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04/11/2006

【演劇】文学座『エスペラント』2006.4.9

Esperantom


『エスペラント』2006年4月9日(日) 14:00〜 文学座アトリエ


グリングの青木豪が文学座に脚本を書き下ろし、坂口芳貞が演出をしたアトリエ公演。グリングの『海賊』が大評判になったせいかどうか、たいへんな人気で、この最終日も200人近く入るはずの文学座アトリエが超満員だった。

東北に修学旅行に来た高校の先生と生徒たちの群像ドラマ。と言っても生徒役はわずか3人で、登場人物の大部分は先生や宿屋の人、泊まり客など大人たち。宿のロビーのような場所だけを舞台にした一幕劇で、約1時間40分。

各人の抱えている心の傷や隠してきた秘密が次第に明らかになっていく展開や、悲しみとユーモアがせわしなく交錯する語り口、ラストにかすかな希望の灯が見えるところなど、紛れもない青木豪のドラマだ。数多い登場人物の配置の仕方、動かし方も実に手慣れたもので、もはや大家の風格すら漂わせている。

文学座の役者たちが、さすがの厚みを見せてくれる。特に印象に残るのは飯沼慧。最初の内は「この爺さん、何のためにいるんだろう?」という感じだったのに、ラスト近くになると、美味しいところを全部さらっていってしまう。天晴れだ。強いて主役を一人上げるなら、それに該当するであろう田村勝彦も味わい深い。総じて若手よりもベテラン勢の貫禄勝ちだが、全体的にレヴェルは高い。

外部に本を書いても青木豪は青木豪。まことに彼らしい佳作である。


…で終わりたいところなのだが、やはり一言。


確かに佳作である。この作品だけ単独で見たら、特に不満はない。

しかしあの大傑作『海賊』を昨年末に見てしまった後では、やはり物足りなさが残る。
しかもこの物足りなさは、今回が初めてではなく、ちょうど1年前に青木が演劇集団 円で作・演出した『東風』でも感じたことだ。

『東風』も『エスペラント』も十分佳作の域に達している。しかしトリッキーな展開も織り交ぜながら、心の傷を鋭く深くえぐり出していくグリングの作品と比較すると、ストーリーは単純過ぎるし、肌の表面に浅く傷をつけただけという印象は拭えない。

また役者陣も、極めて巧みなのは確かだが、はっきり言えばどの役者も「替えが効く」と思う。これがグリングの作品になると、完全な当て書きであろう笹野鈴々音を筆頭に、中野英樹であれ藤本喜久子であれ萩原利映であれ、全ての役者たちが、演技力というレヴェルを超えて「劇世界の住人」になりきっている。だから誰が代わっても、芝居の空気が決定的に変わってしまうような繊細さがある。文学座や円の公演に、そこまでの繊細さは感じられない。

そのような作風の変化が、はたして劇団側の要望によるものなのか、外部で仕事する際の青木のスタンスなのか気になるところだが、おそらくは後者だろう。ひょっとするとこの人は、それぞれの登場人物に、よく知り尽くした役者を当てはめながらでないと、心の奥底に到達するような本が書けないのではなかろうか? そんな疑問も湧いてきた。
あるいは稽古の仕方に違いがあるのかもしれない。勝手な推測だが、グリングの芝居は稽古中に役者もどんどんアイディアを出していき、その中で芝居の雰囲気が決定されていくような気がする。それに対して文学座や円は、あくまでも元の脚本に忠実に、「広げる」「変える」ではなく「深める」ことに全ての力を注いでいるような気がする。部外者の勝手な推測だが、そのような創作方法も影響しているのではなかろうか。


ともあれ他流試合を終えた青木が本気を出してくるであろうグリングの12月公演が、今から楽しみで仕方ない。


(2006年4月)

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