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07/17/2006

【映画】『メタル ヘッドバンガーズ・ジャーニー』メタラーへの道は遠い

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アミューズCQNでやっている『ゆれる』が驚くほどの大混雑。予定した回は立ち見になってしまうので、次の回に回らざるをえず、空き時間に急遽見ることにした。しかしこれが単なる時間つぶしと言うにはもったいない面白さで、大いに得をした気分だ。

サム・ダンという、ヘヴィメタル・ファンの人類学者が「なぜヘヴィメタルは嫌われるのか」をメインテーマに、欧米の各地を旅して、メタルの歴史や音楽性を考察するドキュメンタリー映画。合間にミュージシャンや学者などのインタビュー、部分的だがライヴ映像やヴィデオクリップなども挟まる。脚本・監督・製作には、サム・ダン、スコット・マクフェイデン、ジェシカ・ジョイ・ワイズの3人が名を連ねている。内容的には「サム・ダンの視点から見たヘヴィメタル」だが、あとの二人が映画製作については素人であるサムをサポートして作った作品なのだろう。実質的には低予算のプライヴェートフィルムであり、それ故の短所と長所を併せ持っている。


一番の短所は、メジャーなプロダクションやテレビ局の製作でないため、音楽と映像の使用が非常に限られていること。権利関係さえ問題なければ絶対に外されるはずがないレッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、ブラック・サバス、レインボー、ジューダス・プリースト、AC/DC、キッス、オジー・オズボーン、ガンズ・アンド・ローゼズなどの音楽が、まったく使用されていない。おそらく使用できなかったのだろう。トニー・アイオミはインタビューに答えているのにサバスの音楽は流れないし、ステッペン・ウルフのメンバーが「Born To Be Wildの歌詞がヘヴィメタルの語源だ」と言っている割には肝心の歌が流れない、といった具合だ。
映像の方も同様。かろうじて音楽だけは使われているメタリカも、映像は皆無。一番凄いのはドイツで行われたフェスティバルで、音楽は聞こえるし、観客を撮した映像もあるのに、肝心のステージを撮した映像が存在しない。さすがにあれはちょっとなあ… 
結局ライヴ映像で見られるビッグネームはアイアン・メイデンとヴァン・ヘイレン(ただしエディのソロだけ)くらい。あとは中堅どころがアリス・クーパー、モーターヘッド、スレイヤー、スリップノット、モトリー・クルー、ディオといったところ(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンは、音楽は流れるしライヴの観客も映るのに、バンドはまったく映らないという不自然さ)。他はかなりコアなメタルファンでないと知らないようなバンドばかりだ。

映画の作りも洗練されているとは言い難く、特に撮影は被写体に寄りすぎの絵作りが目立った。ロニー・ジェイムズ・ディオが最初にメロイック・サインを出すところなど、肝心のサインがフレームアウトしているのだから素人同然である。

そして音楽や映像が使用できなかったせいもあると思うが、この作品をきちんとしたハードロック〜ヘヴィメタル史のドキュメンタリーとして見ると、構成も視点も偏りすぎている。ツェッペリン、パープルという両巨頭にほとんど触れていないし、サバスについてはメタルの元祖として言及されているものの、90年代以降に彼らが大きな再評価を受けるようになった理由について触れなければ片手落ちだろう。新しい方では、ロックシーンを変革してしまったと言っても過言ではないニルヴァーナや、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのようなバンドについて触れていないのも、一般的なメタル史としては首を傾げる。
また、ここに登場するバンドはリフ中心のパワー系やデス系に偏りすぎで、日本で人気のある、美しくメロディアスでポップ色もあるメタル(レインボー、ホワイトスネイク、マイケル・シェンカー、Mr.Bigのようなやつ)がほとんど無視されている。「何故メタルは嫌われるのか?」というテーマに合わせて、その論旨や結論に合わないバンドを外してしまったのだろうか。


そのような短所を持ちながらも、この作品は全体的に非常に楽しめるものとなっている。それは「サム・ダンにとってのヘヴィメタル」という確固たる視点が全編を貫いているからだ。出だしはサムとメタルの出会いに関する話だし、その後もリポーターを務める彼の視点とメタル観に基づいて話が進められていく。その割り切り方がきちんとしているし、時々出てくる一般論も文脈上無理のないものとなっている。そのため観客自身のメタル観や一般的なメタル史と食い違う部分があっても、「これはあくまでもサム・ダンによる定点観測の記録だから」ということで許容できるのだ。
サム・ダンの語り口や視点は、ヘヴィメタルに対する真摯な愛情を持ちつつ、冷静な批評眼が保たれている。メタルを嫌う人間たちを無闇に攻撃的することもなく、やんわりとしたユーモアで皮肉っている。そのクールさが見ていてとても心地よい。


「ヘヴィメタルは何故嫌われるのか?」、この映画の最終的な結論は「(死や暴力といった)出来るだけ目を背けていたい人間の真実の姿を表現しているから」というもの。優等生的な答えであり、意地悪く言えば「当たり障りのない答え」だが、それも素直に笑って許せてしまう。最後の最後に語られる、サム・ダンのメタルに対する一途な思いを前にしては、そんな文句を言うだけ野暮。「ヘヴィメタルは何故嫌われるのか?」その答えは、メタルを聞く人間それぞれが出せば良いものだ。


以下は映画評を離れ、様々な感想をメモ。

・最初の方で、サム・ダンがメタルに目覚めるきっかけとなったバンド、アイアン・メイデンのライヴ映像がかなり見られる。世代的に言えば、僕も熱心に聞いていて不思議ではないはずなのに、実際にはまともにアルバムを聞いたことがない。そしてこの映画を見て、自分はメイデンとは肌が合わないことを再確認した。いくら聞いてもまるで心を惹かれない。特に何が悪いというわけではなく、まさしく「肌が合わない」のだ。残念だが、これは好みの問題なので仕方ない。

・ロニー・ジェイムズ・ディオの背の小ささにビックリ。150cm台だとは聞いていたが、あのフリーキーなまでの小ささを見ると、150cmあるかどうかも怪しいほどだ。還暦を超えて、さらに背が縮んだのだろうか?
そこでふと気がついた。僕はレインボーにおけるロニーの大ファンでありながら、彼をライヴで見たこと は一度もなかったのだ。先日出たレインボーのライヴDVDは買ったが、動くロニーをフルに見たのはあれだけだ。デヴィッド・カヴァーデールは4回も見ているのだから、ロニーの方はよほど縁が無かったとしか言いようがない。そう言えばディオとしての最初の単独来日は、見る予定だったのに、プロモーターの音楽舎が潰れて来日中止になったのだな。う〜〜ん、レインボーやサバスの曲もやっているようだし、今度来日したらせめて一度くらい見ておこうか。

・最初の方で、ヘヴィメタルのルーツを、ワーグナーやベートーヴェンなどのクラシックとブルースの二つに求めるところがある。そこで流れるワーグナーの音楽は、確かにブラック・サバスを彷彿とさせるものだった。そしてワーグナーが低音を強調するために使用したという巨大なコントラバス=オクトバスには笑った。何しろ全長4メートル、演奏は二人がかりで、一人が上で弦を抑え、もう一人が下で弓を弾くのだ。ワーグナーが生きていたら、本当にブラック・サバスやレッド・ツェッペリンの音楽に惚れ込んだことだろう。

・昔大ファンだったラッシュのゲディ・リーが出ているのが嬉しい。ラッシュもサム・ダンもカナダの出身。ラッシュはプログレとハードロックが融合した音楽で、ニューウェイヴの影響も強いので典型的なメタルとは言い難いが、カナダは意外に多くのハードロックやメタル系バンドを生み出している。何故?という感じもするが、この作品の後半では、ノルウェーなど北欧諸国で生まれたメタルが大きく描かれている。触れられていないがドイツも有名なメタル大国。ひょっとするとメタルは寒い国から生まれるものなのか? 言われてみると、南国産のメタルは、ブラジルのセパルトゥラと、そこから枝分かれしたソウルフライくらいしか知らない。寒い国では、ああいう熱い音楽が暖房代わりになるのだろうか? 
それにしてもラッシュで使用されている曲が何故「ザ・ワーキング・マン」? もっと良い曲が他にいくらでもあるだろうが。

・アーク・エネミーは名前だけ以前から知っていたが、あの女性ヴォーカルのデス声は凄いな。アルバムを聞いてみたくなった。確か彼女の言った台詞だったと思うが、「メタルやってる男たちは不細工な連中ばかりなのに、何で女ばかりが魅力的なルックスであることを求められるのよ!」という発言には吹き出した。ちなみにアンジェラ・ゴソウ自身はかなりの美人。

・そのアーク・エネミーが登場するのは、女性のメタル界への進出を扱ったパートだが、もしやCoccoが出てくるのではないかとドキドキしてしまった。Coccoの「けもの道」は、僕にとっては史上最高のメタル/ハードロックの一つに数えられるナンバーだ。サム・ダンが欧米しか回っていないため、もちろん彼女が出てくることはなかったが、日本もけっこうなメタル大国なので、続編が出来るなら、ぜひ日本にも来て欲しいものだ。

・インタビューで最も面白かったのは、意外や意外、トゥイステッド・シスターのディー・スナイダー。80年代半ばの一発屋というイメージが強いし、その気色悪いメイクからただの色物としか思っていなかったのだが、実はこんなに頭の切れる人だったのか。メタルを糾弾するための公聴会で、彼がアル・ゴアたちをたじたじとさせてしまう様子には笑いを抑えられなかった。

・「世界で最も邪悪なバンド」として、よほどの気構えがない限り聞いてはいけないとされていたヴェノムを、この映画で初めて聞いた。今はこの手のバンドが他にも出てきているので、そこまでの衝撃はないが、あの時代にこれほどインモラルな歌を歌い、表現の核を変えなかった姿勢は賛美に値する。

・終盤でフィーチャーされるノルウェー産のブラックメタル。そのジャンル名自体初めて聞いたのだが、「ヘヴィメタルのドキュメンタリー撮影に来ました」というサムに対し、入国係官のおっさんが即座に「ブラックメタルの?」と返すところには笑った。もっともこれは、ブラックメタルが音楽としてそれほど親しまれているということではなく、その後描かれるように教会焼き討ち事件と関連して社会的な話題になったためだろう。

・ただしその教会焼き討ち事件は、結局何がどうしてどうなったのか非常にわかりにくいのが難点。それに関連して出てくるキリスト教に対する呪詛の念も、彼らのきちんとした論理を聞き出していないため、ただおどろおどろしいだけの印象に終わっているのが残念だ。ブラックメタル自体は、本当に「暗黒のメタル」という感じで、それなりに魅力的。ひたすら悪態を吐き続けるメイヘムのメンバーには笑った。

・複雑に細分化されたジャンルを系統図で矢継ぎ早に説明していくところは、半ばギャグとしてやっているのだろうが、その後も系統図を使って話を進めていくところがあるので、どうせなら最初の説明シーンで、もう少しじっくり各ジャンルの説明と代表的なサウンドを聞かせて欲しかった。

・最後に流れる曲はメタリカの「マスター・オブ・パペッツ」。しかもあの美しい間奏部分から始まり、後半再びハードになる部分までが使われている。これには胸が熱くなった。やはりこの歌はヘヴィメタルの代表的ナンバー、ヘヴィメタルのアンセムと言っていいだろう。全編に使われた曲の中で、自分が一番熱くなったのは、この「マスター・オブ・パペッツ」とディオの「ヘヴン・アンド・ヘル」(オリジナルはブラック・サバス)。結局こういう壮大でドラマチックな曲が好きなのね>自分

・観客にメタラーはほとんどおらず、いつものシネアミューズな客層が大部分。最前列に黒服で決めた女の子たち4〜5人のグループが座っていたのが目立つ程度。時々メロイックサインを決めていたが、彼女らも本当はもっと盛り上がりたかっただろうなあ。もっともこの日は、夕方の回で伊藤政則のトークショーがあったようなので、メタラーはそちらに集まったのかもしれない。
ちなみに僕はその時、まったく意図せずしてニルヴァーナのTシャツを着用中。端から見れば、僕も熱烈なファンの一人に見えたのだろうか? でも『ネヴァーマインド』のジャケットのようにわかりやすいものではなく、カセットテープがグチャグチャになったあのデザインだから、ニルヴァーナTシャツだとわかる人はほとんどいなかっただろうな。


読み返してみたら、何だか僕が凄く熱烈なメタル・ファンみたいだ(笑)。実際には全然そんなことはないので誤解なきように。ロックファンの常として、かなりハードなものにはまった時期もあるが、僕が主に聞いていたのはレインボーやホワイトスネイク、マイケル・シェンカーといった古典的なスタイルのメロディアスなハードロック。この映画で主に取り上げられているゴリゴリのパワー系は、横目でチラチラ見ながらも、アルバムまできちんと聞いたことはほとんどない。
昨年のクイーン+ポール・ロジャース来日で、かつて聞いていたロックが自分の中でリバイバル。おかげでレインボーやマイケル・シェンカーをまた聞いたりしているが、パワー系で聞いているものは、相変わらずメタリカくらい。パンテラやスレイヤーすらまともに聞いたことがないし、今第一線で活躍している若いバンドも、システム・オブ・ア・ダウンやリンキン・パークなどごく一部しか知らない。
最初の方で誰かが「メタルのファンは生涯をかけてメタルを愛し続けるものだ。あの夏はスレイヤーが好きだった…なんて言う奴は本当のメタルファンじゃない!」と言うところがあって、自分としては「アイタタタ…(^^;)」という感じだった。僕はまさしくその程度の軟弱で紛い物なメタルファンです。

そんなファンですら、これだけ楽しめ、たっぷり笑うことが出来るのだから、やはりこれは面白いドキュメンタリーなのだろう。


P.S.
メタルを知らない人のために、一応この長ったらしくて覚えにくいタイトルについて説明しておくと、ヘッドバングというのは、音楽に首を合わせて首を激しく振る行為のこと。事実上メタルの専売特許のようになっているので、ヘッドバンガー=メタルファンと考えて良い。ジャーニーはニール・ショーンの…じゃなくて、言うまでもなく「旅」。つまりMetal A Headbanger's Journeyとは『メタル:あるメタルファンの旅』ということ。最初のMetalは無い方がすっきりすると思うんだけどね。


(2006年7月)

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Comments

TBありがとうございます。
改めて、この映画の詳細を確認出来る記事ですね!

『へヴィ・メタルが何故嫌悪されるのか?』

それは、この手のジャンルそのものが、自ずと聴くものへのアプローチを狭めているにすぎないのだろう・・・というのが僕の結論です。

昔、スコーピオンズのレパートリーに「レゲエ」があったのを偶然聴いた事ありましたが、ものすごい違和感を払拭出来ずにいます。
それでも、彼等の前向きな姿勢を感じますし、何よリ記憶に残っている。

本当は、音楽そのものの姿勢が嫌いなわけではなく、バンドやファン等、そこに関わる人間の風習、態度に嫌悪感を抱く(誤解をされている)だけなのかもしれないです。

例えばその一人が僕だったりします(音楽評論する人間が言うことではないのですが・・・)

Posted by: 栗原 | 07/19/2006 at 19:38

#栗原さん

コメントありがとうございます。「音楽そのものではなく、それを取り巻くファッションやファンの閉鎖的な空気が、悪い意味で音楽の敷居を高くしている」というのは、よくあることですね。質はまったく違えども、クラシック、ジャズ、レゲエ、パンクなど、様々なジャンルで同じような傾向が見られます。

ただその中でも特にメタルが嫌われるのは何故か? 僕の考えはサム・ダンの結論と比較的近いのですが、セックス、ドラッグ、アルコール、暴力、悪魔崇拝といった、いわゆる社会の良識を逆撫でするようなテーマを強く打ち出しているからではないかと思います。だからメタルの中でも、ツェッペリンやメタリカなど、ストイックなサウンドと文学的な歌詞を持つバンドは、必ずしも嫌われていないですよね。ゼップは音楽以外の面では思いきり享楽的でしたが(笑)、音楽そのものは非常に真面目なもので、ティーンエージャーのためのパーティーミュージックとは一線を画しています。また「天国への階段」という叙情的かつ文学的な名曲を作ったことで、反社会的なイメージに対する免罪符を獲得してしまった点も見逃せません。

それと、あの映画でちょっと物足りなかったのは、メタルのセクシャルな側面に対する考察ですね。早い話が、メタルの攻撃的なサウンドというのは、男性のリビドーの発露そのものだと思います。メタルに女性ファンが少ないのは、そういう部分に本能的恐怖と言うか警戒心を抱くせいではないでしょうか。簡単に言えば、うっかりライヴ会場に行ったらレイプでもされかねんという恐れです。
さらに言えば、そういう性的な表現をもう少しオブラートに包んで、女性のリビドーも解放できるようにしたものが、各種のダンスミュージック〜クラブサウンドではないかと思っています。具体的な音楽の内容は違っても、そのような「機能性」と「形式の重視」という2点において、メタルとダンスミュージックは、よく似たポジションにいるような気がします。

Posted by: ぼのぼの | 07/19/2006 at 22:53

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