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07/18/2005

【演劇】グリング『カリフォルニア』2005.7.13

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グリング『カリフォルニア』
2005年7月13日(水)19:30〜 THEATER/TOPS


青木豪が主催する劇団グリング…今僕が最も大きな信頼を寄せている劇団だ。『旧歌』『ストリップ』と、青木豪が演劇集団円と組んだ『東風』しかまだ見ていないが、掛け値無しの名作『ストリップ』だけでも、この劇団はずっと見続けることにしようと思わせる力を持っていた。今回の公演も、最初から2日分のチケットを押さえ、大きな期待を持って臨んだ。

しかしこの『カリフォルニア』、個人的には思いがけない「問題作」となってしまった。

青木の「今までの作品とは少し作風を変える。最後に全ての登場人物が救われるような展開にはしない」という言葉は事前に聞いていたので、ある程度の変化は予想していたが、青木が述べているのとは少し違う部分で、うまく消化出来ないことが幾つかあったのだ。つまらなかったわけでも退屈だったわけでもないが、今ひとつ釈然としないものが残る。それが作劇上の失敗なのか、僕の方で何か肝心な点を見落としているせいなのかがはっきりしない。そんな「問題作」だ。


           (ネタバレあり)


最初はホラーになる予定だったと言うだけあって、オープニングからダークな雰囲気が漂う。柊子(藤本喜久子)の苦しみと人間関係の秘密が次第に明らかになっていくストーリーは、構成としては完全なミステリー仕立て。あとから考えると非常に多くの伏線が張られているため、純粋にミステリーとして見るには単純すぎるかもしれないが、ああいう展開になるとは思っていなかったので、十分に楽しむことが出来た。

だが大きな問題はそこにある。かなり露骨にミステリーのスタイルを採用しているため、納得のゆく謎解きをつい求めてしまうのだ。
ところがこの物語において、柊子の同性愛に関する秘密は明かされるものの、それが彼女にとってどういう意味を持っていたのかは十分に説明されないままだ。特に柊子がなぜ亜希を捨てて男と結婚したのかは、まるで描かれていない。そのため彼女の死の意味と1年後のエピローグが、きちんと腑に落ちず、一番肝心の謎を解決しないままドラマが終わってしまったような印象を受けるのだ。
「一番肝心な謎を解決していない」と言うと、その解けない謎の中に人生の不可解さや深遠さが表現されているのだと言う人もいるだろう。もちろんそういう作風は珍しくない。しかしこの作品については、そういう明確な意図をもって、あえて謎を謎のまま残したようにも見えないのだ。なるほど、レズビアンの女性が今の日本で生きていくため、自らのセクシャリティを無理に改めて男性と結婚する例は十分ありうるだろう。その心情など、わざわざ描くまでもないのかもしれない。しかし今までに見た青木作品は、むしろ「理屈で考えればわかるだろう」と無視されてしまうような部分にきちんとスポットを当て、人間のやりきれない悲しさを描いてきたように思う。だからこそ今回は一番肝心な部分がすっ飛ばされている印象を受けるのだ。
そもそも柊子は、明らかにストーリーの中心に位置するキャラクターでありながら、自分の感情や考えを自分で表現するところがほとんどない。彼女の感情や考え、過去の出来事は、ほとんど他のキャラクターの口を通じて語られる。中心にいながら空虚な存在である柊子…この設定がどこまで意図的なものなのか、僕は未だに理解出来ないままだ。

また以前から薄々感づいてはいたが、「視覚面の凡庸さ」というグリングの弱点が、今回ははっきり出ていたように思う。脚本家としては疑う余地のない才能を持った青木だが、美術セットや、その中での人間の動かし方など視覚面の演出においては、決して一流とは言えないのではないか。優れた作品においては、どんな安上がりなセットであっても、ドラマと密接に結びついた生命力のようなものが感じられるものだ。しかし本作のセットは終始息をしておらず、ただそこに物としてあるだけだった。

それでも最後まで退屈せずに見られるのは、グリングの優れた特長の一つである、役者ののびのびとした演技が楽しめるからだ。どの役者も、皆実に楽しそうに、自由闊達に、それぞれの役を演じているように見える。多分稽古でも、役者の方でいろいろなアイディアを出して、それをどんどん採用しているのではないだろうか。
最も素晴らしいのは、柊子役の藤本喜久子。かなりの美人だが、顔の造作以上に、「スクッ」という漫画の擬音が横に現れそうな立ち姿の美しさには思わず息を呑む。
すでに述べたように、「中心に位置するが空虚な存在」である柊子に対し、明確な感情表現によってドラマの推進役となるのが亜希を演じた桑原裕子。ある意味非常に嫌な役柄なのに、的確な演技によって、人間的な業の深さと恋する事の切なさを表現してしているのが素晴らしい。
他の人もそれぞれに見事だが、やはりこの二人の演技と存在感が際だっていたと思う。


終演後はアフタートークあり。終始笑いの絶えない楽しいトークだったが、残念ながら作品の本質に深く関わるような話は聞く事が出来なかった。


そんなわけで、未だ自分の中では正確な位置づけが出来ない、グリングの新作『カリフォルニア』。楽日のチケットも買ってあるので、もう一度見にいくことになるが、それによって今のモヤモヤした気分も少しは晴れるのだろうか。


(2005年7月初出)

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Comments

TBありがとうございます。
「柊子がなぜ亜希を捨てて男と結婚したのかは、まるで描かれていない。」
って、なるほどですね。

2度目をご覧になった感想を楽しみにしています。

Posted by: しのぶ | 07/18/2005 14:10

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