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09/04/2007

【演劇】ジェットラグ プロデュース『夢顔』2007.9.1

Yumeweb


ジェットラグ プロデュース『夢顔…ソノ花ハ、咲カナイ…』
2007年9月1日(土)19:00〜 THEATER/TOPS


ジェットラグのプロデュース公演だが、作・演出は劇団桟敷童子の東憲司だし、池下重大、原口健太郎、外山博美、鈴木めぐみと、桟敷童子の役者が4人も出ているので、実質的には桟敷童子の番外公演とみなしても良さそうな作品だ。外山博美や鈴木めぐみが役柄の扮装のまま客の案内をしているし、出演していないもりちえも受付をしている。開演前には鈴木めぐみの前口上もある。どこから見ても、桟敷童子の公演そのまんまだ。

しかし席につくと、客層がいつもの桟敷童子公演とかなり違うことに気づく。どうやら主演の松田賢二という役者が女の子たちに人気があって(『仮面ライダー響鬼』で人気が出たらしい)、そのファンが集まっていたようだ。終演後の会話などを聞くと、数人のチームで何回も見に来ている人がたくさんいるようだ。何しろアンケートで「もう今日は書くことがない」と言っているくらいだから凄い。チケットは桟敷童子のHPから申し込んだのだが、そのようなファンに押し出されてしまったのか、背もたれのない桟敷席。上演時間1時間45分なのでまだ良かったが、それでも少し腰が疲れた。そもそもこういう桟敷席は、普通なら自由席扱いなのだから、少し値段を安くしてくれないものだろうかと思ったりもした。


芝居の内容だが、ある意味予想通りの作品となっていた。一言で言えば「桟敷童子+グリング」。これはグリングの鈴木歩己が出演しているだけでなく、チラシなどを見た直感で、そんな作品になりそうな気がしていたのだ。東憲司は昨年グリングの『虹』に役者として出演しているので、その影響もあって、グリング的な作風を取り入れたとしても不思議はない。とは言え、ここまで明確にグリング的な物語になるとは、さすがに意外だった。まるで青木豪の脚本を東憲司が演出したかのようだ。
もちろん随所に桟敷童子らしい色は残っている。舞台は福岡だし、登場人物の何人かはいかにも桟敷童子らしい暑苦しさを醸し出しているし(笑)、疑似花の扱いは『博多湾岸台風小僧』における彼岸花によく似ている。最初の方で出てくるチャールズ・プロンソン絡みの映画ネタは、アトリエ公演における映画オマージュシリーズそのままだ。
しかし、美術や演出の工夫によって、狭い舞台上に幾つかの空間を描き出す桟敷童子に対し、冒頭を除いて舞台が一つの空間に限定され、そこで複数のドラマが絡み合う構成は、明らかにグリングだ。細かく言い出すと切りがないが、ストーリーの様々な部分、とりわけ夫婦の危機と和解というメインストーリーや、兄弟の描き方、ラストのかすかな希望の示し方など、どう見ても桟敷童子よりはグリングに近い。鈴木めぐみが演じる蜂蜜を買いに来るおばさんなど、グリングの芝居に必ず出てくるタイプの役であり、東憲司がかなり意識的に青木豪の作風を模倣したかのように見えて仕方がない。

そうなると、東憲司と青木豪の本を比較したくなるのも無理のないことだ。

まず問題点から言うと、役の動かし方や伏線の張り方といった細やかな作劇面では、やはり青木の筆に及ばない。外山博美と鈴木歩己の役など、青木だったらもっとうまくドラマに絡めていたはずだ。考えてみると桟敷童子の芝居には、長屋の住民など「いなくてもほとんど影響のない役」が必ず何人かいる。それに対してグリングの芝居は、どんな脇役にも大切な意味や役割があり、誰一人欠けてもストーリーの流れが変わってしまう。そのような緻密さでは、確実に青木の方が上だ。
役の動かし方に限らず、全体に荒削りな印象がある本で、無くても良いのでは?と思える描写が少なからず見られる。一例を上げれば、江之島(鈴木歩己)が北川(外山博美)をホテルに誘おうとするやり取りなど、何か後の展開に結びつくのかと思いきや、何もない。そのような無駄な場面も、役者の魅力で持ってはいたが、もう少しエピソードやキャラクターを整理した方が良かったのではなかろうか。
また、蜂に関する様々な蘊蓄は、物語や人間の生き方と結びついた深い意味合いがあるわけだが、いささか情報量が多すぎる。もう少し絞り込んでくれないと、観客の方で情報を的確に処理できず、蜂の生き方と人間の生き方の関係が、かえって曖昧になってしまう。『博多湾岸台風小僧』の彼岸花をはじめ、他の作品では見事なシンボリズムを作り出すことが得意なのに、何故今回はあんなに悪い意味で饒舌になってしまったのだろう。

そのようにドラマ作りの緻密さに着目していくと、青木の繊細な作劇術に及ばないのはもちろん、東作品としてもあまり上位には来ない出来だと言える。

しかし大枠がグリング的なだけに、青木豪とは違う東憲司ならではの良さも見えてくる。それは結局のところ、上に書いた欠点の裏返しで、「洗練されていないが故の荒々しい生命力」が感じられるのだ。グリング的な物語を描くには、東の筆致はあまりにも騒々しく、暑苦しい。しかしそんな騒々しさや暑苦しさがあって初めて生まれる面白さも、確かに存在している。
たとえば鉄平(松田賢二)と梨恵(桑原裕子)の夫婦喧嘩や、それを兄が裁判官のように仲裁するシーンの独特なくどさは、青木には書けないものだろう。本作の大きな山場は、梨恵が自分の体について告白するシーンだが、それが強い感動を呼ぶのも、夫婦のドタバタしたやり取りとの振れ幅が大きいからだ。まあ、それだけに「妊娠しない女王バチは、皆に殺されてしまうんだったよね? え〜っと、それから蜂は…どうするんだっけ?」という具合に、感動的な場面で、あれこれ複雑な情報を頭の中から引っ張り出して整理する作業が必要になってくるのが、難点なのだが… 

そんな具合で、桟敷童子とグリング両方のファンとしては、様々な意味で興味深い作品となっている。

しかしこの芝居を東と青木の比較だけで語るわけにはいくまい。少なからぬ欠点はあれども、それを補って余りあったのが、魅力溢れる出演者たちだからだ。

中でもずば抜けて素晴らしいのが桑原裕子だ。彼女は以前グリングの『カリフォルニア』で見たことがあり、その時も非常に良い芝居をしていたが、今回はそれを上回る出来。「女」というものの様々な側面を、これほど見事に描き出した演技は、最近見たことがない。特に終盤、上に書いた告白シーンから、蜂に刺されるシーンにかけてを見ていると、この作品の実質的な主役が彼女であることを思い知らされる。
桑原が主催するKAKUTAは、以前から気になりつつ、ずっと見逃している劇団だ。しかし今回の彼女の演技を見て、次の公演は必ず見ようと心に決めた。

それに次いで素晴らしいのは青山勝。彼と桑原が絡むシーンでは、青山がボケ、桑原がツッコミの役回りを演じて、文句なしに面白い。この人の台詞を言うタイミングは絶妙そのもの。今回初めて見た役者だが、一発でお気に入りになった。

松田賢二については、かなり厳しい声も聞くが、決して悪くはないと思う。他の役者に比べると明らかに演技は硬いのだが、そんな融通の利かなさが、この役には合っていたように思う。特に桑原にすぐやり込められてしまうシーンなど、桑原の融通無碍な演技と松田の不器用で鈍くさい演技がうまく噛み合っていた(これって誉めてるのか?)。

グリングから参加の鈴木歩己は、体調不良で『ヒトガタ』を降板したため、久しぶりのお目見えだ。その『ヒトガタ』や、青木豪がグリング以外で手がけた作品『東風』『エスペラント』を見るとよくわかるのだが、この人がいるかいないかで、青木作品の印象が大きく変わってくる。並外れて演技がうまいわけでも、突出した個性があるわけでもないのだが、どんな脇役であれ、とりあえず彼が出てこないと、何か大切なものが欠けているようで落ち着かないのだ。いわば小津安二郎映画における笠智衆のようなものだろうか。だからこそ「鈴木歩己は、グリングの芝居を成立させる十分条件ではないにせよ、必要条件なのだ。彼がいないとグリングの芝居にはならないのだ」そう思っていた。
ところがこの作品を見たら、彼はグリングの芝居を成立させる「十分条件」の役割も、少なからず果たしていることがわかって驚いた。すでに述べたように物語自体がグリング的なのだが、それでもこれが決定的にグリングの新作のように見えてくるのは、鈴木が登場した瞬間からだ。桟敷童子勢の血圧高めな演技を、彼がいつもとまったく変わらぬ調子でのらくら受け流していくと、それまでの桟敷童子色が、どんどんグリング色に塗り替えられていく。彼が主役級なら話はわかるが、役柄としてはメインストーリーにほとんど影響を与えない脇役なのである。それでも彼が出て来るだけで、作品の雰囲気が大きく変わってしまう。恐るべし、鈴木歩己。

それに対して、今回唯一首をひねった役者は、信じがたいことに池下重大だった。桟敷童子での演技には、以前から惜しみない絶賛を送ってきたが、この作品での彼は、ひたすら暑苦しく騒々しいばかりで、大切な心理表現はその中に埋もれてしまっている。一体何がどうしてしまったのかと目を疑った。
池下と並ぶ桟敷童子の二枚看板、板垣桃子は、桟敷童子ほどではないにせよ、他の劇団で客演しても、それなりの演技を見せてくれる。しかし池下重大の演技は、桟敷童子以外の舞台では、こんなにも空回りしてしまうものなのか。桟敷童子のくどさ、暑苦しさを、限りなく悪い方向で体現してしまっている。これは自分としてはかなりショッキングな出来事だった。今後池下に対する見方が少なからず変わってきそうだ。と言っても、桟敷童子の芝居で見ている限りは、今まで通りの素晴らしさなのだろうけれど。

残り3人の桟敷童子勢、原口健太郎、外山博美、鈴木めぐみに関しては、おおむねいつも通りといったところ。飛び道具的な役柄が多い外山博美は、珍しく普通の女の子を演じていて、いつになく可愛らしく見えた。鈴木めぐみも、珍しく大声を出さない役で(笑)可愛いおばさんという感じ。原口健太郎は、いつにもまして顔が暑苦しかった(笑)。


美術セットは桟敷童子に比べると物足りないのだが、それを補うかのように様々な効果を上げていたのが照明。照明についてまで何か言うことなど滅多に無いのだが、今回は特筆せずにいられない秀逸さだった。なお美術セットでは、最後に一つ小さな仕掛けがあるところが、やはり桟敷童子だった。


終演後、THEATER/TOPSの外に出たら、どこかで見たようなスキンヘッドの男性がいる。あれ?と思って顔を見ると、やはり青木豪だった。思わず見つめてしまったら、不審な顔で見つめ返された(笑)。

でも青木さん…やはりこの作品って、あなたがゴーストライターなんじゃないの?


(2007年9月)

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