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05/06/2007

【演劇】劇団 東京乾電池『授業』Iヴァージョン 2007.5.5

Jugyou2


劇団 東京乾電池『授業』Iヴァージョン
2007年5月5日(土) 19:30〜 OFF OFFシアター


4月21日に見たNヴァージョンに続き、今回はIヴァージョン。
キャストは以下の通り。

教授=綾田俊樹
生徒=ともさと衣
女中=鈴木千秋

女生徒と女中の二人は前回のNヴァージョンと同じ。教授役が西田清史から綾田俊樹に代わっただけだ。ちなみにこのIヴァージョンの前に上演されたJヴァージョンは、教授と女中がIと同じ綾田俊樹/鈴木千秋で、女生徒がともさと衣から高尾祥子に代わっただけ。この2ヴァージョンを連続してみれば、役者一人の交替が作品にどんな影響を与えるかが、さらにはっきり分かったことだろう。よほど見ようかと思ったのだが、何もそこまで求道的にならなくても…と思い、やめた。
この2週間で他にもいろいろな組み合わせがあったわけだが、ネットで情報収集すると、案の定、柄本明の回を見た人の感想が目立つ。親分の出る回はさすがに客の入りも超満員だったようだ。女生徒役では、宮田早苗が良かったという評価がかなり目についたが、これは柄本と同じ回に出ていて、見た人が多いという事情も考慮すべきだろう。柄本との共演回がない女優にも、面白い芝居をする人はいたに違いない。


本日のIヴァージョンだが、当然のことNヴァージョンとの違いが最大の興味となる。綾田俊樹の教授が西田清史(および去年見たベンガル)とどう違うか、それによってともさと衣と鈴木千秋の芝居が、どんな影響を受けるのか…まるで化学の実験を見物するような気分で劇場に入った。


結論から言うと、これまでに見た3つのヴァージョンの中で、最も面白かった。


最大の功労者は、もちろん教授役の綾田俊樹。西田清史/ベンガルと比較した場合の大きな特徴は、綾田教授が一番ノーマルで紳士的な雰囲気を漂わせていることだ。その紳士然とした初老の教授が、次第に心の歯車を狂わせ、暴走していく様は、とても見応えがあった。やはりこの役は、最初から狂った雰囲気を漂わせていたり、テンションが高かったりすると、あまり面白くない。綾田は、最初のうちは台詞が聞き取りにくいほどのおとなしさで、この役を演じている。その教授が、やがてあんなことに…という意外性は、西田はもちろんベンガルをも超えていた。何も知らずに見た人は、後半の展開にかなり驚いたことだろう。

さらに興味深かったのは、そんな綾田の演技スタイルに呼応して、ともさと衣の芝居もNヴァージョンからだいぶ変化していることだ。彼女も今回の方がずっといい。前回は「知性やシャープさがにじみ出ていて、あまり頭が悪そうに見えない」「容貌が大人びているので女子学生の扮装が似合わない」などと書いたが、今回は、そういう点が全て改善されている。頭のいい人が無理をして馬鹿を演じている力みが消え、とてもナチュラルに、無邪気で頭の悪い女生徒を演じきっている。服装も前と変わっていたようだし、教授との明らかな年齢差もあって、前回感じた違和感はほとんど消滅していた。
一つ余談。前回彼女について「身長が高い」と書いたが、後でプロフィールを見たら、163センチと、特別高くもなかった。終演後にロビーで姿を見たが、確かにそんな程度だ。しかし舞台で見ると、やはり身長170センチくらいはあるように見える。これは彼女のすらりとしたプロポーション(オードリー・ヘップバーン風)のせいと、相手役の男優(西田清史/綾田俊樹)が小柄なためだろう。考えてみると、柄本明やベンガルも含め、東京乾電池の男優陣には何故か小柄な人が多いようだ。

Iヴーァジョンが面白い最大の理由は、「主役の交替」が劇的なダイナミズムを作り出しているからだと思う。前半、紳士的な綾田教授は受けの演技に徹しているため、ともさと衣が実質的な主役になっている。それが後半、教授の歯車が徐々に狂い出すのに伴い、劇の重心は女生徒から教授へと移動していく。そしてクライマックスで女生徒の苛立ちが爆発すると、主役の座を争うかのように衝突が発生、ついにカタストロフが引き起こされる…その劇的変化の具合が絶妙なのだ。
それと比較してみると、Nヴーァジョンがイマイチだった理由がはっきりとわかる。Nの方では、西田が最初から狂った雰囲気を漂わせていたため、最初から最後まで二人の演技がぶつかり続け、劇的にはかえって単調なものになってしまったのだ。ともさとの演技に感じられた力みも、そんな「剛と剛のぶつかり合い」に由来するものだったのかもしれない。Iでの彼女は、何をやっても綾田が確実に受け止めてくれるという安心感からか、実にのびのびとした自然な演技を見せていた。

女中役の鈴木千秋は、Nヴァージョンと大きな違いはないが、教授を子供のように叱る終盤は、綾田がずっと年上であるギャップから、今回の方が笑えた。

なお、Nの上演時間は55分くらいだったが、Iは65分ほどで、10分も長い。これは綾田のじっくりと腰を据えた演技に加え、いろいろなアドリヴが入ったためだろう。


こういう芝居は、役者によって別物のように変化することが、よく理解できた。やはり高尾祥子が女生徒を演じるJも見るべきだったかな。ほとんどセットもいらない3人芝居なので、もっと小さなスペースで、たまに上演してくれるとありがたい。


最後に、一つだけ困ったことがあったので書いておこう。上手の端で床に座って見ていた柄本明が、しょっちゅう大きな声で笑っていたのだ。それも「ここって、そんなに可笑しい場面か??」と首を傾げるところが大部分。これには他の客も戸惑っているようだった。前にも、東京乾電池とは直接関係ない別の芝居で、「変なところでばかり笑う、うるさいオヤジがいるな〜」と思って後ろを見たら、柄本明だったことがある。その時は何か楽屋落ち的な要素でもあるのかと思ったが、今回の状況を見ていると、そうでもなさそうだ。この人の笑いのツボ、ちょっと変。


(2007年5月)

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