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05/12/2007

【演劇】文学座『ぬけがら』2007.5.11

Nukegarachirashi


文学座『ぬけがら』
2007年5月11日(金) 19:00〜 紀伊國屋サザンシアター


元は2005年に文学座のアトリエ公演で上演され、2006年度の岸田戯曲賞を受賞した作品(三浦大輔の『愛の渦』と同時受賞)。好評につき、アトリエから紀伊國屋サザンシアターに進出しての再演となった。僕は初演は見ていないので、これが初見となる。脚本は佃典彦、演出は松本祐子。


以下、プログラムに書かれたあらすじの転載。

夏、県営住宅の一室。昨日母親の葬儀を済ませ、今日は妻に離婚届を突きつけられ捺印を迫られている男、鈴木卓也。41歳の元郵便局員。彼は、学生時代の友人との浮気がばれ、車で人身事故を起こし、職場もクビになる始末。心臓の悪かった母親は、度重なる心労であえなく他界。そして、残されたのは、84歳になる認知症(痴呆症)の父親ただ一人。男は失禁した父親をトイレに連れて行ったが・・・その後気が付くといつの間にか深夜。父親を探してトイレで見たものは、なんと父親の〈ぬけがら〉。そして脱皮したらしい父親は20歳若返り、元気そのもの。その後も、まるでセミのように脱皮を毎日繰り返し、父親はドンドン若返ってゆく。男は、若返る父親に戸惑いを感じるしかなかった。しかし、やがて…


いろいろ語りたいことはあるのだが、出来るだけ白紙の状態で見た方が面白いと思うので、このあらすじが限度。これ以上、細かい展開については触れないようにする。

一言で言えば、素晴らしく面白い。

あらすじからもわかる通り、一種のコメディファンタジーだ。類似の作品としては、大林宣彦の映画『異人たちとの夏』が上げられるが、テーマや感動の質について言うと、今公開されている『東京タワー』に少し近いものを感じる。だがはっきり言って、『異人たちとの夏』や『東京タワー』より、この芝居の方が何十倍も面白い。

この作品で強く心惹かれるのは、ひたすら明るい笑いの連続で、泣かせる場面を一切入れていないことだ。それでいて脳天気なだけのコメディにはなっておらず、むしろ笑えば笑うほど、心の中に涙が溢れてくる。
その理由は主に二つだろう。一つは、若返っていく父親とのやり取りによって掘り返されていく過去が、見る者の心に様々な「悔い」と、自分の思い通りにはならない人生に対する諦念を呼び起こすから。
そしてもう一つは、「死」と「別離」が、物語の通奏低音として消えることなく鳴り続けているからだ。「祭りの後の寂しさ」とよく言うが、この奇妙な構造を持った作品は、「寂しさの前の祭り」を描いているのだ。終盤近くの食卓シーンは、全編で最も笑えるシーンの一つだが、過去と現在と未来が一同に会し、間もなく祭りが幕を閉じることを予感させることで、笑いの向こうから涙がこみ上げてくる。

泣かせるシーンを一切排除しながらも、笑いの向こうから涙がこみ上げてくる。このような感動を、前にどこかで味わったことがある…終演後に思い出したのは、エルンスト・ルビッチ監督の超大名作『天国は待ってくれる』だった。
さすがにあの映画と同レヴェルの作品とは言えないが、僕がルビッチを引き合いに出したら、いずれにせよ、それは最高の誉め言葉であることを了解していただきたい。


役者は文学座のベテランから中堅、若手まで色とりどりだが、皆文句なしにうまい。中でも目立つのは、伸びやかなダンスを披露する山本郁子、ひたすら笑える高橋克明、存在感で圧倒の飯沼慧あたりか。4人の女優が皆美人なのも嬉しいところ。
主役にあたる若松泰弘は、受けの演技に回らなくてはならない分、若干損をしているが、あの生卵+牛乳飲みを本当にやってしまったのは凄いもので、客席から拍手が起きたほどだ。
山本郁子の芝居を見るのは、『春と爪』『ゆれる車の音』『壊れた風景』に続いて、これで4本目。前から良い女優だと思っていたが、今回の彼女は、これまでで最も魅力的。すっかりファンになってしまった。


見る前は、特に大きな期待をしていたわけではないので、非常に嬉しい誤算だった。「騙されたと思って見てみろ」と言いたい作品。おそらく今後も再演が重ねられる人気戯曲となることだろう。


(2007年5月)

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