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06/10/2007

【演劇】新国立劇場制作『夏の夜の夢』2007.6.9

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新国立劇場制作『夏の夜の夢』
2007年6月9日(土)13:00〜 新国立劇場中ホール


シェイクスピアの喜劇は、苦手だ。

悲劇の方は大好きで、『リア王』も『ハムレット』も『マクベス』も愛してやまない物語なのだが、喜劇の方はどうにもいただけない。ストーリー展開が異常に安直だったり、結末が唖然とするようなものだったり、当時の風俗を知らないと楽しめなかったり、これの何をどう面白がればいいのだと言いたくなることばかり。幾つか戯曲を読み、舞台や映画も見たが、本当に面白いと思ったのは、ケネス・ブラナー監督の映画『から騒ぎ』くらいのものだ。


したがってこの舞台も、あまり期待せずに見に行ったのだが…

面白い。

それも、もの凄く面白い!


パンフの中で翻訳者の松岡和子が、ピーター・ブルックの『夏の夜の夢』を見て、「それまで二つの平面の絵だったものが、パーッと重なって立体になったような驚きを受けた」と書いているが、僕がこの芝居を見て受けた感動も、まさしくそれである。なるほど『夏の夜の夢』とは、こういう物語だったのか。戯曲を読んでも何一つ面白く思えなかった台詞や行動が、見事に笑えるものになっている。終演後、こんなこともあろうかとバッグに忍ばせてきた文庫本(松岡和子 訳)をひもといてみると、以前読んだときには、なかなかイメージが湧いてこず、単なる台詞の羅列にしか思えなかった数々のシーンが、見事な映像として眼前に浮かんでくる。特に第五幕における職人たちの劇中劇は、なるほどこのようなものとして描かれるべきだったのかと、ただただ感心するばかりだ。「お前に読解力がなかっただけだ」と怒られそうだが、これまでに見た幾つかのシェイクスピア喜劇と比べても、本作の造形力はずば抜けているように思う。


とは言うものの、あまり期待せず、だらけた態度で観賞に臨んだせいもあってか、第一幕は乗れなかった。この辺りはまだ状況説明的なシーンがほとんどで、それをシェイクスピアらしいくどい台詞でやられると、言葉の意味を追うだけで精一杯になってしまう。ざっと戯曲を読み返しても、その点は同様だった。
森の中が舞台となる第二幕から、ようやく面白くなってくる。ここでも妖精たちの状況説明は少々退屈なのだが、妖精パックが、森に入ってきた若者たちに惚れ薬を使って、ドラマが転がり出す辺りから面白くなってくる。

しかし本当に面白くなるのは、20分の休憩を挟んだ後に始まる第三幕からだ。
(今戯曲をチェックしてみると、第三幕第一場までが前半だったような気がするのだが、僕の勘違いだろうか?)

惚れ薬のせいでこんがらがってしまった若者たちの恋模様は、戯曲で読んでも一番面白い部分だが、この舞台ではまさしく抱腹絶倒。台詞だけでも十分に面白いのに、役者たちのアクションが、それをさらに笑えるものにしている。
このシーンに限らず、戯曲を読んだだけではわからない人物の動きが、どれも目覚ましい効果を上げている。喜劇的な所作なのだが、それが単なるドタバタに終わらず、ダンスのような美しさを備えているのが見所。この辺りは、演出家ジョン・ケアードの功績だろう。「戯曲」を「演劇」にするとは、こういうことなのか。

そのシーンに勝るとも劣らず面白いのが、すでに述べたように、職人たちの劇中劇を描いた第五幕だ。ここでは主人公たちが、客席の一番前に椅子を出して、観客と一緒になって職人たちの寸劇を見る。しかも戯曲どおり、あちこちで突っ込みを入れていく。これが滅法面白い。一見大きな違いはないようだが、彼らが舞台の上に椅子を並べて見ていたら、これほど面白くはならなかっただろう。一般観客のすぐ近くに座ったシーシアスやディミートリアスらが、観客の声を代弁するかのように、絶妙な突っ込みを入れるからこそ盛り上がるのだ。これは本作で最も感心した演出だ。

一番最後のパックの挨拶は、戯曲では皆が退場した後、彼が一人で行うことになっているが、この作品では、他の出演者も皆後ろに控えている。しかも回り舞台で、いつの間にか屋敷のセットが取り払われ、建材などがむき出しの状態になっている。パック役のチョウソンハも妖精の耳を取りながら話す。つまりこの時、役者たちは皆それぞれの役柄から、役者自身の姿に戻っているのだ。そのため、実質的には出演者全員で「影に過ぎない私ども…」で始まる、あのパックの口上を述べていることになる。夢と現実が溶け合い、祝祭感に溢れた見事なフィナーレ。大きな劇場で、こんなにも役者と観客(=夢と現実)の垣根が取り払われ、一つに重なることは珍しい。5回もカーテンコールがあったが、それも当然の盛り上がりだった。


この第五幕を筆頭に、ジョン・ケアードの演出は、オーソドックスでありながら、戯曲の面白さを最大限に引き出した秀逸なものだ。無理に改変したり派手な演出を施したりすることなく、400年以上前の戯曲を現代に通じる喜劇として舞台化した手腕には、ほとほと感心させられる。


そして役者たち。観客も大いに楽しんだが、舞台に立っている彼らが、とても楽しんで演じているのが手に取るようにわかった。その喜びが、この作品自体の楽しさを形作っているようだ。

江守徹の病気で急遽代役に立った村井国夫。華やかさやカリスマ性では江守の方が上だろうが、本来は代役だったことなど忘れさせてしまう好演。つい3か月前に、やはり新国立で『コペンハーゲン』の再演版を見たばかりだが、そちらの初演は江守徹だったのだから、何とも皮肉な巡り合わせだ。唯一の問題は、あまりにも声が良すぎて、彼が朗々と台詞を話し始めると、「音」として聞き惚れてしまい、意味を理解するための思考が停止してしまうことだ(笑)。

麻実れいは、最初に登場した瞬間拍手が起きるほどのの人気者。入り口に「麻美れい後援会」用の受付があったほどだから、宝塚時代からの根強いファンがたくさんいるのだろう。個人的には、この人の濃すぎる顔が苦手だが、さすがに演技は堂々たるもので、若い女優たちと並ぶと、役者あるいはスターとしての存在感が別次元であることがよくわかる。

なおこの二人は、村井がシーシアスとオーベロンを、麻実がヒポリタとティターニアを、それぞれ二役で演じている。そのため、第五幕でヒポリタを演じているときの麻実が、第三幕でティターニアを演じていたとき惚れ薬のせいで恋をしていたボトムと、何度も熱い視線を交わす演出があって、これが非常に笑えた。

4人の若者では、ハーミアを演じていた宮菜穂子が非常にチャーミングで良かった。特に森の中でのヘレナとの喧嘩シーンは最高だ。そこで「私の背が低いからって馬鹿にするのね」と憤慨するのだが、後で調べてみたら162センチ。決して小さくはない。あとの3人、とりわけ小山萌子がいかに背が高いか、よくわかった。
ヘレナ役の小山萌子は、昨年の『書く女』では背が高すぎて視覚的に浮いていたのだが、今回は、その上背を生かした役。しかも思いきり体を動かせるため、見違えるように生き生きとしていた。
ライサンダー役の細見大輔と、ディミートリアス役の石母田史朗も好演。特に石母田は朗々とした声が魅力的で、第五幕の寸劇に対する突っ込みでは、それが存分に生かされていた。ただしハーミアとヘレナの個性の違いは誰が見ても一目瞭然だったのに対し、こちらの男二人は、それほど明確な違いが見られず、時々どっちがどっちかわからくなる点は今ひとつだった。

パック役のチョウソンファは、最初はちょっとアクの強さが鼻についたが、後になるほど、その個性に馴染んできた。全体の要となる役を好演。

職人勢では、ボトム役の吉村直が最も目立つが、他の人たちも、最後の寸劇で、それぞれに見せ場を披露していた。
それにしても吉村がかぶっていたロバの被り物は、台詞通りにちやんと口が動いていたが、あれは一体どういう仕掛けだったのだろう? 何気に凄いものだと思った。

妖精では、豆の花を演じた子が可愛くて一番目立っていた。「『Into the Woods』で赤頭巾ちゃんを演じていた宮本せいらに似た感じの子だなあ。一体誰だろう?」と思い、休憩中に調べたら、神田沙也加という子だった。
神田沙也加…どっかで聞いた名前だなあ…
・・・あれ?
それって神田正輝と松田聖子の娘、つまりSAYAKAのことか!
それだけなら驚くほどのことではないのだが、第一印象が、よりにもよって「宮本せいらに似た感じの子」とは(苦笑)。何しろ『Into the Woods』の初演で赤頭巾ちゃんを演じていたのは、他ならぬSAYAKAだからだ。村井国夫と江守徹の関係なみに皮肉な話だ。

特に印象に残ったのはその辺りだが、時々舞台に参加させられる(笑)バンドメンバーも含め、全ての出演者が良かった。


そんなわけで、今年見た舞台の中でも1,2を争う傑作であり、シェイクスピア喜劇に対する見方を大きく変えさせられる、記念すべき公演だった。舞台であれ戯曲であれ、これまで敬遠しがちだったシェイクスピア喜劇に再挑戦してみることにしよう。


本作の再演を強く希望する。


(2007年6月)

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