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09/04/2005

【音楽】伊吹留香「序の口」「二の舞」

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ちょっとした知り合いであるミュージシャン伊吹留香のファーストシングルとセカンドシングルを一挙にレヴュー。シングルと言っても共に4曲入りなので、2枚合わせれば8曲/41分29秒。短めのアルバムに匹敵するヴォリュームがある。シングル名と同じタイトルを持った曲もないし、むしろミニアルバムと解釈した方がいいかもしれない。


伊吹留香のプロフィールについては、本人のHP「囚」があるので、そちらをご覧いただきたい。サンプルの試聴も出来る。
http://www5d.biglobe.ne.jp/~zillion/ruka/index.html

十代の頃から書き続け、まだCDになっていない詩も掲載されているし、波瀾に満ちた半生についても記されている。それらを読んだだけでも、彼女が表現に向かう核のようなものは見えてくるだろう。そちらについては本人のHPにまかせるとして、以下、彼女の表現衝動が実際にどのような作品として結実しているかだけを述べる。


                   *


伊吹留香『序の口』AECR-1007
http://www.towerrecords.co.jp/sitemap/CSfCardMain.jsp?GOODS_NO=648160&GOODS_SORT_CD=101
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000084TGK/qid=1125552566/sr=1-2/ref=sr_1_2_2/249-5456660-2222767

「激情ヴォーカル+爆裂オルタナティヴサウンド」というスタイルは、明らかにCoccoやfra-foaの系譜に属する。他の誰それに似ているという表現は、アーティストにとって決して嬉しい物言いではないと思うが、今の時点でこのような音楽を聴こうとする人の大部分は、「ポストCocco」「ポストfra-foa」を求めて、このCDに手を伸ばすはず。その現実をふまえれば、Cocco、fra-foaとの比較は決して避けて通れないものだし、本人もその点は自覚しているだろう。それが恐ろしいほど高く厳しいハードルであることもだ。


1曲目は「胼胝」。これ「タコ」と読むそうだ。「蛸」なら知ってるが、こんな漢字もあったのか…まあそれはどうでもいい。
Coccoの「けもの道」などを思わせる雄大なハードロック調のイントロから一転、いきなりヴォーカルはラップ調というところがユニークで印象に残る。ただしそのラップ部分が、本物のラップのようにリズミカルなわけではないところが難。ラップ部分を本格的にリズミカルなものにして、ヴォーカル部分をもっと炸裂するように歌い上げれば、ドラマチックなメリハリがついて遙かに良いものになったのに… バックの演奏も非常に面白い事をやっているのだが(特にベース)、それらのユニークな要素が一つの曲としてうまくまとまっていない印象を受ける。偉大なる未完成品という感じ。

2曲目「ミントドロップ」は彼女が好きなBLANKEY JET CITYを思わせる曲調。これは何よりも歌詞がいい。ただしヴォーカルは思ったほど切迫した感じがなく、意外に大人しい。

3曲目「能ナシ」は、ギターのハードエッジなカッティングがかっこいい。曲としてはこれが4曲中ベストではないだろうか。

4曲目「ダイレクト」は、爽やかなギターポップ調のナンバー。これも良い曲なのだが、2つ不満がある。
まず伊吹留香の声質は、この曲にあまり合っていない。Coccoや三上ちさこ(fra-foa)は無垢な少女と大人の女、両方の声を併せ持っていて、その二つを一曲の中で使い分けるのも自由自在だ。そこからあのドラマチックな歌の数々が生まれてくる。「けもの道」を歌うCoccoが「柔らかな傷跡」も難なく歌いこなしてしまうのに比べると、伊吹留香のヴォーカルにはそこまでの幅広さがない。そしてこの「ダイレクト」は何回聴いても、彼女の守備範囲を微妙に外れているように思う。早い話が、Coccoや三上ちさこが歌った方が、より魅力的な歌になるような気がしてならないのだ。
もう一つは、「胼胝」「ミントドロップ」「能ナシ」に続いて、この曲が来るという展開がどうもしっくりこない。ハードな曲、ヘヴィーな曲が続いた後にこういう明るく爽やかな曲がくるのはよくあるパターンだが、あの3連発の後で何事も無かったかのようにこの曲に出てこられると、どうにも唐突な印象を受けてしまう。もちろん明るく爽やかというのは曲調だけの話で、歌詞は決して甘いものではないのだが、それでも前の3曲の重さ、シリアスさに落とし前をつけずに、強引にまとめにかかったような印象は拭えない。


そして全体的な不満を述べるなら、音が良くない。レンジが狭くカセットテープを聴いているような印象で、空間的な広がりが感じられないのだ。ガレージロック的なサウンドならともかく、本来非常にスケールの大きなアレンジがなされている曲ばかりなので、これはかなり痛い。fra-foaのファーストアルバムにおいて、スティーヴ・アルビニ(と、それに準じた他のプロデューサー)の音作りが、どれほど大きな効果を上げていたか思い出して欲しい。天国から地獄まで全てを含み込んだような、あの壮大なサウンドがあってこそ、「青白い月」は僕を圧倒的な力で打ちのめしたのだ。あまり金がかけられなかった事情はわかるが、リスナーにとって欠点であることに変わりはない。

もちろん随所に非凡な輝きを見る事は出来る。だがそれはあくまでも原石であって、まだ磨かれた宝石にはなっていない。

HPや詩集から伺える伊吹留香の表現衝動は、決してこんな程度ではないはずだ…そんな期待の裏返しとしての欲求不満を感じないわけにはいかなかった。


…と、『序の口』について誠実に書こうとするなら、どうしても辛口な物言いが多くなってしまう。それ故、今まで書くのをためらってきたのだ。

ではなぜ今になって辛口評を堂々と書いているのか?

答は言うまでもなかろう。

そんな不満を解消してくれる見事なセカンドシングルが出たからだ。


伊吹留香『二の舞』CROW-6009
http://www.towerrecords.co.jp/sitemap/CSfCardMain.jsp?GOODS_NO=877710&GOODS_SORT_CD=104
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000A38P7M/qid=1125552566/sr=1-1/ref=sr_1_2_1/249-5456660-2222767

アイドルと言っても通用する美貌を、乾いた陰鬱さで彩った前作のジャケットもいいが、その美貌にカラス女のメイクを施した今回のジャケットは、それを遙かに凌ぐものだ。ウィリアム・ブレイクの世界を彷彿とさせる背景も見事で、シングルとは思えぬ力の入り方。しかも中に収められているのは、そのジャケットに負けない見事な音楽なのだから嬉しくなる。


1曲目の「36.5℃」にまず殺られる。アカペラで始まり、メランコリックな歌メロを持つロックへと展開してくのだが、そのような言葉では説明しきれない不思議な魅力を持った曲だ。オルタナティヴロックを基本としながらも、サウンドにはどこかジャズ的なニュアンスが感じられるし、ヴォーカルには昭和歌謡的なムードが漂う。「ミクスチャーロック」という、今は死語となった言葉が頭をよぎる。地を這うような怪しげなサウンドを響き渡らせるベースが秀逸。普通なら一挙に盛り上がりそうなところで、簡単に盛り上がらず、じらせるような曲展開が何ともエロティックだ。

だが何よりも注目すべきは、大きな成長を遂げた伊吹留香のヴォーカルだ。前作がほぼ「押し」の一点張りだったのに対し、本作ではむしろ「引き」の部分で彼女の魅力が全開になっている。ここにおいて彼女は、Coccoにも三上ちさこにもない、伊吹留香だけの魅力を示す事に成功したと言っていいだろう。
その最たるものは、彼女の声に溢れるエロティシズムだ。バンドメンバーの一人が彼女の声を「エロい」と表現しているのを見たことがあるが、『序の口』しか聞いていなかった段階では「そうかあ?」と首をひねっただけだった。しかし『二の舞』を聞いた後では、その言葉に大きく頷かずにはいられない。「36.5℃」であれば、特に「愚かしく 愛らしく 虐めがい増すばかり」「悲しみや 憎しみの 遠い祖先の声」の途中で裏声になるところで、何度聴いても背筋がゾクッとする。
すでに述べたように伊吹留香は、Cocco、三上ちさこほどには、少女の声と女の声を使い分ける才能に恵まれていない。その路線で闘っても勝ち目はないだろう。彼女が本領を発揮するのは、実年齢を考えればむしろ「老成した」と言ってもいい大人の女の声においてだ。『二の舞』では、その声を使って、どこまで深く広い表現が出来るかに挑戦したかのようだ。この路線は大正解だ。

2曲目の「死角」は、今のところ彼女の最高傑作と言っていいだろう。呟くようなアカペラから始まるが、「36.5℃」のようにもったいをつけず、いきなりハードなギターが炸裂する。この曲でもブリブリの重低音を響かせるベースが圧倒的に素晴らしい。クレジットを見ると、ベーシストの渡部大介がMIDI & SOUND DESIGNも手がけているようなので、やはりこの人がバンマス的なポジションにいるのだろう。
もちろんヴォーカルも最高だ。ライヴでは定番曲と言うだけあって、この歌を完全に自分のものにしている自信が隅々までみなぎっている。「Ah 僕はいつまで このフィルターに へばり着くんだ/濾されぬまま 腐りながら このフィルターに」というサビの部分は、一度聞いたら忘れられない魅力を持っている。

3曲目「降り立つ時」は、一転してスローテンポの曲。前の2曲ほどのインパクトはないが、レッド・ツェッペリンのスロー・ナンバーを彷彿とさせる怪しい魅力を持っていて、7分4秒の長尺を飽きさせない。時には呪詛のように、時にはのたうち回るように歌い上げる伊吹のヴォーカルもさることながら、こんなスローテンポの曲でもグルーヴ感を失わないバンドの演奏が見事だ。

4曲目「迷子の瞳」も6分44秒の長尺バラード。最後にこのような癒し的なサウンドを持った曲が来る構成は前作と同じだが、今回の方が遙かにうまくいっている。なぜ前の3曲を受けて4曲目にこの歌が来るのか、その必然性がはっきりと感じられるのだ。「迷子のような瞳をしてる/味のないガムを噛み続け」という部分のヴォーカルの震えが、そのまま聴く者の心も震わせる。


前作で不満だった音の悪さについて言えば、改善されてはいるものの、まだ完璧とは言えない。ただシンセで作られたオーケストラ的なサウンドがなくなり、ギター・ベース・ドラムスを前面に出したロックサウンドになっているため、前作ほど気にならない。


『二の舞』の素晴らしさについてまとめると、「優れた楽曲と詞」「わずか4曲ながら1枚のアルバムとして聴くに足る構成」「自分自身の表現方法をつかみ、大きな成長を遂げた伊吹留香のヴォーカル」「確かな演奏力とユニークなアイディアに満ちたバンドサウンド」「音楽の内容とマッチしたジャケットデザイン」…早い話がほとんど全てということになる(笑)。

それほど僕はこの『二の舞』に惚れ込んでいるのだ。
「よくぞやってくれた!」と快哉を叫びたい気分だ。


そのように見事な『二の舞』だが、完全なインディペンデントでの制作・発売になるため、店頭ですぐに現物を手に入れるのは難しい。どこのCDストアでも取り寄せは出来るので、興味を持った方は上に書いてあるアーティスト名/タイトル/CD番号をメモしていくといいだろう。もちろんamazonやHMV、TOWER RECORDSなどのネットストアでも購入出来る。


                   *


今、伊吹留香はフルアルバムの制作準備にかかっているようだ。しかしこんな素晴らしいセカンドシングルが不遇な扱いを受けているような状況で、アルバムの制作や発売が順調に進むものだろうか。不安である。

だがそんな逆境もまた伊吹留香らしい。

あらゆる悪条件をバネに、プリンセス・オブ・ダークネスの血のにじむような叫びを、この世界に轟かせて欲しい。


そのアルバム制作の前にライヴもあるらしい。時間が合う方は、こちらにもぜひ足を運んでみて欲しい。僕もライヴを見るのは初めてなので、大いに楽しみだ。

9月20日(火) 下北沢Mosaic(モザイク)
「TWILIGHT NIGHT vol.51」
伊吹留香/river/SCARECROW/headphone seminar and more...
OP/18:00 ST/18:30 adv/2000 door/2500
http://www.studio-museum.com/mosaic/


なお、この2枚のCDの他に詩集「生存未遂」も出版されている。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4860620348/qid=1125553953/sr=8-3/ref=sr_8_xs_ap_i3_xgl15/249-5456660-2222767

全ての詩に曲が付いているそうだ。曲は聴かない事にはわからないが、まだCD化されていないもので好きな詩を幾つか上げておこう。アルバムの収録曲がまだ決まっていないなら、ファンからのリクエストだと思ってもらえると幸いだ。
「境界線」
「破けた雑巾」
「仮面と鎖」
「あすへの序奏」
「ユートピア」
「痣」
「蔓」


(2005年9月初出)

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