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07/11/2005

【映画】『たまもの』噂を超える傑作〜遅ればせながら林由美香に合掌

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この映画、元々ピンク映画として『熟女・発情 タマしゃぶり』というタイトルで公開された作品だ。だが内容的な評価が非常に高かったため、2004年の11月にタイトルを『たまもの』と改めて、ユーロスペースで一般映画(R-18指定)として再公開された。僕も評判の高さは耳にしていたので、ユーロスペースでの上映時に見ようとしたのだが、見損ねた。

それから7か月後、主演の林由美香が35歳の若さで急逝。その死は一般紙にも報道され、ほとんどの追悼記事に『たまもの』での彼女の演技がいかに素晴らしかったかが書かれていた。もう一つの代表作として『由美香』の文字も見えた。そうだ、そう言えばこの作品も非常に評判が高く、BOX東中野で予告編を見た時に何かピンと来るものがあったので、見ようと思いながら、やはり見損ねていたのだった。

亡くなったから代表作を見てみようというのも軽薄で嫌な感じだが、しばしば劇場で見られる作品とは思えないし、この機会に見ないと一生見ずに終わる可能性もある。ネットで20%引きのところを見つけたので、線香代わりだと思って『たまもの』のDVDを購入した。


ストーリーは単純だ。ボーリング場に勤める愛子(林由美香)が、チャランポランな郵便局員の良男(吉岡睦雄)と恋仲になる。愛子は毎日良男に弁当を作っていくが、やがて良男は同僚の女に心を移し、彼女を捨てる。ボーリング場の上司との肉体関係がばれて、職も失う愛子。結婚する前の最後のセックスを求めてきた良男に対し、愛子はある行動に出る…


見始めて幾らもしないうちに、かなり異様な作品であることに気づく。と言っても珍奇なストーリーや映像が出てくるわけではない。演出のタッチがどこか異様なのだ。

例えば林由美香と相手役の男が話をする時、普通ならカメラは二人の姿をとらえたり、交互に切り返したりするものだろう。ところがこの作品、相手役の顔はまったく撮さず、林由美香の顔だけを延々と撮し続けるショットが頻発するのだ。ギリギリの予算と撮影時間しかないピンク映画なので、例えば男優の到着が遅れて、その間に撮れるところを撮ってしまおうという理由で生まれたショットもあるかもしれない。しかし男優は明らかにこちら側にいるのに、あえてカメラが林由美香しか撮していないショットも相当数ある。ヒロインに対するこんな食い入るような視線は、普通の映画ではなかなか見られない。カメラがヒロインを執拗に追う映像はあるが、この作品には、それとは異質な何かがある。
林由美香が一切口を聞かないのも、その異様さを引き立てている。能力的に口が聞けないのではなく、明確な演出意図によって、ラスト近くまで一切の台詞を奪われているのだ。台詞が無く、相手役との絡みすら無い映像…その結果観客は、画面に映し出された唯一の被写体、すなわち林由美香の表情から全ての物語を読み取る事になる。


そして驚くべき事に、林由美香は、その表情と仕草だけで芳醇な物語を紡ぎ出しているのだ。


噂には聞いていたが、この人は本当に凄い…いや、凄まじい。


そう、幾つか読んだ作品評と同様、『たまもの』という作品がいかに素晴らしいかを語ることは、イコールで林由美香という女優がいかに素晴らしいかを語ることにならざるをえないのである。


他の何を撮すよりも、林由美香の顔とアクションを徹底的に凝視する事で素晴らしい映画が出来ると見切った、監督のいまおかしんじももちろん凄い。そして僕の大好きなカメラマン鈴木一博(『blue』『ヴァイブレータ』他多数)のウェットな絵作り無くして、これほどの傑作は生まれなかったに違いない。

だがそれらの優秀なスタッフワークも、全ては林由美香の魅力をフィルムに焼き付ける事に奉仕している。その証拠に、林由美香が出ないシーンは、決して悪くはないが普通の映画以上の出来ではない。この映画が奇跡的な輝きを帯びるのは、あくまでも彼女が画面に登場した時なのだ。


全編にわたって、彼女は恋する思いを余すところ無く表現していく。恋する思いを表現した演技そのものは、他の映画でもさほど珍しいものではない。林由美香の演技が他の女優と決定的に違うのは、あらゆるシーンにおいて、より複雑で多様な感情を表現している事だ。彼女が見せる表情や仕草の中には、恋の喜び、切なさ、嫉妬、悲しみ、欲望、気怠さ、快感、狂気、困惑など様々な感情が切り離しがたく結びついている。ある時は喜びが前面に、ある時は切なさが前面に、またある時は狂気が前面に出てくるが、決して一つの感情が全てを塗りつぶすことなく、相反する感情が彼女の演技の中に常に同居しているのだ。それが信じられないほどリアルであり、また映画としての芳醇な魅力に溢れている。

そもそも林由美香という女自体、アンビバレンツの塊のような存在だ。まるで十代の少女のようなあどけなさと五十女のような倦怠感を併せ持った顔。胸のふくらみもほとんどない少女のような肉体でありながら、セックスシーンで性の快楽に身を任せる様は十分に熟した女そのもの。清らかさと生臭さ、夢見る思いと生活の疲れ…相反する様々な要素が林由美香の肉体に同居し、豊かなドラマを生み出していく。


ストーリーは、当然のごとく悲劇的な方向に突き進んでいく。そして林由美香の恋の表現があまりにリアルで、彼女に深く感情移入してしまうが故に、ストーリーが進めば進むほど、見る者は胸をかきむしられ暗鬱とした気持ちになっていく。

なるほど、これは確かに噂どおりの傑作だ。だがこんな救いのない話を見せられて、俺は一体どうすりゃいいの…終盤はすっかりそんな鬱な気分になっていた。

ところがこの映画、当然予想された悲劇的結末の後に、思いもかけぬエピローグがやってくる。そこにおいてようやく愛子は言葉を取り戻す。とりわけ最後の一言は、「そう来たか」と思わずニヤリとしてしまう、ユーモラスで生命力に溢れたものだ。沈むところまで沈んで底を打ち、水面に浮かび上がったかのごとき林由美香の表情が、それまでの暗鬱な空気を全て吹き飛ばし、信じられないほど爽やかな気分をもたらしてくれる。

このエピローグがなくても、『たまもの』は十分な傑作、ただし暗鬱極まりない傑作になったことだろう。

しかしこのエピローグがあることで、『たまもの』は決して忘れられない大傑作、一つのスタンダードとして語り継がれるべき大傑作になったのだ。


だが見終わってあらためて思う。


我々は本当に貴重な才能を失ってしまったのだ。


この『たまもの』で林由美香が見せてくれた演技は、上手い下手などという概念を超越した、まったく替えの効かない唯一無二のもの。誰にも真似しようがない、彼女の死と共に永遠にこの世から消滅するほかないものだ。


この素晴らしい女優の死に、遅ればせながら手を合わせよう。


死の一年前にこれほどの傑作に出演したことが、彼女の残り少ない人生になにがしかの幸福もたらしていたことを願わずにはいられない。

この映画で彼女は、他の女優が一生かかっても達成出来ないことをやってしまったのだ。

彼女自身は、自らの偉業を理解した上であの世に旅立ったのだろうか…


(2005年7月初出)

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Comments

TBありがとうございました。

『たまもの』、良かったですよねえ。私はあの突発的なコンビニでの両替事件(笑)が一番好きでした。映画の均衡をキャラクター自身がびりびりに破る瞬間!

今日、新宿国際名画座で林由美香追悼上映三本立てを見てきました。中でも、『ペッティング・レズ 気持ちよくてとろけそう(ペッティングレズ・性感帯)』『OLの性態 年下の男(OLの愛汁 ラブジュース)』は傑作です。特に後者は映画史に名を残す真の名作だと思っています。

ピンク映画には戦慄すべき作品が数多くあって、私もやっとその魅力に開眼したばかりです。それゆえミセスピンクであった彼女の早世が惜しまれますね……。

Posted by: ぜんば | 07/15/2005 at 22:00

↑げ、間違えました。

ミセスピンク×
ミスピンク○

どっちにしてもあんま気の利いた表現じゃないですが・・

Posted by: ぜんば | 07/16/2005 at 00:05

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