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10/22/2005

【ライヴ】キース・ジャレット ソロ 2005.10.21

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キース・ジャレット ソロ
2005年9月21日(金) 東京芸術劇場大ホール


キース・ジャレットのピアノソロライヴ。もちろん全編即興による演奏だ。

案の定と言うべきか、当然と言うべきか、このような音楽/演奏を事細かに語るヴォキャブラリーは持ち合わせていない。

したがって以下の文章は、覚え書きに幾つかの印象を付け加えた程度のもの。ほぼ自分自身のための備忘録。いつものようなストーリーテリング式の整然としたリポートではないので悪しからず。


座席はD列11番。前から4列目だからステージまでの距離は文句なし。ただし少し左寄りなので、キースの背中ばかり見ることになるのではと心配したが、鍵盤を弾く指先までちゃんと見えたし、キースの表情も意外なほどよく見えた。視覚的にはほぼ文句なし。こちらの目の高さはキースの膝くらいのところにあって見上げる形になるため、正確にどの鍵盤をどんな風に弾いてるかまではわからないが、それを肉眼で確認できる席はほとんどないはずだから、そこまで要求するのは贅沢というものだ。またこの位置からだとペダルを踏む足が非常によく見える。せわしなく、リズミカルにペダルを踏んでいるのが印象的だった。
ただし音は下ではなく上の方にむかうので、純粋に音楽を聴くという意味では今ひとつ。途中休憩の時2階に上がってみたが、おそらく2階の前あたりが音響的には一番良さそうだし、視覚的にも美しそうだ。ソロライヴのように、そのアーティストの一挙一動を見たいときは前の方でもいいが、オーケストラの演奏などを聴くなら、あの辺を狙うことにしよう。

初日は携帯が鳴ったり大きな音を立てる人がいたりで、キースがえらく立腹したという話を聞いていたのだが、本日は注意が行き届いていたせいか、ほぼ問題なし。まだ完全に音が消え終わらないうちに拍手する奴がいたが、まあ何とか我慢できる範囲だった。しかし何をそんなに焦って拍手するんだろうね…

以下、便宜上「○曲目」と書いていくが、終わったあとにメモしたものなので、1曲程度曲数がずれている可能性もある。


前半は19時5分頃開始、19時50分終了。その間に確か8曲も演奏した。すなわち1曲平均5分強。最低でも1曲15分はやるだろうと思っていたら、予想外にコンパクトだ。
1曲目から3曲目くらいまではミニマルな現代音楽風、あるいはクラシックの標題音楽風。メロディーは乏しく、ちょっと暗く圧迫されるような感じ。技術的に凄いことをやってるのはわかるが、正直それほど楽しめるものではなかった。
5曲目でジャズ的なノリのいいリズムが出てきて、ここでようやく「おおっ!」となる。そう思ったのは僕だけではないらしく、客からの拍手はその前とは比べものにならないほど熱がこもっていた。
6曲目はカントリー調の演奏だったが、あまりインスピレーションが湧かなかったのか、さほどの発展を見せずにお仕舞い。
その後の2曲は素晴らしく、前半の最後になって「なるほど」と思わせる閃きを見ることが出来た。


しかし前半は、すでに述べたように一曲ずつが短いこともあって、いささか不完全燃焼。悪くはないにせよ、こんな程度なのかと少々不安になる。何しろチケット代は12000円だ。お布施をしているつもりはないので、その高価なチケット代に見合う程度の満足感を求めても罰は当たらないだろう。


20分の休憩を挟んで、後半は20時10分開始、20時50分終了。約40分。演奏は4曲。後半でグッと1曲ごとの演奏時間が長くなる。
1曲目は、最初が前半の最初の方と同じようなミニマルな曲調なので「また?」と思ったが、それがいつの間にかとても美しい曲になっていく。どこかで聴いたような気もするのでスタンダードかもしれない。
そして白眉は2曲目だ。これもどこかで聴いたことのあるメロディーで、ひょっとするとクラシックの曲かもしれない。ともかくこれが圧倒的に美しい。大胆な言い方をすると、『ケルンコンサート』のエッセンスを十数分にギュッと濃縮したような感じ。ひょっとすると今自分は地上で最も美しい音楽を聴いているのではないかという思いに捕らわれる。しかもその音楽が即興で、一音一音がその場で生み出され、その場で宙に消えていくという贅沢さに目眩を覚える。
3曲目は、2曲目とは全然違うがノリの良い曲。ただしすぐ終わってしまう。
ラストの4曲目が、2曲目とはまた少し違うタイプの美しい演奏。これも素晴らしい。

その後のアンコールは何と4回もあった。それぞれ1曲ずつの演奏。

1曲目と2曲目はこぼれるようなロマンティシズムに溢れた曲。これもスタンダードナンバーがベースかもしれない。
3曲目は古いジャズ/ラクダイム調。締めがコミカル。
本当ならアンコールはここまでだったらしい。すでに客電は点いているし、キースはなかなか出てこない。客も2〜3割は帰ってしまった。
しかし終わることのないスタンディングオベーションに応じて、ついにキース登場。
4曲目の演奏は、後半の2曲目と並ぶ、息を呑むような美しさ。天上の音楽。言葉を失う。

21時25分終了。その後もスタンディングオベーションは続いたが、21時30分に「本日の公演はすべて終了しました」のアナウンスが流れ、ようやく観客が帰り出す。


演奏は3つに大別される。「ミニマルで前衛的な現代音楽調」「古いジャズやブルース、カントリーなどのルーツミュージックをベースにしたノリの良い小品」「スタンダードナンバーやクラシックのような美しいメロディーを持ったロマンティシズム溢れる曲」だ。

やはり印象に残るのは、美しいメロディーを持った曲だ。特に今回は、最初の方で抽象的な音楽が続き、後になるほどメロディアスな演奏が増えていったので、ライヴ全体が「ロマンティシズムの生成」をテーマにしていたかのような印象さえ受ける。すでに書いたように、後半の2曲目とアンコールの4曲目は、その最たるもので、次々と湧き出すロマンティシズムに心が溺れた。やはりこの2曲が全編の白眉。
ソロのライヴではもっと難しく抽象的な演奏が曲が多くなるだろうと思っていたので、こんなに美しくロマンティックな演奏が次々披露されたのは嬉しい驚きだった。これならたとえ『ケルンコンサート』しか聴いたことがないという人が来ても、十分に満足したのではないだろうか。

帰りにiPodで、その『ケルンコンサート』を聴いていたのだが、やはり今日の演奏の方が凄い。一つ一つの音に込められた情念や魂の濃度が、60歳の今の方が段違いに高いのだ。キース恐るべし。マイクが置かれていたので録音されていることは間違いない。ぜひともCD化して欲しいものだ。


前半は音を立てたりしないよう緊張していて疲れたが、後半は音との真剣な対峙でグッタリ疲れ切った。終演後には思わず深い溜息をつき、解放感すら感じた。言うまでもなく、それは心地よい疲労だったが、座って音楽を聴くだけで、なぜこんなに疲れるのだろうと不思議になるほどだった。


忘れがたい時間、忘れがたい演奏。

しかもそれらは、言葉に還元されることを拒否して、今も僕の中で育っている。

今日の体験は、今すぐにではなく、ゆっくりと時間をかけて僕の音楽観を変容していくような予感がする。


(2005年10月初出)

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Comments

はじめまして。TBさせていただきました。

僕も21日の演奏を観に行きました。やっぱりキース・ジャレットは素晴らしいですね。久しぶりに音楽に我を忘れて没頭できました。しばらく忘れられないんだろうなあと思います。

それでは、また。

Posted by: k | 10/23/2005 14:21

こんにちは、はじめまして、
私はジャズに詳しいわけではないですが、ケルンコンサートのレコードを聴いてからキースのファンです。

大阪も後半は素晴らしくよかったです♪

Posted by: accaplus | 10/23/2005 14:51

はじめまして。私も同じ日のコンサートに行きましたので、TBさせていただきました。初めて聴くキースのライヴ、感動的でした!

Posted by: MIHO | 10/23/2005 16:09

こんにちは、アンコール最後の曲はほんとに最高の演奏でしたね。アンコールごとに曲が研ぎ澄まされていくようで、拍手が止められませんでした。CDもしくはDVDが発売されたらもう一回落ち着いて聞きなおしてみたいです。

Posted by: gctate | 10/23/2005 18:49

どうもはじめまして。
トラックバックありがとうございました。
14日、20日を見に行きましたが、14日の方は、残念な結果に終わってしまいました。
今思えば、あれはあれで貴重な体験だったのとは思いますが。
録音されたものをぜひ聴いてみたいですね。
DVDなんて話もあるようですが。
また、よろしくお願いします。

Posted by: piouhgd | 10/23/2005 22:28

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