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08/02/2007

【演劇】劇団東京乾電池『眠レ、巴里』2007.7.31

Getsumatsu7


劇団東京乾電池『眠レ、巴里』
2007年7月31日(火) 19:00〜 新宿ゴールデン街劇場


「月末劇場」は、劇団東京乾電池が6月から始めた企画で、毎月月末頃の2日間、新宿ゴールデン街劇場で短い芝居を上演するものだ。料金は2000円と低価格。
新宿ゴールデン街劇場は45席程度の小さな小屋なので、役者の友人知人や劇団関係者などで実質的に埋まってしまう。その意味では確かに内輪向けの企画だが、今回の上演を見る限り、内容的にも見応えがあるので、もう少し外部に向けて宣伝しても良いのではないだろうか。その点、HPを見ても出演者がわからないという状況は、客に不親切すぎる気がする。

6月、7月の演目は竹内銃一郎作/柄本明演出の『眠レ、巴里』。僕が見に行ったのは石村みか/中村真綾/上田知和が出演する回だ。
石村みかは、ワークショップ公演『海辺のバカ』を別にすれば、今回が東京乾電池での初舞台となる。相手役の中村真綾はワークショップを経て入団したばかりの新人。『海辺のバカ』に出ていたようだが、僕が見ていないAプロなので、彼女を見るのは今回が初めてとなる。終盤に出てくる上田知和も、ワークショップを経て2006年に入団した新人だ。


45分の作品だが、暗転によって四幕に区切られている。第一幕から第三幕までは、シーツがしきつめられた部屋が舞台で、パジャマ姿の姉妹ノゾミとアキラの他愛ない遊びや喧嘩が描かれる。
なお、僕は事前に大体の筋や、それが実話を題材にしていることを知った上で見た。何も知らずに見た人は、少し違う印象を抱きそうだし、ストーリーそのものが理解しにくい可能性もあると思った。

第一幕で、二人はパリのホテルにいて、今後の予定などについて口論をしている。この辺りは、本当にそういう設定なのかと思わせるが、怪しい人物が入ってきそうだと二人が警戒している冒頭から不吉な匂いが漂い、先ほど通じなかったはずの電話が急につながる描写で、観客に「何かがおかしい」と思わせる。
第二幕では、二人は小さなちゃぶ台を囲んで食事をしている。それが本当の食事なのか、見た目通りのままごとで、実際には食事をしていないのかはわからない。この辺りで、父親がサラ金で多額の借金を作り、姉妹がそれで苦労している事実が少しずつ明らかになってくる。
第三幕で、二人はたくさんの折り鶴を折っている。ここで、二人が家の隅々にまで目張りをして、家の中に閉じ籠もっている現実が見えてくる。先ほどのパリ旅行も、いわば彼女たちの空想だったのだ。
第四幕では、一転して、姉妹の話に出て来た借金取りの部屋が舞台となる。その借金取りの口から語られる、姉妹の死…そこで初めて、前の三幕で描かれていた姉妹の生活が、実際にはどれほど凄惨極まりないものだったかが明らかになる。

さながら、映画『誰も知らない』や、本『池袋・母子 餓死日記』を彷彿とさせる内容だ。しかしこの作品のユニークな点は、姉妹が死に至る過程をリアリズムで描かず、他愛ないガールズトーク満載の楽しげな空気で満たし、それをいきなり第四幕で全て引っ繰り返してみせるという構成だ。しかも、その時姉妹はすでに死んでいる。第三幕の最後にも、彼女たちの死を直接予感させる描写は何もない。それだけに、第四幕でいきなり二人の凄惨な最期について聞かされた観客は、悲しみや衝撃はもちろん、不条理としか言いようのない気分を抱くことになる。普通なら第一幕から第三幕にかけて、もっと現実が露わになってきて、その帰結として第四幕がありそうなものだが、この作品は暴力的なまでの急展開によって、見る者を突然暗黒の淵に突き落とす。しかも、それをさらに引っ繰り返す、あのラスト。あれがあることで、やりきれない思いだけを背負って、劇場を後にせずに済むのが見事だ。
見終わった直後もさることながら、むしろ後になるほど感動がじわじわと心に食い込んでくる。第四幕で受けた強い衝撃や不条理が、少しずつ心の中で消化され、純粋な感動に変化していくためだろうか。また、二人の会話の中に出てくる姉と借金取りの関係(なぜか二人は一緒にテレビで『ヴェニスに死す』を見たことがあるようだ)など、はっきりと描かれていない行間がイマジネーションを刺激する。本当に優れた戯曲だ。


石村みかの演技については何を今更だろう。今回は明らかに新人の中村にペースを合わせていたため、彼女ならではの突出した感情表現は見られなかったが、それでも新人を巧みにサポートしながら、要所要所をきちっと彼女が締めていく部分は見応えがあった。キャラクター的に『デンキ島』と共通する部分があったが、あの作品と同様、彼女の明るさが「死」とぶつかり合う時、不思議な魅力が発揮されるようだ。今後も東京乾電池の芝居に出るのであれば、劇団レパートリーの一つである『夏の夜の夢』にぜひ出てもらいたい。シェイクスピア喜劇の世界で舞う石村みかを、もう一度見てみたいものだ。
ところで第三幕から第四幕にかけての暗転で、中島みゆきの「狼になりたい」が流れる。これは中島みゆきが好きだという石村の趣味ではないかと可笑しかったのだが、後でよく考えてみると、あの歌(歌詞)があのパートに流れることには重い意味がありそうだ。すると彼女ではなく、演出家か作家のアイデアなのだろうか? この点がちょっと気になるところだ。

新人の中村真綾は、石村の好サポートもあって、思った以上にしっかりした演技を見せていた。まだ引き出しが少ないため、後半の感情表現が少し単調になってしまったのが残念だが、入団してまだ数か月であることを考えれば十分な出来だろう。何だかいかにも東京乾電池っぽい匂いを持った人だ。

第四幕で出てくる上田知和は正直今ひとつの感があった。たとえばハンバーガーを食べながら、姉妹の弱さを罵り、「俺はあいつらとは違うんだ」と言うところなど、食べるのに神経が集中し、台詞をきちんと話せていなかった。あそこはガツガツ食べるふりをしながらも、台詞を話せる余裕を確保するテクニックを磨くか、逆にもっと思いきりガツガツ食べて、台詞自体はグチャグチャになっても、その意味を体で表現してしまうか、どちらかにした方が良かっただろう。あれではいかにもどっちつかずだ。
しかし女優二人が、互いの演技に刺激を受けてアドリブなども入れながら芝居を転がしていけるのに対し、彼は一人芝居で、あれだけ重い内容を客に伝えなくてはならない。ある意味、女優二人よりも難しい役ではなかろうか。それを考えれば、入団2年目の新人にはまだ荷が重かったというところか。


この作品は東京乾電池のレパートリーとして時々上演されている。また別の役者が演じるヴァージョンも見てみたいものだ。

なお月末劇場は今後も継続され、半券を3枚集めると東京乾電池手ぬぐいがもらえるらしい(笑)。来月の『小さな家と五人の紳士』(別役実 作)にも興味があるし、この分なら意外とすぐに手ぬぐいをもらえることになりそうだ。


終演後、一緒に見にいった友人とゴールデン街で飲んだのだが、2軒ハシゴしたら8000円以上かかった(-.-;)。ゴールデン街って、面白いけど高い… ここで飲むことが文化人の証みたいな風潮があるけど、常連になるには「しっかり金を稼いでいる文化人」であることが必要なようだ。
まあ二人とも飲み出すとガンガン行く方なので、たくさん飲み過ぎて金がかかっただけではないかという話もあるが。おかげで次の日は二日酔いに苦しんだ…ウップ。


(2007年8月)

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