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06/11/2006

【映画】『インサイド・マン』『花よりもなほ』汝殺すことなかれ

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あまり話題になっていないようだが、スパイク・リー監督、デンゼル・ワシントン、クライヴ・オーウェン主演の『インサイド・マン』は、見事な傑作だ。一番秀逸なのは、今までに見たこともない銀行強盗計画を考え出したラッセル・ジェウィルス&アダム・エルバッカーの脚本だが、ところどころに存在する設定の穴をうまく誤魔化し、文句なしに「面白い」映画に仕上げたスパイク・リーの手腕にも感嘆した。リーが職人としてここまで見事な腕を持っているとは意外な驚きだ。主演は先に上げた二人だが、脇役もジョディ・フォスター、クリストファー・プラマー、ウィレム・デフォーとえらく豪華で、演技的にも死角無し。娯楽映画としては『ダ・ヴィンチ・コード』の100倍面白い。

この作品の前に是枝裕和の『花よりもなほ』を見たのだが、興味深かったのは、そちらが「人を殺さない仇討ち劇」、この『インサイド・マン』が「人を殺さない犯罪劇」だったことだ。二人の優れた映画作家が、911以降の世界状勢に対するメッセージとして、このような2本の娯楽映画を生み出したことが非常に面白い。

『インサイド・マン』は表面的なストーリーだけ見れば、何が911以降なのかと思われそうだが、異民族に対する偏見や現代社会の暴力性があちこちで風刺されていて、今のアメリカに対する痛烈なメッセージを感じることが出来る。この作品に登場する真の悪役を、戦争で肥え太るアメリカの大企業に重ねることも容易だ。娯楽映画の枠を壊すことなく、これだけ社会的な視点を盛り込んだ姿勢は実にお見事。

『花よりもなほ』は、描かれているテーマには納得できるのだが、それを描く手法に首を傾げる部分が多い。つまり『嫌われ松子の一生』の逆だ。特に絵作りの面では是枝作品中ワーストの出来と言わざるをえない。
是枝裕和の作品は、テーマや視点については他人とは思えぬほどの共感を抱けるのに、それを実際に映画として描く際のストーリーテリングで「ちょっと違うんじゃないの?」という思いが常につきまとってきた。その齟齬を初めて解消し、テーマとストーリーテリングが完全に噛み合った文句なしの傑作が、前作『誰も知らない』だった。しかし『花よりもなほ』において、「何を描くか」と「どのように描くか」の隔たりは、以前の是枝作品のレヴェルに戻ってしまったようだ。
また今回はメッセージ性を保ちつつ、誰もが楽しめる娯楽作品の路線を狙ったようだが、残念ながら娯楽映画としての完成度は低い。ドキュメンタリータッチの演出を得意としてきた是枝だけに、このようなフィクションらしいフィクションの描き方はまだ手中にしていないようだ。

その点、やはりスパイク・リーの方が映画監督として圧倒的に器用だし、娯楽映画に鋭いメッセージを忍び込ませる術にも長けている。

娯楽作品として確実に楽しめて、しかも見終わった後に何かを考えさせるという点では、『インサイド・マン』が今公開されているメジャー映画の中では、おそらくベストだろう。これを読んだ人は、迷わず必見だ。


(2006年6月)

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