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06/20/2005

【映画】『半落ち』泣かせればそれでいいのか?

映画としてはそれなりによく出来た作品である。クライマックスの裁判シーンでは、かなり年齢層の高い客で埋まった劇場のそこかしこからすすり泣きが聞こえていた。『砂の器』などに連なる、いかにも日本的な「情」の犯罪ミステリーである。

僕も途中まではかなり感心しながら見ていた。才気溢れると言うほどではないが、虚仮威しのない折り目正しい演出。数多い登場人物それぞれの人間模様を簡潔に描いていく脚本。叙情的でありながら、決して甘すぎない音楽…すべてが「きちんと作られた正攻法の映画」という好印象につながっていた。

ところが肝心要の「謎」が明らかになるに連れて、そんな気持ちは急速に冷めていった。

一言で言えば、話の核心となる「絆」に、根本的に納得がいかなかったのだ。また、いくら考えてもわからない点が一つ残っている。それについて想像していくと、主人公の思考がひどく形式主義的なものに思えてしかたがない。

考えれば考えるほど納得がいかない。ところがこの映画は、そのような論理性を欠いた部分を、極めて情緒的な泣かせ技によって強引に誤魔化しているのだ。だから何も考えずに見ていれば、非常に良い映画に見える。だがこの物語が提起した問題について真剣に向き合って見ていると、「それでいいのか?」と際限なく疑問がわき上がってくる。これはかなり致命的だ。


それに加え、途中までは感心して見ていた登場人物の人間模様も、ほとんどが生煮えのままで、クライマックスに向けてドラマとして発展していかない。典型的なのは、吉岡秀隆が演じる若い裁判官の家庭事情だ。内容が深刻なので一見深いエピソードに見えるが、実際には「この人はこういう事情を抱えています。だからこういう行動をしました」という、非常に明快な、それ故に何の深みもない人物描写だ。言ってしまえばストーリーを進めるための「言い訳」に過ぎない。それに限らず、この作品の大部分が、言い訳とお涙頂戴によって成り立っていると言っていい。

また、キャスティングも問題である。はたしてこの作品に、こんなオールスター的なキャスティングが必要だったのだろうか? もちろん興行的な問題もあるから、主要人物がある程度のスターなのはいいだろう。しかしちょっとした脇役まで見慣れた顔で占められると、作品全体が非常に作り物臭い印象を帯びてくる。例えば國村隼の奥さんがなぜ高島礼子でなくてはならないのか? 原田美枝子自身は名女優だが、彼女があの役に適任だったと言えるだろうか? ましてや原田美枝子と樹木希林が姉妹という設定など、リアリティのかけらもないではないか! 鶴田真由など、常に化粧完璧、ファッションもバッチリ。東京の一流企業の秘書やアパレルメーカーのOLならともかく、あんな地方新聞の女記者がいるか??
『踊る大捜査線』のような華やかな娯楽作品なら、こういうオールスターキャストもいいだろう。だが『半落ち』のような作品に、このキャスティングは絶対に似合わない。せめて脇の方だけでも、もっと顔の知られていない地味な俳優たちで固められていたら、だいぶ印象は違っただろうに。


いや、見た当初はここまで悪く言う気はなかった。だがこの作品に続いて『ミスティック・リバー』を見た時、あまりのレヴェルの違いに愕然とし、何やら情けなくなり、そして腹立たしくなってきたのだ。『ミスティック・リバー』は、本当に「大人の映画」だ。そして『半落ち』も、内容やターゲットとなる客層を考えれば、同じくらい大人の映画でなくてはならないはずなのに、『ミスティック・リバー』に比べると、「幼稚」と言う以外にない地点にとどまっているのだ。

おそらくそこまで貶す映画ではないのだろう。それなりに高い志を持ち、それなりにうまくまとめ、それなりに高い評価を得る作品なのだろう。しかしこの物語に内包されたテーマの重さに思いを馳せ、同傾向の作品である『ミスティック・リバー』が提示した超重量級の人間ドラマを目の当たりにした時、人間存在の深淵を見つめるべき眼を涙で曇らせ、「それなり」な出来でちんまりとまとめてしまった製作者たちに、ある種の殺意を覚えずにはいられない。


P.S.
前から薄々感じてはいたのだが、この映画で共演しているのを見てはっきりとわかった。
「西田敏行と國村隼は似ている」(笑)


(2004年1月初出)

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