« 【ダンス】少年王者舘 夕沈ダンス『アジサイ光線』2006.4.21 | Main | 【演劇】クレネリ♥ゼロファクトリー『春と爪』2006.4.23 »

04/30/2006

【ライヴ】伊吹留香 2006.4.29

E_3

伊吹留香ライヴ 2006年4月29日(土) 下北沢MOSAiC


6月に待望のファーストアルバム『課外授業』を出す伊吹留香のライヴ。いつもの下北沢MOSAiCだが、今回はトリではなく4組中の3番目だった。

19時15分頃に入場すると最初のバンドが終わって、セットチェンジの最中。2番目に出る優季楓も見たかったので、ピッタリのタイミングだ。それにしても客がいつになく多い。何故だろう?


19時30分近くから優季楓の演奏が始まる。彼女を見たかったのは、事前に共演者をネットでチェックしたところ、HPで視聴した彼女の音楽が「気持ち悪くて気持ちいい」ユニークなもので、ちょっと印象に残ったからだ。

優季楓自身によるキーボードの弾き語りで、バックバンド無し。と言っても、そんなに渋い音楽ではなく、童謡を思わせるポップで美しいメロディーを持っている。何かに似ているようでいて、何からも一定の距離を置いているような、不思議なポップミュージック。キーボードの演奏も巧みだが、最大の武器はよく伸びるヴォーカルだ。高音部で音程が怪しくなる部分も多々見られたが、それも味わいとして納得させてしまう妙な説得力を持っている。声質も個性的で印象に残る。

演奏時間は40分弱。8曲を演奏。こんなに長い演奏時間をもらったのは初めてらしい。弾き語りなので音色面で若干の単調さは感じたものの、美しいメロディーと強力なヴォーカルはそれを補って余りあるもので、最後まで興味深く聞くことが出来た。特に良かったのは、切ないメロディーを持った「night after night」と「フェノバルビタール」。かなり天然入ったMCも楽しかった。

伊吹留香とは似ても似つかない音楽性だが、大いに気に入った。またどこかでライヴを見たいものだ。

http://yukikaede.fc2web.com/pc/index.html
http://www.yorozoo.com/yukikaede/


優季楓がキーボード一台だけなので、セットチェンジも楽そうだった。場内の観客数がぐっと増える。今まで見た中では一番混んでいた。


20時20分頃から伊吹留香の演奏が始まる。

今回の注目点は、サポートメンバーが大きく変わったこと。

Bass:浜田如人
Guitar:杉山隆哉
Drums:河鰭文成

ドラムスは前回と同じだが、ギターが前回の梶原健生と中島宰から杉山隆哉1人になった。そしてベースは、これまでバンドの要だった渡部大介に代わって「裏返せ俺を」の浜田如人が参加。普通なら渡部大介の不参加はかなりのマイナスになりそうなものだが、代わりに入ったのが浜田如人となると話は別だ。裏俺は昨年一度見ただけだが、その時の演奏がとても印象深かったからだ。実のところ今回のライヴの最大の関心は、彼のベースが伊吹の楽曲にどんな新しい表情を与えてくれるかだった。

1曲目の思いきりヘヴィーなイントロにまず殺られた。てっきりジミ・ヘンドリックスの「ワイルド・シング」が始まったのかと思いきや、大きく装いを変えた「胼胝」だった。これは凄い。スタジオヴァージョンとは比較にならないほどいい。この音の感触は、まさしくジミヘンかツェッペリン。いきなり個人的なツボを突かれた感じ。

やはり浜田のベースはいい。思いきり低く構えたベースからはじき出される、重くてブリブリした音色。奏法よりも何よりも、このいかにもベースらしい音色に聞き惚れてしまう。裏俺の時はもう少し硬くてシャープな音色だったと思うが、これは会場のPAなどの関係かもしれない。今回の音色の方がさらに好みだ。

2曲目はライヴで初めて聞く「能ナシ」。1曲目と同じくヘヴィーでラウドなロックナンバー。これまたスタジオヴァージョンを凌ぐ出来。

3曲目は「降り立つ時」。これは元々ヴォーカルよりもバンドの演奏が主体となる曲。以前よりもブルース色が濃くなったような気がする。

最大の盛り上がりは、4曲目の「36.5℃」と5曲目の「死角」。やはりこの2曲は文句なしの名曲だ。最初の2曲を凌ぐヘヴィーでスケールの大きな演奏に背筋が震える。特に「死角」を聞いているとき、この演奏が、こんな小さな箱の中で奏でられていることを残念に思った。もっと大きなホールや野外に設置された巨大なPAから、この激しい音の洪水を鳴り響かせてやりたい。それだけの力を持った、より多くの人に聞かれるべきナンバーだ。

6曲目は「迷子の瞳」。これは前の2曲が凄かったのと、昨年暮れに聞いた演奏があまりにも胸を打つものだったので、今回は少々見劣りがした。しかしアレンジはスタジオヴァージョンよりこちらの方がいい。バンドの演奏も繊細で美しい。

ここで「迷子の瞳」をやったら次は何を?と思ったら、何とここで終わりだった。全6曲で約30分。2番手の優季楓よりも短い。どうして? 演奏自体は充実していただけに、この短さは残念だった。

その後のトリは、元グラビアアイドルの青木裕子が率いるicy blueというバンドだったが、まあこれはいいやということで会場を出た。もっともここで帰った人は僕以外にほとんどいなかったから、icy blue目当ての客であんなに混んでいたのかもしれない。そう言えば男性の比率もいつになく高かったな。


全体的な感想は「この新しいバンド、前よりもいいぞ!」という一言に尽きる。客観的な技量と言うよりも、ジミ・ヘンドリックスやレッド・ツェッペリン、ブラック・サバスなど、60〜70年代のハードロックを彷彿とさせる、恐ろしく僕好みのサウンドを出してくれるからだ。
浜田如人のベースは、すでに述べたように予想以上の素晴らしさ。伊吹ではなく、彼の演奏をじっと見入ってしまうこともしばしばだった。
河鰭文成のドラミングには「歌心」のようなものが感じられる。音のシャープさやグルーヴ感では2回前のライヴで叩いていた室田憲一の方が上だろうが、ゆったりとドラマチックに盛り上がるナンバーには、何かを物語るような河鰭のドラミングの方が合っている。そう言えばこの人、時々歌いながら(口を動かしながら)ドラムを叩いていた。歌の感情を自分の中で消化しながら、流れを作り出しているのだろう。
杉山はギター1本で、あのドラマチックなナンバーを見事に演奏しきっていた。決して派手に弾きまくる方ではないが、適度な音の隙間が空間的な広がりを感じさせてくれる。ギター2本が1本になって音が薄くならないか心配だったが、それは杞憂に終わった。
彼らが意図的に60〜70年代のハードロック的なニュアンスを出そうとしたのかどうかはわからない。僕の勝手な勘では、90年代以降のオルタナサウンドを煮詰めていく内に、その中に含まれていた60〜70年代的な要素がいつの間にか抽出されてしまったと思うのだが、どうなのだろう。

さて、肝心の伊吹留香だが、実は今回、主役である彼女があまり印象に残っていない。
特に悪かったわけではない。むしろ前の2回より安定していたように思う。だが前回のライヴで顕著だった、テクニックを超えたエモーショナルな高まりがあまり感じられなかったのだ。一番印象に残ったのは、最もヴォーカルが不安定で、それ故に彼女に関心が集中した「36.5℃」だったというのは皮肉な話だ。
また毎回同じ事ばかり書いて心苦しいのだが、やはり「声量の無さ」は、彼女のヴォーカリストとしての最大の欠点だと思う。バンドの音が以前よりも太く重くなった分、よけい声が埋もれてしまっている。今以上の音楽、今以上の表現を目指すのであれば、これだけは何としてでも鍛え直すべきだろう。それを改善するだけで、表現の幅や深さが格段にアップするはずだ。
彼女が精神的に優れた表現者であることは、歌詞や曲を聞けばすぐにわかることだ。しかし肉体的な表現については、精神面に遙かに後れを取っている。前回のライヴは、明らかに普通ではない精神のテンションが、肉体的な不安定さを超える感動を与えていたが、そんな奇跡は毎回再現できるものではないし、それに頼っていては早々と燃え尽きることになる。前にも書いたことだが、もっと純粋に音楽的な技術を磨くことで、表現の純度を落とすことなく、多くの人の心を動かせるようになるはずだ。これだけ優れたバンドがバックアップしてくれているのだから、それに対抗しうるヴォーカリストとしての技術を身につけることが、今の彼女にとって最大の課題だろう。


ファーストアルバムは新曲無しで、これまでに発表された曲の中から13曲をマスタリングし直して収録したものになるそうだが、曲順を見ると、アルバムとしての流れが感じられるものになっているようなので期待できる。音の悪い『序の口』に収録されていたナンバーが、どの程度サウンド的にクオリティアップしているかも楽しみだ。

http://www5d.biglobe.ne.jp/~zillion/ruka/index.html


(2006年4月)

|

« 【ダンス】少年王者舘 夕沈ダンス『アジサイ光線』2006.4.21 | Main | 【演劇】クレネリ♥ゼロファクトリー『春と爪』2006.4.23 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/85126/9827313

Listed below are links to weblogs that reference 【ライヴ】伊吹留香 2006.4.29:

« 【ダンス】少年王者舘 夕沈ダンス『アジサイ光線』2006.4.21 | Main | 【演劇】クレネリ♥ゼロファクトリー『春と爪』2006.4.23 »