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05/13/2007

【アート】グレゴリー・コルベール「ashes and snow」

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3月に六本木ヒルズの森アーツギャラリーでダイジェスト版/予告編のような展示を見て、すっかり心を奪われたグレゴリー・コルベールの写真展「ashes and snow」。その本展を、お台場のノマディック美術館に見に行った。

六本木の展示を初めて見たときの衝撃は大きかった。森美術館でやっている「日本美術が笑う」「笑い展」を見に行ったのだが(こちらはイマイチだった)、同じチケットで入場できるので、ちょっと覗いてみようと思って足を踏み入れた。それまで何の予備知識もなく、そもそもそんな展覧会をやっていることさえ知らなかったのだ。
最初に飾られているゾウと少年の巨大な写真を見た瞬間、思わず息を呑んだ。 ここ数年、写真を見て、あんなに魂が震えたことはない。そのモチーフ、構図、質感、色彩…何から何まで、僕の感性にジャストミートだったのだ。
展覧会のホームページなど、主な写真はネット上で容易に見ることが出来る。しかし、それではあの感動は伝わらない。何しろ写真と言っても、4m×3mくらいに引き延ばされた巨大な代物だ。それを目にした瞬間の衝撃は、あの会場でしか味わえないものだ。

ほとんどの写真に動物が写っている。しかしよくある動物写真/自然写真とは、まったく似て非なるものだ。自然の実像を映し出すドキュメンタリー的なものではないし、自然と人間の共生を謳い上げるようなものでもない。コルベールの写真は、動物をモチーフとした「アート」そのものだ。リアルな自然ではなく、作者の精神の反映としての自然。しかし、ありのままの自然とはかけ離れた、人工的なアートでありながら、そこには自然の深奥にある「生命の本質」とでも言うべき何かが宿っている。 それは僕に、テレンス・マリックの映画さえ想起させるものだった。


お台場まで行くのは気が進まなかったが、さすがにこの時ばかりは本展のチケットを買わずにいられなかった。


ノマディック美術館は、貨物コンテナを積み重ねて作った移動式の展覧会場。これで世界各地を回っているらしい。りんかい線の東京テレポート駅を出ると、すぐ脇にある。写真だと豪華に見えるが、仮設だけあって実物は思ったよりみすぼらしい。とは言え、予想以上の巨大さには少々驚かされる。

会場の中には3つの大きな回廊がある。1番目の回廊の両側に写真がずらりと並び、一番奥で映像作品を上映している。2番目の回廊には写真はなく、そのスペースの全体が実質的に映像作品の上映会場になっている。それに見合って、スクリーンも、ここが一番大きい。3番目の回廊は、一番手前の隅で映像を上映していて、その後奥まで写真が並び、出口となる。


まず写真の展示だが、今回はかなり失望した。

確かに六本木では見られなかった写真もあるが、最も好きな「ゾウと少女」をはじめ、六本木にはあったのにお台場にはない写真もあり、総合すると六本木のダイジェスト版の方が質が高かったからだ。写真の数にしても、六本木の2倍はなかったのではないだろうか。しかもその多くは、六本木でも見ることが出来た、あるいは六本木でしか見られなかった主要写真より落ちるもの。こうしてみると、六本木での展示が、いかに少数精鋭の素晴らしいものだったかがわかる。

そして展示の環境も明らかに六本木の方が良かった。ノマディック美術館は空間が広いため、写真以外のものがたくさん目に入ってきて落ち着かない。同じ写真を見ても、六本木で見たときの宗教的な感動が薄れてしまっている。
その上、あらゆる意味で騒々しい。風が少し強かったため、テント部分がバサバサ揺さぶられる音も耳についたが、最悪なのは客層だ。六本木の方は、森美術館に隣接しているため、中は普通の美術館のように静かで、心地良い観賞環境が整っていた。ところがこちらは場所がお台場だ。すぐ目の前にヴィーナスフォートなどの娯楽施設がある。どうやらそこから流れてくる客が、ディズニーランドのアトラクションでも見るようなつもりでやってくるらしく、客のノリがまるで違う。とにかくうるさい。おしゃべりはもちろん、子どもがあちこちで泣いたり走ったりしている。携帯の使用は禁じられているのに、平気で使っている奴もいる。六本木ヒルズという場所は個人的には嫌いなのだが、お台場に比べたら遙かにマシだということがよくわかった。そんなに混んでないだろうと甘く見て、土曜に行ったのも悪かった。これから行かれる方には、できるだけ平日をお勧めする。さもなくば22時までやっている金曜〜日曜の夜。19時以降なら、さすがに静かだろう。

そんなわけで、わざわざお台場まで出かけていってガッカリ…かと言うと、そうでもない。

それは映像作品をフルで見ることが出来たからだ。

映像作品は3つ。幸いと言うべきか、僕はそれを「つまらない順」に見ることが出来た。
まず最初は3番目の回廊で上映されている映像で、これはかなり退屈な代物。凡作と言っていいのではないだろうか。
次に見たのは1番目の回廊で上映されている「俳句」という作品。これはかなりいいのだが、すでに六本木で見たものだ。
そして最後に見たのが、2番目の回廊で上映されている60分を超える大作。こちらは六本木で一部分だけ上映されていたが、ほとんどのパートは初めて見るものだ。
写真の方で失望し、初めて見る映像作品も凡作だったので、こちらも最初のうちは斜めに構えた態度で見ていた。ところが15分も見ているうちに、すっかりトリップ状態。この映像と音楽が作り出す酩酊感は、やはり凄まじいものがある。
そして六本木では、コルベールの表現世界は、写真が主で映像はオマケ程度に思っていたのだが、これを見ると、むしろ映像作品が主で、写真はその副産物なのではないかと思ってしまう。この映像には、それほど強い魔力が宿っている。これを一体どう撮影したのかと考え出すと気が遠くなる思いだが、見ている内に、そんな現実的なことは全て脳裏から消え去り、ただただコルベールが描き出す甘美なユートピア(どこにも存在しない理想世界)に溺れそうになる。


何だかんだで2時間かけて展示を見た後、売店で写真集を買った。16,800円もする高い買い物だが、オマケとして、上で書いた60分の映像作品のDVDと、一番好きな「ゾウと少女」ポスター、そしてジャーナルノートがつくのだ。写真集だけなら、さすがに手を出さなかったと思うが、これらをセットで考えれば、十分に価値のある内容だ。

やはり、見に行って良かった。

このノマディック美術館は、コルベールが新たに撮影した素材を加えながら、少しずつ成長していくそうなので、また数年後に来日したとき、どんな写真と映像が加わっているか、楽しみだ。


http://www.ashesandsnow.org/jp/index.php


(2007年5月)

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