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04/24/2006

【映画】『ニュー・ワールド』我が魂の映画

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テレンス・マリックという映画作家は、僕にとって別格的な存在だ。

それは7年前に書いた『シン・レッド・ライン』に関する膨大な文章を読んでもらえればわかると思う。かなりの編集作業が必要なため、まだブログには収録されていないが、いずれ手を付けるつもりなので、ここで詳しく述べるのはやめておこう。
なおBadlandsというブログ名は、マリックのデビュー作(邦題『地獄の逃避行』)のタイトルから来ている。それだけでも、マリックが僕にとってどれほど巨大な存在であるか分かってもらえるのではなかろうか。


そのテレンス・マリックが、『シン・レッド・ライン』から7年ぶりとなる新作『ニュー・ワールド』を完成させた。


だが予告編を見ると、映像的にはまるで『シン・レッド・ライン』の焼き直しだし、海外での評判も今ひとつ。前作はベルリン国際映画祭のグランプリを獲得し、アカデミー賞でも作品賞・監督賞他多数の部門にノミネートされたが、今回は受賞歴無し。アカデミー賞では撮影賞にノミネートされただけ。元々オスカー向きの作風ではないが、前作とは比較にならないほど反応が悪いことは確かだ。
おそらく今回は『シン・レッド・ライン』『Badlands』のような超絶的傑作ではなく、『天国の日々』レヴェルの佳作なのだろう。もちろんマリックの作品であれば、どんな凡作であっても数回は見るつもりでいたが、作品の出来にはあまり大きな期待はしていなかった。


それでも当然の義務として初日に見に行った。TOHOシネマズのプレミアスクリーンなので、映像美に溢れるマリック映画の観賞環境としては申し分ない。


冒頭、まだ人間の手がほとんど入っていないアメリカ大陸の自然が、スクリーンに映し出される。
ゆらめく水、溢れるような緑、その大自然の中で戯れる先住民たちの姿。
そこへ流れてくるデリケートな音楽と、詩のような台詞。

始まって2〜3分で、見る前に抱いたくだらぬ先入観を恥じた。

『シン・レッド・ライン』の時と同様、そこにあったものは、僕にとっての魂の原風景だった。

生も死も、人間も自然も、永遠も一瞬も、全てが一つに溶け合い、つながってゆく…テレンス・マリックの映画だけに存在する、あの感覚。

『シン・レッド・ライン』の時には使われていなかった、新しい映画話法が随所に見られる。通常の説話法からますます遠ざかり、イメージの連なりによって世界を物語ってしまう、唯一無二のスタイル。映像のワンショットワンショットが心の奥底まで突き刺さる。音楽はもちろん、音響の一つ一つに至るまで全てが完璧にコントロールされ、夢幻のような時間を作り出す。そのスタイルは『シン・レッド・ライン』が普通の映画に思えてくるほどアーティスティックだ。


それだけに、この映画は『Badlands』『天国の日々』『シン・レッド・ライン』の3作など比較にならないほど、見る人を選ぶ。これでは事前に芳しい評判が聞こえてこなかったのも当然だと思った。

例えばポカホンタス夫妻のベッドに並んだ二つの枕。

例えば初めて赤ん坊が登場するときの小さな手と大きな手。

そのようなワンショットに魂が震え、呼吸することすら忘れるほどの感動を覚えられない人に、この映画を見る資格はない。

もし始まって2〜3分でこの映画に引き込まれなかったら、残りを見るだけ時間の無駄だ。すぐに劇場を出た方がよい。

念のために言っておくが、僕はこの作品を「難解」だとはまったく思わない。むしろ通常の映画話法を使わず、イメージの連なりだけで、何故こんなにわかりやすく物語を展開できるのかと驚嘆したほどだ。
ただしその話法は、あまりにも通常の映画とかけ離れており、始まってすぐにその話法を飲み込めない人間は、最後まで置いてきぼりを食うことになる。むしろそういう人の方が大多数であることも、僕にはよくわかる。
例えて言うなら、ギリシャ語で書かれた物語のようなものだ。その文体は簡潔で、詩のように美しく、深い哲学性を備えているが、ギリシャ語をまったく理解できない人に、その価値がわかるはずもない。だがそれは「難解」とは別の話だろう。観客が、作品を観賞するためのコードを身につけているか否かの問題なのだ。

事実、僕が見たときの観客の反応はひどいものだった。見ていた観客は20人程度。エンドクレジットが始まった途端、一人が「何だかわからない内に終わっちゃったよ」と声を上げた。そして僕以外の観客はすぐに席を立って出ていった。あの驚異的にデリケートな美しさを持つエンドクレジットを最後まで見ていたのは、僕一人だけだった。
さらに帰りの電車で、この映画を見ていた20歳くらいのカップルがたまたま隣に座った。女性が「夜通し語れるくらい最低だったね」と口火を切り、『ニュー・ワールド』がいかにつまらなかったかを、二人で熱心に語っていた。

一瞬怒りを覚えたが、すぐに仕方ないと思った。
コリン・ファレルやクリスチャン・ベールが登場するラヴロマンスだと勘違いして、この映画をデートムービーに選んだのであれば、そういう反応が起こるのはごく自然なことだろう。
この映画は、本来シネコンなどで拡大ロードショーする映画ではなく、アンゲロプロスやタルコフスキーなどの映画を好む人向けに、単館で公開されるべき映画なのだ。

それほどまでに、この映画は見る人を選ぶ。

だから僕は、この映画を人に勧める気はない。


だが、そんなことはさして重要ではない。


僕にとって重要なのは、この『ニュー・ワールド』が『シン・レッド・ライン』と同様「我が魂の映画」そのものだという、揺るぎない事実だ。


このような作品を言葉で語ることの無謀さ、無意味さは百も承知の上で、これから少しずつ何かを語っていきたい。それは決して実らぬとわかっている恋でも、恋することをやめられないのに似ている。


『ニュー・ワールド』という映画によって、僕は確かにこの世界との深いつながりを感じることが出来たのだ。


その感動を何らかの形で表現できないのであれば、言葉など無意味だ。


(2006年4月)

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Comments

あのエンドクレジットで
席を立つなんて,
それは無神経な話ですね。

最近できた近くの映画館では
いつもエンドクレジットが始まると半照明になり,
何度も苦情を言っていますが直りません。
そういうお客さんがいると,
映画館側も開き直りそう。
この映画はそこでもかかっているのかな。

Posted by: えい | 04/24/2006 13:32

こんにちは。
弊ブログへのトラックバック、ありがとうございました。
こちらからもコメントとトラックバックのお返しを失礼致します。

この作品は、登場人物の関係を丁寧に描き、様々な示唆を与えられる要素を含みながらも、表面上は、シンプルなストーリーを河や森林などの美しい自然と共に大らかに描いた映画であったと思います。

また遊びに来させて頂きます。
ではまた。

Posted by: たろ | 04/24/2006 18:17

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