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08/29/2007

【落語】新宿末廣亭寄席8月下席 夜の部 2007.8.28

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新宿末廣亭寄席8月下席 夜の部
2007年8月28日(火) 17:00〜21:00


「こいつ、とうとう落語にまで手を出すようになったか。道楽もほどほどにしろ」と怒られそうだが、全ては『しゃべれども しゃべれども』の影響である。あの映画を見て、原作小説まで読んだら、誰だって実際に落語を聞いてみたくなるだろう。もちろん今回が生の落語初体験。落語に関する知識は、まだまだ人並み以下だ。

今回が初体験と言ったが、実は8月10日に「桂歌丸が演じる円朝怪談 in 日展100年」というものを国立新美術館で見ている。これは日展100年の記念イヴェントの一つ。鏑木清方の「三遊亭円朝像」にちなんで、円朝作「真景累ヶ淵」の一部を、桂歌丸が語るもの。しかしこの日は、おりからの猛暑もあってか体調が悪く、異常な眠気に襲われていた。そのため、噺がつまらなかったわけではないのに、前半かなりの部分でウトウトしてしまった。したがってこれは落語初体験に数えたくない。

そんなわけで今回が実質的な落語デビューだ。名人の独演会よりも、あの映画の雰囲気が味わえる「寄席」を見てみたかったので、詳しい人間にお勧めなどを聞き、新宿末廣亭の8月下席 夜の部を見ることに決定。土日は他の予定が入っていたので、わざわざ一日休みを取って出かけていった。


新宿末廣亭、前を通ったことは何回もあるが、入るのは初めてだ。16時35分頃行ったら、ちょうど昼の部の客がドッと出てくるところだった。手前にロビーのようなものがあると思っていたのだが、そんな空間は無きに等しく、前の道からストレートに客席入りするような形になっていることに少々驚いた。

客の入りは最終的な段階でも5割程度。お盆休み中はかなり混んでいたらしいが、今はちょうど間の悪い時なのだろうか。まあ客としては、ある程度空いている方が見やすいので構わないのだが。


17時から開演となっているが、実際には16時45分から前座の落語が始まる。これが見事に面白くない。内容はともかく、話し方に人を惹きつける力がまるでない。なるほど、優れたものだけでなく、こういう駄目なものを見るのも、「良い噺とは何か」を理解する格好の教材となることが理解できた。

最初の春風亭朝也も今ひとつ。津軽三味線を挟んで、再び春風亭一之輔の落語になったのだが、この人が非常に良かった。ポジション的に見て、まだまだ駆け出しの部類だろうと思うが、地味ながら説得力のある話し方で、僕の好みに合っていた。今後への期待も込めて赤丸をつけておこう。

その後の古今亭菊丸や林屋錦平は今ひとつ。メモなどは取っていなかったので記憶が曖昧になっているが、二人の内のどちらかが、かなりオーバーアクトで、そういう芸風は自分の好みでないことを再確認した。
また途中に挟まったマギー隆司の奇術は、本当の奇術というよりは宴会芸的なお笑いで、かなり寒いものがあった。

その辺までは今ひとつだったが、三遊亭円窓の落語で持ち直す。そして驚いたのは、仙三郎社中の太神楽曲芸。映画やテレビの時代劇で見たことはあるが、実際に生で見ると、迫力がまるで違う。芸と言うより魔法でも見ているかのよう。何かトリックがあるのではないかと何度も目をこらしたほどだ。これは本当に凄い芸当だ。

その後の三遊亭歌武蔵は、若干オーバーアクトなところもあるが、よく通る太い声が魅力的で、何となく説得されてしまった感じ。前半のトリを務める柳屋さん喬も良かった。

10分かそこらの仲入り(休憩)を挟んで後半へ。こちらに登場した6組はすべて面白かった。前半もところどころで力のある人が登場するが、やはり全体的には仲入り後の後半が本番ということなのだろうか。

トップの春風亭柳朝は、若手ながらなかなか魅力的な語り口。特に枕から本編へのつなぎが良かった。

続く大空遊平/かほりの夫婦漫才も非常に面白かった。親が漫才嫌いだったせいで、一世を風靡した漫才にほとんど無縁のまま生きてきたが、何も考えず気楽に笑えるという点では、理解するのにそれなりの教養を必要とする落語よりも楽しい。この夫婦、見るからに貧乏臭さがにじみ出ているし、必ずしもその分野のトップレヴェルでなさそうなことは、長年様々な芸術/芸能を見てきた者の直感でわかる。それでもこれだけ笑えるのだから、トップクラスの漫才は相当なものなのだろう。今度は漫才中心の演芸も見てみたくなった。東京で気軽に見られるのは、やはり吉本興業の劇場になるのだろうか?

再び落語に戻り、柳家権太楼、桂文生ともに面白かった。桂文生は、何と最後まで落語本編をやらず、「落語を理解しない客ばかりの大阪に行くと、落語家がどんなひどい目に遭うか」という枕だけで20分間を終えた。そういうのもありなんだと感心した。ただこの人、歳のせいか声が小さくボソボソした話し方で、終わりの部分が笑いにかき消されてよく聞こえないことがあった。本編の落語を話すときもあんな感じだったら、少々評価は低くなる。

トリの前に林屋正楽の紙切りという芸が入ったのだが、初めて目にする芸だったこともあり、大きな衝撃と感動を受けた。個人的には、これが本日のハイライトだったかもしれない。こちらも何かトリックがあるのではと思ったほどで、「花火」「風鈴屋」など客のリクエストに答えて、芸術的とすら言える切り絵をわずか数分で作り上げていく様は、まさしく魔法のようだ。次に行ったら、ぜひ何かリクエストして、出来た切り絵をもらってやろう。

大トリは春風亭一朝の落語。とりたてて派手な個性はないが、堅実な力の持ち主という感じ。「妾馬」(←明らかに有名な噺だろうと思い、調べたらすぐにわかった)を面白可笑しく語って、満足のいく幕切れとなった。

後半の途中、もの凄い雷と雨の音がずっと聞こえていて、どうなることかと思ったが、集中的雷雨をちょうどやり過ごすことが出来たようで、外に出るとすでに小雨状態。そのまま最後まで傘を使わず家に帰れた。実にラッキーだ。


そんなわけで寄席初体験を十分に楽しむことが出来た。目当ての落語もさることながら、紙切りや曲芸、漫才といった色物が大いに楽しめたのは、意外な収穫だった。

ただ一つ難点としては、4時間を超える上演で仲入りが1回しかないのが結構きつかった。場内が明るく演者からも客席がよく見える状態は、客にもある程度の緊張を強いる。映画のように、つまらないからと言って好き勝手に居眠りするわけにはいかない。ロビーがあれば一服できるのだが、先述したように、そんな空間は無きに等しい。また、観客がもっと好き勝手に飲んだり食ったりしているものと思っていたら、みんな意外なほど真面目に見ている。そういうこともあって、4時間以上の寄席を続けて全部見るのは、かなり疲れた。せめてもう1回くらい中入りが欲しいところだ。


時間もかかるので、毎月見るのはしんどいが、年に何度か足を運ぶ娯楽としては悪くない。これで一応の雰囲気は理解できたので、次はあまり肩肘張らず、時間のある時に、途中からふらりと立ち寄るような見方をしたいものだ。


(2007年8月)


【追記】
この日は「柳亭市馬→古今亭菊丸」「春風亭正朝→林屋錦平」と噺家の交代が二人あったのに、書くときにその事をコロリと忘れていて、プログラム通りの名前で書いてしまいました。ご指摘を受けたので、最初の記述から訂正しました。どうも失礼いたしました。

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