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08/18/2007

【演劇】黒色奇譚カナリア派『リュウカデンドロン』2007.8.17

Ryuka


黒色奇譚カナリア派『リュウカデンドロン』
2007年8月17日(金)19:00〜 中野ザ・ポケット


以前から気になっていた劇団、黒色奇譚カナリア派。ずっと見逃し続けてきたが、今回は劇団桟敷童子の板垣桃子が出演するということで、いち早くチケットを手に入れた。おかげでまた最前列の真ん中(笑)。劇を見るにはいいが、ほとんどの客席から自分の後ろ姿が視界に入っているかと思うと落ち着かないのが難だ。


団長が失踪して解散したサーカス団リュウカデンドロンの、その後を描いた物語。雰囲気や世界観は、唐十郎や寺山修司に連なる正統派アングラ劇(?)そのもの。

結論から言うと、さほど良い芝居とは言えなかった。劇団の主催者で、作・演出を手がける赤澤ムックの趣味嗜好はよく出ていたし、それ自体は決して嫌いではない。ただそれを一個の作品として練り上げる手腕は、まだまだ甘いという印象が強かった。

寂れたサーカスのテントを模した美術は上出来だ。ただしクライマックスの大仕掛け(と言うほどでもないが)は、場面転換に時間がかかり過ぎて緊張感が途切れるのが欠点。せっかく板垣桃子がいるのだから、桟敷童子の制作面でのノウハウをもっと吸収すればいいのに。しかし小劇場の一つの頂点である桟敷童子と比べるのは無理な話で、まあこの部分もギリギリ及第点だろう。

問題は主に脚本と演出にある。まだ唐や寺山へのファン的な憧れが目立ち、作劇の練り込みが足りない。別の言葉で言えば、雰囲気だけで押し通そうとしている部分が目立つ。幻想的な雰囲気を持つ作品であっても、もう少し物語を緻密に書き込んでいかないと、伝わるものも伝わらない。
特に気になったのは、あちこちで時制が入り乱れるわりに、時制の変化部分にメリハリがなく、見ていて不要な混乱を招くこと。もちろん役者の衣装やメイクが変わったりはするのだが、それだけではちょっと甘い。こういう演出は、桟敷童子の東憲司が天才的に上手いので、もっと見習うべきだろう。これは半分は演出の問題だが、それ以前に脚本に問題がある。なぜ「そこで」時間が過去に戻らなくてはならないのかという点が曖昧なのだ。話の流れから、そこで絶対に過去に戻らなくてはならない必然性があれば、どんな演出であれ、もっとわかりやすくなっていたはずだ。こういう部分に、まだ雰囲気で押し通そうとしている甘さを感じる。
物語の中で10年かそこらの時間が流れているようだが、その描き方もメリハリが足りない。確かに人物の服装や態度は大きく変わっているのだが、不思議なほど、そこに歳月が流れたというリアリティが感じられないのだ。これは、外見だけ変わっても、内面的な変化を演じきれていない役者の力不足もあるだろう。最も力量のある板垣桃子と牛水里美が、過去にとどまり、時計の針を逆行させようとする役だったのは皮肉な話だ。

また、こちらが唐や寺山のイメージを引きずっているせいもあるだろうが、やはりこの手の舞台には、詩的でキラキラと輝くような台詞が欲しい。この作品の台詞は「情報」の域を出ず、意味的にも音声的にも耳を楽しませてくれる部分がないのが物足りない。

役者では、言うまでもなく板垣桃子が圧倒的。他の役者と並ぶと、身体から発するオーラがまったく違う。ただそこに立っているだけでも「演劇」を感じさせてくれる女優。まったくもって希有な才能だ。
ただ今回一つ気になったのは、狂気の表現のあざとさ。これは彼女に限らず、桟敷童子の役者の大きな特徴で、ネットで他の人の評を読むと、しばしばやり玉に挙げられている。僕もこれまでは「まあ言われてみればそうかもしれないが、お芝居だしねえ…」くらいに思っていたのだが、桟敷童子とは似て非なる舞台で、ああいう演技をやられると、さすがにアクが強すぎて、そこだけ浮き上がってしまう。もう少し抑えても良かったのではないか。ただし前述したように脚本や演出の練り込みが浅く、あれくらい大げさにやらないと、彼女が狂っているのが伝わらないという問題もあるだろう。もっと静かな狂気の表現もあるし、その方が彼女の悲しみや罪の意識が伝わると思うのだが。

もう一人、今回最大の発見だったのが、牛水里美という女優。調べてみると、小劇場ではそこそこ活躍している若手で、黒色奇譚カナリア派の作品に出るのはこれで3回目らしい。子供のように小さな体ながら、全身からエネルギーが溢れていて、あの板垣桃子に対して一歩も引けを取らないのは凄い。今後の要注目株だ。

あとの役者は、まだアマチュアらしさが目立つ。特に男優陣が弱い。比べてはいけないと思いつつ、板垣がいるせいで、どうしても桟敷童子の舞台と重なってしまうのだが、あのレヴェルに達するのはまだまだ先のことだろう。


…という具合に、決して出来の良い舞台ではなく、具体的なことを書くと文句タラタラになってしまうのだが、好きか嫌いかと言えば、実は決して嫌いではない。何よりも、これからもっと伸びる余地が感じられる。次も必ず見に行くとは断言できないが、気になる存在であることに変わりはなく、その成長の過程を出来るだけ見ていきたいと思わせる力はあった。


芝居には直接関係ないが、せっかく中野での公演なのだから、平日ではなく土日に来て中野ブロードウェイをブラブラした後なら、さらに雰囲気が盛り上がったことだろう。中野武蔵野ホールで映画を見てから向かえば、さらに完璧…って、もうあそこはとっくに無くなってしまったんだな。
そういう観点から言うと、今回の劇場であるザ・ポケットは小綺麗すぎる。本当はこういう作品こそ光座で見たいものだ。まあ今回はあれだけの美術セットと仕掛けがあるので、無理な話ではあるのだが。
そんなわけで、来年春の次回公演が青山円形劇場というのには、いささか疑問を感じる。やはりザムザ阿佐ヶ谷でやっている頃に見ておくべきだった。


(2007年8月)

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