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02/06/2006

【CD】湯川潮音『湯川潮音』

yukawashione


湯川潮音(ゆかわしおね)の評判は、『タイド&エコー』というデビュー作が2002年に出たときから耳にしていた。かなり興味はあったのだが、そのアルバムは結局買わなかった。

それから3年後、僕は映画『リンダ リンダ リンダ』の中で、湯川潮音の歌声と初めて出会うことになる。
主人公たちのバンドが遅刻したため、場をつなぐためにステージに立った小柄で色白の少女。彼女は「The Water Is Wide」というイギリス民謡をアカペラで歌い出す。それは思わず息を呑むような瞬間だった。一瞬にして、映画館の、そして劇中の体育館の空気が変わる。雨宿りのために来ただけで、バンドの演奏などそっちのけでボール遊びに興じていた子たちも、彼女の美しい歌声に思わず足を止めてしまう。それほどの力を持った、まさに天使のような歌声だった。

その映画の少女と以前に評判を聞いた湯川潮音が同じ人物であるのを知ったとき、全てが納得いった。そして発売時に『タイド&エコー』を聞かなかったことを悔やんだ。

そこですぐにCDを物色。『タイド&エコー』はほとんどカヴァー集なので、その時点で最新のオリジナルアルバム『逆上がりの国』を買ってきた。
しかしこのアルバムは今ひとつだった。楽曲に魅力が乏しく、サウンドプロダクションは単調で、湯川潮音の歌声も映画で聞いたような澄み切った美しいものではなかったからだ。つまらないとまでは言えないが、いずれにせよ期待値を下回る出来だった。

そこで再び湯川潮音に対する興味は薄れていたのだが、今年の1月に東芝EMIからメジャーデビューアルバム『湯川潮音』が発表された。これが非常に評判がいい。騙されたと思ってもう一度聞いてみるかと、妙に映りの悪い写真をジャケットにしたアルバムを、ポイント3倍セール中だったHMVのレジへと運んだ。


そのアルバムには、僕が湯川潮音という歌手に求めていたものが、たっぷりと詰め込まれていた。

音楽性そのものは『逆上がりの国』とほとんど変わらない。しかし楽曲/歌/演奏/アレンジなど全ての面で格段に磨きがかかっている。湯川の歌声は前作よりも遙かに透き通った美しいもので、あの天使の歌声が存分に堪能できる。さらに特筆すべきはバックの演奏だ。前作の演奏はシンプルを通り越してスカスカになってしまった部分も見受けられたが、こちらは絶妙の匙加減で、湯川のヴォーカルを最大限に引き立てながら、ポップな彩りを加えていく役割を果たしている。歌声も楽器もすべての音色が耳に心地よい。

曲としてはくるりの岸田繁が作曲した「裸の王様」がベストだろう。今までに聞いた中で最も美しい歌の一つと言っても過言ではない。特に「どうかその戦いをやめないで 怖くても」という部分のメロディは何十回聞いても鳥肌が立つ。先ほど書いた演奏の匙加減が最も絶妙なのも、この曲だ。簡素にして必要十分な演奏が、歌の美しさを最大限に引き出している。
それに続く「HARLEM」も素晴らしい。こちらは湯川の作詞作曲だが、「お帰りなさい あなたのハーレムへ」という何でもない歌詞にこんなメロディを付けられるとは、まさに天才的だ。
この3曲目から4曲目への流れが白眉だと思うが、1曲目の「渡り鳥の3つのトラッド」や9曲目の「エデンの園」もその2曲に負けない出来。いずれにせよ捨て曲は一切無しで、全10曲が最高のクオリティを保持している。


彼女の歌を聞いて、多くの人は大貫妙子やエンヤとの類似性を指摘するだろうが、僕がこのアルバムを聞いて最も強く想起したのはSalyuだった。映画『リリイ・シュシュのすべて』でリリイ・シュシュの歌をすべて担当した、あのSalyuだ。
『リリイ・シュシュのすべて』で聞けるSalyuの歌声は、ガラス細工のような脆い美しさに溢れた唯一無二のものだった。小さなライヴハウスで一度だけ体験したライヴも、ソロアーティストとしての未来を期待させるに十分なものだった。
しかしSalyuとしての正式なソロデビューはなかなか実現せず、シングルをポチポチと出すばかり。ようやく昨年デビューアルバムを出したものの、そこに並んでいたのは当たり障りのない中庸ポップスばかりだった。最初のシングル「Valon-1」を除けば、あのガラス細工のような美しさは、どこにも見いだすことが出来なかった。

「Salyuは、まさにこんなアルバムを作るべきだったのだ」
この『湯川潮音』のアルバムを聞いて、僕は痛切にそう思った。

あのリリイ・シュシュの歌を歌った人間が次に歌うべき歌。
本来それを歌うべきSalyuは、残念ながら違う世界に行ってしまった。
代わりに湯川潮音が別の場所から登場し、「歌われるべき歌」を歌ってくれた。

その奇跡に、強い感動を覚える。


最近僕の聞く音楽は、なぜか洋楽は男性アーティストばかり、邦楽は女性アーティストばかりという状況になっているのだが、その傾向をさらに強める歌姫が出現したようだ。

3月にクラブクアトロで行われるライヴのチケットも買ってきた。
この歌世界がライヴでどのように表現されるのか、とても楽しみだ。


久々に多くの人に無条件で推薦できる名盤『湯川潮音』。

この文章を読んで興味を覚えた人は、騙されたと思って、彼女の歌声に一度耳を傾けて欲しい。


『湯川潮音』

TOSHIBA EMI / Capitol Rocords
TOCT-25889
2,500円(tax in)
Produced by 鈴木惣一朗 Mixed by Kazuyuki Matsumura a.k.a.ZAK
初回限定 : 紙ジャケット仕様

01.渡り鳥の3つのトラッド
作詞&作曲 湯川潮音
02.鏡の中の絵描き
作詞&作曲 湯川潮音
03.裸の王様 (Album mix)
作詞:湯川潮音 作曲:岸田繁
04.HARLEM
作詞&作曲 湯川潮音
05.蝋燭を灯して(Album mix)
作詞:湯川潮音 作曲:James IHA & 湯川潮音
06.聖堂の隅で
作詞&作曲 湯川潮音
07.緑のアーチ (Album mix)
作詞:湯川潮音 作曲:永積タカシ
08.海の上のパイロット
作詞&作曲 湯川潮音
09.エデンの園 (Album mix)
作詞&作曲 湯川潮音
10.キルト
作詞&作曲 湯川潮音


湯川潮音公式HP
http://www.yukawashione.com/


(2006年2月)

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Comments

トラックバックありがとうございました。
詳細な情報に基づくレビューに感銘を受けました。

こちらの設定が悪いのか、何故かこちらからはトラックバックできませんでしたので、コメントさせていただきました。ありがとうございました。

Posted by: YR | 02/08/2006 at 23:59

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