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06/03/2007

【映画】『300』筋肉馬鹿? それともシニカルなアメリカ批判?

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『シン・シティ』に続いて、フランク・ミラーのグラフィック・ノベルを映画化した歴史アクション大作。わずか300人のスパルタ軍が、圧倒的な軍勢を誇るペルシア軍を相手に奮戦し、玉砕した、テルモピュライの戦いを描いたもの。監督は、ジョージ・A・ロメロの傑作『ドーン・オブ・ザ・デッド』をオリジナルとかなり違うタッチでリメイクし成功を収めた、ザック・スナイダー。
アメリカでは予想を超える大ヒットとなり、批評的にもかなりの高評価。予告編を見ると、『シン・シティ』と『ロード・オブ・ザ・リング』を足して2で割ったような映像なので、大いに気になっていた作品だ。

いろいろと複雑な思いを抱かせる作品だが、少なくとも映像に関しては絶賛に値する。全編に加工が施されていて、リアルな映像は一つもない。確かに『シン・シティ』や『ロード・オブ・ザ・リング』を思わせるタッチだが、その2作よりもさらにダークで絵画的。アクションは、『ロード・オブ・リング』をベースにしつつ、『マトリックス』を進化させたようなトリッキーな効果を加えたもので、しかも恐ろしく血なまぐさい。血しぶきの量も、人体損壊の生々しい描写も、残虐系のホラー映画並みだ。それでいて正視に耐えられないほどの残酷さを感じないのは、絵画的な映像の賜。首が飛ぼうが、脚が切られようが、ドラクロワやジェリコーを彷彿とさせる映像によって、全てが「美」に昇華されてしまう。一つ一つの要素はどこかで見たことがあっても、それらが総合された映像は前人未踏のもので、「映像革命」という宣伝文句は、決して大げさではない。

中盤までは、アクションに次ぐアクション、血しぶきに次ぐ血しぶき。未だかつて見たことのない映像の連続で、文句なしに面白い。そこまでの感想は「これぞ実写版『北斗の拳』」という一言に尽きる。この映像・演出の方法論を応用すれば、あの荒唐無稽な漫画も、風格溢れるアクション大作として映画化できることだろう。

ストーリーにはところどころ穴があるし、ドラマ的に見ると安易な展開が多いが、「まず映像ありき」の様式美映画なので、その点を細かく突いてもあまり意味はない。徹頭徹尾マッチョな美学に満ちたアクションとして最後まで突っ走れば、好き嫌いはともかく、「これまでに見たことがない斬新な映画」と素直に絶賛できたはずだ。


ところがこの映画、クライマックスに差し掛かると、スパルタの戦いの意義だの何だの、イデオロギー的なものが前面に出てきて、急に鼻白んでしまうのだ。前半にも申し訳程度にチラチラとは出てはきたが、後半になると、それが作品のテーマだと言わんばかりに高らかに謳い上げられるため、さすがに無視できなくなってくる。
そこから、心の隅に引っかかっていた違和感が一挙に表面に出てしまう。たとえば、全編を貫く「美しいものが正しく、醜いものは悪い」(あるいは「正しいものは美しく、悪いものは醜い」)と言わんばかりの描写。自らの価値観を絶対と信じて疑わないレオニダス王(ジェラルド・バトラー)たちの、頑迷で独善的な姿勢。単なるアクションとして見ていれば笑って済ませられるものも、余計なイデオロギーが介入してきてシリアスに考え始めると、主人公たちへの感情移入が削がれてしまう。

ただしこれに関しては、幾分うがった見方もできる。
主人公が民主主義のスパルタ人(白人)、敵が専制主義のペルシア人(今のイラン)であることから、この作品を体の良いアメリカ万歳映画だと捉える向きもあるようだ。しかし、それは実に微妙なところだと思う。確かに見た目で今のアメリカ人に近いのはスパルタ側だが、内容的に見ると、圧倒的軍備を誇って他国に侵攻し、劣勢の兵たちを抹殺しようとするが、意外な苦戦を強いられるペルシア軍こそ、どう見ても最近のアメリカ軍の姿である。
スパルタ人は、自らの戦いを民主主義と自由を守るためと謳い上げるのだが、これも額面通りに受け取って良いものかどうか。五体に不備のある赤ん坊は生まれてすぐに殺され、屈強な兵士として育てられた男たちは、国家のために死ぬことを何よりの名誉と考える…そんなスパルタの価値観は、今の目から見ると、民主主義というよりも、ナチスや戦前の日本のようなファシズムに遙かに近い。逆に、彼らが専制君主として軽蔑するクセルクセス王(ロドリゴ・サントロ)の方は、外見こそ『北斗の拳』の悪役のようだが、言っていることは必ずしも間違いではなく、レオニダスよりも遙かに寛大な人物に見える。
それを最もよく表しているのは、ゴラムを彷彿とさせるエフィアルテス(アンドルー・ティアナン)の存在だ。醜い奇形の体にも関わらず、彼は両親の名誉を回復するためスパルタ軍に参加しようとするが、レオニダスに「その体では無理だ」と断られる。それに失望した彼の裏切りがスパルタ軍の敗北を決定づけるわけだが、そのような事態を招いたのは、他ならぬレオニダスの不寛容さではなかったのか。逆にクセルクセスは、自分にひざまずくこと以外は何も要求せず、エフィアルテスの希望どおりペルシア軍の服を着せて、彼に人間としてのアイデンティティを保証してやる。裏切り者のエフィアルテスに対してレオニダスは「お前は死ぬまで後悔するがいい」と言い捨てるが、その言葉は、レオニダス自身に向けられているようも思える。均一なるものは、短期的には比類なき強力さを発揮するが、長期的な勝利者となるのは、多様さを誇るものなのである。レオニダスと、彼に率いられたスパルタは、その独善性故に、敗北すべくして敗北したのだ。
このように見ていくと、実はこの物語、主人公であるスパルタ側の価値観や生き方に 一定の共感を覚えつつも、それが決して唯一の正義ではないことを冷静に見据えた作品なのではないだろうか? だからこそストーリーの要に、エフィアルテスというキャラクターを配置したのではないだろうか? 

もしそれが正しければ、この筋肉の塊のような映画は、外見に似合わぬ知的で醒めた視点を持ち、アメリカ万歳どころか、現在のアメリカの独善性を批判した作品と見ることも出来る。しかしそこまで深読みしてよいものかどうか、まだ結論は出ていない。


全編を貫くマッチョな美学や血みどろの暴力描写故に、生理的な嫌悪を感じる人も多数いると思うが、今この時代だからこそ誕生した映画として、一見の価値はあると思う。少なくとも映像の革新性、テーマの現代性、アクションとしての醍醐味では、『スパイダーマン3』や『パイレーツ・オブ・カリビアン ワールド・エンド』を、遙かに凌ぐ作品だ。


(2007年6月)

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