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01/07/2007

【映画】2006年度外国映画ベストテン

1_johnpoca1280


1.ニュー・ワールド
2.硫黄島からの手紙
3.ココシリ
4.父親たちの星条旗
5.クラッシュ
6.ジャーヘッド
7.007 カジノ・ロワイヤル
8.スネーク・フライト
9.スーパーマン リターンズ
10.ある子供


2006年の観賞本数は洋邦合わせて述べ109本/89タイトル。その内、洋画は述べ73本/58タイトル。リバイバル作品や、東京フィルメックスで見た作品は選外扱いとしてあるので、対象となる本数は、それほど多くない。しかし内容は、いつにないほど濃い。
他の作品と同列で比べる気にならなかった『ユナイテッド93』も意図的に除外した。どうしても比べろと言うことなら、間違いなくベストテンに入る。
見逃した作品で興味があるのは『スティーヴィー』『マンダレイ』『グッドナイト&グッドラック』『カサノバ』『レイヤー・ケーキ』『キンキーブーツ』『サラバンド』『プラダを着た悪魔』など。


総じて言うなら、今年の洋画は歴史的な大豊作だった。特に6位までの顔ぶれは錚々たるものがある。


1位の『ニュー・ワールド』は不動。完全な別格。今年のベストワンどころか、生涯のベストテンにも入るであろう至高の映画。昨年、映画評を書く本数が激減した大きな理由の一つは、この作品を語る言葉を持てなかったためだ。この作品について語りきらぬまま、他の映画について何かを語るのは虚しい。その思いは、今も変わらない。

2位と4位は、クリント・イーストウッドの硫黄島二部作。実験性の高さ、映画話法の斬新さでは『父親たちの星条旗』に軍配が上がるが、物語として素直に感動できるのはの方。単なる善悪や勝ち負けを超えた視点から戦争と人間を描くイーストウッドは、70代に入って映画作家としての頂点を迎えている。チャップリン、キューブリック、ウェルズ、ヴィスコンティ、フェリーニといった巨匠ですら、そんな芸当は出来なかった。今のイーストウッドは、映画界の生きる奇跡だ。

その二部作の間に割り込んできたのが驚異の傑作『ココシリ』。2004年の東京国際映画祭で見た作品だが、今年ようやく正式公開。ロードショー時は見逃したが、その後下高井戸シネマで再見し、2年前の戦慄を覚えるほどの感動が間違いでなかったことを確認した。この作品についても語りたい。しかし語る言葉が見つからない。『ニュー・ワールド』や『ココシリ』を語ることは、言ってしまえば「世界」や「時間」、そして「生命」について真正面から語るようなもの。生半可な言葉で太刀打ちできる代物ではない。
この作品を見た人は少ないと思うが、何としてでも見てもらいたい。今、ここに自分が生きていることの不思議さと感動で、胸がいっぱいになるはずだ。

5位の『クラッシュ』と6位の『ジャーヘッド』は、それぞれ長めの単独レビューを書いているので割愛。順位はどっちが上でも構わない。これほどの作品を5位前後にランクせざるをえないことが、今年の豊作ぶりをよく表している。

7位の『007 カジノ・ロワイヤル』は、007シリーズの中でも1,2を争う傑作だ。ダニエル・クレイグが、これほど魅力的な俳優だとは夢にも思わなかった。そして、この映画の陰の立て役者は、間違いなくポール・ハギスだ。

8位の『スネーク・フライト』は、興行的には大コケしたようだが、誰が何と言おうと愛すべきB級映画の傑作。『ニュー・ワールド』や『ココシリ』を見て魂を揺さぶられる経験はもちろんだが、『スネーク・フライト』のようなバカな映画を見て大笑いできる快楽も、僕が映画を見続ける大きな理由の一つなのだ。

9位の『スーパーマン リターンズ』も単独レビューを書いているので割愛。過去のシリーズに最大の敬意を払いつつ、それを遙かに凌駕した、驚くべき作品。

10位の『ある子供』は、『ロゼッタ』『息子のまなざし』も素晴らしかったダルデンヌ兄弟の佳作。決して派手ではないが、前2作同様、人間の愚かな行いを上から断罪することなく、静かな共感に満ちた視点から描く手法は、しみじみとした感動を残す。

以上で10本になってしまったが、他にも『カーズ』『ナイロビの蜂』『Vフォー・ヴェンデッタ』『ホテル・ルワンダ』『インサイド・マン』など、ぜひベストテンに加えたい作品が何本もある。

総じてアメリカ映画の質が非常に高かった。何と中国映画『ココシリ』を除く9本が全てアメリカ映画だ(『硫黄島からの手紙』は実質日本映画?)。見逃した作品まで眺めても、アジアとヨーロッパに、これぞという作品は乏しく、質量共にアメリカ映画の圧勝だ。
ハリウッドの大作主義が斜陽期に入ったことと、911以降の内省的な空気が、これまでにない陰影をもたらしているようだ。今後アメリカ映画は、ソフト面でもハード面でもさらに多様性を増していくだろう。それは産業的にはともかく、映画ファンからすれば好ましい変化になると思う。60年代とはかなり違った形で、第二のアメリカンニューシネマが勃興する予兆を感じる。


なお、年末公開の『リトル・ミス・サンシャイン』は、年が明けてから見たので2007年度回しとするが、ここに加えたら、ベスト5に入ったかもしれない。見ている間よりも、見終わって数日経った今になって、この映画がたまらなく愛おしいものに思えてきた。『フル・モンティ』などと比較されそうだが、僕には、これこそアメリカンニューシネマのスピリットを21世紀に甦らせた作品に思える。


次いで部門賞。


★監督賞
テレンス・マリック『ニュー・ワールド』

★脚本賞
ポール・ハギス
『クラッシュ』『父親たちの星条旗』『007 カジノ・ロワイヤル』

★主演男優賞
ダニエル・クレイグ『007 カジノ・ロワイヤル』

★主演女優賞
クオリアンカ・キリュヒャー『ニュー・ワールド』

★助演男優賞
ポール・ニューマン『カーズ』

★助演女優賞
キャロル・ブーケ『美しき運命の傷痕』

★演技アンサンブル賞
『クラッシュ』

★撮影賞
カオ・ユー『ココシリ』
エマニュエル・ルベツキ『ニュー・ワールド』『トゥモロー・ワールド』

★音楽賞
『ニュー・ワールド』


監督賞は、ぜひイーストウッドに上げたかったのだが、「奇跡」の度合いでは、テレンス・マリックという作家が映画を作り続けていることの方が上だろう。この人と同じ時代に生きているのだと思うだけで、身が引き締まる。僕がこの世を生きていく上で、マリックの存在は大きな灯の一つだ。

脚本賞は、もちろんポール・ハギス。何しろベストテン入りした作品の内、storyでクレジットされている『硫黄島からの手紙』を含め、4本の作品に関わっているのだ。テレンス・マリックを別格とすれば、マン・オブ・ジ・イヤーはこの人を置いて他にあるまい。今後のアメリカ映画を背負って立つ、傑出した才能だ。

主演男優賞は、『ニュー・ワールド』と『マイアミ・バイス』の合わせ技でコリン・ファレルにしようかとも思ったが、予想を遙かに超えた素晴らしさで、新しいジェームズ・ボンドを演じきったダニエル・クレイグに。他に名前を挙げておきたいのは、『ホテル・ルワンダ』のドン・チードル、『インサイド・マン』『トゥモロー・ワールド』のクライヴ・オーウェン、『ブロークン・フラワーズ』のビル・マーレイ、『ミュンヘン』のエリック・バナ、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』のヴィゴ・モーテンセン、『スネーク・フライト』のサミュエル・L・ジャクソン(笑)、『硫黄島からの手紙』の渡辺謙など。今年は魅力的な男優が目白押しだった。

主演女優賞は、『ニュー・ワールド』の驚異の新星クオリアンカ・キリュヒャー以外にありえない。ただし『シン・レッド・ライン』のジム・カヴィーゼルと同様、彼女もこれ以上の魅力を他の作品で発揮することは、まずないだろう。

助演男優賞は、『ニュー・ワールド』のクリスチャン・ベール、『X-MEN ファイナル ディシジョン』『ダ・ヴィンチ・コード』のイアン・マッケラン、『スーパーマン リターンズ』のケヴィン・スペイシー、『硫黄島からの手紙』の伊原剛志など、こちらも印象的な男優陣が目白押し。順当にいけば『父親たちの星条旗』のアダム・ビーチを上げるべきだろうが、『カーズ』のポール・ニューマンは、声だけの出演でありながら、彼の俳優人生がにじみ出るような演技で、映画の格を一挙に押し上げていた。あの重みと風格に一票。声だけの出演と言えば、『ナルニア国物語』のリーアム・ニーソンも良かったな。映画自体は、どうでも良かったが。

助演女優賞は、オスカーを獲った『ナイロビの蜂』のレイチェル・ワイズでも良かったが、ポール・ニューマンと同様、単なる演技力を超えた「年輪」とでも言うべき存在感で圧倒したキャロル・ブーケに。

主演・助演の区別がつけがたい群像ドラマ『クラッシュ』の俳優たちには、演技アンサンブル賞を贈る。特に印象的だったのは、やはりマット・ディロンか。

去年は撮影賞までは設けなかったが、今年この二人に賞を与えないということはありえない。『ニュー・ワールド』において、『バリー・リンドン』と並ぶ映画史上最高の映像美を作り出し、『トゥモロー・ワールド』では驚異の長回し戦闘シーンを見せてくれたエマニュエル・ルベツキ。『ココシリ』で信じがたいほど過酷なロケーション撮影を敢行し、巨大な自然とちっぽけな生命の対比を余すところなくフィルムに焼き付けたカオ・ユー。脚本も演出も演技も優れているが、あの絵作りがあってこその『ニュー・ワールド』であり、『ココシリ』だ。あんなとんでもない映像を1年に2本も見られるなど、もう二度と無いことかもしれない。

音楽賞は『ニュー・ワールド』。ただしオリジナルスコアではなく、もっぱらモーツァルトのピアノ協奏曲に。既成の名曲を使ったからといって、それが必ず素晴らしい感動を与えるわけではない。『ニュー・ワールド』は、名曲をさらなる名曲として響かせる手法において優れていた。


2007年は、テレンス・マリックはもちろん、このところ1年に1作以上のペースで撮っていたイーストウッドの新作もなさそうだ。しかし予想だにせぬところから、驚くような作品が姿を現すかもしれない。今年も良い映画との出会いがありますように。


(2007年1月)

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Comments

 こんにちは。TBありがとうございました^^「ココシリ」と「スネークフライト」は僕も予想だにしなかった傑作!ということでぜひベスト10に入れたかったんですが惜しくも次点となってしまいました。2本とも映画館がガラガラだった、というのも印象に残っています(泣)

Posted by: nappa | 01/07/2007 at 11:17

こんばんは。トラックバックありがとうございます。「ニューワールド」別格ですか。未見なんで、レンタルで見てみます。
「スネーク・フライト」は、面白かったですね。ガラガラとは言え、パトスでなく、TOHOシネマズの比較的大スクリーンで見られて、SONYとTOHOシネマズの英断に感謝。

Posted by: 夜の帝王 | 01/08/2007 at 02:03

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