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07/04/2007

【ライヴ】伊吹留香 2007.6.30

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伊吹留香ライヴ
2007年6月30日(土) 四谷天窓


伊吹留香、1年ぶりのライヴ。アコースティックスタイルの、これまでとだいぶ雰囲気が違うライヴだ。

会場の名前は四谷天窓だが、所在地は高田馬場。元は四谷にあったが昨年移転したらしい。高田馬場に行くのは、考えてみると2年3か月ぶりだ。場所は、あまり馴染みのない駅の西側だが、東側の早稲田方面と同様ゴチャゴチャいろいろな店があって、実に住みやすそうな良い街だ。
四谷天窓は、さかえ通りの先にある小さなアコースティック専門のライヴハウス。ビルの3階にあり、後ろがお座敷になっているのが面白い。覆いを掛けられていない窓が一箇所あって、そこから光が入ってくる。ライヴハウスというと地下が定番で、昼でも日光など差さないのが普通なので、ちょっと不思議な感じがした。


全部で4組出るライヴで、伊吹留香の登場は2番目。しかし伊吹のライヴ時にかなりごった返していたのが、彼女が終わった途端、客が半分程度に減ったので、多くの人は彼女目当てだったようだ。覚えのある顔もチラホラ見えたが(以前バックでドラムスを叩いていた室田憲一もいた)、確実に初めて見る顔も多かった。あとで聞いたところによると、彼女が訪問しているフリースクール関係の人たちが多かったらしい。


13時40分頃から始まり、演奏時間は約30分。バックはギターとバーカッションの二人。オープニングのインストナンバー「その兆候」を除けば、全て未発表の新曲だ(ただし詞や曲が作られたのは最近とは限らない)。

1年ぶり、それもアコースティックスタイルのライヴということで、ダウンサイジングなイメージは否めず、正直言って大した期待をしていたわけではない。ところが意外や意外、これが非常に良かった。これまでに見た中で一番出来の良いライヴだったかもしれない。

ロックバンド編成のライヴは、これまでに下北沢で3回見ているが、毎度変わらないのは、バンドの素晴らしい演奏力と、その轟音に埋もれてしまう彼女の非力なヴォーカルだ。伝えたい思いは山ほどあるのに、それを十全に表現できる声は持っていない…その苛立ちが異様な迫力を生み出していることも多かったが、彼女が何よりも心を込めたであろう歌詞が、声量の無さ故にバックの轟音にかき消されてしまう光景には、やはり忸怩たるものがあった。

それが今回は、これまでに見たどのライヴよりも声がよく出ていた。これだけ伸びやかな声を聞かされると、下北沢での、いかにも苦しげなヴォーカルは一体何だったんだと思うほどだ。しかもその歌い方には、以前には感じられなかった繊細さやまろやかさが加わっている。表情も明るいし、「普段やらないことをやります」とか言って客に手拍子を取らせるし、何か一つ大きなものを吹っ切ったかのようだ。
もちろんアコースティック編成という点も大きい。伊吹の作る歌はロック的なヘヴィーネスや攻撃性に溢れたものだが、彼女の声質や声量には、激しいエレクトリックサウンドよりも、このようなアコースティックサウンドの方が合っているようだ。しかもサウンド的にはアコースティックだが、音楽的にはロックらしいエッジを全く失っていない。個人的には、Coccoやfra-foaの系譜に連なる、以前のようなバンドサウンドが大好物なのだが、今はこちらの「サウンド的にはアコースティックだが、音楽的にはロック」という路線を突き詰めていった方が、面白いものが生まれてくるのではなかろうか。

また、5曲の新曲もほとんどが素晴らしかった。とりわけ「ヒートアイランド」はHPでデモを聞いたときから、「死角」「36.5℃」に匹敵する名曲になるかもしれないと感じていた曲だ。前言と矛盾するようだが、これだけは以前のようにドラマチックなロックサウンドで演奏したら、さらに素晴らしいものになるだろう。「老眼鏡」がその次くらいにいい。「脱獄囚」と「音信」もいいが、「痣」だけはメロディが常套句に陥っている感じがするので、もう少し磨き上げて欲しい。

バックの二人、ギターの山本哲雄とバーカッションの菊嶋 "KIKU" 亮一は非常に巧い。本当に彼女はバックミュージシャンに恵まれている。「その兆候」と「老眼鏡」では、伊吹も若葉マークを貼ったアコギを演奏。アルペジオで弾き語り風に来るかと思いきや、ロックそのもののガツンガツンしたストローク奏法ばかりなのが可笑しかった。若葉マークにしては十分な出来だろう。

問題点としては、曲によって歌詞がよく聞き取れないものがあったこと。これは声量の無さよりも、発音にメリハリが足りないせいだと思う。もっと一つ一つの言葉の発音を明瞭にして、立てるべき言葉をしっかり立てられる力が身についたら、さらに強力なパフォーマンスが可能になるだろう。


伊吹留香は、まだまだアーティストとして成長期にあるようだ。と言うより、彼女は10年先20年先も「永遠の成長期」を続けているのではなかろうか。それが良いのか悪いのかは微妙なところだが。

次のライヴもさることながら、今回披露された新曲がセカンドアルバムとして正式な形でリリースされる日が待ち遠しい。


セットリスト

1. その兆候(inst)
2. 脱獄囚
3. ヒートアイランド
4. 痣
5. 老眼鏡
6. 音信


なおこの日は、彼女の他に、最初に演奏した紫MORPHOと3番目に演奏した潮崎ひろのを見て、最後の姫子は見ずに帰った。紫MORPHOと潮崎ひろの、どちらも決して悪くはない。だが彼女たちを見たことで、伊吹留香の中にある「何かを伝えたい」という熱量の大きさをより強く実感出来たことも事実だ。ヴォーカリストとして、歌はヘタであるよりより巧い方がいいに決まっているが、必ずしも技術的な巧拙によって最終的な感動が決まるわけではない…そんな当たり前のことを再確認した一日だった。


P.S.
ところでこのライヴ、入場料1000円+ドリンク500円! あまりの安さに涙が出る。きっと出演者は、ギャラのあまりの安さに涙が出ると思うけど(笑)。


(2007年7月)

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