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07/02/2006

【映画】『カーズ』ピクサーアニメ不敗伝説はどこまで続く?

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ピクサーアニメ不敗伝説も、ついにここで終焉か?

まず観客が少ない。僕の見た回はレイトショーの字幕版だからというせいもあるだろうが、昼の回でも少なかったという話が耳に入っている。公開初日、しかもファーストデイサーヴィスで入場料1000円にも関わらずだ。実際『ファインディング・ニモ』や『モンスターズ・インク』『Mr.インクレディブル』に比べると、明らかに世間で話題になっている感じがしない。

いつになく客足が鈍い理由は、主に二つだろう。
第一に、宣伝が驚くほど地味だ。これがどういうお家事情によるものかは知らないが、ピクサーアニメのファンである僕ですら、「ああ、もう今週から公開なんだ」という印象。テレビで予告編を見た記憶もないし、どこかの企業とのタイアップも目にしない。『ファインディング・ニモ』の大々的な宣伝攻勢に比べると、驚くほど地味だ。ちなみに公開が始まった今も、日本の公式サイトには未完成の部分が残っていて、誰が声を当てているのかという基本的な情報さえ載っていない。ブエナビスタは一体何をやっているのだろう。
第二に、最近シネコンでハリウッドメジャーの映画を見ると、必ずCGアニメの予告編を見せられる。しかも絵柄や、予告編から推測できるストーリーは、予備知識が無ければピクサーアニメとあまり区別が付かない。この1年ばかりでも『チキン・リトル』『ロボッツ』『森のリトル・ギャング』『アイス・エイジ2』など、もうどれがどれやら状態。そんなCGアニメが氾濫するご時世では、かつてのように「一目見ただけででピクサーアニメ」をアピールすることは、もはや不可能だ。必然的に『ファインディング・ニモ』や『モンスターズ・インク』に感動した人が必ず足を運んでくれる率は低くなる。


まあ、メジャー系の映画がヒットするかどうかは関係者でない自分にとっては、さほど重要な問題ではない。問題は中身だ。ところがこちらにも首を傾げる部分が見受けられる。


まずこの映画、本編が122分もある。予告編と本編前の短編『ワンマンバンド』を加えた全上映時間は、実に2時間25分だ。これは、子供の観客を重視すべきアニメーションとしては明らかに長すぎる。

ちなみにこれまでのピクサーアニメ(長編)の上映時間は以下の通り。

『トイ・ストーリー』81分
『バグズ・ライフ』96分
『トイ・ストーリー2』92分
『モンスターズ・インク』92分
『ファインディング・ニモ』100分
『Mr.インクレディブル』115分
『カーズ』122分

一片の無駄もない『ファインディング・ニモ』は100分でもOKだが、『Mr.インクレディブル』と『カーズ』に関しては、明らかにもっと短くすることが出来るし、その方が作品のクオリティが上がったと思う。


さらに内容そのものにも問題がある。

開巻早々、膨大な情報量が、かつてないスピードで押し寄せてくる。今までのピクサーアニメと同じつもりで見ていると、あっという間に置いてきぼりを食ってしまう。しかも車やレースに関する知識が相当必要で、その手のマニアックなネタが随所に詰め込まれている。もちろん一般常識程度の知識で十分わかる部分もあるが、製作スタッフがかなりマニアックに遊んでいると思われる描写も相当ある。完全には意味が理解できないのに、なまじ「今のは間違いなく車ネタだ」とわかるため、心理的な消化不良に陥ってしまう。またレーシングカーのスポンサー獲得争いや、フェラーリに憧れるフィアット(←イタリア語を話す)の話など、普通の子供にはまずわからないだろう。大人向きと言うより「子供には難しい」という意味では、これまでの作品中ダントツ。最も大人向けだった『Mr.インクレディブル』を遙かに超えている。

この「マニアックなネタの羅列」「膨大な情報が矢継ぎ早に押し寄せる」という二つの欠点は、「8歳から80歳まで誰でも楽しめる」ピクサーアニメの伝統的な良さを大きく損ねている。大人の僕ですら、かなり付いていけないものを感じたのだ。よほどの車マニアでない限り、子供たちの多くは始まって30分以内に画面から心が離れてしまうことだろう。


「ピクサーアニメ不敗伝説も、とうとうこの作品で終わりを告げた」…そう思った。


確かに上に上げた欠点は、否定しようのないマイナス点として最後まで存在し続ける。


だが、あまりにせわしない最初の30分ほどを何とか乗り越え、舞台がルート66の傍らにある田舎町ラジエーター・スプリングスに落ち着くと、かなり様子が変わってくる。

自らの能力を絶対と信じ、人の助けなど借りなくてもレースに勝てると信じていたライトニング・マックイーンが、自分の価値観と真逆にあるような世界で足止めを食う内に、新しい生き方を見いだしていくストーリーは、極めて古典的なもの。意地悪な見方をすれば、半分くらいは『トイ・ストーリー』の焼き直しという面も否定できない。
似たような作品は、これまでにたくさん作られてきたし、これからもたくさん作られていくだろう。

しかしその使い古されたストーリーを最高の話術で磨き上げ、「友情や思いやりの大切さ」「システム上の勝利とは違うところにある、魂の勝利の獲得」といった普遍的テーマをここまで感動的に伝えきってしまう手腕は、ピクサーアニメならではのマジックだ。もうさんざん言われ尽くしていることだが、ピクサーアニメの最大の強みは、CGの技術ではなく、ストーリーテリングとキャラクター造形の巧さにある。その事実を今回もたっぷりと思い知らせてくれる。どのようなシステムで脚本を作っているのか正確には知らないが、IMDBで見ると全部で14人もの人がwriting creditsに名を連ねている。あらゆる人々が、その才能とアイディアと愛情を、この一作に注ぎ込んでいるのだ。

特に感動させられるのは、最終レースの結末だ。普通なら当然こうなるだろうと予測を裏切っているにもかかわらず、「この作品のテーマは確かにここにあったのだ」と納得させてくれる。あの結末に涙せぬ者がいるだろうか。

脇のキャラクターで特に光っているのは、何をか言わんやのドク・ハドソン。声はポール・ニューマン。彼が声を当てていると言うだけで、その正体はある程度わかってしまう面もあるが、ニューマンの燻し銀の名演は、その欠点を補って余りある。この前に彼が出た映画は『ロード・トゥ・パーディション』。あの作品も屈指の名演だった。アメリカ映画が誇る最高の名優が、今俳優人生の総仕上げにかかっていることをひしひしと感じる。
もう一人、いやもう一台、マックイーンと友情で結ばれる錆びついたオンポロトラクターのメーターも絶品のキャラクター。全てのキャラクター中、擬人化が最もうまくいっているのは、彼の人なつっこい笑顔だろう。

CGの技術も、これまでとは比較にならないレヴェルに達している。レース場の描写など気が遠くなるほど手が込んでいるし、風景描写、特に光の具合や質感は実写との区別が付かなくなるほどだ。もちろん最高の技術と巨額の費用をかけて初めて出来る映像だが、ここまでやられると、いずれ大半の映画がコンピューター上で作られることになるのではと思ってしまう。

だがすでに述べたように、この『カーズ』が見る者の胸を打つのは、見事なストーリーテリングとキャラクター造形があるからこそだ。普遍的なテーマと古典的なストーリーを、最高の脚本技術で磨き上げ、最新のデジタル技術で映像化する…ピクサーアニメは、文学と芸術と科学技術が、最も幸福な形で手を握り合った、人類が誇るべき文化なのだと思わずにはいられない。


ピクサーアニメの中で競うなら、この『カーズ』は、他のどの作品も及ばぬ長所と、最初に述べたような信じがたい短所が混在し、総合的には最もバランスを欠いた作品となっている。絶賛した脚本も、どこにもケチの付けようがない『ファインディング・ニモ』と比較すれば、マックイーンの心の変化が今ひとつ描き切れていない恨みは残る。
だがこれほどバランスを欠いた作品で、これほど見る者を泣かせてしまうことこそ、ピクサーアニメのマジックがいかに高度なレヴェルにあるかを示していることも確かだ。


ピクサーアニメの不敗伝説は、まだまだ終わらない。


すでにお馴染みとなったエンドクレジットのお遊びだが、今回は今までとまったく違う趣向で、ピクサーアニメのファンなら驚喜すること間違いなしの趣向が用意されている。しかも笑わせるだけ笑わせておいて、「ああ、そうだったのか」と、ダメ押しの涙を搾り取る。ここまで来ると卑怯なほどだ。
普通のエンドクレジットに戻った後、最後の最後にもまだしっかりお遊びが残っている。全てのクレジットが終わり、場内が明るくなるまで絶対に席を立ってはいけない。


(2006年7月)


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