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03/28/2006

【映画】『ブロークバック・マウンテン』上映プリント問題 続報

mo4052

『ブロークバック・マウンテン』上映プリントに関する続報です。


まず前回書いた問題点を再掲。

1.
字幕の書体が明朝系。普通映画の字幕はゴシック系が主体。なぜ字幕に明朝系をあまり使わないかというと、線が細いため読みにくいから。ところが本作では全編にわたって明朝系の書体が用いられている。

2.
それだけならまだしも、恐ろしいことに文字に黒エッジがついていない。普通白文字の字幕には必ず黒エッジが付いているものである。ごく薄いものなので普段はあまり意識しないが、それがあるからこそバックが多少明るかったり白っぽかったりしても、文字が読めるのである。
しかしこの作品は「明朝+黒エッジ無し」という最悪の組み合わせによって、バックの画面がちょっとでも白くなったり明るくなったりすると文字が読みにくく、非常にイライラさせられる。

3.
本文そのものが読みにくいのはもちろんだが、何回も出てくる漢字のルビは、ひどい時には完全に潰れて読めない状態になっている。

4.
数字やカッコ類がすべて全角になっているため、恐ろしく間抜けに見える。普通こんな字幕はない。数字やカッコは半角を使うか、全角を使う場合は文字間の微調整を行うものだ。ところがこの作品は何の考えもなく全角文字を使っている。実際に見ていただければわかると思うが、「11月」や「1963年」など二桁以上の文字や「””」のようなカッコを使った文字が、笑ってしまうほど間抜けなものとなっている。

5.
2行の字幕が真ん中合わせになっている。

6.
字幕の位置が一定していない。特に字幕が2行になる場合、字幕が画面の下端ギリギリになったり、ずっと上の方に来たりする。

7.
おそらくフィルム撮り、そして間違いなくフィルム上映の作品なのだが、不思議なことに何か所かでデジタル特有のブロックノイズ(四角いポツポツ)が見られる。

8.
前半部分に何回も画面の縦揺れが発生する。これは劇場側でも気づいていて、配給側にちゃんとしたフィルムを取り寄せるよう依頼しているのだが、対応できていないそうだ。

9.
エンドクレジットで黒バックに「Directed by ANG LEE」などの文字が出るのだが、それらが全て画面中央ではなく、ずっと上の方に来ている。こんなおかしなレイアウトはありえない。
さらに凄いことに、主題歌の字幕が縦で出るのだが、それが画面の遙か上に来ていて、一番上の文字が少し切れてしまっている。早い話が画面全体が上にずれているのだ。

10.
9で述べたように、画面全体が少し上にずれていて、上の部分が切れているのでは?と思える絵作りが散見された。


                        *


その後いろいろな情報が集まってきた。

まず友人たちが別の映画館で見た結果をまとめると、以下のようになる。

・別のシネコンでも字幕は同じで1から5までの問題は同様に起きている。ただし6から10は起きなかった。

・2週間先行上映されているシネマライズでは普通のゴシック系の字幕が使われており、読みにくい感じは全くない。

この2つから、次のような驚くべき事実が導き出される。


★シネコンとシネマライズでは、違う字幕が打ち込まれた、違うプリントが上映されている


一体なぜそんなおかしな状況が発生しているのかは、また後で述べよう。その前に「ただし6から10は起きなかった」という情報について補足。結論から言うと、6,9,10は僕の見た劇場だけという可能性もあるが、少なくとも7と8は他の劇場でも確実に起きているはずであり、単に友人たちが気づかなかっただけだろう。
まず8に関しては、縦揺れは間違いなく存在する。劇場側も配給会社も問題があることを認め、TOHOシネマズの映写関係者の間ではかなり問題になったらしい。ただし見るに堪えないほど酷いものではないため、物語に没頭していて見逃したのかもしれない。あるいは配給会社に言わせれば問題のあるプリントは「何本か」なので、彼らはたまたま問題がないラッキーフィルムに当たったのかもしれない。
さらに7のブロックノイズもおそらく存在する。この件については、また後ほど。


前回の記事が載っている拙ブログを配給会社のワイズポリシーに案内したところ、返答のメールをいただいた。その結果、1〜5の字幕については、なぜあのような現象が起きたのかが理解できた。

ワイズポリシーによれば

・この作品は海外の権利元の指示により、タイの現像所で作られたプリントを使用し、字幕もタイで入れている。

・日本で作った字幕データをタイに送り、電話やメールでやり取りしながら字幕制作を行った

・だが残念なことにタイの現像所では、不可能な作業がある。
1)書体が少ないため、やむなく明朝体にしています。
2)黒エッジ(字幕の二重焼き付け)作業が出来ない

これを聞いて、1から4までの謎がすべて解決した。5の真ん中合わせはライズでも同じだったらしいが、特別見にくいわけではないから、これは趣味の問題として許容できる。

しかし「海外の権利元の指示により、プリントも字幕入れもタイで行わなくてはならなかった」って、それは一体どういうことなのだろう? 何らかのコストダウンをするためだろうか? だとすれば、それによってどこがどういう利益を受けるのだろう? 
もちろん積極的にコストダウンを図って利益を上げることは、企業として当然の行いであり、それ自体は何一つ批判されるべきではない。しかしその結果として出来上がったプリントのクオリティが平均を大きく下回ることで、観客が不利益を被り、作品の評価を損ねるようであれば、批判を受けるのもやむなしだろう。


そしてシネコンとシネマライズで上映プリントが違うのは、おそらくシネコン用のプリントが、公開間際になって大量に制作されたものだからだろう。シネマライズは『ブロークバック・マウンテン』の配給にも名を連ねているし、おそらく最初はライズ単館で上映するつもりだったに違いない。事実TOHOシネマズでの上映が決まったのは2月に入ってからだという。
ところがヴェネツィアのみならず、ゴールデングローブ賞をはじめ様々な賞を総なめにして、オスカーの大本命に躍り出た。そこで急遽拡大ロードショーが決まり、小さな配給会社のキャパを超えてしまったため、様々なトラブルが発生したということだろう。
とは言え、誰もが気づくように
「本当に権利元の指示ならば、なぜシネマライズのプリントだけは別物であることが許されるのか」
「シネマライズと同じプリントを使えばいいのに、なぜわざわざタイで別プリントを作り直すなどという二度手間をする必要があるのか」
そんな素朴な疑問は残る。


字幕については、とりあえず原因はわかった。次に6から10について。


26日(日)、同じ劇場の同じ席から再見して、幾つかわかったことがある。
【注】この日は、前回のクレームにより、無料で再見させていただいたことをお断りしておく。ただ僕としても、もはや映画を楽しむなどいう状況ではなく、プリントと映写のチェックを最大の目的に見ていたので、まるで仕事のようで、得をしたという印象はまったくないのだが…


まず7のブロックノイズと8の縦揺れは、どちらも同じ第4ロールの中でのみ起きている。

ブロックノイズだが、再見したら、それが間違いなくブロックノイズであるかどうか、少し自信がなくなった。一番大きなノイズに、アナログ的な滲みがあったようにも見えたからだ。しかし仮にブロックノイズそのものでなかったとしても、「ブロックノイズのように見える四角いノイズ」が第4ロールだけに発生していることは間違いない。
そのノイズが確実にあったように見えたショットは4つ。

・イニスとジャックが再会する少し前、家か何かを撮したショット
・イニスとジャックが素っ裸で崖から飛び込むショット。
・性器を切り取られた男の死体ショット
・イニスがゴミ箱を蹴飛ばすショットか、その前後。

上を見ればわかるように、この4ロール目には、(今時このくらい問題ないだろうと思えるレベルだが)性器ないしそれに類するもの(?)が見えるショットが二つ含まれている。しかもそのショットにノイズが入っている。
僕の推測では、おそらくその二つに若干の修整を施すため、このロール全体をデジタル化、コンピューター上で処理を行った後再びフィルムに変換。そのような余計な作業を行った過程で、縦揺れとブロックノイズが生じた…そういうことではないだろうか?
ひょっとするとこれは誤解で、デジタル化の作業など行われていないのかもしれない。しかし「縦揺れ」と「ブロックノイズ(のように見えるもの)」がこの第4ロールに集中している以上、デジタル化作業でなくても、何らかの不適切な処理がこのロールに対して行われたことだけは間違いない。

またあらためて見ると、この作品、新作とは思えぬほどフィルムノイズが多いのも気になった。日本語字幕の問題だけでなく、あらゆる観点からタイのラボの品質管理がお粗末なものであることが伺える。いずれにせよ、これらは全て字幕と同様、元のプリントの問題だ。


次に6,9,10。これは半分はプリントの問題、半分は映写の問題だとわかった。

劇場マネージャーに話を聞いたところ、ロールごとに画面全体の位置や字幕が上下してしまうため、ロールが変わるたびにフレーミングを変えて、字幕が適切なポジションに来るように調整しているそうだ。しかし他のの映画で、こんなに画面の上下が乱れるようなことはない。「他の作品でも頻繁にフレーミング調整を行っているのですか?」と聞くと、「普通はそんなに調整することはない。ただこの作品はロールごとの画面のずれがひどく、○○さん(私のこと)からのクレームもあったので、特に念入りに調整を行っている」とのことだった。

劇場側の話を信じるなら、やはり元のフィルム自体が例外的なまでにおかしいということになる。これまでに述べてきたような酷い状況を鑑みれば、その言葉に偽りはないだろう。

ただそのロールごとの調整がうまくいっていなかったのも事実である。

今回はまずオープニングで、画面が少し上にずれていたように見えた。そして最初の字幕が出た段階で、画面を少しずらす調整が行われたのがはっきり確認できた。

問題点6の、字幕の位置が突然下端ぎりぎりになったりする現象は今回も見られた。具体的には、イニスがコーヒーショップで元彼女と会うシーンにあったと思う。ただしこれは元のプリントがそうなっているようにも見えたので、どちらの責任かは よくわからない。

今回一番参ったのは、最後のロールだ。ここは明らかに画面が少し上にずれていた。その前のロールよりも、字幕の位置が少なくとも1行分は上に来ていたのだ。それだけならともかく画面の上が明らかに切れているのが大問題。広大な自然の中でのロングショットなら気にならないかもしれないが、最後のロールは室内シーンがほとんど。するとアップショットで人物の頭が中途半端に切れてしまう。トレーラーハウスの中でイニスが歩くシーンなど、ほとんど目の辺りから切れているのだ。あんな絵作りは絶対にありえないし、見ていて落ち着かないことこの上もない。なぜこのロールだけ、急に調整を放棄したのだろう?

その後のエンドクレジットで「Directed by ANG LEE」はやはり画面のかなり上になっていた。しかし他の一枚看板スタッフは次第に真ん中に収まるようになり、歌の歌詞字幕は前回と違って頭が画面からはみ出すようなことはなかった。おそらく「Directed by ANG LEE」が出た後で調整を行ったのだろう。

つまりロールによって字幕の位置が上に行ったり画面の上が切れてしまうのは、元のフィルムが「ロールごとに上下の位置がずれる」という問題を抱えている上に、映写技師がそれを手動で修整しきれなかったために生じたものということになる。

いつもならここで映写のミスを厳しく糾弾するのだが、すでに述べてきたように通常ではありえないようなことばかりが発生している異常なプリントなので、どうも映写についてあまり手厳しいことを言う気にはなれない。最大限の努力を払って最善の状態でフィルムを見せていたとは言えないが、「こんなプリントを上映するはめになってたいへんでしたね」と、逆にねぎらいの言葉をかけたくなるほどだ。まあ、中にはこういううるさい客もいるので、問題のある作品については、今後もっと細心の注意を払って上映してくださいな。


しかし僕は2回見て、2回とも満足のいく状態で『ブロークバック・マウンテン』を見られなかった…その事実に変わりはない。


あらためて言おう。今シネコンにかかっている『ブロークバック・マウンテン』のプリントは、明らかな「欠陥商品」だ。


ある程度事情は理解できなくもないが、年間トップクラスの優れた映画を、このような欠陥だらけの形で市場に流通させた罪は拭えない。配給会社のワイズポリシーには猛省を促したい。


なぜシネマライズだけプリントが違うのかなど、まだ未解決の謎もあるので、何か新しく分かったことがあれば、さらに続きを書きます。


また、僕は仕事柄ある程度の知識はあるものの、決してフィルム映写やラボ作業の専門家ではないので、技術的な面で何か思い違いをしている部分もあるかもしれません。何かおかしな点など気がついたら、遠慮無くご指摘ください。


(2006年3月)

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Comments

ぼのぼのさんのおかげで疑問が氷解しました。視力が落ちたのかなー眼鏡が合わなくなってきたのかなーと思っていたくらいです。ワイズポリシーの過去の配給作品は好きなものが結構多いので、今回のことは残念な気がします。

Posted by: atsumi | 03/30/2006 at 20:42

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