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12/21/2005

【ライヴ】伊吹留香 2005.12.18

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伊吹留香ライヴ 2005年12月18日(日) 下北沢MOSAiC


伊吹留香のライヴを見るのは2度目だ。そして今回のライヴが、何か特別なものになるであろうことは十分に予感していた。


すぐ近くのスズナリで芝居を見終えたのが19時半。その後食事などして、20時20分過ぎにMOSAiCに入る。日曜のせいか、9月のライヴよりはだいぶ混んでいる。

下に降りるとちょうどセットチェンジの最中。でもこの時間にセットチェンジって、次は一体誰なんだ?と不安になる。


20時40分頃から演奏を始めたバンドは、20時50分から演奏予定のThe Waitsではなく、その前のBANDY GANGというバンド。やはり相当進行が遅れているようだ。この分では伊吹留香の終演は相当遅くなるなと、溜息が出る。

そのBANDY GANGだが、ロカビリーを基調にしたワイルドなロックで、言うなれば「凶暴なストレイ・キャッツ」。あまり好きなタイプの音楽ではないのだが、演奏力は高く、グランジを経由した匂いも感じられるので、約35分の演奏を最後まで楽しく見ることが出来た。特にメロディを弾きまくりで、ほとんどリード楽器と化しているベースが圧倒的にいい。ギターは2人いるがソロらしいソロを弾く場面は滅多になく、歌メロも単調なので、ベースの弾くフレーズが一番印象に残る曲が少なからずあった。異常にパワフルなドラムスにも圧倒されたが、あまりに押し一辺倒なので、もう少し引きのニュアンスを身につけたら、さらに良くなるのではないだろうか。


続くThe Waitsが演奏を始めたのは21時20分。でもそれって伊吹留香が演奏始める予定時刻だろうに… 丸々1バンド分押しているようだ。

The Waitsは前回伊吹留香のバンドで素晴らしいドラムスを叩いていた室田憲一が在籍する3ピースバンド。本来のバンドではどんな音楽をやっているのかと思いきや、限りなく「ジャム」(ポール・ウェラーの最初のバンド)だった。ストレイ・キャッツにザ・ジャム…間違えて1980年にタイムスリップしてしまったのか?と、思わず苦笑する。どちらもメンバーが生まれた頃の音楽だろうに。ひょっとして両親がこういう音楽を聞いていて、その影響なのだろうか?

演奏は先ほどのBANDY GANGに輪をかけて上手い。柔軟さとパワーを兼ね備えた室田憲一のドラムスは、伊吹留香の時とはまるで違う縦ノリのリズムを叩き出し、バンドを見事にグルーヴさせている。ギターもベースも非常にタイトな演奏で、バンドとしてのアンサンブルは完璧に近い。演奏力に関しては文句なしだ。

しかし圧倒的な演奏力に比べると、楽曲の魅力は今ひとつ。リズムやリフは印象に残るのに、歌やメロディーは右から左へとすり抜けていく。だから30分以上聞いていると、曲ごとの区別がつかなくなり、正直言って少し飽きてくる。
こういうノリ優先の音楽なので、ある程度は仕方ない部分もある。だがジャムは縦ノリのビートを強調しながらも、その上で印象に残る「歌」を聞かせてくれた。これだけの演奏能力を持ったバンドなのだから、もう少し「歌」としての魅力を要求しても罰は当たらないと思うのだが…


その後またセットチェンジがあり、伊吹留香の登場は22時5分。それって本来なら終演時刻だろう。予定よりも45分押し。先週の「4×4」に続いてまたこれか。もう下北沢のライヴハウスのタイムテーブルは信用しないことにする。


1曲目、いきなりミディアムテンポのナンバーを祈るように歌い上げる。新曲かと思ったが、どこかで聞いたことがある。前回も歌ったシアター・ブルックのカヴァー「ぜんまいのきしむ音」だった。他人の書いた曲だが、確かに彼女の魂がこもっている。初めて聞いた時はよく消化できなかったが、あらためて聞いてみると、とても良い曲、良い歌詞であることがわかる。

伊吹留香の左腕には包帯とサポーターが巻かれている。4週間前に20針縫う大怪我をしたと聞いていたのだが、想像したほど酷いものではなく、少しホッとした。もちろん痛みはかなりのものだろうからホッとするのも不謹慎だが、20針と聞いて、もっと大きな傷を思い描いていたのだ。その場合、若い女性にとって肉体の痛み以上に精神的なショックが大きいだろう。でも大丈夫。その程度の傷で君の美しさが損なわれることなどありはしない。

バンドは前回と同じでギター×2,ベース、ドラムスという編成。ドラムスが室田憲一から河鰭文成に変わった以外は、ベース=渡部大介、ギター=梶原健生/中島宰という同じメンバーだ。しかし前回とはサウンドの印象がかなり違う。それはドラムスの交替によるものと言うより、ライヴの方向性の違いだろう。前回がロックらしいノリを重視していたのに対し、今回は伊吹の内面を深く表現することを目的に、ミディアムテンポのナンバー中心で、勢いよりもヘヴィーさや静と動の対比を重視している。

1曲目が終わると伊吹が「待ちくたびれたぜ!」と叫ぶ。それは観客も同じだ。その分いいものを見せてくれよ。

2曲目は名曲「死角」。スタジオヴァージョンよりもテンポを落として、ヘヴィーさを際だたせている。演奏はとてもドラマチックかつアグレッシヴで、前回よりも遙かにいい。ただし伊吹の声が出ていない。思いが先走っている感じで、それを歌として表現しきれないのを、彼女自身もどかしく感じているようだ。このような激しい歌を歌うには、まだ体調が万全ではないのだろうか。前回にもまして白く血の気がない顔を見て、少し不安になる。「いつもこの顔です」と言われそうな気もしないではないが。

3曲目は初めて聞くナンバー。あとで「境界線」だとわかる。詩集「生存未遂」の中でも特に好きな詩だが、他の曲に比べると歌メロが単調なため、せっかくのヒリヒリするような言葉が聞く者に届いてこない。まだ正式な録音はされていないことだし、詞の魅力を最大限に生かせるよう、メロディなどをもう少し工夫した方がいいと思う。
ただしバンドの演奏は良い。特に下手のギター(あちらが梶原健生だっけ?)が多くのエフェクターを駆使して紡ぎ出すサウンドは魅力的だ。

4曲目は「36.5℃」。これもバンドの演奏がスタジオヴァージョンを凌ぐほど良い。ただし伊吹のヴォーカルは相変わらず不安定。テンポダウンした演奏とヴォーカルが少しずれているところもあったし、声量不足という弱点も露わになる。前回も書いたことだが、ライヴの場数をこなしていないため、ステージで自分の力を出し切るコツを掴んでいないようだ。

5曲目は「降り立つ時」。これはバンドの演奏主体の曲なのだが、面白いことに、ここで突然伊吹のヴォーカルが生彩を帯びてくる。バンドの演奏ももちろん良いのだが、それ以上に彼女の突然の復調に耳を奪われる。

そして6曲目は「迷子の瞳」。これは最初の数小節を聞いただけで「ああ、間違いなくこれが今日の最高の歌唱になるな」と思った。これまでに聞いた伊吹の最もエモーショナルな歌声。文句なしに聞く者の心を震わせる。

しかしこの曲で終わり。せっかく思いきり素晴らしい歌声が出てきたところだったので「え? これで終わり?」と少し拍子抜けしてしまった。


終わったのは22時40分。土曜ならともかく、日曜のこの時間に終わりはいささか辛い。
挨拶していこうかとも思ったが、僕以上に彼女を必要としている若い子たちがたくさん待っているだろうからと、そのまま帰った。


「非常に演奏の上手いバンド+まだライヴで真価を発揮できない伊吹留香」というパターンは前回と変わっていない。その辺を忠実にリポートしていくと、上のようにいささか否定的な言葉が並んでしまう。

だが今回のライヴは、前回とは明らかに違うものだったし、遙かに強い印象を残すものだった。

確かに伊吹のヴォーカルは様々な問題を抱えていた。ハードな曲ではパワーや声量の不足が露わになっていたし、バンドとのずれも目立った。ライヴ慣れしていないのがありありとわかる。
だが今回は、技術的な拙さを補って余りあるエモーショナルな表現を、前回以上に聞くことが出来た。その上ライヴでありながらコンセプトアルバムを聞いているかのような一定のトーンが全6曲を貫いていた。あくまでもライヴとして見た場合「迷子の瞳」で終わって拍子抜けかもしれないが、そのコンセプトを重視した場合、あの歌で完結するのは当然だったと言える。

そのトーンだが、強いて言うなら「祈り」に近いものに思えた。

孤独や悲しみにじっと耐え、いつか希望が顔をのぞかせるのを待ち続ける…全6曲がそんな祈りの歌に聞こえた。

その祈りの強さ、精神性の深さが、技術的な問題を超越して、聞く者に強い感動を与えていたのだ。

前回は「最前列にいる奴らは、なぜ棒立ちのままなんだ」と文句を言ったが、肉体を通り越して心に直接訴えかけるような音楽が奏でられた今回は、僕も金縛りにあったようにじっと聞き入る他なかった。


だがこのライヴは伊吹留香にとってあくまでも出発点だと思う。何度も述べているように、ヴォーカリストとしての彼女はまだまだ発展途上にある。この程度の小さな小屋では強い思いだけで観客の心を捕らえることも出来るが、それだけではいずれ壁にぶち当たることになるだろう。もっと音楽としての質を高め、一つの言葉一つのフレーズに強い思いを込められるようになれば、表現の純度を損なうことなく、より多くの人の心を揺り動かすことが出来るはずだ。


見ていて「彼女は今このステージに全てを注ぎ込んでいるな」と思わせる瞬間が何度となくあった。だがそれ以上に「ここまで来られたならまだ行ける。あと少しで今の殻を破って、より大きな表現者に成長できるはずだ」と思わせる瞬間が多かった。


燃え尽きている暇などない。この2005年12月18日こそ、伊吹留香にとって本当のスタートライン。全ては今始まったばかりなのだ。


(2005年12月初出)

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