« 【ライヴ】伊吹留香 2006.4.29 | Main | 【演劇】劇団東京乾電池祭り 創立30周年記念公演 »

04/30/2006

【演劇】クレネリ♥ゼロファクトリー『春と爪』2006.4.23

Kureneri


クレネリ♥ゼロファクトリー『春と爪』
2006年4月23日(日)15:00〜 下北沢駅前劇場 


ほとんど偶然のような形で『乙女の国』という傑作に出会い、ご贔屓劇団の一つになったクレネリ♥ゼロファクトリー。その次に見た『なみだくじ』が今ひとつだったため、『乙女の国』はまぐれ当たりだったのかも…という疑念が芽生えていたが、この『春と爪』によって、決してそうではなかったことがわかった。『乙女の国』に優るとも劣らぬ見事な出来。何とも嬉しい限りだ。

舞台は「つくしんぼ」というスナック。そこのママである茂木有子(山本郁子)とホステスの篠原沙代(高橋理恵子)が何かのお祝いをしようとしているところから始まり、常連客や謎の人物が次々と乱入。思いがけない事実が次第に明らかになっていく…という話。

本来は人の出入りが少ない場所に次々とやってくる謎の人物たち。それらの闖入者によって、血と狂気にまみれた真実が次第に姿を現していくという構成は、『乙女の国』『なみだくじ』とまったく同じだ。これはクレネリという劇団、そして脚本を書いている大岩真理の一貫した作風なのだろう。もっとも、ミステリータッチの展開から登場人物が抱える心の傷が明らかになっていく物語は、グリングやTHE SHAMPOO HATの作品ともよく似ているので、ある意味僕がよく見る小劇場芝居の一つの典型と言えるかもしれない。
ただしクレネリには、グリングの水も漏らさぬ完成度やペーソス、THE SHAMPOO HATのギトギトとした生臭さはない。代わりにあるのは、女性独特の残酷な視点と、謎が明らかになっていく際のヒリヒリするような痛い描写、そして少女漫画的とも言える突飛なストーリー展開だ。つまりTHE SHAMPOO HATの男臭さに対し、クレネリは実に女臭いのだ。
しかし女性的な感性に基づく作品だからといって、男性に受けないなどということはない。どんな人間の精神にも必ず男性的な面と女性的な面があり(もし無いとしたら、その人は精神的に大きな欠陥を抱えていることになる)、クレネリの芝居は、その女性的なる部分に強く訴えかけてくるということだ。女性にしか書けないタイプの作品ではあるがが、観客として見る分には男性・女性を問わず普遍的な感動を得られるはずだ。

今回の大きな特徴は、いつになく笑いの要素が多いこと、思わず「上手い!」と言いたくなるような台詞がたくさん散りばめられていることだ。テーマやストーリー展開はあまり変わらないが、良い意味で余裕というか膨らみが出てきた感じがする。一個の商業作品として十分に優れた出来だ。ある意味、駅前劇場よりも博品館あたりでやった方が似合う気がする(誉め言葉です)。

役者では『乙女の国』に続いて、高橋理恵子がひときわ輝いている。本来のホームグラウンドである円の芝居でも見たことがあるが、今回の彼女が一番魅力的だ。何回も同じ事を書いているような気がするが、やはり役者の実力は、バックに引っ込んで台詞が無いシーンを見るとよくわかる。他の役者が前面で台詞を喋り、高橋がバックに控えている時でも、そこに彼女がいなければ作品の質が確実に変わってしまう無言の演技が展開されている。声もいいし、席が前だったので、目力の強さもよくわかった。本当にいい女優だなあと見惚れてしまう。
最初から最後まで出ずっぱりの主役を演じた山本郁子もお見事。役柄上受けの演技が多いため、高橋ほどの見せ場はないが、表だってはっきり語られない茂木の屈折した内面をデリケートに演じきり、作品に深みを与えている。
他には謎の流し(笑)を演じた浅野雅博や、電気屋のオヤジを演じた平川和宏など、男優陣が意外なほどの好演。特に平川は、クレネリのガラス細工のような世界を壊すことなく、小市民的な男の卑近さをよく表現していた。

他の人々も含め、役者陣の演技のアンサンブルは文句なしだ。だがそれ以前に「演技はいいけど、そもそもこの役は本当に必要だったの?」という役柄が幾つか見受けられたのは気になった。特に疑問なのは、主催者 本田真弓の演じたココと、ほりすみこが演じた千葉江美。この二人を出した意図、彼女たちに託されたメッセージは何となく理解できるが、一つの作品は足し算だけで成り立つものではなく、時には引き算が重要になってくる。この『春と爪』に関して言えば、二人の役をカットして、他の役に焦点をしぼりこんだ方が、もっと作品としての質を高められたのではないだろうか。これは明らかな欠点だと思う。

そのような目立つ欠点はあるものの、数々の美点は、それを補って余りある。小劇場の世界ですら、あまり名を知られた劇団(ユニット)ではないが、このまま埋もれさせておくのはもったいない。これからも微力ながら応援していくことにしよう。


(2006年4月)

|

« 【ライヴ】伊吹留香 2006.4.29 | Main | 【演劇】劇団東京乾電池祭り 創立30周年記念公演 »

Comments

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 【演劇】クレネリ♥ゼロファクトリー『春と爪』2006.4.23:

» 『春と爪』観劇@下北沢駅前劇場。 [ねずみのぶろぐ]
クレネリhearts;ZERO FACTORY『春と爪』。クレネリワールドやねぇ。 閉店間際の場末のスナック「つくしんぼ」。店で働く紗代には何やらわけありげ。 紗代のために店のママが用意した祝いのケーキにロウソク7本。当の紗代は浮かぬようす。 ケーキの意味がわからぬまま..... [Read More]

Tracked on 05/05/2006 23:34

« 【ライヴ】伊吹留香 2006.4.29 | Main | 【演劇】劇団東京乾電池祭り 創立30周年記念公演 »