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10/22/2006

【演劇】MODE『秘密の花園』2006.10.21

Himitsu1


MODE『秘密の花園』
2006年10月21日(土) 19:00〜 笹塚ファクトリー


『唐版 風の又三郎』『唐版 俳優修行』に続く、MODEの唐十郎劇第3弾。今回はMODE常連の中田春介と織田果南を除けば近畿大学出身の若手ばかりで、ほぼ『唐版 風の又三郎』に近い配役となっている。

ストーリーは前の2作に比べればわかりやすい(それでも説明しろと言われると不可能だが)。何よりも前の2作のように「時代背景を知らないと、頭では理解できても、心に響かない」という要素がほとんどない。ただし舞台がほぼ一室に限定されているため、少し地味になった印象はある。それを補うため、後半の洪水シーンかあるのかもしれないが。


結論から先に言うと「まあまあ」といったところ。いびつながらも得体の知れないパワーが感じられた前2作に比べると、こじんまりとまとまりすぎてインパクト不足の感は否めない。

最大の問題は近畿大学出身の若手で固められた配役だ。『風の又三郎』は、東京での上演前に何度も演じてきたせいか皆芝居がこなれていたし、『俳優修業』は展開が騒々しいので、荒削りな若さがプラスに働く部分も多かった。しかし今回は先述のとおり地味な設定とストーリーで、動きが少ない。その分台詞による感情表現や、見る者を退屈させないリズムを作り出す力が必要だが、それを達成するには、まだみんな俳優修業が不足しているようだ。

アキヨシ役の齋藤圭祐。『俳優修業』の坂田役は良かったが、『風の又三郎』同様、主役級の役を演じるには、まだまだ観客を引き寄せるだけの強い魅力に欠けている。特にどこが悪いということはないのだが、あまりにも薄味過ぎて印象に残らない。

それ以上の実質的な主役は、一葉と双葉の二役を演じる山田美佳だろう。わずか1年でMODEの看板女優の座についた山田だが、この作品では彼女の実力不足が露呈していた。山田には間違いなく独特の魅力がある。それは今回も健在だ。しかし純粋な演技力に関して言うと、まだあまりにもレンジが狭すぎる。
彼女の大きな魅力は、少女性と少年性が同居したような奇妙なエロティシズムだ。その魅力は『風の又三郎』においては遺憾なく発揮されていた。『俳優修行』は、それに比べると落ちるものの、あの小柄な体にダブダブとした警官の服を着て演技する様には、やはり倒錯的な魅力が漂っていた。その2作の間に上演された『冬のエチュード/シェイクスピア2005』では、「関西弁によるシェイクスピア」という地の利を生かした(?)反則技で見る者の心を捉えた。
しかし今回の一葉と双葉の二役は、どちらも「大人の女」であり、彼女のロリータチックな魅力だけで乗り切れるものではない。特に一人二役の演じ分けには、かなりの難があった。彼女なりに工夫してがんばっているのはよくわかるのだが、むしろ痛々しさが先に立ってしまう。声量が著しく不足しているせいもあって、声の演技に幅がなさ過ぎるのが致命的だ。
見ていないが、この作品は春に三田佳子の主演で上演されている。三田佳子と山田美佳では実年齢が40歳も違う。最初は「え? この役を三田佳子がやったの? 勘弁して欲しいなあ」と思っていたのだが、見ていく内に、これならば間違いなく三田佳子の方が役に合っていただろうと思った。MODEの前ヒロイン石村実伽だったら、どうだろう? 彼女にもあまり合った役柄とは思えないので、多分それほど傑出した演技にはならなかっただろう。しかし3年前に『ゼロの神話』をこなした実力からすれば、山田よりは確実に深みのある芝居をしたはずだ。特に二役の使い分けは相当の見応えがあったに違いない。
この役を演じるには、天性の魅力や若さ故の瑞々しさより、人間としても女優してもある程度の経験を積んだ上での「豊かさ」が必要だ。その点、山田はあまりにも幼すぎる。彼女がプロとして舞台に立ったのは、まだこれで4作目のはず。もう少しいろいろな芝居に出て演技の幅を広げてから、再挑戦した方が良いだろう。

『風の又三郎』で特に印象に残った森田真和と堀江勇気は、前作ほどではないにせよ惹きつけられるものがあった。彼らは二人とも関西で「尼崎ロマンポルノ」という劇団に所属しているそうで、さすがに息の合った絡みを見せてくれる。ただし、その部分だけ他から浮き上がっていた感は否めない。

そして中田春介だが、今回は明らかに生彩を欠いていた。大好きな役者なのだが、合う役がある程度決まっていて、今回はミスキャストだったと思う。『城』の時と同様、怒鳴るような口調で台詞を矢継ぎ早に吐き出す役をやると、どうしても単調になってしまう。やはりこの人は、一歩退いて「間」や「味」を生かせる役で、初めて真価を発揮する。


さらに根本的な事を言ってしまうと、3作品見た結果、やはりMODE/松本修に唐十郎劇はあまり合っていないと思う。松本修ならではの上品さを拭うことが出来ず、結果的に「薄味の唐十郎劇」にしかならないからだ。それならそれで、もっとアーティスティックに洗練された唐十郎劇を構築するか、あるいはもっと大胆に戯曲を解体して、松本修にしか出来ない演出を施せばいいのに、妙にオーソドックスなのだ。井手茂太の振り付けが入るわけでもなく、一つの役を数人の俳優が演じるわけでもなく、いきなりアドリヴの座談会が始まるわけでもなく、松本修ならではの個性が感じられない。はっきり言って、これでは誰が演出してもあまり変わらない。その上役者たちがまだまだ未熟ときては、普通に唐組の芝居でも見ていた方がいい、ということになってしまう。
また前の2作でも気になっていたのだが、今回特に目に余ったのは、誰かが前で芝居をしているとき、他の役者が後ろで手持ち無沙汰にしているシーンが多すぎることだ。後半中田春介がずっと窓際に座っているのだが、それが劇の上で何の意味もなしておらず、むしろ後ろで退屈そうにしている役者がいることが劇の緊張感を削いでしまっている。これは中田の責任と言うよりも演出上の問題だろう。いくら中田でも、あれだけの長時間、背景として何らかの意味を持った演技をしろというのは無理だ。あそこは演出上、何らかの形で彼を退場させるべきところだろう。多分戯曲には何も書いておらず、大貫(中田の役)はずっとそこにいることになっているのだろうが、それをただ何の工夫もなく座らせているのでは「演出」の意味がない。


…と、文句を言い始めると切りが無いのだが、総合的には決してつまらなかったわけではなく、最初に書いたとおり「まあまあ」の出来。唐十郎劇を見るたびに、前半必ず「こりゃ駄目だ。話がわからん。ついていけない。やはり唐劇は自分には合わない」と思うのに、後半になると何故か胸が熱くなり、見終わると一抹の寂しさと不思議な感動が残る。この感動の正体が一体何なのか未だにわからない。やはり花園神社のテントで唐組によるオリジナルの唐十郎劇を見て、それを確認すべきだろうか。
それでもつい文句が先に立ってしまうのは、前に書いたとおり、MODE/松本修と唐十郎劇が資質的に合っていると思えないからだ。もちろんこの一連の上演を通して、確実に何か得るものはあったはずだが、松本修にはもっと松本修ならではの資質を生かした芝居を作って欲しいものだ。


なお来年のMODEは、3月にスズナリで『変身』、11月頃に世田谷パブリックシアター/シアタートラムで『AMERIKA』の再々演+『審判』と、1年間で3本のカフカ作品を上演する。こんな企画はひょっとすると世界初ではないだろうか。この1年間、非常に小さな小屋で若手中心の唐十郎劇3本+シェイクスピア1本をやってきたことからすれば、実に大胆な方向転換だ。また以前のようなワークショップ形式で作られるはずだから、来年はその3本が全てになるだろう。唐十郎劇という迂回路を辿った後のMODEがどんな変化を遂げているか、楽しみにしよう。
ただ一つ残念なのは、そこに石村実伽の姿がないことだ。『AMERIKA』で、彼女が演じるカール役はもう二度と見られまい。他の誰だろうが、あれ以上魅力的なカールを演じることなど出来ないだろうに…


(2006年10月)

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