、唐十郎、ワイルドすぎる。演劇人って、やっぱり怖い。


(2007年10月)

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Comments

はじめまして。
マトモな批評を読んだなぁ…と思い書かせていただいています(笑)。
なるほど。私が感じた「何か違う」感はこういう理由もあったのか…と。
前半の宮沢評いついてはかなり同意いたしますです(^^)。

Posted by: GAMI | 10/07/2007 15:18

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