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08/28/2007

【ライヴ】SAICO presents 『ch SAICO』(with 三上ちさこ) 2007.8.26


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SAICO presents 『ch SAICO』 Special Guest:三上ちさこ
2007年8月26日(日) 18:00〜 下北沢MOSAiC


このライヴ、主役はSAICO(鈴木彩子)だが、僕のお目当てはもちろんスペシャルゲストである三上ちさこの方。何しろ2005年の11月のライヴ以降、個人的事情により全ての活動を休止していたので、1年9か月ぶりの復活ライヴだ。見ないわけにはいくまい。

一方、SAICOというミュージシャンについては、まったく何も知らなかった。以前の芸名が鈴木彩子だと聞いて「ああ、そう言えば名前だけは知ってるな。女ドラマーで、ジョン・ボーナムを尊敬している人」と思ったが、それは「鈴木さえ子」だった(笑)。
調べてみると、鈴木さえ子とは全然別のヴォーカリスト。1972年生まれで、デビューしたのが1990年だから、芸歴はかなり長い。あいにく見ていないのだが、山本政志の映画『アトランタ・ブギ』の主役を務めたこともあるらしい。アイドル的な要素も備えたロックシンガーとして人気を獲得するが、生死の境をさまよう大事故など様々な紆余曲折を経て、活動の場をインディーズシーンに移行。今も根強い人気を保持しているそうだ。
せっかくライヴを見に行くのに、何も知らずに行くのではつまらないので、最新アルバム『Numb』を買って聞いてみた。すると、これがなかなか良い。シリアスで個人的な歌詞や、静と動が激しく交錯するグランジ以降のサウンドは、確かに三上ちさこと共通する音楽性を持っている。ただし少しポップすぎる印象もあり、歌メロやヴォーカルだけに着目すると、ちさこやCoccoよりも、渡辺美里、小比類巻かほる、中村あゆみなど、80年代に人気を博した、ロックとポップスの中間に位置する女性ヴォーカリストたちに近い感じがした。しかしライヴになると、もっとエモーショナルでエネルギッシュな歌が聞けるかもしれない。そんなわけで、第一のお目当てはちさこだが、主役であるSAICOにも、それなりの期待を持って出かけていった。

下北沢MOSAiCは、伊吹留香のライヴで何回か来たことがあるが、本当に小さなハコなので、この二人の共演場所としてはいささか狭すぎる。チケットはすぐに売り切れたので、当然中は超満員。下北沢なら近いし、MOSAiCというハコ自体も好きなのだが、もう少し大きい場所でやっても良かったのではないだろうか。ちなみに僕はステージから2メートルほど離れたど真ん中という絶好のポジションを獲得したので、見るのも聞くのもまったく問題なかった。


今回は謳い文句によれば「当日は、女をテーマに空間からライヴまですべてを二人がプロデュース」ということだったので、どんなコンセプトのライヴになり、どんな風に共演するのかに興味があったが、先に結論を言ってしまうと、単に二人のライヴが続いただけで、コンセプトとして「女」が強く感じられる部分はなし。Special Guestと言うくらいだから、SAICOのライヴ中にちさこが入るのかと思ったが、早い話がちさこはオープニングアクトで、SAICOとの共演はまったく無し。この点については肩すかしを食った気分だ。


18時10分、開演前から延々と流れていたインド音楽が止み、三上ちさこが登場する。バックはギター/ベース/ドラムスの三人。事前に聞いていたとおり、ドラムスは室田憲一。以前伊吹留香のライヴに参加していた、あのパワフルなドラマーだ。あの時ちさこが観客として子連れで来ていたが、そこで彼のドラムスに耳を惹きつけられたらしい。それも当然の優れたドラマーだ。ベーシストは誰かわからなかったが(メンバー紹介無し)、驚いたことにギターはザ・グルーバーズの藤井一彦。2年前のツアーに引き続いてのバックアップだが、まさか今回も付き合うとは思っていなかった。実にまめな人だ。

1曲目、ギターがあの幽玄なイントロを響かせる。ちさこのソロナンバーとしては最高の名曲「解放区」。2年前のライヴでもオープニングを飾り、いきなりラストナンバーのごとき盛り上がりを見せていたが、今日の「解放区」は、2年前とは一味違う感動に満たされていた。ちさこのヴォーカルは、長いブランクなどまったく感じさせず、さらにスケールアップしている。それも以前のように激情パワーで押し切るのではなく、より精神的なものを感じさせ、彼女の体から溢れ出る言葉の一つ一つが、ダイレクトに僕の心に突き刺さってくる。
間奏部で彼女の涼しげな瞳がこちらを真っ直ぐ見据えたとき、電気が走るほどの感動を覚えた。目では見えないものをあえて見ようとするかのごとき、あの凛とした眼差し。あれが三上ちさこだ。音楽的なスタイルはfra-foa時代に比べてある程度変わったが、あの透徹した眼差しだけは、決してぶれることがない。

バンドも最強。特にちさこと室田憲一の組み合わせは予想以上だ。室田のドラミングは、伊吹留香やThe Waitsの時よりも、さらに魅力的になっていて、若い頃の池畑潤二や中村達也を彷彿とさせる。彼の作り出す強力なグルーヴが、ちさこを煽り立てているのがはっきりわかる。名前のわからないベーシストも室田とピッタリ息が合っているし、その鉄壁のリズムセクションに触発されたのか、藤井のギターが前回のツアーの時よりも冴えわたっている。まさに一糸の乱れもなし。こんな強力なバンドがバックについたら、ちさこが思う存分自分の歌世界を広げられるのも当然だろう。

2曲目は「処方箋」。天を見上げる「解放区」に対し、地をのたうち回るような狂気を感じさせるナンバー。決して出来の良い曲だとは思わないが、「解放区」と「処方箋」を続けて歌うところが、三上ちさこの三上ちさこたる所以なのだろう。ここでのちさこはすでにトランス状態。ちさこファンにはお馴染みの光景だが、初めて彼女を見る大部分のSAICOファンが唖然としていると言うか、ちょっと引いているのがわかって可笑しかった。

3曲目は「Yes」。元々壮大なバラードだが、この日の演奏はアルバムヴァージョンを遙かに超えていた。「解放区」と同様、一つ一つの歌詞が、これまでにないほどリアルに心に突き刺さってくる。この曲で終わりなのではないかと思うほどの盛り上がり。
かつてのちさこは、澄み切った空に向けて歌声を送り出していたが、この曲での彼女は、大地にがっしりと根を張り、青空を自らの下へ引き寄せているかのよう。三上ちさこという一人の女の肉体を介して、天と地が融合する…その壮大なイメージに圧倒された。

ごく簡単なMCを挟んで4曲目「ファンダメンタル」。ソロのファーストシングルとして発売されたときには、かなりガッカリした曲だが、ライヴをこなせばこなすほど良くなっていき、今では名曲と言っても差し支えないほどの変貌を遂げている。やはりあのファーストソロアルバムは、ホッピー神山のプロデュースに問題がありすぎた。ミックスを根本的にやり直したリニューアル盤を出して欲しいものだ。

5曲目は、fra-foa時代からライヴで歌われていた「咲かない花」。室田憲一のドラミングが、この曲の疾走感を倍増させている。前半は戸惑い気味だったSAICOファンも、最もわかりやすいこのロックナンバーでは、かなり盛り上がっているのが感じられた。

そして6曲目はfra-foaのファーストシングルであり、ソロになってからもライヴでラストナンバーの位置を占めている「月と砂漠」。これが凄まじい。fra-foa時代まで含めても、これを超える「月と砂漠」は無かったのではないか。荒れ狂う大波のごとき室田のドラミング。それに触発されて暴風雨のごときギターをかき鳴らす藤井。ロックという音楽が持つ狂気や緊張感を、これほど感じさせてくれた演奏は、最近聞いた記憶がない。ちさこは例によって途中で声が出なくなるのだが、もはやそんな事はどうでもいいと言わんばかりの圧倒的演奏。何から何までとんでもない。演奏終了後は、明らかにお義理ではない、熱のこもった拍手や歓声が沸き上がったので、この燃え上がるようなパフォーマンスは、さすがにSAICOファンの心もとらえたようだ。

終演は18時40分。ピッタリ30分間の演奏。しかし何と密度の濃い30分だったことか。と言うより、6曲30分間という短さが完璧に良い方向に働いたようだ。見事なまでの完全燃焼。最初から最後まで鳥肌立ちっぱなし。その密度の濃さは、fra-foa時代まで含めても最高レヴェルのものだ。

2年近いブランクがありながら、さらにスケールアップしたヴォーカルを聞かせるちさこも凄いが、彼女を完璧にバックアップした3人のバンドメンバーは絶賛に値する。演奏力の高さはfra-foaの比ではない。もちろん音楽は個々の演奏テクニックが全てではなく、バンドとしての一体感が、他では代え難いマジックを生み出すこともある。しかしこの日のバンドは、一人一人が優れたテクニックを持っている上に、初顔合わせとは思えぬ一体感があるのだから、まさしく無敵。花田裕之と井上富雄がいた前回のツアーバンドでさえ、ここまでのレヴェルには達していなかった。ちさこの今後の活動については何も情報がないが、少なくともライヴ活動くらいは再開するだろう。その際は、何とかこのバンドで続けて欲しいものだ。特に室田憲一は、初顔合わせでこれだけの化学反応を起こしたのだ。何としてでも、彼に今後のちさこの活動を支えてもらいたい。


約20分のセットチェンジを経て、ちょうど19時からSAICOのライヴが始まる。

せっかく聞いていった『Numb』からは1〜2曲しかやらず(一番好きな「Flower」をやってくれなかったのが残念)、あとは初めて聞く曲ばかりだったので、詳しいことは書きようがない。

だが結論から言えば、期待に違わぬ良いライヴだった。

ちさこの圧倒的パフォーマンスの後なので、最初の内はどうにも地味な印象を免れなかった。SAICOは一発で人を圧倒するようなパワータイプのヴォーカリストではないし、ステージアクションも控えめ。バックバンドは実に堅実な演奏力で、毛ほどの乱れも見えないが、ちさこバンドの天地を揺るがすような迫力に比べると、こちらも地味な印象は否めない。

しかしそれはそれで別の表現スタイルであり、演奏のクオリティはかなり高かった。SAICOは、アルバムを聞いた時点で危惧したように、声量の無さに物足りなさを感じるものの、よく聞いていけば、それを補う「柔」の表現をしっかり身につけている。ちさこは明らかに「剛」のタイプなので、その違いがなかなか面白い。また、ここぞという時には、しっかりとシャウトも決めてくれる。
見ている内に、まるで内燃式のライターのようだと思った。ちさこは勢いよく炎が燃え上がる普通のライターだが、内燃式のSAICOはパッと見たところ炎が出ているのかどうかよくわからない。しかし手をかざせば確かに激しい熱を感じるし、物を近づければしっかりと燃え上がる…これはこれで実に味わい深い表現だ。

知らない曲ばかりだったが、どれもわかりやすい曲なので、その点についてはまったく問題なかった。ちさこの時にも思ったが、この日は異例なほどPAの音が良くて、歌詞がきちんと聞き取れる。そのため初めて聞く曲でも、歌詞を一語一語噛みしめながら、歌の世界にすんなり溶け込むことが出来た。やはり彼女たちのようなアーティストは、歌詞を聞き取れないと魅力が半減してしまうので、この日は非常にラッキーだった。

すでに述べたように、SAICOの表現スタイル、とりわけヴォーカルのスタイルは、ちさことかなり違うものの、そこに描き出される歌世界には確かに相通じるものがある。せっかくこのようなコンセプトを打ち出しながら、二人の共演がまったく無しというのは物足りないが、彼女たちが一緒にライヴをする必然性はよく理解できた。ぜひ『ch SAICO Vol.2』を企画し、そちらで二人の共演を見せて欲しいものだ。

アコースティックのアンコールナンバー1曲を含め、20時にライヴは終了した。こちらはちょうど1時間だ。


ちさこのライヴは、これまで見た中でも屈指の迫力で、完全復活どころか、休業前よりも様々な意味でスケールアップしていることに驚嘆させられた。三上ちさこというアーティストは、ひょっとすると僕が想像している以上に巨大なポテンシャルを秘めているのではなかろうか。彼女の活動を今後も確実にフォローしていこうと、あらためて心に誓った。

同時に、今まで知らなかったSAICOの存在を教えてくれたことでも、ちさこに礼を言わなくては。完全フォローとはいかぬまでも、適当なライヴがあったら、また足を運びたい。その前に他のアルバムもポチポチ聞いていくとしよう。『Numb』は今後も愛聴盤になりそうだ。


何にせよ、予想を上回る充実度100%のライヴ。ちさことSAICOの二人に心から感謝したい。


(2007年8月)

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