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09/10/2006

【映画】『X-MEN:ファイナル ディシジョン』これでは完結できない

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僕はこの『X-MEN』というシリーズが大好きだ。その愛着は「肌が合う」という言葉でしか説明のしようがないものである。しかしこの第3作は、監督がブライアン・シンガーからブレット・ラトナーに交代。シンガー独特の映像美やマイノリティの孤独といったテーマがすっかり希薄になってしまい、少々微妙な出来になっている。


以下、ネタバレあり。


今回の脚本家はサイモン・キンバーグとザック・ペン。監督のブレット・ラトナーは脚本には関与していない。サイモン・キンバーグはシリーズ初登場で、代表作は『Mr.&Mrs.スミス』。ザック・ペンは『エネミー・ライン』などの人で、第2作にstoryでクレジットされている。最初の2作にクレジットされているブライアン・シンガーとデヴィッド・ヘイターは姿を消している。
詳しく書いた理由は言うまでもない。本作は演出よりも脚本面で首を傾げる部分が多いからだ。

最大の欠点は、本作の二大モチーフである「ミュータントに生き方の選択を迫るキュア」と「ジーン・グレイの暗黒面の覚醒」が、まったく噛み合っていないことだ。

特に問題なのはアルカトラズ島を舞台にしたX-MEN対ブラザーフッドの対決で、ドラマとしてのメカニズムが根本的におかしい。

まず「キュア」について言うと、X-MEN側ははっきり肯定も否定もしていない。一方ブラザーフッドは「キュア」に対して明確なノーを突きつけ、暴動を起こしている。
X-MEN側にとって大切なのは「ジーン・グレイ」の方だ。彼らがアルカトラズ島へ行くのも、ジーンを取り戻すためである。一方ブラザーフッド側はジーンをどう扱おうとしているのかがよくわからない。ブラザーフッドの理念に明確な賛同を示したわけではなく、一体なにをやりたいのか明確ではないジーンがアルカトラズにいる意味はほとんどない。
そのため両者の全面対決であるにも関わらず、対立の争点が曖昧になってしまっている。X-MENの目的はジーンを取り戻すことのはずなのに、いざアルカトラズに着くと、ジーンそっちのけで、キュアの根源である子供を助けようとする。彼らは一体何をやりたいのだろう? しかもあの子供やキュア問題は結局どうなったのか、最後まで見てもよくわからない。これではあの対決が一体何のためにあったのか、ますます意味不明になってしまう。

早い話が「キュア」と「ジーンの覚醒」は明らかに別の物語で描くべきだったのだ。
キュアによる人類への同化を拒否し、逆に人類殲滅を企てるブラザーフッド。それに対し、キュアを使うか否かはミュータント一人一人の意志の問題だと結論したX-MENは、人類の急進派とブラザーフッドの両方を相手に戦うことになる…これだけで物語は成立するし、前2作のテーマともうまくつながる。
そしてジーンの覚醒をメインにするなら、テーマ性は薄れるかもしれないが、世界を破滅させうる最終兵器ジーンを巡る攻防戦と、ジーン自身の内的な苦悶で、十分に1本の映画ができるはずだ。
ところが本作は、2つのモチーフを無理矢理1本の映画に押し込め、その2つを関連づけることに失敗している。そのため作品の焦点がぼけてしまい、彼らが何のために戦っているのかがよくわからなくなっている。これが本作の最大の欠点だ。


もう一つの欠点は、多くのキャラクターが出て来る割には、それを生かし切れていないこと。はっきり言えばこのストーリーは、ウルヴァリンとジーン、そしてプロフェッサーXとマグニートーの4人だけいれば成立する。あとは全部ただの脇役に過ぎないのだが、その脇役の扱いが妙に中途半端だ。

例えば1作目ではほぼ主役と言ってもいいポジションにあったローグ。彼女がキュアの開発を歓迎するのはわかるが、その後ドラマらしいドラマもないまま学園を去り、超能力を失ってお仕舞いでは、あまりに投げやりではないか。第1作目の彼女の苦悩は何だったのかと言いたくなる。
ストームはいつにもまして能力を発揮するが、それは単なるアクションとして機能しているに過ぎず、彼女がドラマの本質に関わってくることは全くない。
ミスティークは序盤でやけに活躍すると思ったら、あれで終わりか。彼女が人間に戻ってしまうエピソードを後半に持ってきて、マグニートーの心の揺らぎを描けば、もっと深みが出ただろうに。
前作で登場したキティやコロッサスは単なるアクション要員。アイスマンとパイロは、前作からの因縁もあるし「炎と氷の対決」という面白さもあるので、脇役としてはかなりマシな方だ。
サイクロプスについては、哀れすぎて書く気にもなれない(泣き笑)。あれは彼一人がブライアン・シンガーについて『スーパーマン リターンズ』に出演した事への嫌がらせか?
また前作であれほど活躍したナイトクロウラーが今回登場しないのは、どうにも納得できない。

そして新登場組。ビーストはかつてX-MENの一員だったようだが、その過去についてほとんど触れられていないので、最後までストーリーの中にうまく馴染んでいない感じがした。
白い翼を持つエンジェル。オープニングにも登場するし、描写にそれなりの時間が費やされているが、彼がいなくてもストーリーの進行には何ら差し支えがない。つまり無駄なキャラクター。そんな新キャラを描くくらいなら、ローグやストームのドラマをもっと描いてやれ。
マグニートー配下の新キャラも、視覚的には面白いがドラマ性は皆無。ジャガーノートは、どうせならコロッサスとのガチンコ対決が見たかった。


そのように欠点の多い作品だが、アクションとスペクタクルに関しては、前2作の比ではない。実に豪快で血湧き肉躍る、最高のVFXを楽しむことが出来る。何と言ってもマグニートーが大活躍。ミスティークを取り戻すためにパトカーやトレーラーを手玉に取るシーンもいいが、ゴールデンゲートブリッジを動かしてアルカトラズへの架け橋にしてしまう壮大さは娯楽映画の鑑だ。ジーンが破壊能力をフルに発揮するクライマックスも、息を呑むほど素晴らしいショットが幾つもあり、凄まじいの一語に尽きる。この辺りは前2作にない大きな魅力と言っていいだろう。


だが総じて言うなら、長所はアクションとスペクタクルの凄さのみで、前2作にあった深いドラマ性やテーマを失い、いかにもハリウッド的な娯楽映画になってしまった印象が強い。撮影監督のニュートン・トーマス・シーゲルがブライアン・シンガーについて『スーパーマン リターンズ』に行ってしまったせいで、シリーズの大きな魅力であった、寒色系の寒々とした映像美も失われている。


…と文句を言いつつ、実はすでに2回見てしまった(笑)。大切な魂を失った本作ですらX-MENワールドであることに変わりはなく、最初の観賞後2作目をDVDで見直したら、その続きをまたどうしても見たくなったからだ。X-MENワールドは、それほど僕にとって「肌が合う」世界なのだ。


人に触ることで相手の生命力を吸い取ってしまうローグを中心に、マイノリティの孤独と哀しみを最も痛切に描いていたのが第1作。

多くのキャラクターを効果的に動かし、スタイリッシュなアクションも完成。前作からさらに一歩進んだところで、マイノリティの生への希望を示したのが第2作。

テーマ性は大きく交替したが、アクションとスペクタクルの派手さで圧倒するのが第3作。

3作品、どれもそれぞれに魅力的だ。

しかしあらためて思う。

この第3作だけは、前2作と同じブライアン・シンガー監督で完成できなかったものなのか。

もしこの『X-MEN:ファイナル ディシジョン』X-MEN: The Last Standが『X-MEN』と『X-MEN 2』に続く三部作の完結編でなく、『バットマン ビギンズ』のように新たに仕切り直したシリーズの1作目であれば、もっと素直に誉めることが出来ただろう。あの2作の完結編がこの物語というのは、やはり何か違うと言わざるをえない。


なお2回見たら、エンドクレジットの後に登場した患者と看護婦が何者なのか、やっとわかった。映画の最初の方で授業をしているプロフェッサーが、モニターに映った彼らを示し、「たとえばこの植物状態の患者に、末期癌の患者の意志を転写することは許されるだろうか」と言うようなことを語っていたのだ。そのシーンだけ見ると、質問もテーマも唐突で、プロフェッサーが一体何を言おうとしているのかわからなかったのだが、つまりあれはプロフェッサーが死ぬ間際に自分の意識を患者に転写したということだったのだな。

あのラストから第4作目は作られるのだろうか? 


(2006年9月)

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Comments

あのラストはそういう意味だったのですか?
映画は2回観ると、
新しい発見がありますね。

Posted by: えい | 09/11/2006 00:47

 お久しぶりです。何かエンジェルについてなど全く逆の感想になってしまいましたがTBありがとうございました^^;

 あのラストにはそんな意味があったんですね。続編もぜひ作って欲しい気がします。

Posted by: nappa | 09/11/2006 03:21

TBさせていただきました。

結構、興奮しました。
続編、充分ありえますね。

Posted by: タウム | 09/18/2006 09:47

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