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06/04/2005

【映画】『ファインディング・ニモ』完全無欠の万人向け映画

不覚にも涙してしまった(;_;)

ピクサーアニメの不敗伝説をさらに強固なものとする傑作の登場である。


おそらく大抵の人はこの作品の予告編を見ているだろう。そして「あれは見せすぎだよ。ストーリー展開も結末もほとんどわかるし、もう本編は見なくてもいいんじゃないの?」…そんな風に考えている事だろう。少なくとも僕は考えていた。

だがそれは甘すぎる。あの予告編から得られる情報は、この映画の本当の骨子に過ぎない。例えて言うなら、これから出てくる料理の写真入りメニューだけを見せられているようなもの。かなり食欲をそそるメニューではあるが、実際に食べてみれば、予想を遙かに凌ぐ味にビックリするはずだ。

ピクサーアニメと言うとCGの技術的な話題がクローズアップされがちだが、最も素晴らしいのは、練りに練り上げられたストーリー/脚本であることは、映画ファンなら誰もが知るところだろう。
そして今回の脚本の完成度たるや並大抵のものではない。フランク・キャプラ、ビリー・ワイルダー、ハワード・ホークスといったアメリカ娯楽映画の古き良き伝統を、これほど豊かに受け継ぎ、しかも現代的にブラッシュアップした脚本など、実写の世界を含めても他にないと断言出来る。父マーリンと息子ニモに次から次へと訪れるピンチ。それをクリアしていくアイディアの素晴らしさ。しかもそれが単なるRPG的なスリルに終わらず、親子の成長と理解につながっていく構成の妙。その上次々と登場するキャラクターが、ごく小さな役に至るまで個性的で血が通っている。
この脚本を完成させるまでに、どれほどの時間がかけられ、どれほどのアイディアが出されたことだろう。そしてどれほどたくさん過去の作品が参考にされたことだろう。その中から厳選され、磨き上げられた最高のアイディアだけが生き残ったに違いない。

そしてあまりに自然すぎるため、もはや「CGアニメ」という特殊性すら忘れてしまうのだが、時々冷静になって、この海中の映像表現がいかにとんでもないものであるかを理解した時、ある種の戦慄すら覚えてしまう。この映像は実写でも旧来のセルアニメでも表現不可能。まさにCGアニメならではの表現世界だ。


戦前から連綿と受け継がれてきたアメリカ映画の伝統的ストーリーテリング、そして最新のCG技術を駆使した映像表現…過去と現代の最高の映画技術が手を結んだのだ。これで面白くないはずがない。


ただし個人的好みで言うと、僕は『モンスターズ・インク』の方に、より深い愛着を覚える。どこまでも陽性で、屈託のないハッピーエンドに終わる『ファインディング・ニモ』もいい。だがもっと微妙な痛みや切なさを感じさせてくれる『モンスターズ・インク』の方に、陰影の深さを感じるからだ。特にあのラストショットは、実写も全て含めた映画史上の名ラストショット ベストテンに入るのではないかとすら思っている。あのような深い余韻は『ファインディング・ニモ』にはない。

だがストーリーテリングの巧妙さ、映像表現の革新性、そしてアクション/スペクタクルとしての面白さでは、過去のどのピクサーアニメと比べても『ファインディング・ニモ』が勝っている。どう考えても、これほど貶す余地の少ない映画は他にないのではないか。あとは好きか嫌いかという問題に過ぎない。


「大人から子供まで万人が楽しめる映画」という言葉をたまに聞く。だがそのような形容をなされる映画のほとんどは、この『ファインディング・ニモ』の前で顔色を失うことだろう。まさしく万人にお薦めできる傑作だ。


ただし…僕は近くのシネコンで午後2時からの回、吹き替え版を見たのだが…99%がお子様とその保護者だった(--;)。カップルすら見あたらない。できるだけ目立たないように一人小さくなっていて、辺りをよく見なかったのだがおそらく男女を問わず大人一人で見に来ていたのは、480人中僕一人だけだろう(--;)。
なぜそんな時間に、しかも吹き替え版を見たかというと、吹き替え版のみ数週間前からチケットが発売されていた上、一番大きなTHXスクリーンでは吹き替え版のみの上映。またそのスクリーンで次に『ラストサムライ』をやるので、二本続けて見るのに都合が良かったからだ。とは言え、入り口であのお子様と保護者の軍団を見たときは、一瞬そのまま帰ろうかと思ってしまった(--;)。次回は英語版をレイトショーで見ることにしよう。それならお子様はいないはずだ。
もっともあれだけたくさんのお子様がいながら、途中で喋ったり叫んだり、通路で遊んだりする子などほとんどおらず、みんな真剣に画面に見入っていたのは、ある意味驚異だ。いかに強い魅力を持った作品か、その一点をもってしてもわかるだろう。
とは言え、この『ファインディング・ニモ』、映画ファンにとっては「あのハイクオリティなCGアニメを作り続けるピクサーが、名作『モンスターズ・インク』に続いて放つ最新作!」となるわけだが、一般的には「たくさんのお魚が活躍するファンタジーアニメ」なのね…その温度差というか、認識の差を見せつけられた思いがした。もっとも隣の小学生低学年の女の子は、ピクサーのロゴが出てきた瞬間「始まるよ!」と言っていたから、この程度の子にもすでにピクサーというブランドは認知されているのだろうか?


書き忘れるところだったが、この作品には大きな欠点が一つだけある。それはラストにNG集がついていないこと! 『モンスターズ・インク』でも『バグズ・ライフ』でも、あれだけ素敵なNG集を見せてくれたのに、なぜ今回に限ってないのだろう? この点だけは強く抗議したい気分だ。

それと1年後に公開されるピクサーの新作『Mr.インクレディブル』の予告編もやったが、あのキャラはさすがに日本ではあまり受けないのではないだろうか? もちろん作品のクオリティは相変わらず高いだろうが、多分『ファインディング・ニモ』ほどのヒットにはならないだろう。


(2003年12月初出)

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