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08/16/2006

【映画】『ユナイテッド93』見ないで済ませたかった傑作

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2001年9月11日、テロリストによってハイジャックされた4機の飛行機の内2機はワールドトレードセンターに、1機はペンタゴンに激突した。しかし残る1機、ユナイテッド93便だけはペンシルベニア州の郊外に墜落し、乗客乗員全員が死亡したが、地上に被害者を出すことはなかった。

5年前に起きた、誰もが知る歴史的事件をドキュメンタリータッチで描いた映画。


まず映画としての長所と短所を述べよう。


大きな短所として上げられるのは、ドキュメンタリータッチに固執し、ドラマ的な演出を極力排したため、前半がかなり退屈になってしまったこと。あちこちの管制センターがカットバックで描かれるのだが、それがあまりに急がしすぎて、日本版でテロップが付け足されているにもかかわらず、誰がどういう人物で、どの組織がどういうポジションにあるのかのかがよくわからない。
さらにまいったのは、カメラが激しく揺れ動く上に、カットが非常に細かいため、字幕を読むのがかなりつらいこと。目がチカチカしてきて読むのを諦めてしまった部分さえある。まあ字幕を読まずとも、何が起きているのか(起きたのか)大筋はほぼわかっているので、致命的な問題にはなっていないのだが。

そもそも前半で、管制センターや軍部の動きをあれほど描写する必要があったのだろうか? 後半は完全にユナイテッド93便の中だけに話が絞られて、前半に出てきた人々がまったく登場しなくなってしまう。そこまで来て初めて映画が異常な緊張感を持ち始めるのだから、そもそも最初から93便の中だけを延々と描き続けた方が正解だったのではないだろうか?

とは言え、前半の管制センターの描写が、あの9月11日の雰囲気を鮮明に甦らせてくれることは確かだ。また93便だけに話を絞った場合、どうしても観客一人一人のキャラクターや人生模様を描き込むことになって、ドラマ的な要素が濃厚になってくる。それを避けたかったという狙いは分からなくもない。また、前半の退屈さやチャカチャカしたカッティングが、作品の価値をそれほど大きく損ねているわけでもない。これがベストな語り口だったかどうかは疑問だが、一つの方法として認めることは出来る。


長所について述べれば、まずポール・グリーングラス監督の演出だ。話が93便の中に絞り込まれてからの緊迫感は尋常ならざるもので、前半だれきった姿勢で見ていたのが、いつの間にか姿勢を正し、結果はわかっているにも関わらず、食い入るように画面に見入ってしまった。ある意味、これこそパニック映画の最高峰と言えるかもしれない。
またこの作品が、政治的プロパガンダや浅薄なメロドラマに堕すことを免れた最大の理由は、テロリストを単なる悪役にしないのはもちろん、乗客を美化することも避けた、クールな視点にある。これも脚本を担当したグリーングラスの功績だろう。

この作品を見て考えさせられたことは山ほどあるのだが、中でも印象深かったのは、乗客が「これ以上、地上の犠牲者を出さないため」といった類の言葉を一切口にしないことだ。
何故ユナイテッド93便の名が、今も大きな感動をもって語られるのか? それは乗客が反撃を企てたことで、ハイジャックされた飛行機の中で唯一テロリストが目標を果たせず、地上に一人の犠牲者も出さなかったからだ。
そして大部分の人間は、「地上に一人の犠牲者も出さなかった」という点にとりわけ感動する。それは911という大きな悲劇におけるわずかな救い、人間の尊厳を示す出来事のように見えるからだ。
しかしこの映画は、そのような見方をやんわりと否定する。テロリストと闘う乗客たちは、あくまでも自分たちが生き残ることを目的に立ち上がる。決して「地上の犠牲者をこれ以上増やさないため」ではない。それは当然のことだろう。確かに彼らは、携帯電話を通じて、他の飛行機がワールドトレードセンターやペンタゴンに衝突したことは知っていた。しかしテレビでリアルタイムの映像を見ていた我々ですら、その大惨事が意味するもの、とりわけそこにいる人々がどんな状況にあるかを飲み込むのにずいぶん時間がかかったのだ。目の前に血まみれの死体が転がり、自分自身がハイジャックされた飛行機に乗っている圧倒的不条理の前では、伝聞のように伝わってくる外の状況など、ほとんどリアリティを持たなかったに違いない。理性の片隅で、その意味は考えたかもしれないが、彼らを突き動かしたものは、決して正義感や政治的な意識ではなく、「このままでは殺される」「何としてでも生き延びなくては」という、生物としての根本的欲求だったはずだ。そんな当たり前のことに、ようやく気づくことが出来た。その一点だけでも、この映画には大きな存在意義がある。

それは一方のテロリスト側にも言える。この映画は、テロリスト側、乗客側のどちらに対しても善悪の判断を下さず、そこで起きた出来事をあたかもドキュメンタリーのように淡々と描写する作品だ。もちろん生存者がいない以上、描かれた物語の多くはあくまでもドラマなのだが、それは十分すぎるほど「実際にありえたドラマ」あるいは「実際に起こったであろうドラマ」であり、非難されるべき誇張はほとんど見あたらない。
そのようなクールな視点から描かれたテロリスト4人の姿には、憎しみよりも、憐れさや同情が先立ってしまう。これも映画を見て初めて納得できたことだが、たった4人で44人の乗客乗員がいる飛行機をハイジャックし、数十分飛行した後目的地に首尾良く衝突するというのは、本当に困難な作業なのだ。乗客も怖いだろうが、犯人側も怖い。ちょっとでも隙を見せたら反撃されるので、最初にいきなり一人の乗客を殺してデモンストレーション、その後もちっぽけな武器で威嚇しまくるが、いかんせん多勢に無勢。じりじりと迫る反撃の恐怖。パイロットを務める犯人は、実際に大型旅客機を飛ばすのは初めてなので、最初からいっぱいいっぱいで汗ダラダラ。その緊張や恐怖感が手に取るようにわかるため、見ているこちらまで胃が痛くなる。
ついに勃発する乗客の反撃。この描写が凄い。「愛するものを守るための正義の闘い」などではまったくない、むき出しの残酷な暴力。一切の容赦無く犯人に襲いかかる乗客の姿は、はっきり言えば、ゾンビ映画で人間に襲いかかるゾンビの姿そのものだった。
しかし、それがごく当たり前の現実だったのだろう。


そして『ユナイテッド93』という映画は、ドラマ性を排し客観的な視点に立つことで、通常の商業映画ではありえないタイプの感動を与えてくれるのと引き替えに、「見終わった後の救いの無さ」という十字架を背負うことになる。

乗客には生きて家族のもとに帰りたいという強い希望がある。
犯人には飛行機をホワイトハウスに突っ込ませたいという強い希望がある。
相容れぬ二つの希望は、どちらも達成されることはない。
最初から結果はわかっているにも関わらず、その結果が出た瞬間の虚しさは、あまりにも大きい。

乗客と犯人は、それぞれ自らの希望が達成されることを神に祈る。キリスト教とイスラム教は本来兄弟のような宗教であり、彼らが祈る「神」はまったく同じ存在だ。
相反する祈りを捧げられた神は、どちらの祈りも聞き届けることなく、両者の命を奪い去る。
それは人間の愚かさに対する神の怒りなのだろうか?
それとも彼らが考えるような神など最初からいないことの証なのだろうか?


そろそろ結論を言おう。

『ユナイテッド93』は、決して映画史を塗り変えるようなタイプの作品ではない。そもそも純粋に映画として見た場合、幾つもの欠点がある。だがたとえメディアを通してであれ、911をリアルタイムで目撃し、その後の世界の変化を知る者なら、この作品に何らかの感動を覚えずにはいられないだろう。見る者の胸に強い印象を残す、傑作の名に恥じぬ作品だ。


しかしこの映画をあえて一言で評するなら「二度と見たくない傑作」、あるいは「出来れば見ないで済ませたかった傑作」という言葉が最もふさわしい。

この映画を見終わった後の虚しさ、救いの無さは、それほど深く大きなものだからだ。


すでに述べてきたように商業的なドラマ性を極力排した作品だが、乗客の一人が携帯電話で家族と最後の会話を交わした後、隣の人に「あなたも大切な人におかけなさい」と言って携帯を渡すシーンでは、さすがに目頭が熱くなったことを、最後に付け加えておく。


(2006年8月)

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Comments

『出来れば見ないで済ませたかった傑作』というタイトルにすごく共感します。

見終わった後の救いのなさや虚しさ。
それを感じさせるのも映画の力なんだなとすごく感じました。

でもそんな映画が作れない世界になってほしい。
本当の神がいるならそう願わずにはいられません。

Posted by: 傷だらけの天使 | 08/20/2006 at 13:06

こんばんは。
今年は「見ないですませたかった傑作」がたくさんありますね。ホテルルワンダやイノセントボイスなど。。。
見ないですませたかった真実がなくなる事を祈りたいです。

Posted by: よしなしごと | 08/21/2006 at 02:12

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