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10/18/2005

【演劇】劇団桟敷童子『風来坊雷神屋敷』2005.10.17

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劇団桟敷童子『風来坊雷神屋敷』
2005年10月17日(月) 北区・飛鳥山公園内 特設天幕劇場


最悪である。

どしゃ降りとは言わぬまでも、かなり本格的な雨。
事前に食事をしていたら、お気に入りの傘を持って行かれる(-_-")。もうこの一事で、初めて降りた王子という街が嫌いになる。
広い公園内の道は限りなく暗い。しかも3日間続く雨でぬかるみ状態。
南口ではなく中央口の方から来たため、会場に向かう人の姿はゼロ。「劇団桟敷童子」という案内が途中からなくなったせいで、あちこち迷いまくり、足下のよく見えない階段で危うくこけそうになる。怪我をしたらどうするんだ。本当に、何故こんな場所で公演を打つかねえ…
やっとのことでテント前に到着したら「なぜ???」と言いたくなるくらいの人。この大雨、月曜日、王子のテント公演…どう考えたって今日は空いてるだろうと高をくくって来たのに、とんでもない間違いだった。
しかも到着したとき、ようやく入場が始まったばかり。僕の整理番号は123番。入場の列はなかなか進まない。結局中に入れたのは到着から20分以上経った頃。その間雨と泥の中でひたすら待ち続ける。
入ったら入ったで、上の端の方しか席が残っていない。毎回できるだけ前の方で見ている僕にとっては不本意な席だ。最近視力が落ちているので、あの席からでは役者の細かな表情が読み取れない(と言っても両目とも0.9だが、長いこと視力だけは良かったので最近かなりの不自由を感じる)。
そのような場所では荷物預かりなどあるはずもなく、仮にあっても不安で預ける気にはならない。結果仕事帰りの大荷物を抱えての観劇となる。
雨がテントに打ちつける音がうるさくて、台詞がよく聞き取れないこともしばしば。前の方はそうでもないのかもしれないが、後ろに行くほどステージから離れ天井に近くなるので、かなりうるさかった。

今までの観劇歴の中でも最悪の環境。見る前から気が滅入ることばかりで、思いきりテンションは低くなっていた。

しかし…

雨と泥の中で20分以上も待たされたのにはうんざりしたが、この劇団は客の誘導まで役者が自分たちでやっている。中には雨合羽さえ着けず、舞台衣装のまま誘導をしている人さえいる。言うまでもなく、こちらの方がさらにたいへん。
そして芝居が始まってみれば、天幕の奥が開くようになっていて、役者のほとんどは大雨の戸外から舞台に駆け込んでくる。
外も雨なら、テントの中もセットの仕掛けで雨が降る降る。おまけにクライマックスでは鉄砲水。どこもかしこも水また水。
観客席はそうでもないのだが、舞台上は水のせいで冷えているのか、役者の体温が高まっているのか、台詞を吐く息が白く煙っている。ただ寒いだけならともかく、それをみんなびしょ濡れの衣装でやっているのだ。風邪をひきやすい僕なら一発でダウンだ。

外の大雨はともかく、中の水は最初から演出に組み込まれているもの。10月のテント公演で、普通こんなことやるか? 楽屋がどこにあるのか知らないが、どうせそちらもテントみたいなところで、まともな暖房もシャワーもありはしないだろう。

もうね…あんたらはマゾか? 何が楽しくてそこまで無茶をやるんだ?と問いつめたくなる。

これを3〜4日ならともかく、2週間以上1日も欠かさず続けるなど気違い沙汰だ。「体育会演劇」のような言い方はよく聞くが、それどころではない。まさしく「サバイバル系演劇」だ。


さすがにその光景を見ていたら、席の悪さを除いて、こちらの不平不満など跡形もなく吹き飛んでしまった。見る側の環境もずいぶん過酷だが、演じている側の過酷さはとてもそんなレヴェルではない。このような厳しい条件での観賞も貴重な演劇体験だろう。


                     *


というわけで、ようやく芝居の中身について(笑)。


前作『博多湾岸台風小僧』は、今までに見た演劇の中でも屈指の感動的な作品だった。そのたった一本で桟敷童子の熱烈なファンとなってしまったのだが、結論から言うと、今回の『風来坊雷神屋敷』は前作よりもだいぶ落ちる。


まず駄目なところから上げていこう。

今度の作品は『博多湾岸台風小僧』によく似た部分も多く、桟敷童子という劇団が一貫して描き続けているテーマが何なのかがよくわかる。それは強いて言うなら「どんなに最悪な人生でも決して諦めるな。歯を食いしばって生き抜け」という、普遍的ではあるが、かなりアナクロなものだ。そのアナクロな臭みを消し、単なるお題目に終わりそうなテーマに、どれだけのリアリティを与えられるかで、芝居の善し悪しが決まると言っていい。不便な場所での公演を好み、観客に過酷な観賞条件を強いるのも、「あなた演じる人、わたし見る人」という安全な役割分担を打ち壊し、観客を登場人物と同様の切羽詰まった状況に引っ張り込むための手段だろう(もちろん普通の劇場では不可能な仕掛けのせいもある)。

しかし「外も雨、中も雨」というリアルな雰囲気に恵まれながら、本作が今ひとつだった最大の理由は、詰めの甘い甘い脚本にある。この作品を見たことで、前作の脚本が、いかによく練り上げられた完璧に近いものだったかが再確認できた。

まず主人公である興櫓木流(こおろぎ ながれ)が、この物語の中に存在する意味がよくわからない。
確かに「桟敷童子版 椿三十郎」とも言うべきキャラは立っている。池下重大の演技そのものもいい。また興櫓木流のキャラ以外にも、この芝居のあちこちに黒澤映画のイディオムを見つけることが出来る。『七人の侍』そっくりの設定やシーンがあり、「野武士のテーマ」が何回も流れ、脇役にも黒澤映画から借りてきたようなキャラがいる。極めつけは「裏切りごめん!」か。『七人の侍』『用心棒』『椿三十郎』『隠し砦の三悪人』などから拝借してきた要素が満載だ。それ自体は、パクリと言うよりオマージュやパロディのレヴェルなので、目くじらを立てる必要はない。
しかし黒澤の時代劇は、基本的にスーパーヒーローを主人公としたマッチョな娯楽活劇だ。そこから拝借してきた要素が、それ以外の『カムイ伝』を思わせるような土着的時代劇とうまく融合していない。興櫓木流というキャラクターは特にそうで、彼がどういう動機で何をやろうとしているのかが素直に入ってこない。彼が主人公である必然性はどこにも見いだせず、ストーリーをうまく運ぶために作られたキャラが、結果的に主人公になってしまっただけではないかという疑念すら湧いてくる。

今思い返しても、ストーリーの本質的な流れは
「苦悩しながらも龍神への生け贄の儀式を守ろうとする村人たち」
「その儀式を悪しきものとして破壊しようとする柱崩しの一味」
「その間へ投げ込まれ、両者の価値観を揺さぶる爆弾となる阿呆丸」
この三者だけでほとんど完結している。
と言うより、興櫓木流と「柱崩し」の首領 残堀は、本来一人にまとめられるべきキャラではなかったのか。それを二人に分けたため、前作にあったシンプルな力強さと緊張感が失われてしまったことは間違いない。

そのような構成上の混乱もあって、大勢の登場人物がほとんど生きていない。どんな脇役にも明確なキャラクターがあり、存在する意味がよくわかった前作とは大違いだ。
前作で目の覚めるような芝居を見せてくれた外山博美や川田諒一も「ああ、そう言えば出てたよね」程度。前年の儀式で娘を失った土岐(もりちえ)など、もっと重要な役割を担っていいだけのモティベーションを持っているのに、ストーリーの牽引役とはならず、背景に甘んじている。これは本人たちの演技ではなく、脚本と演出の問題だ。
残堀役の南谷朝子は熱演だが、本来なら物語の主人公となるべき人物がなかなか前面に出てこないのが、かえって歯がゆさを増す。またそのキャラが前作で板垣桃子が演じた役に似ているため、「板垣と比較すると、ちょっと落ちるかな」という思いがよぎってしまう点でも損をしている。
いろいろな要素を詰め込み、大勢の人物を登場させすぎたために、物語やテーマが拡散してしまったという欠点は、先月見たinnerchildの『遙〈ニライ〉』によく似ている。他にも幾つか似た雰囲気を感じたが、ただの偶然だろうか。

時代劇なので殺陣シーンがかなりあるのだが、こちらも少々苦しい。アクションが主眼ではないので、あくまでも様式として受け止めればいいのだが、それにしてももう少し視覚的なダイナミズムを感じさせて欲しかった。黒澤映画の要素を大胆に取り入れるなら、こういう部分もしっかりしていなければ恥ずかしい。


…という具合に、貶させばいくらでも貶せる作品である。

それも小さな瑕が多いのではなく、土台となる脚本に問題があるのだから致命的だ。


それでもこの作品、決して嫌いではない。

と言うよりも、かなり好きだ。

そんな「作品としては明らかに不出来なんだけど、好き」というところまで『遙〈ニライ〉』によく似ているのは、ただの偶然だろうか。


なるほど作品としての完成度は『博多湾岸台風小僧』よりもだいぶ落ちるが、そこに込められた「熱さ」は決して引けを取るものではない。放っておけばどこまでもバラバラになりそうな物語を、必死に一つの方向にまとめようとする役者たちの姿が、奇妙な熱気を生み出しているかのようだ。

けれん味たっぷりの仕掛けは今回も健在だ。前作と同様、強いメッセージ性を持ちながらも、決して教条主義に流れることなく、優れたエンタテインメントとして成立している。あの最悪の環境で、1時間50分もある芝居を退屈することなく見ていられるのも、「見せ物」という芝居の原点が守られているからだ。新宿梁山泊からの流れがあるせいか「アングラ」というキーワードで語られがちな劇団だが、テーマの明確さもエンタテインメント性の高さも、そこらの商業演劇より遙かに上だろう。


そして何と言っても凄いのは、阿呆丸を演じた板垣桃子だ。

小さい頃から人身御供になるために育てられ、自分が生け贄として捧げられることに何の疑いも恐怖も持たない阿呆丸…板垣桃子は、登場した瞬間から、その特異で天真爛漫なキャラクターに強いリアリティを与えてしまう。
実を言うと、最初に書いたとおり席がステージから遠くて細かい表情がよく見えなかったせいもあり、ずっと村の長の娘 志乃を演じているのが板垣桃子だと思っていた(場内が暗くて配役を事前に見られなかった)。阿呆丸が登場したとき、「これはまた凄い人が出てた来たぞ」と思ったが、かなり後になるまでそれが板垣だとは気づかなかった。前作とあまりにもキャラが違い過ぎて、とても同一人物には思えなかったからだ。発声も、身にまとったオーラの質も、まるで違う。だから阿呆丸が板垣桃子であることにようやく気づいた時の驚きは相当なものだった。
彼女が舞台に立つだけで、芝居の空気が変わる。他の役者たちも、彼女を指揮者に見立て、それに合わせて演技をしているかのようだ。前作でも見事な役者だと思ったが、似ても似つかぬキャラを演じきった本作の板垣には、完全にやられた。
「死ぬために生きてきた」阿呆丸が、「生きるために生きる」ことに目覚める成長物語が十分に描き切れていない恨みは残る。本来なら、興櫓木流の物語をカットして、そこをもっと掘り下げて描くべきだったろう。それでもなお、本作の板垣桃子は忘れがたい印象を残す。彼女の芝居を見るだけでも、王子のテントまで足を運ぶ価値があるというものだ。今僕の中では、小劇場系の注目女優として、板垣桃子は石村実伽に続くポジションにいる。


『博多湾岸台風小僧』のウェルメイドさを期待すれば裏切られることになるだろう。だが不出来なるがゆえに、触れば火傷をしそうな熱さが、あちこちからいびつな形で噴出している本作も、それはそれで必見の作品だ。


次回公演は2月。場所は『博多湾岸台風小僧』に続いて2度目のスズナリ。正直言ってホッとした(笑)。2月の屋外公演はさすがにきつい。

もちろん何があろうと見に行くつもりだ。何だかんだ言っても、これほど芝居の楽しさを味合わせてくれる劇団は滅多にあるものではないからだ。


ともかくみんな、風邪ひくなよ!


【注】
最初に述べたように、今回は席がステージから遠かった上に、雨音がうるさくて台詞が聞き取れない部分も少なくなかった。そのため物語の重要な要素を見落とし/聞き落としている可能性もある。だがテント公演ならではのメリットを生かした作品である以上、デメリットも作品の一部として評価されるべきだろう。したがってその分を差し引いて評価するようなことはしなかった。


(2005年10月初出)

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Comments

初めまして。トラックバック有難うございました。
博多湾岸は、むしろ、いつもより過剰な泣き所、仕掛けだったと思います。
私は、桟敷童子とチャンバラは合わないと思ってますので、今回は、そこがひっかかりました。
でも、それでも、他の劇団よりずっと好きなのです。
あの嘘偽りのない真剣味が桟敷童子の魅力です。
あとは雨ですねー。
なにしろ水浸しなので、風邪をひかないか心配になります。
板垣さんの東北弁が上手いのにもびっくりしました。
皆さん無事に公演終了しますように。

Posted by: ちびまる | 10/18/2005 23:55

いちいち納得する内容です。感服しました。私にはこれだけのことは書けません。感受性のなさと、文章力のなさに恥じ入るばかり。

本当に、前作を見ているとちょっと残念なところがありました。おっしゃるように、せっかくの外山博美や川田諒一もくすぶっていたし。でも、これもおっしゃるように板垣桃子は、湾岸の時よりもずっとずっと素敵でしたね。観音様のような彼女のための芝居だと思いました。

私もふらっと行った台風小僧で桟敷小僧にはまった組。次回のスズナリも絶対行きます。

Posted by: おか@よよ | 10/21/2005 00:58

わたしは博多湾岸と今回の風来坊はサジキドウジの作品の2本の柱の1本づつだと思います。だからどっちがいい、なんて主観的な意見を闘わしてる人たちに疑問をおぼえます。わたしもそんなに古い観客ではありませんが、ここ2、3年、桟敷童子の役者たちは確実に進歩してるようにみえます。ぼのぼのさんはわたしより新しい観客のようですね。
南谷朝子のレベルを知らずに他の役者と比較できるとは・・・ま、それはそれで一笑ですね。
とにかく、桟敷童子、来年も応援しましょう。

Posted by: hasi○ | 10/21/2005 23:54

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