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09/23/2005

【ライヴ】伊吹留香ライヴ 2005.9.20

050920


伊吹留香ライヴ 2005年9月20日(火) 下北沢MOSAiC


少し前にCD2枚を紹介した伊吹留香のライヴだ。彼女のライヴを見るのはこれが初めて。「ちょっとした知り合い」と書いたが、ネット上の付き合いなので、実は生身の本人を見るのは今回が初めてだったりする。

場所は下北沢のMOSAiC。初めていく場所だが、中は意外なほど小綺麗。比較的新しい小屋なのかな?

彼女の出演は21時頃からと聞いていたが、せっかくだから他のバンドも少し見てみようと思い、ちょうど20時頃に場内に入る。すると客はわずか15人ほど。いくら小さなライヴハウスとはいえ、うら寂しいものを感じた。

演奏していたのはheadphone seminarというバンド。ひょっとしてまだ高校生?というくらい若い子たちが、それなりに達者な演奏を繰り広げていた。でもただ達者なだけで、個性が感じられないのが辛い。

続いて出てきたのは、SCARECROWというバンド。こいつらはなかなか良かった。サウンド的にはポップなパンクだが、曲構成が複雑で飽きさせない。要するにグリーン・デイみたいということだが(笑)、パワーとアイディアの両方を兼ね備えていて、なかなか好感が持てる。彼らを目当てにわざわざ足を運ぶことはないにせよ、このような対バンで名前を見かければ、ついでに見ていこうとは思うだろう。難点は楽器の演奏に比べて、歌メロとヴォーカルの個性が弱いこと。その点さえ改善すれば、結構人気が出てもおかしくないと思う。


この2つのバンドを見ながら、こんな若い連中が未だにロックという古いスタイルの音楽をやっている不思議について考えた。
だってそうだろう。プレスリーが若者文化の象徴となったのは、すでに半世紀も前。ビートルズのデビューは40年以上前。パンクの勃興ですら何と30年も前なのだ! もちろんその間にロックは多様な変化と発展を遂げてきたが、少なくともこの日に聴く事が出来た音楽は、伊吹留香も含め、ロックの基本的なスタイルから、さほど大きく外れるものではない。ロックという音楽、あるいはそれが提示するライフスタイルが、それだけ普遍的な力を持っているのだと解釈する事も出来る。だがさすがに50年もたって、若者の音楽の主流が変わらないのは少しおかしいのではないか。
まったくの余談だが、昨年、友人の子どものバースデープレゼント(13歳)にビートルズのCDを上げたら、あとで「オールディーズもいいものだなあ、と思いました」という返事が返ってきた。そうか…平成生まれの子にとっては、ビートルズはオールディーズなのか…。自分が生まれる遙か昔の音楽なのだから当たり前と言えば当たり前だが、僕の中ではむしろ「オールディーズ=ビートルズ以前の音楽」という漠然とした認識があったので、ちょっとしたジェネレーション・ギャップを感じてしまった。
だがこの日ステージに立っていた連中も、年齢的にはその子と10歳程度しか違わない。今のロウティーンから「オールディーズ」と呼ばれてしまうスタイルの音楽に、なぜ彼らは情熱を傾けているのだろう。
そして「欧米と違い、日本ではロック以降の新しい音楽が若者の表現方法として確立されなかったこと」「特にヒップホップを筆頭にした黒人音楽が、日本ではブレイクしきれなかったこと」「それ故彼らは未だにロックに代わる表現の武器を手に入れていないこと」などを、つらつら考えていたのだが、長くなるので割愛。そんなことよりも先に書いておかねばならないことがある。


実はここで思いもかけぬ「個人的大事件」が起きたのだ。


SCARECROWの演奏中に2歳くらいの小さな子どもを連れた女性が中に入ってきた。

多分バンドメンバーの親類だろう。
あるいは留香さんの友達かな? 年齢的に、そういう人がいてもおかしくはあるまい。
その時は、そう思っただけだった。


伊吹留香へのセットチェンジ中、その女性が僕の近くに来た。

ママの顔がちらりと僕の視界に入る。

ん?

え?

何?

ちょっと待て!


マジですか?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


三上ちさこだよ・・・・


しかも子連れだ…


噂の花ちゃん(仮)、初めて見たよ…


ちさこは僕の斜め後ろにいた女性と話を始める。友達なのだろう。完全なプライヴェートタイムだし、ましてや子連れ。このまま素知らぬふりをしようかとも思った。

だが僕のすぐ後ろに、あのちさこがいるのだ。

しかも可愛い可愛い花ちゃん(仮)付き。

我慢出来なくなって、思わず声をかける。「三上ちさこさんですよね?」。ちょっと驚いた様子で「はい」と答えるちさこ。「昔からのファンなんです。11月のライヴも見に行かせていただきます」等、ひとかけらの面白みもない言葉を連ねる自分…だって仕方ないだろう、緊張してたんだから(笑)。
年の功か、最近はそんなことではあまり緊張しないのだが、相手が三上ちさことなれば話は別だ。それほど三上ちさこは自分にとって別格的存在、ミューズのような女性なのだ。
ただし今日のちさこは、今まで見たことがないほどの地味モード。この人、元々非常に薄い顔立ちをしているので、メイクや服装、あるいは外に向かって発するオーラの具合にによって、絶世の美女にも超地味な女にも化けられるのだろう。今日は化粧っ気もほとんどないママさんモードだった。

それにしても花ちゃん(仮)は可愛い。
この世のものとも思えぬほど可愛い。
あまりママに似ていない気もするが、とにかく可愛い。

だが頭を撫でたら「いやっ!」と大声を上げられてしまった(笑)。ちさこの女友達が触っても、同じような反応を示していたから、まだ小さいくせにスキンシップが嫌いらしい。「あたしに勝手に触らないで! 花ちゃん(仮)は自由に生きたいのよ!」ってか? そんなところは確かにママ譲りかも。

あまりプライヴェートな時間を邪魔するのも礼儀に反するし、しつこく話しかけて欲しくないオーラも感じたので、話はそこまでにして少し距離を置いてライヴを見ることにした。

しかし僕以外に誰一人として、ちさこにリアクションを示さなかったのは何故だったのだろう? 皆わかった上で無視しているのか、単に彼女だと気がつかないのか…本日は超地味モードだったので、後者の可能性が高いかも。

それにしてもなぜちさこがここに来たのだろう? 特に個人的な親交があるという話は聞いたことがないが、伊吹留香の方で彼女を招待したのだろうか? そうではなく、ちさこの方で伊吹留香というアーティストの存在を知り、勝手に見に来たということなら凄い話だ。将は将を知るというべきか、類は友を呼ぶというべきか…


いかん。本題に入る前に延々と行数を使ってしまった(笑)。


そんなわけで、いよいよ伊吹留香のライヴが始まる。正確に時計を見るのを忘れたが、大体21時頃だったと思う。

バンドはギター×2、ベース、ドラムス。ごく普通の編成だが、メンバーは手練れ揃いで、非常に安定した演奏を聞かせてくれる。こんなバンドがバックに付いてくれれば、彼女も安心して音楽に身を委ねることが出来るだろう。

初めて見る生身の伊吹留香。これは凄い。写真で見るよりもさらに美人だ。ルックスの良さでは十分ちさこに勝っているぞ。ほぼイメージどおりだが、下着のような衣装を付けている割にセクシーさはあまり感じられず、話し方のせいもあって、むしろかっこいい男の子みたいな印象を受けた。


1曲目はいきなり新曲で「助手席に乗せた狂騒」。ところが音のバランスが悪くて、彼女の歌が前に出てこない。伊吹留香というアーティストにとって極めて重要な要素である歌詞がほとんど聞き取れないのは、かなり痛いものがある。ちょいと不完全燃焼。


2曲目は名曲中の名曲「死角」。最初は詩の朗読のようなものから入るのだが、その静かな時間に乱入してきたのは、花ちゃん(仮)の甲高い声(笑)。おい花ちゃん(仮)、お前、ママの最大のライバルとなる新人の邪魔をしようとしているだろ(笑)。
この曲は、今までにCD化されたナンバーの中では最高傑作だと思うが、この日のライヴは意外としょぼかった。演奏が一つにまとまっておらず、大きなグルーヴが生まれてこない。ヴォーカルも今ひとつ陰影に欠ける。それらは全て微妙なニュアンスであり、特にここがダメという部分は指摘しにくいのだが、CDで聴ける完璧な歌と演奏からすると「あれ? こんなもの?」と肩すかしを食らった気分は否めない。
最後もアカペラに近い形で終わるのだが、そこでまたもや花ちゃん(仮)の声が乱入(笑)。伊吹留香はHPで嫌いなものに「赤ちゃん」を上げている人だから、切れるんじゃないかと心配してしまったよ。

そんな花ちゃん(仮)に伊吹留香が声をかける。「ベイビー!」(笑)。
う〜む、彼女はちさこの娘だと知った上で声をかけているのだろうか? もしこの時点では何も知らず、あとで実はあれがちさこの娘だと知ったら、さぞかし驚くだろうなあ…と想像する。それに答えるかのように再び声を張り上げる花ちゃん(仮)。またも留香が言う。「ロックだね〜」。そりゃそうだろうよ。あのちさこの娘だぞ。あの歳であれだけ声を張り上げていれば、きっとママを凌ぐ凄いヴォーカリストになれるに違いない。老後の楽しみが、また一つ増えたようだ

それにしても、この時の感動は相当なものがあった。何しろ客席には、あの三上ちさことその娘。ちさこ母子だと知ってか知らずか、ステージから「ロックだね〜」と声をかける伊吹留香…これほどドラマチックな瞬間に立ち会えることなど滅多にあるまい。

まあ花ちゃん(仮)の話は一時置いておいて(笑)、実はここでビックリしたことがある。伊吹留香の話し声が歌声とかなり違うのだ。歌声は紛れもなく女の声なのだが、話し声は奇妙なほど男っぽい声質。特別声が低いとか野太いとか言うわけではないが、歌声のような艶めかしさはなく、むしろ侠気溢れる硬質な声をしている。
2曲目を聞いて「やはりこの子はヴォーカルの幅が少し狭いのが難だな〜」と思っていただけに、よけい驚いた。この話し声のような声質を、もっと歌声に生かすことができれば、格段に表現力が増すのではないだろうか。彼女の肉体にはまだまだ開花していない才能が眠っているようだ。


3曲目はまたもや新曲…と思ったら、これはシアター・ブルックのカヴァーだったらしい。「ぜんまいのきしむ音」。
前2曲は少々期待はずれだったが、この曲で演奏が見違えるように熱を帯びる。花ちゃん(仮)の派手な声援でロック魂に火がついたのだろうか? 音のバランスも改善されていた。


4曲目は「死角」と並ぶ大名曲「36.5℃」。「死角」は少し期待はずれだったが、こちらは期待以上。とりわけ冒頭のアカペラからバンドの演奏になだれ込むところは、CDを凌ぐドラマチックさで鳥肌が立った。この辺りから歌も演奏もすっかり波に乗ったようだ。
CDではそう思わなかったのだが、この曲はライヴで聞くとCoccoの「赤い揺藍」によく似た雰囲気を持っている。早い話がプログレっぽい。その雰囲気は、続く5曲目にも受け継がれる。


5曲目は「降り立つ時」。聴くたびに、「ノー・クォーター」などプログレ色が強いレッド・ツェッペリンのスローナンバーを思い出す。CDと同様、この曲は歌よりもバンドの演奏が聞き物だ。今回のライヴでは、渡部大介のベースにも大いに注目していたのだが、彼の演奏が一番魅力的に響いたのがこの曲だ。ただ全体的に言うと、渡部のベースは期待が大きすぎたせいか、それを越えるものではなかった。あくまでも予想した範囲内での素晴らしさ。予想を超えていたのはドラムスの室田憲一だ。クレジットを見るとCDのレコーディングには参加していないのだが、手数が多く派手なドラミングは、どの曲にも大きなパワーを与えていた。


6曲目は「ダイレクト」。歌メロは同じだが、アレンジやバンドの演奏はCDとはまったくの別物。こちらの方が比較にならないほどいい。なるほど、「ダイレクトの化けっぷりも楽しみにしていてくだされ。歌詞に込めた心情に添ったアレンジに代わっておりやす」という言葉は嘘じゃなかったな。伊吹留香が歌詞に込めた心情、確かに受け止めたぞ。ようやく本当の「ダイレクト」を聴けたという感じだ。CDでは甘いアレンジのせいで歯がゆい思いの方が先に立ったが、今なら自信を持って名曲だと言える。


7曲目は「ミントドロップ」。「ダイレクト」ほどではないが、これもCDとはかなり違う演奏で、圧倒的にこちらの方がいい。この日のベストプレイと言っていいだろう。最大の功労者はドラムスの室田憲一。他の曲も良かったが、この曲でのドラミングはとりわけ素晴らしかった。


そんなわけで初めて体験した伊吹留香ライヴ。最初こそ危なっかしかったが、後になるほど良くなっていき、十分に楽しむ事が出来た。


しかし問題もなかったわけではない。

すでに述べたようにバンドの演奏は鉄壁だ。まだアルバムも出していない無名のヴォーカリストに、これほど凄腕のサポートメンバーが付いてくれる幸福を、彼女も噛みしめている事だろう。
しかし肝心の伊吹留香が、まだ実力を出し切っていないように思える。表現衝動はあるのに、その思いを実際の声にできないもどかしさが時々感じられた。声を出そうとするのだが、うまく出せずに空回りしているところもあった。
これは何よりもライヴの場数をこなしていないせいだと思う。金銭面も含め、いろいろと困難な問題があるのだろうが、本当はもっとがんがんライヴをこなしていくべきだろう。それによって、心の中の思いを具体的な歌にする力が身に付いていくはずだ。
現状では、素晴らしいバンドが伊吹留香を支え、彼女を鼓舞している形だが、彼女の方がさらに強力なエネルギーを発して、逆にバンドを挑発していくくらいになったら、今より遙かに高いレヴェルに到達出来るだろう。伊吹留香という歌い手には、それだけの可能性が秘められていると思う。決して無茶な要求ではないはずだ。

それと彼女には直接関係ないが、最前列に並んだ客たち…なんでお前らずっと棒立ちで見てるんだよ(笑)。
確かに彼女の歌は、シリアスなメッセージに溢れており、脳天気に盛り上がるタイプの音楽ではない。だがサウンド的にはグルーヴ感に溢れるドラマチックで骨太なロックだぞ。せめて体を揺らすくらいしてもバチは当たらんだろう。ライヴは決して演奏者だけのものじゃない。客からのフィードバックによって、歌や演奏も変化していくんだ。大きな熱量を持ったライヴだったが、それが化学反応を起こし爆発するまでに至らなかった責任の一端は、棒立ちのまま音楽を聴いていた客にある。みんな、次のライヴではもっと乗っていくぞ!


終演後はすぐに外に出た。こんな機会がそうそうあるわけではなし、ちさこと話したいとは思ったが、先ほどの感じから言っても、向こうはあまり乗り気ではなさそうだ。残念だが仕方ない。

外は降ったりやんだりのぐずついた天気。だが心の中は妙に晴れ晴れとしていた。真っ直ぐな目で前を見つめる力を少しもらったような気がした。


【追記】

伊吹留香は、演奏中、三上ちさこが来ている事を全く知らなかったそうだ。ちさこは自分の意志で、ただの客として伊吹留香を見に来ていたのだ。

この日のライヴは、もちろん演奏も素晴らしかった。だがいつまでも忘れられぬ光景として記憶に残るのは、やはり伊吹留香が花ちゃん(仮)に「ロックだね〜」といった、あの瞬間だろう。

三上ちさこ、花ちゃん(仮)、そして伊吹留香…その三人があんな形で一同に会する瞬間に立ち会えたとは、何と言う僥倖…

もし伊吹留香が大きな成長を遂げ、三上ちさこに比肩するアーティストになったとしたら、この一夜は日本のロック史における伝説として語り継がれることだろう。そうなることを、心から期待している。


端から見ればささやかかもしれないが、僕個人にとっては掛け替えのない奇跡が、最近次々と起きているようだ。


(2005年9月初出)

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