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09/21/2007

【演劇】劇団東京乾電池『ここに弟あり』2007.9.20

Getsumatsu9b


劇団東京乾電池『ここに弟あり』
2007年9月20日(木) 20:00〜 新宿ゴールデン街劇場


東京乾電池の月末劇場。普段よりもさらにチケット代が安くて1500円。新人顔見せ公演のためかと思いきや、上演時間がわずか30分と短いせいもあるようだ。普段ならこの程度の作品までいちいちレビューは書かないのだが、岸田國士の作品を初めて見たという点に個人的な意味があるので、メモ程度に書いておく。

「岸田戯曲賞」で名前だけはよく聞くわりに、芝居そのものは一度も見たことがなかった岸田國士。直木賞は誰でも知っているが、直木三十五の小説そのものを読んでいる人は滅多にいないのと似たようなものか。先日NYLON 100℃が岸田戯曲をリミックス(?)した『犬は鎖につなぐべからず』を上演して話題になったが、いつもあちこちで上演されているわけではないので仕方あるまい。


『ここに弟あり』は一幕ものの人情劇。ストーリー自体は特に何のひねりもなく、ボケッと見ていれば「だから何?」で終わってしまうような話だ。しかしこれはストーリーそのものよりも、それを描く筆遣いの細やかさを味わうべき作品だろう。

最も感心したのは、説明台詞が単なる状況説明に終わらず、弟の兄に対する畏怖など、人物の心理描写として機能している点だ。別の言い方をすれば、説明台詞の中にしっかりとしたドラマが描き込まれていて、その情景が目に浮かんでくるということ。だから単純なストーリーであっても、痩せ細ってはおらず、ふくよかな人間味を感じさせてくれる。
説明台詞とは言えないが、兄の「お前が鉄橋(線路?)を渡ったことがあったな。覚えているか? あの時電車を止めたのは、私だぞ」という台詞など、何故弟はそんなところを渡ったのか、兄はどのようにしてそれを知り、どのようにして電車を止めたのか、その後家庭でどんなことが起きたのか…よけいな説明をしないだけに、かえってイマジネーションが広がっていく。こういう「語ることと語らないことのバランス」が実にうまい。
また兄と弟のキャラクターや葛藤は比較的ありがちだが、その間にはさまる紅子が、細かいのかずぼらなのか、純情なのか抜け目ないのかわからない不思議なキャラで、定型的になりがちな物語に面白い揺らぎを与えていた。

新人の役者たちだが、まず7月の『眠レ、巴里』で石村みかと共演していた中村真綾は順調な成長を見せている。特に台詞回しが以前よりもしっかりした印象を受ける。前にも書いたが、いかにも東京乾電池の女優らしい雰囲気を持った人だし、今後に期待できそうだ。
兄役の城野聖は、台詞を噛む部分も多く、さほどうまいわけではないが、何か人を惹きつける役者らしい雰囲気を持っている。まだ原石ではあるが、それなりに光るものが見られた。
ただしこの二人で気になった点を一つ。二人とも着物を着て畳の上で行う和風の所作がどことなくぎこちない。こういう点はさすがに現代っ子と言うべきか。もっとも、中村が城野にお茶を出す時の大雑把さは、所作がぎこちないのか、兄に対する微妙な反感を表現しているのか、未だによくわからないのだが。
問題は弟を演じた池口十兵衛。この人はとにかく台詞を「読んでいる」。自分の中で台詞が血肉化されておらず、そのため何を言っても不思議なほど言葉が耳をすり抜けていく。彼がもう少し役柄を「生きて」いたら、作品全体のクオリティが格段に上がっただろうに、残念だ。


東京乾電池内で岸田國士がブームなのか、今後の月末劇場で10月に『留守』、12月に『命を弄ぶ男ふたり』がラインアップされている。勉強的な意味も含めて、できるだけこのシリーズは見たいものだ。

しかし前回も書いたが、東京乾電池のHPを見ても各回の出演者がまったくわからないという状況はいかがなものだろう。劇団の関係者や出演者の知り合い以外見に来なくていいというならともかく、芝居好きがふらりと立ち寄って楽しめるような企画にするなら、出演者の名前くらいアップしても罰は当たらないと思うのだが。


(2007年9月)

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